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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
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第20話:告白

「エイダンさま。今日は、私、一日中寝ているつもりだったのです」

「う、うん」

「それをですね。あなたは散歩にと言って、実際に連れて行ったのはドレスのお店だったでしょう?」

「そうだな」

「なんで、そこで誇らしげな顔になるんです? わけ分からないのですよ。エイダンさまは魔法使いの根城に出仕しているひとたち、全員に、何かを贈っているのですか?」


 私が少女の前だと言うことを脇に置いて、エイダンに尋ねる。

 何故だか今聞かないと、このひとは、なんのかんの言って教えてくれないように感じた。


「お菓子ならたまに」

「そのお菓子も、ドレスのような高いものなんですか?」

「そんなわけ!」

「じゃあ、どうして上司と部下の関係だけの私に高価なものを贈るんですか? 度が過ぎています」

「そ、それは……」


 押し黙るエイダンである。

 それまで私たちの話を見守っていた少女は、思い切り伸びをした。


「あーあ……。こんなくだらないおとこ、はやくみきったほうがいいわ。えいゆうさんのじかんがもったいない」


 エイダンは一瞬こわい顔になるも、少女は言い切った。


「えいゆうさんのじかんはゆうげんなの。あんたみたいな、どっちつかずにふりまわされたらかわいそう」


 少女は私に向き直ると、頭をそっとなでてくれた。

 ちいさな子に頭をなでられるとは、少し複雑ではあった。


「えいゆうさん。イヤになったらにげるのよ?」


 そう言って、少女は去って行った。


「年端もいかない少女にアレコレ言われるのは納得いかないが……。クレア、改めて少し時間をくれないか? 伝えたいことがあるんだ」


 エイダンは私にボソリと言葉を落とした。少し声が震えていたように思う。

 私も、消化不良だったので、少しだけ付き合うことにした。

 歩いて五分ほどの場所に、レストラン・モーニモーニがあったので、そこでごはんを食べながら話すこととなった。


 モーニモーニのイチコンの実の料理は、相も変わらず、美味しかった。

 一通り食べ終えて、お腹が落ち着いてきた頃。


「きみは僕のことをどう思っているんだい?」

「え……? 仕事の鬼で上司」

「それもあるだろうけれど、その、看病とかもしたじゃないか」

「ああ、面倒見の良いひと。というより、急に近付いてきたこわいひとですね」

「こ、こわい?」

「そうですよ。だって、好きでもないひとに、自分の領域を荒らされて平気なひとっていますか?」

「そう、だったんだ……」


 エイダンがお腹の痛そうな顔で聞いてくるから、どんな重たい話かと思えば。


「エイダンさま。とあるかたに教えてもらったんです」

「なにを?」

「私はエイダンさまの都合の良いひとなんだと。なんでしたっけ……、肉欲? だかなんだかを満たすだけの存在になっているって」

「そんなことはない!」

「でも、私、確かにエイダンさまから、好きだとか愛しているだとか、そう言う言葉を聞いていないんです。だから、ひととの距離というのは、私の知らない間にすごく近いものになっていたんだなと思ったんですよね。そしたら、先日、別のかたからも先ほどのかたと同じようなことを言われました」


 私がとあるかたがた――エメリーンとリリーに教えてもらったこととを、ほとんどそのまま伝えたら、エイダンは絶句してしまわれた。

 しばらく、エイダンの顔は紙よりも白い状態が続く。


「ま、ず。クレア。僕は、僕はきみのことが大事だ」

「そうおっしゃってましたね」

「じゃあ、わかるだろう?」

「エイダンさまの大事というのは、大事な部下ってことですよね。というのは分かっても、過剰な接触やものをいただくことは、私としては理解に苦しみます」


 エイダンはギリギリと歯を鳴らした。


「どうして分からない?」

「どこで分かれと?」

「こんなにも、僕はきみを愛しているというのに!」

「はじめてですね」

「今までの流れで分かるだろう?」


 顔を赤くして怒り始めたエイダンに私は言った。


「分かりませんよ。ひとの好き嫌いの度合いなんて」


 思ったよりも冷えた声が私の口からこぼれた。


「そもそも、ひとというのは勝手です。相手の気持ちを知っているだなんて、一番図々しい。大事だなんだと言っていても、周りからどんだけ保証がつけられたとしても、当の大事だと言っていた本人は愛してはいなかった。そんなこともあるんですから」

「僕は愛している。それはきみもだろう?」

「エイダンさまが私を愛されておられるのは理解しましたが、私はエイダンさまを愛してはいませんよ」


 エイダンが固まった。


「でも、だって、抱きしめても、髪をなでても、許してくれてたじゃないか」

「それは最初に言ったとおり、こわいひとだったのもあったんですよ。それから距離が異様に近いひとだと思っていました」


 震えるエイダンに私は事実を突きつける。


「私はエイダンさまを愛していません。愛する予定もありません。だから、今後は普通の部下に対する行動をお願いします」


 私はエイダンをひたと見据えた。エイダンののどがゴクリと動く。


「それは、できない」

「は?」


 私の言葉が聞こえていなかったのだろうか。この頭お花畑。


「ひとを愛すも愛さないも、自分で決めることだ。だから、クレアが僕を愛さなくてもいい。でも、僕がクレア、きみを愛すのも自由なはずだ」


 そう言われてしまえば、そうかもしれない。

 だけれど、愛されないのに愛し続けるって、人間って暇なんだな。

 カエルとして生きてきた時間が長い分、どうしても分からない部分はあるけれど。


「クレア、僕はきみを愛している。これは変わらない。できれば、きみにも僕を好きになってほしい。……好きになってもらえるように、努力するよ。だから、逃げないでほしい」


 エイダンは、静かにそう言った。

 いままでは浮かれてびゅんびゅん飛ばしていたエイダンだったけれど。

 この日を境に、エイダンは節度を守った行動をしてくれるようになった。


 私はエイダンに愛されていることを知ったわけで。

 私だって、ひとの好意を踏みにじることは良しとは思えない。

 だから、ダンスの練習もひっそりと行うようになった。


 ある日の仕事終わり。

 最初にダンスを教わった場所で、練習していた。

 一通り、踊れるようになれたな、と安堵のため息を吐いたときだ。

 拍手が聞こえた。

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