表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

第31話:愛はある

 私のからだから力が抜けていく。

 魔女の強制魔法が解けたようだ。

 私の魔法でボロボロになっているエイダンを、おそるおそる抱きしめ返した。


 気のない拍手の音が響いた。

 私は慌てて、エイダンと距離を取ろうとするも、無理だった。

 エイダンが私を抱きしめる力を強めたからだ。


 私は拍手の鳴るほうへと、顔を向けた。

 表情の抜け落ちた、魔女がそこにいた。

 魔女は吐き捨てるようにそう言った。


「害虫として流石だな。情け深いクレアの気持ちを利用するとは」

「ちがう」

「そうだろうか? クレアからの攻撃を相殺する攻撃を放てば、おまえも怪我をしなかったし、クレアががんばって閉じた傷も開かなかったろうに」


 私を抱きしめるエイダンの力が少し弱まった。


「クレアの傷を開いた愚か者め。害虫、おまえ自身は、マルーベ王国の王子だろう?」

「そうだ。僕はマルーベ王国の王子だ」

「ならば、おまえは“愛している”という言葉を盾に、クレアの力を求めに来たのだろう? 人間はいつも調子が良いから」


 私は聞いていられなくなって、そっとエイダンの腕から抜け出した。

 エイダンの腕がもう一度、私に伸びてきたが、私は首を振って拒絶した。


「そんなことを、求めて来たわけじゃない!」

「そう喚かれても、信じられんな。魔法の力を持つものへ、王国のものが無欲の愛で、手を差し伸べることなどない」

「僕は違う! 信じてくれ」


 エイダンが必死になっていくほど、魔女は冷たく突き放した。

 私はこの話を聞いていて、かつて魔女にも起きた出来事を思い出した。

 魔女は私が同じ傷を負わないようにと、エイダンを冷たく扱うのだと気付いた。


「そこまで言うのなら、クレアの呪いを解いてやろう。だが、おまえの次第でマルーベ王国自体が消えるものと思え」

「呪いを……! ありがとうございます」

「どこまで、そう言っていられるのか」


 エイダンは頭を下げているが、魔女も私も、エイダンを見る目は冷たくなる。

 魔女の視線が私に移った。

 魔女は私を気遣うように眉毛を下げた。


「クレア。本当に良いのか? この害虫が真の害虫だったら、おまえは今以上に傷つくことになろう。一度、解いてしまったら、もう一度は、流石のあたしでも無理だ。それでも?」


 私は息を吸って、なるべく平静に答えた。


「こわいはこわいです。でも、この四年のことを信じてみたいと思います」

「……そうか。では、今日ここにて、あたしとクレア・ノワールの使い魔契約を終了。それにともない魔法の核を回収する」


 魔女が言葉を紡いでいくごとに、なじみ深かった魔法の力が消えていくのが分かる。目を閉じた。そして、もう経験することのない、めまい。


 平衡感覚が戻ってきた。私は魔女にお礼を伝えるため、鳴いた。

 鳴く私の視線に合わせて、魔女はかがんでくれた。


「くわっ」

「なんてことはないよ、クレア。気分は悪くないか?」

「けろけろ」

「そうか、よかった……」


 私はエイダンの姿を見ないようにしていた。こわかったのだ。人間が本当の姿ではなく、カエルだったことが分かったエイダンが、何というか。

 エイダンが私に近付いてくるのが分かった。


「まさか……」

「ほら、害虫よ。おまえの本性が出た。人間ではない、しかももう魔法も使えない、クレアを、それでも愛してやれるのか?」


 エイダンは魔女の言葉を無視して、カエルの私をすくい上げた。

 私は手から降りるべく、じたばたした。


「暴れるクレアも、かわいいけれど。今は少し、じっとしてくれないかい?」

「……けろ」

「ありがとう。それにしても、本当にきみはカエルだったんだね」


 私は目をそらした。


「ああ、違うんだ。誤解しないでほしい。僕は、きみがカエルでも愛しているよ。僕がカエルになりたいほどに」


 そう言って、エイダンは私の口に唇を落とした。


 不思議なことが起こった。

 私の視界は光に包まれ、目を閉じざるをえなかった。

 次第に光が収まる頃、聞こえるはずのない、カエルの仲間たちの声が聞こえた。


『クレアが!』

『いやん、なんて乙女な展開!』

『これは踊るしかないな!』


 私が目を開けると、エイダンに抱きかかえられていた。

 見ると、大きさが違う。

 手には水かきはないし、髪の毛もある。相変わらずきれいな翡翠色である。


 ……?

 ちょっと待って。

 私、人間に戻ってる?


 私は慌てて、エイダンを見、魔女を見た。

 エイダンは微笑むだけで、魔女は目を丸くしたのち、泣き始めた。


「どういうこと……?」


 私がエイダンに問うと、エイダンは何てことないように答えた。


「愛するきみは、僕の隣に戻ってくるべきという、天の采配さ」

「そんな話、聞いたことないけど」

「僕自身がカエルになるように願ったんだけれど……。なんでだろうね」


 こてんと首を傾げるエイダンも、本当のところは分かっていないようだ。

 カエルの仲間たちが、エイダンの足下に寄ってきて、歓声を上げ、ぴょんぴょん跳びはねている。


 魔女が声を荒げた。


「無茶なことを! カエルになるつもりだったですって? おまえは、仮にも一国の王子でしょう? 魔法に近しい存在だったクレアだから、成功しただけで。おぞましい」


 魔女はエイダンをにらみ据えた。

 けれど、エイダンはカラッと笑って言った。


「それでも。成功したから、クレアの幸せを、祈ってください」


 魔女はあっけにとられたように、目を見開いた。

 そしてしばらく、目を伏せたあと、私を見た。

 今までの中で一番優しいまなざしだった。


「これからのおまえが、一等幸せであるように」


 付け加えられた言葉には、うっかり涙がほろりと流れてしまった。


「とてもこんな害虫、無理だと思ったら、いつでも逃げておいで。どんなクレアでも、あたしは歓迎するよ」


 魔女はそう言うと、カエルの仲間たちに指示を出した。


「おまえたちは、また……。罰として、クレアと害虫を送っておやり」

『やった~! もうしばらく、クレアといられる時間ができた』

『主、優しい!』

『ぼくら、がんばる!』

「はいはい、わかったわかった。おまえたちが一気に話すと頭が痛いよ……。さぁ、いっておいで」

『はーい!』


 そうして、私とエイダンは、マルーベ王国へと、カエルの仲間たちに送ってもらったのだった。

少しでも面白いなと思っていただけましたらブックマークや、↓の☆☆☆☆☆をクリックして評価をしていただけると嬉しいです!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ