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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第29話:はじめてのワガママ

 仲間たちのニンマリ顔が見える。


「なんで笑ってるの? 私は好きじゃない。……好きじゃないもん」

『どうして好きじゃないと思うのさ?』

「だって、私は愛せないって断った」

『気持ちが変わるのは人間だけじゃないのよ』


 仲間たちのまなざしが、やけに温かい。


「もし、仮に、あなたたちが言うように、私がエイダンを好きだとして。私はカエルなのよ?」

『それじゃあ、人間になれば良い。ちょうど、主がクレアを人間にするための秘薬を作ってらっしゃったはず』

「そういう問題?」

『そうよ。だって、お互いに愛してるなら、一緒にいたほうが幸せに決まっているじゃない』

「私は愛しているのかなぁ」


 仲間たちはやれやれと首を横に振る。


『分かってないなぁ。主の話をしていた頃より、ずっと素敵な表情をするようになったのよ。といわれても、鏡を見てしゃべるわけにはいかないから、分からないかもしれないわね』

「私もだけれど、エイダンが私を愛しているかも分からないわ」

『ええぇ……』


 仲間たちは、顔を見合わせると詩魔法を紡ぎ出した。

 その魔法は、遠いところにいるひとの姿を映す魔法。

 けれど、その魔法にエイダンは映らなかった。


『あら。クレアの話から、マルーベ王国の王子の部屋を映しているはずなのだけれど……。いないわね』


 仲間たちはさっさと魔法を解除すると、頭を突き合わせて相談をはじめてしまった。


『ふむ……。だったらさ、クレア。ぼくらが、その王子さまの気持ちを調べてくるよ。時間がかかるかもだけど、待ってて』

「あのかたには何て言って行くの?」

『ふふ。これが優秀じゃないところの特権! ちょっと遊んでくるだけさ』


 仲間たちはくふくふと笑って、胸を張った。


 仲間たちが去って行き、私はベッドに横になった。

 お布団は、まるで外に干したてのような、日光の良い匂いがした。


 ふかふかもしていて、眠気がじわじわとやってきた。

 その日は、久しぶりに夢をみなかった。


 暖かさを感じ目を開けると、魔女が頭をなでていた。


「おはようございます」

「おや、起こしちゃったか。おはよう」


 魔女の顔が、市場でアメ玉をくれていた子と重なる。


「マルーベ王国の市場に、たまにアメ玉を私に与えに来ていませんでしたか?」

「流石クレア。それともあたしの腕が落ちたのかしらね」


 魔女は優しく笑った。


 今なら、話を聞いてもらえるかもしれない。

 そう思った私は意を決して、魔女に伝えた。


「私はあなたとの使い魔の契約を破棄したいです」


 魔女は目をパチクリさせた。


「どうして? 不便はないでしょう?」

「私はもう優秀な使い魔でいられません。マルーベ王国から離れたくないのです」

「あの残念王子のためなの?」


 魔女の顔が険しくなった。私は静かに首を横に振る。


「いいえ。私が本物のカエルであることをエイダンさまは知りません。だから、人間じゃない私は隣にいられないでしょう。それでも、私はカエルの姿で良いから、マルーベ王国を見守りたいのです。あの国には、大切なひとたちがたくさん住んでいるから……」

「あたしより国なの?」

「そうですね。私はあなたと距離を取ったことで、あなたへの想いは敬愛なのだと知りました」


 魔女はうつむいてしまった。ひとつ深呼吸をすると、魔女は悲しそうな声で言った。


「おまえはあたしを愛している、と言ったじゃない」

「いまでも、大切なひとであることに変わりはないですよ」

「本当に、使い魔をやめたいの?」

「はい」

「いろんな外敵に襲われるようになっても? 魔法の使えないカエルの命なんて、あっという間よ? それでも?」


 私は、魔女が今以上に悲しまないように、精一杯の笑顔を浮かべ、頷いた。

 魔女は目をまばたかせ、顔をくしゃりと歪めた。


「おまえのはじめてのワガママが、使い魔の契約破棄だというのが、とても悲しい。少し、あたしにも考える時間をおくれ」


 魔女は急に年を取ってしまったかのように、よろよろと部屋を出て行った。



 その日の夜。大雨が降っていた。

 暗い森は、より薄暗く。

 カエルの私としては、空気が湿っていて気持ちが良い。

 私が部屋の窓を開けた。

 椅子を持ってきて、窓際にもたれかかる。


 静かな、良い夜だ。

 でも。そうだな。人間の姿のとき、エイダンにもう少し素直になっていたら良かったな。


 ツラツラと、考えていた。

 頭の中を巡るのは、エイダンの姿。


 私の目から涙が一滴落ちた。

 一滴、二滴、どんどん増える。

 私は落ちていく涙も拭かず、ただぼんやりと外を眺めた。


 大きな雷がどこかに落ちた音がした。

 ついであたりが一瞬、明るくなった。


「え……」


 私は思わず、目をこすった。

 その手をギュッと掴んだひとがいた。


「遅れてごめん。でも、クレア。きみを泣かしているのは誰?」


 窓の外から、雨に濡れながら現れたのは、エイダンだった。

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