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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第1章:はじまりとこわいひと?
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第7話:酔っ払い警報

 それから私は隣の石像は置いておいて、イチコンの実の料理とお酒を楽しんだ。

 だいぶ食べて、満足した頃。

 石像が動いた。


「一気にたくさん飲んで……。気持ち悪くはないかい?」

「だーいじょーぶー。ふふふ」

「できあがってるじゃないか」

「私はいつでも、完成形!」

「……そうだな」


 私が、ちょきちょきと人差し指と中指を立てて動かすと、あの感情の分からない魔王が、笑ったのである。

 氷みたいに冷たく見える目が細くなって、口元はいつも変な形の笑みを浮かべているのに、今だけは自然と口角が少し上がってて、なんだか機嫌がよく見る。

 ……これをリリーに言わせるとなんて言うんだっけ?

 しばらく唸りながら悩んでいると脳内に言葉が浮かんだ。

 ひよこがぴよぴよと鳴いて、踊っている。可愛らしい、その姿のことを――。


「あ! ぴよまるだぁ!」

「はい?」

「あ~、すっきり~」

「ふっ。楽しそうだね」


 あ、こいつ。鼻で笑った。私の類い希なる素晴らしい言葉を!

 これは注意をせねばならぬ。

 私は、隣に向きなおり、動く石像に人差し指を突きつけた。


「魔王! 私の、言葉は! 世紀の発見である! しかと心得るべし! べし!」

「そうなのか? それにしても、クレア――」

「べし!」

「う。かわいい……。わかったよ」


 私は、確かに、怒っているのだ。

 けれども、お酒も回り出したのだろう。

 相手が、自分が、何を言っているのか、分からない。

 頭に浮かんだ言葉が勝手に口から出ていく。


「そもそも!」

「うん」

「仕事仕事で、面白くない! 笑いのセンスを磨く、のです! さすれば、もっとたくさんのひとが、魔王の配下になるでしょう」

「う~ん……?」

「さあ、面白いことを言うのでぇす! さあ! 真の力のめざめ!」


 私が目を輝かせ、エイダンに詰め寄る姿だったらしいが、記憶にございません。

 ついでに言うと、面白いことを言ったとされるエイダンの名言も、記憶にありません。

 黒歴史を葬れたことの安心感と、もったいないことをしたという気持ちと。


 エイダンとお酒が回りすぎた私とのこの問答は、のちに勇者クレア爆誕と呼ばれるのだった。


 それから、無事ごはんの会は解散の時間になった。

 私は回る世界と一緒に揺られながら、家にむかったつもりだった。


 私が目を覚ますと、エイダンの顔のドアップであった。銀の帳が、私の顔周りに降りている。


「ひぃっ」

「よく寝ていたね。お酒は抜けたかな?」


 おののいた私の声など、気にも留めないかのように、エイダンの顔は緩んだ。それでも、少し残念そうに眉毛を下げていた顔をしていた。


「外は暗いし寒い。もう少し目が覚めたら、送って行こう」


 魔王エイダンの顔した何かが、とても優しく私の髪をひと掬いし口づけした。

 おかしい。おかしすぎる。悪い夢でも見ているのだろうか?


「やはりきみは、僕など眼中にないのだろうな……」


 そう髪の毛に口づけながら、切なそうに輝いているひとは誰だろう?

 私の知り合いなのだろうか。

 もんもんと考える私をよそに、魔王エイダンの姿をした何かはぶつくさ言っている。


「ダンスなんて、僕だったら完璧に教えられるのに。なんでよりによってジョニーなんだ。もしかして、やはり周りが言うように、女性は年上のほうが好きなのだろうか……」


 ふと、服を見ると、魔王エイダンの上着がかけられていた。道理で、寒さが少ないのだと納得した。

 しかし、私を困惑させるには十分な行いである。


「え……。ええ?」


 エイダンは珍しく年齢相応のきょとんとしている。


「ど、どうして服……?」

「ああ、きみが寒そうに丸まっていたから」


 なんてことないようにエイダンは言葉を続ける。


「きみが冷たくなって呼吸が遅くなっていく様子は、心臓に悪かった。だから暖めたくて。毛布を借りようかとも思ったが、僕の使っている服の方が安全だから、服のほうをかけたんだが、ダメだったかな……?」

「えっと、それは心配かけてしまって、すみません」


 聞いてみたら、私に非があるように思えて、謝った。エイダンは少し酔っ払っているのか、いつもなら絶対に見せないだろう、ほやほやとゆるんだ笑顔を見せた。


「今回は謝られるよりも、ありがとうって言ってもらったほうが嬉しいな」

「っ。ありがとうございました」

「うん。きみの為ならよろこんで」


 思わず息をのんでしまった。銀色の長い髪が少し乱れている魔王の姿は、魔女の艶やかな姿に似ていたから。私の顔は赤くなってないだろうか。大丈夫か?

 私は気を取り直すため、軽く周りを見た。見事に、ごはんの会のひとが誰もいない。

 私はまだほやほやと幸せそうに笑う魔王――今だけは天使に見えるエイダンに声をかけた。


「あのぉ」

「なんだい?」

「ほかのひとは?」

「ああ、閉店時間になって帰って行ったよ。きみがとても気持ちよさそうに寝ていたから、レストランのオーナーに頼んで、起きるまでの間だけ開けてもらっているんだ」


 なんでもないことのように、この天使は口にした。


 寝起きでほわほわしていた頭は、スッと冴えていった。

 閉店時間を過ぎているのなら、お店の外に出るのが道理である。

 何故か、のらくらと居座ろうとするエイダンを説得して、お店を出た。お店を出るとき、声をかけると何人もの従業員のかたが、移動魔法でも使ったのかという速さでやってきた。


「酔っ払って寝てしまった挙句、遅くまで場所を貸していただき、ありがとうございました。ごはん、とっても美味しかったので、また食べに来ます! 今度は皆さんの迷惑にならないように」


 そう私が伝えると、一番長いコック帽を被っているひとが、目に涙をため頭を下げてくれた。まるでそれが合図だったかのように、ほかのひとたちも頭を下げる。

 その場にピシッと固まったのは、私だけ。エイダンは軽く欠伸をすると、私をお店の外へと促した。

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