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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第24話:そんなきみも

 あれから。

 何度か、カエルの姿になった私は、エイダンに見つかり、そのたびに、部屋に連れて行かれそうになっていた。

 今のところ、危機一髪が多い。


 合間を縫って、ダンスの練習をして休憩にしていたときのことだ。

 エイダンが足早に、もはや走る勢いでやってきた。


「クレア! とうとう、呪いを解く方法の文献を見つけた!」


 私は何とも言えない気持ちになった。

 呪いと、エイダンは言うが、ただの魔女の魔法の効果が切れかけているに過ぎないのだ。

 そんな私をよそに、エイダンは熱弁をふるってくれた。

 

 エイダンが言うには。

 愛するひとのキスで呪いは解ける、と。

 さらに愛の言葉を添えることで、より呪いは解きやすくなるのだ、と。


 私は正直に、カエルが本性だと言うべきか悩んだ。

 悩む私を置いて、エイダンはこちらが恥ずかしくなるような言葉を並べはじめた。


「明日も早いので、今日はこのへんで、帰ります! お疲れ様でした!」


 私は聞いていられず、エイダンの言葉を遮り、家に帰った。

 その日から、エイダンは私に、姿が人間だろうとカエルだろうと、甘い言葉を捧げはじめた。



 ある日のお昼休み、私はエイダンを避け、魔法使いの根城から降りてきていた。

 ごはんであるイチコンの実を食べようと、手で持ち上げたら、最近馴染みの視界が揺れた。

 そう、カエルになっていたのである。


 ここ最近は夕方にカエルになっていたけれど、そろそろ魔女が言ったように、効果が切れ始めたのだと思う。


「けろ~」


 深いため息を吐いたら、鳴き声になってしまった。

 私が、花壇で身を潜めていると、珍しく魔法使いの根城から降りてくるひとたちがいるようだ。


「ジョニー。僕はとうとうおかしくなってしまったのかもしれない」

「それはまた……」


 どうやら、ジョニーとエイダンのようだ。

 花壇の近く、つまり私が隠れているところで足を止めた。


「おや……。イチコンの実がこんなところに。珍しい」

「本当だな。それでな、ジョニー。僕はクレアを愛しているのだけれど」


 ジョニーがイチコンの実を拾い集めている横で、エイダンも手伝いながら深いため息を吐く。


「もちろん彼女はかわいい。知ってる。彼女が頑張り屋なのも評価すべきところだ。それに……」


 エイダンはイチコンの実をひとつ拾うたびに、私への褒め言葉を炸裂させていて、私はだんだん居心地が悪くなってきた。


「――なのだ。ジョニー、聞いてくれ」

「聞いていますぞ」

「僕はカエルにさえときめくようになってしまった」

「はあ、カエルにもクレアの名を付けていらっしゃるので?」

「違う、いや、そうとも言える……」

「煮え切りませんなぁ」


 呆れ口調のジョニーに、エイダンは言い募る。


「カエルになった彼女も、とんでもなくかわいいんだ。僕への破壊力が!」

「さようで……」

「でも、考えたんだ。普通、不本意な姿のひとにも、ときめくだなんて、失礼じゃないかと」

「さようで……」

「僕は変態じゃないと思うんだ。好きな人がどんな姿をしていても好きなだけで!」

「それはご自身への暗示ではありませんか?」

「だって――」


 そのあとも、如何に人間の私が素敵かを語り、カエルの私もかわいいことをも語り、締めにはエイダンはカエル相手にさえ、ときめいていることを気付かれたら、私に気持ち悪がられるんじゃないか、という不安をジョニーに吐き出していた。

 対するジョニーは聞き慣れているようで、時々相づちを打ったりするだけである。


 隠れて、エイダンの不安を聞いてしまった私としては、とても気まずかった。

 けれど。

 魔女みたいに、「カエルなんてヌメヌメするし、ぴょんぴょんしているだけ」と言われず、逆に愛されていることが分かって、妙に小っ恥ずかしかった。


 私は少し恥ずかしいのもあったが嬉しくて、花壇の中から出た。

 途中からジョニーの声がしないと思ったら、ジョニーは魔法使いの根城の階段を登っていくところだった。


 私は、落ち込むエイダンの前をぴょんぴょんしてみた。

 エイダンは両手で顔を覆って、座り込んでいるので、ジョニーがいないことも、私がいることにも気付いていないようだ。


 仕方が無いので、声をかけてみた。


「くわっくわっ」

「え? この鳴き声は、クレア!」


 しょげていたエイダンはどこへやら。

 私の鳴き声で途端に元気になった。


「なんてことだ。まだお昼だ。大丈夫かい?」


 改めて私の姿を認めると、眉毛をハの字にして、そう尋ねてくれた。


「ああ、もう少しでお昼が終わってしまうな……。きみには嫌がられるけれど、少しの間だけ、僕の部屋に隠れておいで。仕事が終わったら、帰してあげるから」


 人間の姿に戻れない私を見て、エイダンはすぐに部屋へと連れて行った。


「その……、カエルでも居心地の良いように、土と水といろいろを研究したんだ。箱がクレアのかわいさを損ねてしまうけれど、ここでくつろいでてくれると嬉しい」


 そう言って、とてもきれいな水辺と柔らかな良い土、干し草やら、天蓋付きのベッドになりそうなお花が用意された場所へ、私を誘導してくれた。


 エイダンがお仕事へ行ってしまって。

 私は、思わずこの環境が素晴らしすぎて、ぴょんぴょん跳びはねてしまった。

 水も冷たすぎず、だからと言って熱すぎず、適温。


 喜びまくったあと、私は我に返った。

 環境を整えられただけで、喜ぶとはなんと単純思考。


「けろけろ……」


 私は、凜々しいカエルだよね?

 失態を恥じたのだった。


 ふと、気配を感じて、箱の外を見ると、トカゲが一匹、そこにいた。

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