表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
19/33

第19話:意思疎通はご利用前に

 私が想定外の話の流れに困惑している間に、着々とエイダンとマダム、それからキラキラおにいさんの三人での話し合いは進められていた。


「僕としては、社交用のドレスはもちろん、普段着もお願いしたいんです」

「ええ、ええ。それがようございます。見たところ、一着を大切に着てしまわれるお嬢さんのようですから」

「原石ちゃんを見たら、枯れてた創作意欲がわいてきたよ。んふふ。おにいさんも、楽しみにしていて良いよ。フィダー・リーの腕が鳴ったドレスや普段着を作ってあげるから」

「クレア、彼女は色が白いので、暗い色は似合わないように感じるのですが?」

「そうですわねぇ……」

「いやぁ? そうとも限らない。こんな綺麗な髪の毛と肌の白さなんだ、白っぽい色のほうが逆にぼんやりさせてしまうよ」


 私の意見なんて、イチコンの実のヘタの部分ほど要らないとは思いつつ。

 着るのは、私なのである。エイダンではないのである。


「あのっ!」

「どうした? 原石ちゃん」

「私は今の服が気に入っています! なので、要らないです!」


 エイダンは悲しそうに眉毛をハの字にした。

 マダムとキラキラおにいさんは顔を見合わせてしまった。

 マダムだけが、ずずいと私の耳元に顔を近づけてきた。

 とても良い香りがする……。って、そうじゃない!


「お嬢さん。殿方が贈りたいと言っているときは甘えることがマナーですのよ」

「で、でも。着れなきゃもったいないじゃないですか」


 マダムは優しく囁いてくるが、私も譲れない。

 ――だって、こんなボロボロな姿の私が、高級なものを身につけたら笑われてしまう。


 私の必死が伝わったのだろう。

 マダムも、あごに手を当て、改めて考えているようだ。

 マダムの後ろからキラキラおにいさんがニョキッと現れた。

 私の心臓に悪い。


「今は髪の毛が芸術のようにボサボサだけど、その美しさは整えたら、光るよ~。ボクに原石ちゃんを宝石にする栄誉を与えてはくれないかな?」

「ひとは宝石になれないと思うのです……」

「おっと、これは失礼したね。でも、彼は原石ちゃんを磨いて周りに見せびらかしたいようだけれど?」


 私はおにいさんの言葉の意味が分からず、しかめっ面が酷くなった気がする。

 おにいさんはマダムの向こうにいるエイダンに声をかけた。


「おにいさんはどう思っているんだい?」

「え。言わなきゃダメですか? いっった」


 そんなエイダンの足を容赦なく、マダムの鋭い靴が踏み抜いたようである。

 エイダンは涙目になりながらも、言葉を紡いだ。


「僕は、クレアが夜会に出たとき、胸を張れるようなドレスを贈りたいと思っているんだ」

「分かりません。そのドレスを手配するのは私がすべきことで、どうして上司であるエイダンさまが、心配なさるのですか?」


 私の言葉に、マダムもキラキラおにいさんも、何かを察したようで、エイダンに鋭い目線を向け始めた。

 赤くなって、なかなか答えないエイダンに、キラキラおにいさんはため息とともに、告げた。


「ん~。今日はダメだね」

「な、なんでですか!」

「だって、きみ。原石ちゃんに想いが伝わってないじゃないか」

「そんなことは……」

「無理強いなさる殿方は、嫌われますのよ」


 マダムも、先ほどまでと打って変わった強い口調でエイダンに言う。

 キラキラおにいさんはやれやれと肩をすくめて、エイダンに冷たい視線を投げていた。


「想いが通じ合ったらおいで。ボクらは、楽しみに待っているから。お店は逃げない。原石ちゃんの気持ちを大切にしてあげて」


 そうして、マダムとキラキラおにいさんにエイダンは押し切られ、お店をあとにすることになった。



 しばらく、エイダンは無言だった。

 私はほんの少し、悪いことをしてしまった気もしたけれど。

 身の丈に合わない贈り物をされて困るのは私のほうである。

 だから、間違っていない。うん。


 それにしても、何故エイダンは黙っているのだろう?

 怒りたいなら怒れば良いし、ほかに言いたいことがあるなら言えば良いのに。

 モヤモヤした気持ちを私は抱えながら、エイダンの後ろを歩く。

 ひとでかなり賑わっていて、気を抜いたら、はぐれてしまいそうだ。


「あ。えいゆうさん!」


 いつぞやかの黒髪の少女が、道の脇に置いてある花壇のところにいた。

 私は先に行ってしまいそうなエイダンに声をかけてから、少女のほうへ足を向けた。


「エイダンさま、ちょっと知り合いと話してきます」


 エイダンの返事は気にしない。だって、意味が分からないのだもの。

 外の天気が良いから散歩するはずが、ドレスを仕立てるお店に連れて行くとか。

 それでもって、何か言いたげなのに、言わない。

 ひとの心なんて、教えてくれなきゃ分からないのに。


 私は、少女のもとまで行くと、膝をついて視線を合わせた。


「この間は、アメ玉をありがとう。美味しかったよ」

「それはよかった。あのアメ、あたしのとくせいなのよ」

「そうなんだ! 大事なアメだったんじゃない?」

「んーん! えいゆうさんにあげるために作ったアメ玉だからいいの」

「そかぁ、ありがとうね」


 私が少女にお礼を言って、それからほかにも喋っていると、後ろから不機嫌なエイダンの声がした。


「僕のほうが先だったのに、放っておくのか」


 これに反応したのは少女である。


「あら。えいゆうさんは、ちゃんとあたしとしゃべることを、あんたにいってたわ」

「君に喋りかけたわけじゃないのだけれど」

「えいゆうさんがこまったおかおしているもの。さてはあんた、えいゆうさんがやさしいのをいいことに、むりをいってるんじゃないの?」

「そ、そんなことはない……」

「ねえ、えいゆうさん。そんなひと、ほうっておいて、あたしとあそびましょう?」

「いや、クレアは僕と今日を過ごすことにしているんだ」


 少女とエイダンの言い争いは、だんだん熱が上がっていく。

 私は、少女が割とハッキリ、エイダンに物申しているのをみて、見習おうと思った。

 少女にこれ以上エイダンのことを任せておくのは違うとも思った。

 頃合いを見つけて、エイダンに声をかけた。

ブックマーク追加で今後も応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ