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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第23話:モヤモヤする気持ち

 私には、高級喫茶店の内装が、まるで謁見の間のように見えた。

 思わず、キョロキョロと眺めてしまった。


 それをエメリーンの扇が、私の肩を叩いて注意した。

 そういうことをするエメリーンも、平静を装っているようには見えるけれども、目がキラキラしているのは隠せていない。


 唯一、リリーだけが「今月のお給料で足りるかしら……」と、現実を見ていた。


 高級喫茶店の一室に、私たちは案内され、給仕をうけた。

 一通りのお皿が並び終わると、エメリーンが給仕をしてくれたかたがたを下がらせた。


 三人、思い思いに、飲み物に手を付けた。

 そうして、ひと息ついたエメリーンがまず口火を切った。


「クレアさん。あなた、お兄さまに何か言いましたの?」


 私には心当たりがなく、首を傾げた。


「クレアさんと会えなくなる前の日、お兄さまが珍しく私に怒ったのですわ」


 私は見当がつかなくて、ますます首を傾げた。


「なんでも、お兄さま自らドレスを贈るから、ほかの殿方なんて紹介しなくて良い、と」

「なんですって……」

「あら、リリーさんにも思い当たることが?」


 私には話が繋がらないのに、ふたりには繋がった話らしかった。


「愛してるも、好きだとも、クレアに言えないひとが、何言っているのかしら」

「あら、やっぱり。殿方を紹介したほうが良いわね」

「絶対そうです。エメリーンさま、クレアを幸せにできるひとを見つけましょう」


 何故だか、意気投合し始めたふたりに、私はとても言いにくいけれども、報告することにした。


「あの~……。この間、エイダンさまから、愛していると言われました……よ?」


 ふたりの目がカッと見開かれた。


「それはそれは。わたくしの言葉に焦ったのかしら」

「あんなにクレアを困らせていたのに、よくもまあ」


 ふたりはおほほと笑い合ってはいるが、私はなんだかとてもこわい。冷や汗が止まらない。

 そうして、ふたりに根掘り葉掘り、エイダンとのことを聞かれた。

 答え終わった私の頭からは煙が出て、力尽きた。


「リリーさん。わたくし、お兄さまのことが許せませんの」

「エメリーンさま、わたしもです。これはどこかの機会でギャフンと言わせましょう」

「あなたとは気が合いそうですわ。よければ、お友達になっていただけて?」

「もちろんです。エメリーンさま」


 そんなふたりのやり取りが聞こえたような、私の空耳か。

 こうして、すっかり仲良くなったエメリーンとリリーであった。


 このあとは、三人で美味しいお菓子を堪能し、オススメし合ったのだった。

 支払いは、エメリーンの侍女が済ませていてくれていた。頭が上がらない。


 そうして、家に帰り際。


「イヤなことがあったら、すぐ相談すること」


 二人には、とても口酸っぱく言われたのだった。



 休日が終わり、お仕事の日。

 朝の、まだ早い時間である。

 珍しく早くに、私は魔法使いの根城に着いていた。


 そのことに気持ちに余裕ができていたのだろう。

 鼻歌なんかも口ずさんでいた。


 ふと、顔を上げると、階段の踊り場で、男女が抱き合っているのを見てしまった。

 この抱き合っている男女が知らないひとたちだったなら、私はあららと思っただけだったと思う。


 けれど。

 男は長い銀髪。顔は見えないが、間違いなくエイダンである。

 女のほうは、見たことはない。

 エメリーンのようなドレスを着ていた。つまり魔法使いではないのだろう。


 しばらく、眺めてしまっていた。

 男女が離れ、エイダンは上階へ、女はこちらへと階段を降りてきた。

 私が固まっている、その横を通り過ぎるとき、その女は確かに言った。


「英雄だとか知りませんけれど、調子に乗らないでくださいませね」


 私は、何も言えなかった。


 それからのお仕事は正直、身が入らず、何度も叱られた。

 ついには、心配されるほどであった。


 私は考えた。

 エイダンは愛していると言った。大事だと言った。

 でも、私は愛せないと跳ね返した。


 ともすれば、ひととは気持ちが移ろうものだ。

 エイダンに、ほかに好きな人ができてもおかしくはない。


 そう思うのに、私の気持ちは晴れなかった。

 エイダンの嘘つき、と少し思った。

 でも、私は約束しなかったんだから自業自得だ。

 しょんぼりした。


 何故、しょんぼりするのか。

 どうして嘘つきと思ったのか。

 私はまだそこに至る理由が分かっていなかった。



 夕方。

 お仕事に身が入らなかった結果、残業をしていた。

 そうしたらまた、カエルに私はなっていた。


「けろ~」


 元気のない鳴き声である。

 机の影に隠れて、私は泣いた。

 けろけろ鳴くのではなくて、涙が流れた。


 誰かがやってくる音がする。

 この足音は、エイダンである。

 正直、会いたくない。

 静かに静かに私は机の下にいた。

 けれども。


「クレア、こんなところにいたのか」


 エイダンは心配そうな顔で、私をすくい上げた。


「まだ、カエルの呪いを解く方法が見つかってないんだ。ごめん」

「くわっくわっ」


 気にしなくて良い。あのドレスのひとと上手くやれば良いのよ。

 私はそう言ったつもりだったけれど。

 やっぱりカエルの鳴き声だった。


「そうだ! 今日こそ、僕のクレアも満足してくれる部屋へ連れて行ってあげるよ」

「くわっ」


 やかましい!

 私はそう思って、またエイダンの頭と思わしきところへ、頭突きして、逃げ出した。

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