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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第1章:はじまりとこわいひと?
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第6話:美味しいごはんと

 ごはんを口に運びながら、私からは満足のため息がもれた

 流石、リリーがオススメしただけある。

 イチコンの実を使った料理がたくさんあった。

 また機会があったら、是非訪れようと思う。

 レストランの名前はモーニモーニ。

 よし、覚えたぞ。

 イチコンの実を使ったお酒を少し口に含んだ。


 ただ。不満があるとすれば。

 リリーが声をかけた様子はなかったのに、このごはんの会に参加しているのは、魔法使いだけではないようだ。

 と言うのも、見知らぬ顔の見知らぬ名前のひとたちが、今回に限って、私の元に途切れなくやってきては、話しかけてくる。

 私は大好きなイチコンの実を堪能したいのであって、おにいさんやおねえさんの相手をするために来たわけじゃない。味わって食べるはずのイチコンの実の料理を落ち着いて食べられない。

 何度でも言うが、私はイチコンの実の料理が食べたくて来たのに。

 私に話しかけてくるひとの顔と名前を覚えつつ、ごはんの邪魔するひとリストへとどんどん追加していく。もちろん、そのリストに入ったひとと、私は友好的な関係を築こうとは思っていない。


 それから、魔法使い以外のごはんの会に参加しているひとが私にしてくる質問のひとつ。


「王子殿下と恋仲であるというのは本当ですか?」


 私としては、疑問符と嫌な気持ちになる質問だった。


 まず、相手の王子殿下というのが、誰なのか分からない。

 ぶっちゃけ、王子殿下というのは、雲の上に住んでいるひとであろう。そんなひとが、ひょいひょいと一介の魔法使いの前に現れるはずもないのに、どうやって出会うというのであろうか。


 恋仲という単語が古傷をえぐってくる。

 恋仲というのは、愛し愛されという関係のことであろう。

 魔女と恋仲になれなかった私を思い出させる。魔女とのことは三年以上経った今も、まだ昨日のことのように、よみがえる。端的に言って、つらい。

 だから、私のことを知り尽くしている魔女にさえ愛されなかった私が、誰かに愛されているというのは、あり得ない。

 また私はいま、魔女も誰も愛してはいない。


 リリーを見習って、私も微笑みながら言葉を紡ぐ。


「私は独り身ですよ」


 ぶっちゃけ、イチコンの実を堪能できていないため、微笑むのは至難の業である。

 だが、そこはこらえて。にっこり。


 そうすると、多くのひとが「あら、そうでしたか。失礼しました」と言って去って行くのが常なのだが。

 何故か今日は、それでも去って行かないひとが多すぎる。

 彼らが言うには。


「お困り事がおありではございませんか?」

「独り身ですか……。俺と一緒に肌を温め合いませんか?」


 とのことで、言葉の裏を読み取れゲームをはじめてくる。

 お困り事は、実際ダンスとかダンスとかダンスでありはするのだけれど、ごはんの邪魔をするひとに習いたくはない。


 独り身であることと、肌を温める……?

 何を言っているのか、正直分からない。


 一緒にということは。

 そのひとにとっては、独り身を不自由に感じていて、私も不自由しているという勘違いをしているのだろう。ええい、自分の常識、相手の非常識という言葉を知らないのか!


 肌を温めることについては、強いて言うなら幼児返りをしていることを公言しているのだろうかと推察する。ついて行けない。

 初めてのひとに、「俺、幼児返りしてんだぜ」と誇らしげに言われても……。

 なんて返せば良いのだろう?

 可哀想なひとを見る目をすれば良いのだろうか?

 それは、なんか違う気がするし……。

 まあ、相手の意図はさっぱり分からないが、私にはお布団という史上最強なぬくぬく道具があるので、お断りである。


 そうして、やっとさばききり、やりきった。

 私は大好きなイチコンの実のお酒を、もう一杯頼んだ。大きな大きなため息を吐いて、油断をしていたら、銀髪の尻尾が隣の席に座った。

 「閉店ガラガラ! いい加減にして」と文句を言おうと、銀髪の尻尾を持つ相手のほうを見た。


 整った顔立ちの口元には小さなほくろ、目は氷のように冷たい青色。

 ひょろっとした体躯をしているが、実はがっしりしている。そのことを裏付けるような服装。

 魔王エイダン・オクサイド・ジョンブリアンがいた。


 えぇー……。

 今ここで、魔王召喚?

 嬉しくない。

 まっこと、嬉しくない。

 なんで来たのよ~。

 私は頼んだイチコンの実のお酒のグラスを店員さんから受け取りつつ、こころの中で嘆いた。


 イチコンの実はお酒になっても甘酸っぱい。

 口当たりも柔らかで美味しい。

 イチコンの実の幸せに浸っていたい。

 そんなふうに現実逃避をしていたのに。

 遠慮のかけらもなく、現実へと連れ戻すエイダンがいた。


「食べてる?」

「まあ……」


 言葉を濁せば、エイダンは片眉をあげた。眉毛さえも綺麗な形をしている。

 私の隣にエイダンが来たら、先ほどまで集まっていたひとたちが、蜘蛛の子を散らすように去って行った。

 魔王としての威圧感だろうか?

 流石だなぁとのんきに思っていた。

 けれど、去って行ったはずの蜘蛛の子は興味があるのか、少し離れたところからチラチラと見ているのを感じる。


 強い視線を隣から感じ、ふっと見たら、私の方にむかって座るエイダンがいた。

 なんでなの?

 普通に座ったら、前を向くはずなのに。


 私はため息を吐いた。

 美味しいイチコンの実のお酒も台無しになりかけている。


 隣を気にしつつ、料理を食べる。

 この魔王さまは、私に何の用事でござろうか?


 しかし、待てども待てども、魔王が動く様子がない。

 ということは、だ。

 この隣の魔王さまは先ほど声をかけたあとから、ピクリとも動かない。ならば石像なのではないか?

 じっと見つめられ続ける中で、ごはんを食べるのは、正直イヤだ。

 しかし、時間を見ると、そうのんびりしたことも言っていられない。

 気にせず、イチコンの実を堪能したほうが良い。イチコンの実に罪はないのだから。

 隣は、石像。動かない、石像だ。石像……。と自分に暗示をかけた。

 私は最高に天才か! と、閃いたことを感謝した。

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