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王子様 (3)

 「王子様、ノーチェ様を宜しくお願い致します。」

そういって一礼をし、下がるメイドはノーチェのお付きのメイドだ。黒髪を結い上げ、少し厳しい目つきを眼鏡で抑えた知的な雰囲気は、抑えられない豊満な肉体で掻き消されて、工事をしている男たちの目を盗みに盗んでいる。

「はい、もちろんです。」

それではお邪魔になる前にと下がっていったが、僕とノーチェを見守れる場所で待機しているだろう。前に先生があのメイドは何者だと聞いてきたことがあった、珍しく驚いた顔をしながら自分が見てきた中でも3本の指には入る身体操作術だと褒めていたので、このノーチェ付きのメイドさんはこう見えて僕の考えが及ばないすごい人なのだろう。彼女が下がるなら下がっても問題ない場所なのだ。

それよりノーチェだ、すごいですのすごいですのと満面の笑顔で駆け出していったが、まだ学校は建設途中だ。道も舗装され切ってないし、上から何かが落ちてくるかもしれない。早く追いつかなければ。

「ノーチェ、危ないよ」

キラキラした目で工事途中の現場をキョロキョロと見ているノーチェに追いついて、ノーチェの手を握る。ノーチェはこちらをはっと振り返り、少し気恥しそうな顔をした。

「あ……オージサマ……申し訳ありませんの……本当に出来上がると思うとつい興奮してしまいまして」

ノーチェが顔を赤くして俯く。淑女としてはしたない姿を見せてしまったと思っているのだろうか、それとも僕が手を握ったことで照れてくれているのだろうか。できれば後者であって欲しい。

「顔を上げて、ノーチェ。君を俯かせたいわけじゃないんです。僕だって嬉しい。でもまだ工事中は危険ですからね、僕たちだからと特別に入れてもらえていますが、行ってはいけないと言われた場所に入ってはダメですよ」

「は、はいぃ……」

照れているならば追撃とばかりに握った手と逆の手をノーチェの頬に添え、優しく声をかけながら注意をうながす。顔がさらに赤くなって視線が定ってないように見えるが、少しやり過ぎただろうか、言葉が届いてるかあやしい。握った手を離さずに、突発的な衝撃に備えた防御魔法を唱えておく。

「シール」

僕とノーチェの周囲に光の膜が一瞬見え、見えなくなる。これは自己魔力燃焼型と外魔力燃焼型を合わせた簡易な魔法で、発動と膜の形成には僕の魔力を使い、維持にはかけられた本人の魔力を使う。魔力燃焼型の魔法は言ってしまえば魔力の使用量に際限がない。発動時には好きなだけ分厚く覆えるし、維持するには微量ずつ垂れ流しで使ってしまう。本来長時間の使用に耐えるものではないが僕もノーチェも魔法の素養がかなりあるため、1日張り続ける程度ですら問題なく、ちゃんと正式詠唱を必要な魔法よりもこちらの方が結構な衝撃まで耐えてくれる。先生からは魔法の技術としては下の下だから燃焼型にあまり頼るなと言われているが今日は多めに見てもらおう。

「オージサマの魔力が……あったかいです」

ノーチェが目を細める。その様がネコのようで可愛く、つい頭を撫でてしまう。ノーチェも気持ちよさそうに頭を傾けてくる。

ナデナデ…………。

温かな陽気が僕たちを淡く照らして、牧歌的な雰囲気が浮かび上がる。

「コホン」

どこかからか聞き慣れた咳払いが聞こえてきて、僕とノーチェはパッと離れた。周りを見渡すが咳払いをしたと思わしき人影はない。しかしおそらくノーチェのお付きのメイドだろうと察する。二人の世界に入っていたが、周りで工事に従事していた人たちもこちらを見ていたのか、めいめいの言い訳をしながら慌てて自分の仕事に戻っていく。にわかに周りがザワザワと騒がしくなった。

「こ、この辺りを少し回ってみようか!ノーチェ!」

「そ、そうですね!オージサマ、そう致しましょう!」

僕たちは二人して顔を赤くしながらその場からそそくさと離れた。ノーチェのメイドさんにはあとで感謝の茶葉でも贈っておこう……。


 この学校はノーチェの案から発展し、建設が始まったものだ。孤児を特別扱いするのが良くないと言うならば、寄宿舎付きの学校を建てましょうと、生徒はあまねく募集するが、その授業料を払えない生徒は学校の運営を手伝うことで授業料を免除し、寄宿舎で生活をさせる。身分と出自を問わない、自由で誰しもが自らの可能性を探れる場所にしましょうという案だ。

聞いた時は、ノーチェの素晴らしい考えに感動したが、はっきり言って夢物語と思った。しかし、そんなことは無かった。先生とお父様に相談すると学校を建設する計画がすでにあるというのだ。僕の将来のために、この国の未来のために、子供達が共に競い、学び、成長できる場所が必要だと既に話が進んでおり、なんと先生はそこの初代校長に就任する予定らしい。

先生が校長にというのが意外過ぎたが、しばらく腰を落ち着けて研究したいことがあってな……とニヤリと笑った先生は、だいぶ無茶で自由な要求をお父様相手に通したらしく、これで我が国の未来も明るいと言っていたお父様の顔は若干引き攣っているように見えたが気のせいだろう。

そういった経緯があり、そこにノーチェの孤児院の話が加わり、先生も賛同してくれたため、こうして周辺諸国を見ても類を見ない、最大規模の寄宿舎付き学校が建設されるに至っている。貴族から反発があるかと思ったが、先生が魔法で広大な土地を整地して見せるとその力を恐れたのか、声は小さくなっていった。

そのまま学校も建てればいいんじゃないですか?と僕が言うと、ただの四角い箱でいいなら作ってやると言われたので、丁重にお断りしておいた。実際のところ、魔法で物を作るのは難しい、その構造や材質、機能や力のバランスを完全に理解した上で、精緻な作業を行わなければならないし、魔法で作ると何かに欠陥が発生するのか、定期的に魔力を流さないと風化するのが早い。世界に在るものはその世界の技術と法則によって成り立たせるのが自然だと先生は言っていた。

そうなると魔法は世界の理から外れた力ということになるのか……僕にはまだわからない。

それでも先生なら作れそうな気はしたが、せっかくの一大事業だ。雇用の発生などを考えるとやはり人々の手で作るのが良い。


「というわけでノーチェが言っていた案を先生に話して、こうなったというわけです。生徒の適性を判定する道具も作っておくとのことですよ?まずは近隣の孤児院で試しながら結果をみるそうですが」

「オージサマ……!すごいです……!」

ノーチェがキラキラとこちらを眺めてくれるが、そんなことはない。

「僕は何もしていませんよ。すごいのはお父様と先生です。横から子供がワガママを言っただけです。」

本当に僕は何もしていない。全てはお父様と先生が進めていた計画に乗っかっただけだ。それが悔しくもあるが、今はまだ子供の身、悔しがっていてもしょうがない。ノーチェの願いを叶えるには力不足だ。

「そんなことはありませんの……!オージサマはすごいですの!オージサマはワタクシの話を否定しませんの。考えが足りなければ一緒に考えてくれますの。間違っていれば諌めてくれますの。国王様や先生様の話と同じ話をして、そこに自分の考えを臆さず話しますの!そして未来にこの国を背負う人として、自ら責に関わることを厭いませんの。そんなオージサマを私は心より尊敬しておりますの……」

ニコリと笑ってノーチェが僕の頭をいい子いい子となでる。ノーチェは元気で聡明な子供だがたまにこうやって大人びた対応を僕にしてくる。僕のネガティブな軽口を予想以上の熱量で否定してもらってしまい、少し涙が滲んで、僕は俯く。

「あ!申し訳ありませんの!ついワタクシ……」

アクヤクレイジョーとあろうものが……。と小さく聞こえた気がした。その言葉の意味はわからなかったが、僕はノーチェのことを未来永劫、生涯の伴侶として、守ろうと心に誓ったのだった。

ありがと~

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