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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第22話:誤解と

「エイダンさま、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。だいじょう、ぶ。って、クレア!」


 名前を叫ばれて固まる私。

 私の顔をまじまじと見るエイダン。

 しばらく見つめ合ってしまった。


 誰かの咳払いで、ここが魔法使いの根城であることを思い出した。

 エイダンも軽く咳払いをすると、私に言った。


「すまない。驚かせてしまったね。……今日の仕事終わりに、少し話ができるだろうか?」

「今日は残業の予定もないので、大丈夫です」

「では、仕事終わりに」


 エイダンはそそくさと、離れていった。

 とても珍しかった。

 いつもだったなら、何かもっと言われるのに。

 少しだけ寂しいと思う私がいて、「いやいや」と顔を横に振った。


 ごはんを食べ、お仕事に集中した。

 終業時間を迎え、帰宅の準備を進めるひとが多くなった。


 リリーが心配そうに私を見るものだから、お仕事が休みの明日に遊ぶ約束をした。

 少し気は重いが、楽しみである。


 皆が帰り、エイダンと私しかいなくなった頃。

 エイダンが喋りづらそうに、「あー」だとか、「んー」だとか、言葉になっていない。


 それから十分経った頃だろうか。

 ようやくエイダンが言葉を話した。


「その、なんていうか。クレアは呪われているのかい?」

「え?」


 思っても見なかった言葉に、どういうことだろうと悩んだ。


「いや、言いにくいと思うんだ。女の子なのに、カエルになる呪いがかかってるだなんて」


 ……え?


「実は、昨日ここでカエルさんを見つけてね。とてもクレアに似ていてかわいいなと思ったんだ。そしたら、その……ほっぺにカエルさんが当たったら、クレアになって走って行っちゃったんだ」


 まさか。

 カエルになることがエイダンに知られてしまうとは……。


 言い訳する?

 何に対して? どうやって?


 私のは血の気が引いてくのを感じていた。


「でも! 気に病まないでほしい」


 エイダンはダンスを踊るわけでもないのに、膝をついて、私の手を、うやうやしく持ち上げ、額に当てた。


「僕はクレアが好きだ。僕が、カエルさんになる呪いを解いてみせるから。過去の文献とか探してみる。だから、待っていて。必ず、見つけて解くから」


 事態が飲み込めず、私は返事ができなかった。

 エイダンは冗談を言っているわけではなさそうだ。

 真剣な顔つきのまま、優しく今日は帰るように私を促した。


「そろそろ、暗くなってくる。気をつけて、おかえり」

「ありがとうございます。エイダンさまもお気を付けて」


 とりあえず、無難な返しをしたと思う。

 帰り道、歩きながら思った。


 大丈夫なのだろうか?

 何がって、好きな子がまさか人間じゃなくてカエルだとしたら、気持ちが悪いのではないだろうか。

 好いてくれたのは、人間の女の子だからだろう?


 カエルになる呪いではないから、ますます申し訳ない気持ちなった私である。



 そうして、翌日。

 私はリリーと約束をしていたのに、寝坊してしまった。


 慌てて、家の外に出ると、近くのベンチにリリーが座っていた。


「ごめん、リリー。寝坊してしまって」

「気にしないで。お寝坊なクレア。ちょっとおうちに上がらせて?」


 私は申し訳なく思っていたから、すぐに迎え入れることにした。

 リリーは嬉しそうににこにこしていた。


 しかし、私の郵便受けが一杯になっているのを見たら、表情がストンと消えてしまった。

 私はリリーに教えてもらうまで、郵便受けがあることを知らなかったのだ。


「こんなものがあったんだね」


 私がひとしきり感心していると、リリーは頭をおさえていた。


 紙束もとい手紙を一通一通、リリーと二人で仕分けする。

 しばらく、無言で仕分けしていたが、リリーの悲鳴で私は顔を上げた。

 リリーの顔は青を通り越して、紙のように白くなっている。


「ク、クレア。とてもまずいわ」

「本当だ。その手紙だけ、質が違うね」

「違うのよ。いえ、違わないのだけれど。とにかくこの手紙が最優先よ」


 私の手から、ほかの手紙を奪い取ると、リリーは私に一通の豪奢な手紙を渡してきた。

 私はその手紙を受け取り、差出人を見る。


「あら。エメリーンさまからだ」


 エメリーンには何も言えずにお仕事に行ってしまったので、気にはなっていたのだ。

 しかし、この立派な手紙の封を開けるには、いつものやり方は、流石にまずい気がする。

 チラリとリリーに目線を投げると、がっつり目が合った。


「リリー、いつもみたいに封を開けたらダメよね?」

「……今までのように開けようと思っているなら、ダメね」

「そうだよね。でもどうやって開けたら良いんだろう」

「ペーパーナイフはないの?」

「ぺーぱーないふ?」

「そうよねぇ。その反応になるわよねぇ」


 リリーが重いため息を吐いている。

 手紙はまだ山とあるし、でも王女さまの手紙を後回しにするのはいただけない。

 ふたりで、ペーパーナイフ以外で開ける方法を、アレコレと考えていたときだ。


 ドアのベルが鳴った。


 私はリリーに断りを入れてから、玄関に繋がる通話口に声をかけた。


「はい。どちらさま?」

「ごきげんよう、クレアさん。エメリーンよ」


 リリーと顔を見合わせた。

 とりあえず、王女さまであるエメリーンを迎えることにした。


 玄関に居たのは、前見たときとは違うキラキラしい格好のエメリーンだった。


「エメリーンさま、ごきげんよう。今ちょうど、手紙が届いていることに気付いたところなんです。良ければ、上がられませんか?」

「手紙の返事が遅いから、来てみれば案の定ね。お邪魔しますわ」


 流石、エメリーン。ただの家にあがるときも所作が美しい。

 私は思わず、感嘆のため息を吐いた。


「リリー。エメリーンさまがいらっしゃった」


 私がリリーに声をかけると、手紙の山を崩してしまいながらも、リリーは立ち上がった。

 リリーはエメリーンの姿を見ると、淑女の礼をした。エメリーンは私をチラリと見たあと、リリーに声をかけた。


「顔を上げなさい。あなたが癒やしの使い手と名高い、リリー・エンバークね。会えて嬉しいわ」

「ありがとうございます」


 リリーは綺麗な姿勢でからだを起こした。それでも、目線は少し下へむけたままである。

 エメリーンは満足そうにリリーを見やったあと、私に言った。


「ところで、クレアさん。あなた、郵便屋さんでも開くおつもり?」

「さっきまで、郵便受けを知らなくて」


 私が頭をかきながら、そう答えると、エメリーンはため息を吐いた。


「また言葉遣いが元に戻ってましてよ。でも、まあ、今は王宮にいるわけではないし、わたくしも町娘のつもりですの。見逃してあげますわ」

「ありがとうございます」

「手紙は開けられてないようだけれど、問題は無いですわ。あなたと個人的なお茶会をするつもりで来ましたの。行きますわよ。もちろん、リリーさんも一緒に」


 こうして、エメリーンの鶴の一声で、リリーと私は王都でも三本の指に入る高級喫茶店を訪れることになったのだ。

 いつの間にか、エメリーンの侍女がふたりほど付いてきていて、その身のこなしの美しさと、気配のなさに、見習いたいと思った。


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