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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
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第16話:大事なひと

「僕、夜は危ないから明日にしようっていう話をしたと思うんだけれど」

「それは、えっと……。聞きました」

「分かっていて、外出したの?」


 エイダンが怒っている。

 私には、何故エイダンが怒っているのか分からない。


 皆で結界術の張り直しをすると言えど、結局は私がやるしかないこと。

 エイダンは監理のため、ジョニーは結界術の構築を魔道具で代用できないかの研究のため、リリーは万が一危険があった場合に備えてである。

 だったら、明日また皆で出向かず、今日私が行ってこれば効率的だと思ったのだ。

 私は褒められこそすれ、怒られるのは納得がいかない。


 いつもだったなら、私はすぐに謝ったことだろう。

 ――けれど、今日は魔女のこともあり、気持ちが不安定に揺れていた。


 人間で居られる時間がもう少ない、と知ってしまったのだ。

 一番、仲の良いと思っていたリリーですら、動物が人間に化けているのを気味悪がっていた。


 もし、私が今日動かず、明日皆の前でカエルになってしまったら?

 考えただけでもゾッとする。

 やらずの後悔は、絶対にイヤだった。


 私は答えず、エイダンを睨んだ。

 エイダンは眉根を寄せて、ため息を吐いた。


「きみは英雄と呼ばれるほどに優秀なことは知ってる。でも、心配なんだ」

「言ってることがおかしいですよ」

「そうだね。……でもね、クレア」


 気付いた時には、私は壁際に追い込まれていた。

 私が離れようとしたとき、エイダンの腕が行く手を遮った。

 行く手の反対側にも、もう片方の腕が置かれる。


 私はエイダンの顔を見上げた。

 エイダンの顔は、薄暗がりの廊下だったこと、さらには逆光でよく見えない。

 私が文句を言うより先に、エイダンの声が私の耳に届くほうが早かった。


「きみは、僕にとって大事な女の子なんだ」


 だいじなおんなのこ? 誰が? 私が?

 混乱する私をよそに、エイダンはさらに言葉を繋ぐ。


「無茶しないでほしい。大事なきみが怪我や事故に巻き込まれたらと、考えるだけでも僕は気が狂いそうだ」


 私が耳にしている言葉は、本当にエイダンがこころから思っていることだろうか?

 そう疑っていたけれど。エイダンから水滴が降ってきた。


「泣いて、る……?」

「僕だって泣くさ」

「なんで?」

「そりゃあ……。分かってよ。僕はクレアが大事なんだってこと」


 私は明日槍が降ってもおかしくないし、異常気象になるだろうと思った。

 けれど、不思議なことに、怒られて腹を立てていたことが、何故だか嬉しさに変わっていた。私は自分の感情が変化していることに、驚きすぎてうつむいた。


「……さて。夜も遅い。ちゃんと寝るんだよ? 布団から両腕を出して寝ないように」


 エイダンは私の頭をなでると、私を部屋の中へと追いやった。

 私の髪の一房をすくい上げ、そこに唇を落とした。


「おやすみ」

「お、おやすみなさい」


 もう一度、エイダンは私の頭をなでると、部屋のドアを閉めたのだった。

 私は、その場にズルズルと座り込んだ。


 頭がまだ混乱している。

 それなのに。


「見ぃ~ちゃった! ねぇ、クレアったらいつの間に、エイダンさまとあんな仲になっていたのよぅ」


 耳元でリリーの声がして、私の肩が跳ねた。


「リリー……。疲れて寝ていたんじゃないの?」

「疲れが吹っ飛ぶような美味しい出来事が、目の前で起きていたのよね。悠長に寝ていたなんて。わたし、自分を呪うわ」

「いやいや。しっかり寝てよ?」


 私があくびをかみ殺すと、リリーは黙った。

 このあとの嵐を予感させる静けさである。


 私は慌てて、ベッドに登り、布団を被る。リリーもうしろに続く。


「おやすみなさい」

「ええ~。待ってよ、クレア。美味しいはなしが聞きたーい!」


 不満の声を上げるリリーをよそに、私は眠りに落ちた。


 夢のなかで、また私は結界術の前にいた。

 どうやら立ち止まっているようだ。

 結界術は完璧なはず。

 それなのに。


 無数の手が私にむかって伸びてくる。

 幾つかは結界術に跳ね返され、消えていった。


 四対の腕は、いまだ私を手招いている。

 こわくなって、私はないた。


 すると、いつぞやかの魔女が映し出された。


「あんたがカエルじゃなくなる魔法を発明したのよ。別にあんたのためじゃないわ。勘違いしないでちょうだい」


 魔女の顔は少し赤く染まっていた。

 それからだ。ほかの仲間たちが「クレアは魔女に愛されている」なんて、言い出したのは。


 次に映されたのは、出会った頃のリリー。


「ふ~ん? 英雄なのに。なぁんにも知らないのね。でも、そうね。最初にわたしへ声をかけてきたのは、見る目があるじゃない。わたしが教えてあげるわ」


 リリーはそっぽ向いたけれど。

 それが照れ隠しだってことを、今の私は知っている。ちょっと嬉しくなって笑みこぼれた。


「クレアさん。あなた、利用されてませんこと? イヤならイヤと、ちゃんと言わなきゃダメですわ。いざというときは、わたくしの名前を伝えなさい。ええ。でも、安易なことで使ってはいけませんのよ?」


 妖精のようなエメリーン。口がへの字になっている。けれど、彼女も私のことを思って、いろいろなことを教えてくれる。ふわふわした良い気持ちである。

 そこへ割り込むようにエイダンが現れた。


「クレア、きみは大事な女の子なんだ」


 エイダンは私の頭をなで、髪に唇を落とす。

 昔、この国にやってきたばかりの頃、図書館で読んだ絵本を思い出す。

 けれど、どのお話しも、王子の相手はお姫様だった。カエルじゃない。


 再び、魔女が現れる。


「あんたはカエルなの。使い魔として優秀だけれど、それだけよ」


 夢の中なのに、息が苦しくなった。

 今日だけは。今日だけは、静かにそっとしておいてほしかった。


 私が目を覚ますと、外は朝だった。

 リリーは起きていて、私に笑いかけた。私はヘビに捕まるような、そんな恐怖を感じた。


「今日は、いろいろお話ししましょうね?」


 リリーの言葉にコクコクと頷くしかできなかった。

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