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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第3章:甘いひととき、選択のとき
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第21話:楽しく踊ろう

 拍手の先を見ると、エイダンが立っていた。


「上達したね。相当、練習したでしょう?」


 私は頭を下げるにとどめる。

 エイダンが寂しそうに笑った。


「僕はきみのためなら、いつでも時間を作るのに。クレアはそんなにイヤなの?」


 私は、エイダンの告白から、ずいぶんと頭を悩ませていた。


 勝手なことをされるのはイヤだった。

 でも、大切にされるのは、嬉しかった。


 けれど。

 このイヤと、嬉しいについて考えると、いかにエイダンの好意の上に、だらしなく寝そべっているかに、気付いてしまったのだ。


 好意に対しては、好意で返したい。

 自分だけの損得だけでは、動きたくない。


 だから、最近エイダンに対して、どう接したら良いのか、分からなくなっていた。

 このダンスの練習だってそうだ。

 私はエイダンの好意を利用して、ダンスを学ぶ。

 それなのに、私はエイダンに、好意を返せない。

 そんな私自身が許せなくて、こっそりひとりで練習していたのだ。


 エイダンが軽く笑う声がした。


「っふふ。いじめすぎたね。もっと気軽に僕を頼って良いんだよ?」

「でも、私は好きを返せません」

「気にすることないよ。僕は大好きなクレアとダンスを踊れる。クレアは、相手が僕で不本意かもしれないけれど、ダンスを学べる。一緒だよ」


 エイダンが私の前で膝をつき、手を伸ばしてきた。

 以前のように、安易に手を触れてくることはなくなった。


「翡翠の美しいひと。僕と一曲、ダンスを踊ってくださいませんか?」


 けれど、今までとは違って、好意を表わすことに戸惑わなくなったエイダンは、不思議と私をひきつけた。

 早々に私は白旗を揚げることにした。


「はい。お願いします」


 そうして、この日初めて、私は私の、エイダンはエイダンの、それぞれの振り付けで踊った。

 結果は。


「ごめんなさい。足踏みました。あ、また! すみません……」

「気にしない、気にしな~い」


 足は踏む。手はぶつける。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 そんな私なのに、エイダンはすごく楽しそうだ。


「クレア、笑って」

「え?」

「ダンスは楽しんでみせたほうが良いんだよ」

「だけど」

「楽しくない?」

「そうじゃなくて」

「じゃあ、笑おう!」

「きゃっ」


 いきなりエイダンに、ギュッとからだを引き寄せられて、私のからだをクルッと回された。

 少し驚いたのと、面白かったのとで、口元に笑みが浮かぶのが、私自身でも分かった。


「そう、その調子」


 そうして、何度も足を踏み、手をぶつけたけれど。

 最後はエイダンも、私も笑って踊り終えた。


「楽しかったかい?」

「はい!」


 素直に、楽しかったことを伝えた。


「あんなギュンッてしてのクルッてするところもあるんですね」

「気に入った?」

「はい! あ……」

「気にしないの。そっか、あれが楽しかったのか。なら、今度はクルクルッてするダンスを教えるよ」


 エイダンはにこにこと、とても楽しそうに笑って、そう言ってくれた。


 次の日も。その次の日も。

 私は特にエイダンにダンスの練習のことを伝えなかったけれど、私が練習していると、フラッとエイダンが現れるようになった。


 そうして、新しいダンスを教えてくれたり、今までの復習をしたりと、助けてくれた。

 楽しかった。

 私はエイダンの好意に、好意を返さない状態に慣れてしまった頃のこと。



 その日、久しぶりにひとりで残業であった。

 目眩がする。と思ったまでは、確かに人間の手であり、腕であり、からだだった。


 まばたきをすると、机の高さがおかしい。

 机がまるで巨人用のもののように大きい。

 見上げなければならない。


 紙がフワリと落ちてきた。私の何倍もの大きさである。

 私は慌てて避けた。


 おかしい。

 歩くではなくて、ぴょんぴょんと跳ねなければならない。

 

 手を見ると。水かきが!


「けろ!」


 なんてこと! と叫んだのに、まさかの鳴き声。

 私がぴょんぴょんしていると、誰かがやってくる音が聞こえた。


 どうしよう? どうしよう!


 私は相変わらず、良い案が浮かばず、ぴょんぴょんするしかできない。


「あれ? 今日はクレアが残業だって聞いていたのだけれど……。いないな」


 エイダンの声である。


「でも、彼女が灯りをつけたまま帰るなんてないし……」


 音が近付いてくる。

 ひぃい、見つかりたくない!


「けろけろ……」


 なんてこと! この大変なときに、鳴くだなんて!

 慌てふためき、またぴょんぴょんしてしまった。


「おや?」


 エイダンの足が、私の目の前で止まる。

 そりゃあ、そうだ。カエルがぴょんぴょんしているんだもの!

 私は逃げるべきか悩んだ。

 その悩んだ時間が命取りであった。


「これはまた……。美しい色のカエルさんだ」


 エイダンはカエルになった私をすくい上げた。

 掴まれているわけではないから、逃げられるのだけれど。

 この高さから落ちて、下は水じゃないのに、生き残れる……?

 私は血の気が引いた。


「くわっくわっ」

「きみは、どこから迷い込んだんだい?」


 混乱して鳴いてぴょんぴょんするしかない私に、エイダンは優しく問いかけてきた。


 優しい、だと?


 私はエイダンを見た。

 エイダンの顔は嫌悪ではなく、頬を染めうっとりしている。

 私は身の危険を感じた。何故かは分からない。

 だが、このままだと、とんでもなくまずい。


 私はエイダンの手から飛び降りるべく、よいしょよいしょと手の上を小さくぴょんぴょんした。

 けれど、エイダンは手の隙間を閉じてしまった。


「きみは、僕の好きな子にそっくりだ。どこから来たの? ああ、待って。その翡翠のからだ、本当に美しい。クレアの髪色にそっくりで。顔もカエルの中では整ってるねぇ」


 そのまま、エイダンは「かわいい。かわいい」と連呼している。

 私はエイダンの頭が強打されたか、何かあったのかと心配になった。


「そうだ! 僕の部屋へおいで。前は整えてあげられなかったけれど、今じゃあ、水も土も研究してあるんだ」


 そう言って、エイダンは私を手で囲って連れて行こうとしたので、私は思いっきり飛び跳ねて、エイダンに頭突きした。


「いっった……」

「けろ! ありえない!」


 私は、エイダンのほうを見向きもしないで、その場を走り去った。

 家に着いたとき。ようやく、人間の身体に戻っていることに気付いたのだった。


 次の日、何故かエイダンは、ずっと上の空だった。

 右のほっぺには大きな布を貼っている。

 ……私の頭突き、強かったかな?

 少し不安になった。


 お昼時にエイダンに声をかけることにして、お仕事に集中した。

 あの告白をされてから、私からエイダンに声をかけるのは、今回が初めてだというのは、声をかけて、エイダンの目が丸くなったのを見たときに、思い出した。

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