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門番 (エピローグ)

「はい、積荷の一覧と商人ギルドの証明印見せてくださいねー。終わったら通行証の手続きしますからねー」

今日も今日とて門番業だ。朝から商人がやってきたので対応する。

地味な仕事だが、冒険者も多く、それなりに栄えた街だけによからぬ持ち込みがされることも多い。魔物の卵やら家一軒分くらいを消失させる魔道具やら楽しげな幻覚をみせるが中毒性が高過ぎて製造を禁止されている薬やら、そういったものを弾くのも門番の仕事だ。

門番は荒事にも巻き込まれることがある性質上、違う仕事に変えられるかと思ったが、上司のはからいで続けられている。今のモンバン君なら問題ないですね〜と言って配属をそのままにしてくれた。最初聞いた時は何が問題ないのかよくわからなかったが、あの事件依頼、左腕が義手になった以外は体の調子がすこぶる良い。

前までの朝の鍛錬メニューはいつもの半分の時間で終わるようになったし、握れるのは片手になったというのに槍の素振りは鋭さを増して、疾風の効果時間は倍ほどに伸びた。ドラゴンとの戦いで自分の中で何か変わったのか、ペスカの祈りが何か身体に影響を与えたのか、理由はわからないがとにかく業務に支障がでるどころか、前よりも捗っているくらいだ。

上司は普段やる気なさげでおっとりした人だが、たまにこの人は実はすごく出来る人なんじゃないかと思わせてくる。

「いやーそれにしてもモンバン君がペスカちゃんを助けに走り去った時は驚きましたよ、愛の為せる技ですね」

商人のチェックが終わり、雑談していたところで上司からふいにあの時のことを振られる。

「いや愛とかじゃないですって、気づいたら体が動いちゃってたんですよ」

「それこそが愛ってやつですよ」

勘弁してほしい。ペスカは妹のようなもので、お互いに恋愛感情はないし、いまだって昔馴染みってだけでただの門番と冒険者の間柄だし、自分よりずっと年下のペスカが俺にことを好いているなんて……。

「ヴァン兄ちゃーーーん!!!」

見慣れたピンクブロンドがこっちに手をブンブン振りながら走ってくる。朝からテンションが高い。尻尾が生えてたらブンブンと振ってるのが目に見えるようである。ペスカが門までやってくると上司に気がついて挨拶をする。

「あ、ヴァン兄ちゃんの上司さん、こんにちは!!」

「はい、こんにちは」

ちょっと前まで若手冒険者の中じゃ出世頭みたいな感じで俺に悪戯を仕掛けてくる以外はキリッとしていたのに、あの事件以来そう言うのはやめたのか、やたらめったら元気で人懐っこい犬みたいなやつになった。

「兄ちゃん、これお弁当!僕の分のついでに作ったから食べて!」

「お、おう。ありがとな」

「じゃあ、今日はグリフォン退治に行ってくるから、ちゃんと待っててね!日が落ちたなーぐらいには帰ってくるから!」

「わかってるよ。待ってる待ってる。気をつけてな。」

「うん!!」

…………目をキラキラさせてこっちを見てくる。

門の方をチラリと見るとペスカのパーティメンバーの男女がこっちを生暖かい目線で見ている。魔法使いの人間の女性と弓使いのエルフの女性、大きな盾を持った獣人族の男性。ペスカを通じてみんな知り合いではあるが、街を出る時に俺とペスカが話す時は近寄ってこない。

何かを期待するようにこちらを見るペスカに、まだなにか?と聞きたいところではあるのだが……、生憎何を待っているかはわかっている。

……受け取った弁当を義手で支え持って、俺はペスカの頭をポンポンと頭を軽く撫でた。

「よし!!」

それを言うのは俺の方だ。いや俺の方でもない。犬の躾をしているわけではないんだから。ペスカは満足したようで、みんな行くよーとパーティメンバーに声をかける。

「いってらっしゃい」

「うん!行ってきまーす!!」

ペスカが手を振りながら街から離れて行く。

魔法使いから、お弁当大事に食べなさいよーと釘を刺され、エルフからは、ロリコンと蔑まれ、獣人は無言で肩を叩いて行く。俺はお気をつけてとみんなを見送る。

夜には帰ってくると言っていたし、今日は近場なのか4人は徒歩でクエストに向かっていった。

4人の姿が小さくなって見えなくなったくらいに

「ペスカちゃんはモンバン君は名前で呼ぶようになったのに、私は”モンバン君の上司”なんだねぇ〜」

恨めしそうに上司が俺に話しかけてきた。

「おじさんが嫉妬しないでください」

上司はしばらく、ふーんだ、別にいいですよーと拗ねていたが、拗ねるフリに飽きたのか俺の方を見て

「君もわかってるだろうから、ちゃんと応えてあげなさいよ」

ペスカのことだ。俺もあんな露骨な態度をとられて、わからない訳がない。

「…………はい、わかってます」

「わかっているなら、いいんですよ」

フフフと笑いながら上司が持ち場を離れていく。なんか良い大人感を出しといて、堂々とサボりにいったなあれは。

まぁ今日は忙しくなりそうな予定はない。少しぐらいは大丈夫だろう。それよりも

「冒険者に弁当を作ってもらう門番とは一体……」

ペスカにもらった弁当を眺める。治療院での出来事の後、気まずかったのかしばらくは会いにこなかったのだが、俺が早々に門番に復帰するとペスカが弁当を持って現れた。

冒険に行くと腹が減るから持っていく携帯食の味見をしてくれだの、最近は料理の楽しさに目覚めただの言っていたが後ろの物陰で魔法使いがニヤニヤと大変楽しそうにこちらを覗いていたので、なにか入れ知恵されたのだろうということはすぐにわかった。

それでも指先のあちこちに巻かれた包帯を見て、ペスカが俺のことを想って慣れない中で作ってくれたのがわかったし、素直に嬉しかった。

それが今でも続いている。あいつが冒険に出る時は、この門を通って俺に弁当を渡していく。何かの儀式みたいに見えたのか、一時期冒険者の間で俺に何か食べ物を渡していくと無事に帰れるみたいな噂が立って、山盛り食べ物を受け取ることがあったんだが、俺がもらった食べ物をペスカが全部食べた結果、食あたりになって倒れるみたいな事件まであったせいで落ち着いたのだが……。

正直言って、ペスカのことを妹みたいなものだと思ってるとか、ただの昔馴染みの門番と冒険者とかってのは、嘘だ。

これだけ素直に気持ちをぶつけられれば誰だって嬉しい。俺も思うところは、ある。

冒険者を辞めた時、もう俺の人生は終わったと思った。

門番の仕事を始めた時、これからはここで喜びもなく生きていくんだと思った。

ドラゴンに立ち向かった時、命を捨てる覚悟だった。

それでも結局はこうやって生きている。

悩んだり、喜んだり、迷ったり、悲しんだり、弁当をもらったり、罵倒されたりしながら、生きてる。

これからも生きていくし、そこにはペスカがいて、街のみんながいて、新しい出会いだってある。

生きているとドラゴンにだって負けない出来事がたくさん起こる。

ペスカの親父さんにも挨拶しにいかなきゃならん。

あの時の冒険者です、娘さんとお付き合いしていますとか言ったら、ぶっとばされるかなぁ〜。

ペスカの話だとかつての英雄なんだよなぁ〜〜〜。

はぁ〜〜〜……。


………………………………………………………………よし。

でも、帰ってきたら一番に迎えてやるって言ったしな。

ペスカが英雄の娘として最上級の冒険者になるってなら、俺はこの街とペスカを守れるくらいの門番になってやるさ。

いつだってペスカが安心して出かけて、帰ってこれるように、帰りたいって思える場所のために。


覚悟、決めるか。

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