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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第28話:打ち明ける

 外から見た魔女の家は、せいぜい二部屋くらいしかない大きさだ。

 しかし、魔法なのか、ほかの細工がしてあるのか、家の中はもっと複雑になっていて、広い。

 私は与えられていた部屋へむかう途中、カエルの仲間である五匹に会った。


 彼らは、私との再会を喜んでくれた。

 二匹は雨乞いの儀式に使う踊りをはじめるくらいである。


『クレアじゃん! 元気してた?』

『あなたの噂はここまで聞こえてくるほどよ。お手柄ね』

『ぼくらの詩魔法が、守ってるだなんてすごいよなぁ。ぼくは、知らない国だけれどさ』

『クレアが帰ってきた! 宴じゃあ~!』

「ふふ。ありがとう。みんなも相変わらずそうで良かった」


 仲間たちは、なんと言ったら良いのだろう。お調子者だけれど、言い換えれば明るく元気な子たちなのだ。

 久しぶりに彼らと話がしたいと思った。


「皆はもう寝るだけ?」


彼らは楽しそうに笑った。


『こんな嬉しいことがあったのに、寝るなんてもったいないよ』

『今日は歌わなきゃ!』

『嬉しいことは言霊に乗せて、皆に届けるの〜』

「そっかそっか。じゃあ、私の部屋で盛り上がるのは?」


私がそう提案すると、五匹の仲間たちは声を揃えて応えた。


『もちろん、いいとも!』


 皆を肩や背中、頭に乗せて、改めて部屋へとむかった。

 部屋は、まるで時がとめてあるかのようだった。


『はぁ、主はクレアのことが、本当に好きだなぁ。これの維持はどうやってるんだろう?』


 私は変わらない部屋に驚いて、足を止めた。

 仲間たちは、部屋主の私を置いて、部屋の探索を始めてしまった。


 部屋を十分に堪能した仲間たちから順番に、ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。

 私は仲間たちの楽しげな様子に、どこかホッとした。

 魔女がすべてを壊す夢があまりにも現実味をおびていたから、緊張をしていたのかもしれない。


 何も知らない仲間たちが私を呼ぶ。


『クレア! どんな国だったの? どんなひとがいた? やっぱり魔女の言うように力がすべてなの?』


 話を急かす仲間たちをみて、私はささくれが落ち着いていくような、優しい気持ちになれた。

 ようやく部屋に一歩二歩と入り、ベッドに腰かけた。

 

『そんな端っこにいないでさ、主役は真ん中!』


 そう促され、ベッドの真ん中へと座る位置を変える。


「そうだねぇ、どこから話そう?」

『全部! 夜は長いから!』

『クレアが英雄になった経緯を知りたい!』

『そんなのぼくらの詩魔法が活躍したに決まってるさ~。それより! トカゲが言っていた、クレアのことを囲おうとしてる男のはなしを聞きたいな』

『なにそれぇ。そんな情報、あたちは聞いていないわ』

『だからこクレアから直接聞きたいんじゃんか~』


 私は話すのは良いけれど、だんだん雲行きが怪しくなってきたな……と、冷や汗をかいていた。

 仲間たちの中で、どの話を私にさせるのか、決まったようだ。


『クレアに虫が付くことは、いつもどんな任務でも魔女が恐れていたことだけれど』

『トカゲのはなしは、本当なの? 好きな相手ができたの?』


 私はひとつ呼吸を置いて話し始めた。


「私を好きだと言ってくれるひとはいたよ」


 仲間たちは深く頷いている。中には早くも泣き出すものさえいる。


「そのひとが私のことを好きだってことを、私は最近まで知らなくて。異様に距離の近いひとだなとは思ってたの」


 仲間たちは、『ほぅ』という相づちを返してくれる。


「ある日、王さまに呼び出されたの。今からだと、あとひと月半後にある春の祭典の夜会でダンスを踊るように言われて困ってたの」

『雨乞いの儀式の踊りとは、やっぱり違うの?』

「そうね。雨乞いの儀式のときは一匹で良いでしょう? 人間のダンスはふたりで踊るの」

『どんなのなんだろう。その祭典は、ぼくらも見に行きたいなぁ』

「あのかたが、どう判断されるか、かな……」


 私は思わず唇を噛み、下を向いてしまった。

 仲間たちが、心配そうにぴょんぴょんと集まってくるのが見える。


「なんでもないの。私も分からないのだけれど、いきなり悲しくなっちゃって」

『大丈夫?』

『大丈夫じゃなくても、大丈夫と言うのがクレアだよ。急ごしらえだけれど、結界術を張ってあげる! 思いっきり泣こうよ』

『そうだったね、待ってて。クレア』


 仲間たちの優しさに思わず涙がこぼれた。

 すぐに仲間たちは詩魔法を紡ぎはじめ、ものの五分もかからないうちに結界術ができあがっていた。


『張れたよ、クレア。この結界術は魔女にも感知させないから、思いっきり泣こう』

「あなたたちも十分優秀な使い魔だわ」

『いやぁ、クレアからそう言われると照れるけれど。あたちらは、命令をお利口には聞けないから、優秀じゃあないんよ』


 そう仲間たちは、頭をコリコリとかいた。


『それでどうしたの? クレアが泣くだなんて』

「せっかく人間のダンスを教えてもらったのにって思ったの」

『本当にそれだけ?』


 仲間たちは、真剣に私の涙声で聞き取りづらいだろう話を聞いてくれた。


「ううん……。その、好きだと言ってくれたひとが、人間の私も好きだけれど、カエルの姿になった私も好きだって。言ってくれたの。嬉しかった。……でも」

『ここに帰ってくることになっちゃった、と』


 仲間たちはどう声をかけたものかと悩んでいるようだった。

 そうさせていることに、申し訳なく思った。


「それもあるし、そのひとは私が本来はカエルだと知らなくて、人間がカエルになる呪いを解く方法を調べてきてくれたの。申し訳なくて」

『え。わざわざ?』


 仲間たちは、ギョッと目を見開いた。

 その顔を見ていられなくて、また顔を伏せた。


「うん……。でもね、分かってるの」

『分かってる?』

「そのひとは、マルーベ王国の王子さまで。私はただのカエル。ちょっと魔法が使えるだけ。好きになっても結ばれないわ」

『それは誰かに言われたの?』

「言われてない。マルーベ王国で勉強の一環で読んだ絵本には、王子さまと結ばれるのはかわいいお姫様だって書いてあったもの。それに、私は王子さまを愛せないと断ってしまったから。王子さまは、ほかの女のひとのほうに行っちゃった……」


 私は自分の気持ちが、しおれていくのが分かった。


『クレアは、その王子さまが好きなのね』


 私は否定しようと顔を上げた。

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