第29話:はじめてのワガママ
仲間たちのニンマリ顔が見える。
「なんで笑ってるの? 私は好きじゃない。……好きじゃないもん」
『どうして好きじゃないと思うのさ?』
「だって、私は愛せないって断った」
『気持ちが変わるのは人間だけじゃないのよ』
仲間たちのまなざしが、やけに温かい。
「もし、仮に、あなたたちが言うように、私がエイダンを好きだとして。私はカエルなのよ?」
『それじゃあ、人間になれば良い。ちょうど、主がクレアを人間にするための秘薬を作ってらっしゃったはず』
「そういう問題?」
『そうよ。だって、お互いに愛してるなら、一緒にいたほうが幸せに決まっているじゃない』
「私は愛しているのかなぁ」
仲間たちはやれやれと首を横に振る。
『分かってないなぁ。主の話をしていた頃より、ずっと素敵な表情をするようになったのよ。といわれても、鏡を見てしゃべるわけにはいかないから、分からないかもしれないわね』
「私もだけれど、エイダンが私を愛しているかも分からないわ」
『ええぇ……』
仲間たちは、顔を見合わせると詩魔法を紡ぎ出した。
その魔法は、遠いところにいるひとの姿を映す魔法。
けれど、その魔法にエイダンは映らなかった。
『あら。クレアの話から、マルーベ王国の王子の部屋を映しているはずなのだけれど……。いないわね』
仲間たちはさっさと魔法を解除すると、頭を突き合わせて相談をはじめてしまった。
『ふむ……。だったらさ、クレア。ぼくらが、その王子さまの気持ちを調べてくるよ。時間がかかるかもだけど、待ってて』
「あのかたには何て言って行くの?」
『ふふ。これが優秀じゃないところの特権! ちょっと遊んでくるだけさ』
仲間たちはくふくふと笑って、胸を張った。
仲間たちが去って行き、私はベッドに横になった。
お布団は、まるで外に干したてのような、日光の良い匂いがした。
ふかふかもしていて、眠気がじわじわとやってきた。
その日は、久しぶりに夢をみなかった。
暖かさを感じ目を開けると、魔女が頭をなでていた。
「おはようございます」
「おや、起こしちゃったか。おはよう」
魔女の顔が、市場でアメ玉をくれていた子と重なる。
「マルーベ王国の市場に、たまにアメ玉を私に与えに来ていませんでしたか?」
「流石クレア。それともあたしの腕が落ちたのかしらね」
魔女は優しく笑った。
今なら、話を聞いてもらえるかもしれない。
そう思った私は意を決して、魔女に伝えた。
「私はあなたとの使い魔の契約を破棄したいです」
魔女は目をパチクリさせた。
「どうして? 不便はないでしょう?」
「私はもう優秀な使い魔でいられません。マルーベ王国から離れたくないのです」
「あの残念王子のためなの?」
魔女の顔が険しくなった。私は静かに首を横に振る。
「いいえ。私が本物のカエルであることをエイダンさまは知りません。だから、人間じゃない私は隣にいられないでしょう。それでも、私はカエルの姿で良いから、マルーベ王国を見守りたいのです。あの国には、大切なひとたちがたくさん住んでいるから……」
「あたしより国なの?」
「そうですね。私はあなたと距離を取ったことで、あなたへの想いは敬愛なのだと知りました」
魔女はうつむいてしまった。ひとつ深呼吸をすると、魔女は悲しそうな声で言った。
「おまえはあたしを愛している、と言ったじゃない」
「いまでも、大切なひとであることに変わりはないですよ」
「本当に、使い魔をやめたいの?」
「はい」
「いろんな外敵に襲われるようになっても? 魔法の使えないカエルの命なんて、あっという間よ? それでも?」
私は、魔女が今以上に悲しまないように、精一杯の笑顔を浮かべ、頷いた。
魔女は目をまばたかせ、顔をくしゃりと歪めた。
「おまえのはじめてのワガママが、使い魔の契約破棄だというのが、とても悲しい。少し、あたしにも考える時間をおくれ」
魔女は急に年を取ってしまったかのように、よろよろと部屋を出て行った。
その日の夜。大雨が降っていた。
暗い森は、より薄暗く。
カエルの私としては、空気が湿っていて気持ちが良い。
私が部屋の窓を開けた。
椅子を持ってきて、窓際にもたれかかる。
静かな、良い夜だ。
でも。そうだな。人間の姿のとき、エイダンにもう少し素直になっていたら良かったな。
ツラツラと、考えていた。
頭の中を巡るのは、エイダンの姿。
私の目から涙が一滴落ちた。
一滴、二滴、どんどん増える。
私は落ちていく涙も拭かず、ただぼんやりと外を眺めた。
大きな雷がどこかに落ちた音がした。
ついであたりが一瞬、明るくなった。
「え……」
私は思わず、目をこすった。
その手をギュッと掴んだひとがいた。
「遅れてごめん。でも、クレア。きみを泣かしているのは誰?」
窓の外から、雨に濡れながら現れたのは、エイダンだった。
少しでも面白いなと思っていただけましたらブックマークや、↓の☆☆☆☆☆をクリックして評価をしていただけると嬉しいです!!!




