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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第27話:魔女の家

 魔女の家は、マルーベ王国からしばらく北上した、惑いの森の奥にある。

 マルーベ王国を抜け、隣国のパッサル王国に入った森で、魔女の使い魔であるカラスが現れた。


『クレア、迎えに参った。ワシの背に乗るが良い。主どのがお待ちである』

『ありがとうございます』


 その頃には私の姿は、カエルとなっていた。何故か魔法がうまく使えず、四苦八苦していたところだった。

 カラスの言葉に甘え、背中に乗せてもらった。


 そこからは、初めての空の旅であった。

 しばし考えるのを放棄して、空からの景色を楽しんだりもした。

 パッサル王国を抜けた頃、カラスが突然、速度を上げた。


『……楽しんでおるところ、申し訳ない。少し邪魔が入るゆえ、飛ばす。しっかり捕まっておれ!』


 私がカラスの首に巻いてある布に潜り込んだのを確認すると、カラスは風魔法の何かを発動させた。

 のんびりした空の旅が、一気に殺伐としたものとなった。


 カラスの風魔法は、私が結界術を張るようなもの。

 それなのに。

 何者かからの執拗な攻撃が、何度か頭上を駆け抜けていった。


 惑いの森に入り、攻撃がやんだ。


 カラスは、惑いの森を迷いなく、まっすぐ飛んでいく。

 しばらく飛ぶと、レンガ造りの赤を基調とした家が見えてくる。

 魔女の家である。


 カラスが地面に降り立つと、家の扉が音もなく開いた。

 艶やかな黒髪をたなびかせながら、黒いローブを着た美しいひとが走り出てくる。


「おかえりなさい。待っていたわ」


 あの魔女が、声を弾ませている。

 カラスの首布に絡まってしまった私を見つけると、市場でよくアメ玉をくれた少女の姿が重なって見えた。あの子のような、かわいらしい微笑みをみせた。


「あら。相変わらずのドジねぇ」


 言葉とは裏腹な甘い声で、優しく布からすくい上げてくれた。

 三年、もしかしたら四年ぶりの再会……だと思うのだが。ちょくちょく会っていたような気もする。


 私は不思議な気持ちでいると、魔女の黒い瞳にうっすら涙が浮かんだ。


「相変わらずね。使い魔としては優秀な毒性は強いまま」


 私はハッとして水かきのある手を見やる。

 ぬめっとした体液が浮かび上がっていた。


「でも。そんなおまえが、やっぱり大切だわ……。おいで」


 私がカラスへのお礼を伝える時間もそこそこに、魔女は家の中へと私を連れて行った。

 魔女は、私を人間の姿にするときに使った椅子に、再び私を乗せた。

 体液のことを指摘されると、前は気にならなかったのに、このふかふかな椅子に汚れをつけるようでイヤだった。


「あらあら。暴れないの。すぐにおまえを人間の姿にしてやるから」


 思わず、私は椅子から降りるのを後回しに、魔女を見上げた。

 魔女はニヤリとわらった。


「そうなのよ。あたしだったら、すぐにおまえを人間にしてやれる。あの残念王子なんかより正確に」

「けろ……」

「あら、アレをかばうの? おまえはあたしが好きじゃない。まあいいわ。ほら、お食べ」


 差し出されたのは、市場でもらっていたアメ玉である。

 あのアメ玉よりも、もっともっと深い赤色だ。

 大きさがカエルの私と同じくらいある。

 アメ玉の中が揺れている。

 私が興味深く見ていることに気付いた魔女は、自慢げに教えてくれた。


「このアメ玉は、あたしのおまえへの想いを結晶化させたものよ」


 思わぬことを言われて、アメ玉と魔女とを見比べた。

 魔女の頬がだんだんと赤みを帯びていく。


「それだけ、あたしはおまえが大事なのよ。分かりなさいよね。それで、食べないわけ?」


 魔女は、顔を背けようとしているが、私の様子をチラチラと見ている。


 私は喉をコクリと鳴らした。人間の姿に戻れたら……。

 私はおそるおそるアメ玉をひと舐めした。


 まばたきをしたら、人間の姿へと変わっていた。

 椅子にキチンと腰かけ、手にはアメ玉を握っていた。

 服は魔法使いの制服ではなく、白のローブを着ていた。


 私が人間の姿になると、魔女は駆け寄ってきて、かたく私を抱きしめた。

 魔女が魔女らしくない震える声で言う。


「かわいいおまえに、ようやく触れる」


 そう言われて素直に嬉しい気持ちと、モヤモヤした気持ちと。

 帰ってきてから、ずっと不思議に思っていたことを、魔女に尋ねた。


「私が嫌いだったのではないのですか?」

「何をバカなことを……。あたしは今も昔も、おまえが一番好きよ」


 魔女は甘く私を見つめてくる。


「私が愛を伝えたとき、無理って言われたことを、私は忘れてませんよ」


 私の口がとんがっている自覚がある。納得がいかないのだ。


「カエルの姿のおまえは触れないからよ。優秀な毒だから、なかなか抱きしめたりができないのよ」


 魔女は不機嫌に顔をしかめた。けれど、すぐにニコニコと微笑み、上機嫌になった。


「そんなことでヘソを曲げていたのかい? かわいい子」


 私は黙るしかなかった。

 私の認識と魔女の認識が大きく違う気がした。

 魔女が分かる説明をするのは、今すぐは難しいと感じた。


「今日はもう遅い。おまえの好きなイチコンの実を食べたら、寝るといい。部屋は昔のまま残ってる。そこを使いなさい」


 魔女はツヤツヤと赤いイチコンの実を、机に置いた。


「あたしも害虫対策をしたら寝るから。おやすみ、あたしのかわいい子」


 魔女はそう言い置くと、外へ出かけて行った。


 私はイチコンの実を手に取った。

 ちょうど良く熟されているようだ。

 さらに、ていねいに洗われてて、そのまま食べられそうだ。


 一粒、口に含んだ。

 甘酸っぱい味が、口いっぱいに広がる。

 あまりの美味しさに涙目になった。


 魔女の指示や言い分がコロコロ変わるのは、昔からだ。

 今までは、何も特に考えたことがなかった。

 主の言うことは、使い魔にとって絶対だから。


 けれど、愛を砕かれたことは、変えられない事実としてある。

 魔女の愛を素直に信じられるほど、私の覚悟は軽くなかった。


 そう考えると、魔女を信じないとは、私は優秀な使い魔ではなくなってしまったようだ。

 明日、魔女に伝えよう。


 人間の姿になりたくて来たわけじゃないこと。

 私にとっての大切なひとたちが、魔女以外にもいることを。

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