表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第1章:はじまりとこわいひと?
8/33

第8話:王子、王女の名前

 私の家に帰る道を歩き始めた。

 はじめは、送ってもらうのはイヤだと断ったのだ。けれど、エイダンは私の手を握るとすっぽんのように離さなくなっていた。手をぶんぶん振っても外れない。エイダンは楽しそうに笑うだけ。

 疲れた私は、もう勝手にしてくれと思うことにした。


 このレストラン、実はかなり私の家から離れている。王宮からは近いお店である。また私の家も王宮からはたいして離れていない。しかし、レストランは王宮を挟んで市場通りの反対側にあると言っていい。だから、しばらくしばらく歩かなければならない。


 寒い風がピュ~と音を立てて走っていく。

 少し眠くなってきた。あんなに眠ったのに、まだ眠いとは。

 私が、ふわぁと欠伸をかみ殺すと、ふわっと身体全体を魔法が覆った。隣を見ると、エイダンがにこりと私に微笑んだ。


「またきみの体温が落ちていくのを感じたから、暖かい風をまとわせてみたんだ」


 なんてことないようにエイダンは言うが、かなりすごいことをしている。

 だって、動く対象に動くものを付与させる、高度な魔法だ。流石、魔王の名をつけるに値するほどの魔法の使い手である。

 妙に感心してしまっていると、ほわほわが抜けてきたエイダンが立ち止まった。


「待て。これはどこに向かっている?」

「私の家ですよ」

「どこまで行くんだ?」

「市場の方です」

「いやいや、待て。僕の家の方が遥かに近いじゃないか」

「そうなんですねぇ」


 私はほかのひとの住んでいる場所に興味が無くて、適当に返事をした。

 エイダンのほうが横に並ぶと背が高いことを今回知った。エイダンを見上げる。

 エイダンは絶滅危惧種でも見るような顔で私を見た。


「きみ……。僕のこと知っているよな?」

「えぇっと。どれについてですかね?」


 とんでもなく、まずい空気は感じたが、エイダンが聞いている意味が分からない。

 目が泳いでいるであろう私をひっぱりながら、エイダンは歩き出した。


「僕の名前は?」

「エイダン・オクサイド・ジョンブリアンさまですよね?」

「一個足りないけれど、普段の名前はそうだ。正解だ。じゃあ、この国の王子の名前は?」

「うーん……。必要性を感じなくて忘れちゃいました。てへ」


 握られる手が痛くなった。ミシミシ鳴り始めそうである。


「あー、うん。きみはそういうひとだ。じゃあ、王の名前は?」

「エリオット・オクサイド・マルーベさまです」

「そっちは覚えているのか。じゃあ、王妃の名前は?」


 なんだなんだ、いきなり王さまクイズか?

 正直、三年前の私だったら、初代から今の王さままですべての名前をそらんじれた。なんなら、どこの国の、どこの貴族の、王妃さまというのも、全部だ。

 しかし、時間が経つとモノを忘れるようで。


「ええっと……」

「王妃の名はシガール・ジョンブリアン・マルーベ」

「よくご存じで」


 呪文のような名前をよく覚えてるなぁと感心しながら、耳を傾けていた。


「一般的に知られていることのはずなのだが。王と王妃の間にはふたりの息子とひとりの娘がいる。息子の名前はエイダン、ジルベール。娘の名前はエメリーン」

「あら、魔王さまと名前が一緒だわ」

「そうだね。何か気付くことはないかい?」

「んー……」


 確か、王子王女のときは、名前の次に王のミドルネーム、その次に妃のミドルネーム、そして国のマルーベがつくんじゃなかったか。

 ということは。

 王子は、エイダン・オクサイド・ジョンブリアン・マルーベさまとジルベール・オクサイド・ジョンブリアン・マルーベさま。

 王女はエメリーン・オクサイド・ジョンブリアン・マルーベさま。

 うんうん。なるほど。分かりたくない。


 平民や貴族は、名前と家名しかない。どんなに長くなっても、二つに区切るのみ。

 三つに区切る、四つに区切るは、王さま関係しかありえない。

 そんな常識を今更、思い出した私である。


「言わなきゃダメでしょうか?」

「上目遣いにうるうるしても、ダメだ」

「やっぱり魔王なんじゃないですか? エイダン・オクサイド・ジョンブリアン・マルーベ王子殿下」

「やっと分かってくれたか。だから、だからな。きみはダンスに困っているようだ。僕が教えてやることができる。ジョニーに頼む必要は無いと思うのだが、どうだろう?」

「え。けっこうです……」


 私の答えが予想外だったのか、王子殿下の尻尾が勢いよく跳ねた。あちらを向いていた顔がこちらに向き直ったからだ。

 さきほどまでの余裕はどこかに家出したようで、慌てている。そんなに慌てることはないと思うのだけれど。


「なぜだい? 僕は優秀だよ?」

「そうでしょうけど、申し訳ないなと思って」

「そんなことを思う必要はない。僕が教えてあげたいんだ。大きな式典で、きみが堂々と胸を張っている姿を僕は見たいんだ」

「うーん」


 私の煮え切らない返事に、王子殿下は眉根を跳ね上げた。

 怒られる予感がしたのだが、王子殿下の行動は違った。


 無言で私の前に回り込むと、膝を突いた。そして、うやうやしく私の手を持ち上げ、そこへ唇を落とした。


 私は悲鳴を上げ逃げるよりも何よりも、おどろきすぎて考えるところが焼き切れたらしい。顔が赤くなっていること間違いなしである。まあ、いまは夜で暗いから――。


「照れたクレアの顔は、とてもかわいらしい」


 エイダン王子殿下は夜目にも強かったらしい。

 私の頭からぷしゅーと、敗北の音が鳴った。

ブックマーク追加で今後も応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ