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けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
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第15話:忠告と祈り

 私は感知魔法を展開。


「敵は、左前方に七人。後ろからも複数名。囲まれています!」


 リリーは私のローブの中で「クレア、出しなさい!」と暴れている。

 出してあげたいのは山々なのだが、リリーが得意とするのは、治癒魔法である。戦闘では後方支援が主だ。万が一、誰かが傷ついてしまったときに、リリーが動けないでは困る。


「ごめんね、リリー。すぐ片付けるから。待ってて」


 私が静かにリリーに言うと、沈黙が返ってきた。

 リリーが納得している様子ではないが、私は敵のほうへと視線を走らせる。


 ジョニーは二丁の魔銃を無造作に構えていた。収納魔法で持ってきていたようだ。

 エイダンは長剣をスラリと腰から抜く。


「僕は前を相手にしよう。ジョニーは後ろを。クレアはいつものように」

「御意」

「わかりました」


 そうこうしているうちに、前方からは大きなくまのような男たちがやってくる。後方からも同じように。

 私たちが少人数だからか、それとも地の利が男たちにあるからなのか。相手の男たちは、ニヤニヤと笑っている。


 私は静かに音を紡ぐ。それは言葉にしない魔法。

 エイダンには筋力強化と防御の鎧を。

 ジョニーには視力強化と魔弾の補充を。

 リリーと私には相手から見えにくくする幻惑魔法を。


 そして、男たちには五感異常を起こす音を届ける。すべては、エイダンとジョニーが戦いやすくするため。


 エイダンの、まるで踊るように美しい攻撃が始まった。ジョニーも、二丁魔銃を巧みに操り、相手を次々と戦闘不能にしていく。


 少し見惚れていたが、私の感知魔法に何かが引っかかった。

 右側からである。

 見えない。でも。この感じは、絶対に間違えない。

 魔女だ!


 私はエイダンにジョニーに、男たちに、意図せず言霊を贈った。


「伏せて!」


 言葉とほぼ同時に、右側から衝撃波が来た。

 木々は倒れ、衝撃に乗った枝や小石が飛んでくる。

 辺り一面、砂煙に覆われた。



 視界が晴れたとき、私は魔女と向き合っていた。

 ほかのものは、居ない。まるで、拾われた時を思い出させる、静かな白い場所だった。


「久しいわね。クレア」

「お久しぶりです」


 魔女は変わらず、美しかった。

 艶やかな黒髪も、イチコンの実のように赤い唇も、白く抜けるような肌も。


「今日はそんなに時間が無いから、短く言うわ。そろそろ、あんたにかけた魔法は解ける。無様なカエルの姿を晒したくなかったら、早く帰ってくるのね」


 魔女は私の返事を待つことなく、陽炎のように消えていった。

 私が目を瞬かせると、戦っていた場所にいた。


 ひとが傷つき、倒れている。男たちはもちろん、エイダンもジョニーも。

 唯一、私のローブに包まれていたリリーは気絶してはいるが、無事だった。

 リリーを土の上に横たえた。


「リリー。ごめん。起きて。助けて」

「ん……」


 私がリリーを揺さぶると、リリーはうっすらと目を開いた。

 少しぼんやりしているようだ。


「リリー、助けて」


 私はもう一度強く、リリーを揺さぶった。

 リリーは私の顔を見て、困ったように笑った。


「そんな泣かないの。英雄さん」

「な、泣いてなんか、なんかない。ないもん」

「そっか~。でも任せて。治癒師のわたしがいるのだもの。助かるわ」

「ありがとう」


 リリーは私のほっぺをむぎゅむぎゅと揉んだあと、起き上がった。


「……あらまぁ。これはすごいわね。クレアちゃんが泣いちゃうのも無理ないわ」


 そうぼやいたあと、リリーは広域治癒の魔法を発動させた。

 エイダン、ジョニーの傷が癒えていく。


 だが、あの男たちは、姿が変わっていくではないか。

 あるものは熊に。あるものは猿に。

 彼らが目を覚まし、自身の姿が変わっていることに気付くと、悲鳴を上げ一目散に去って行った。


「な、なんだったのかしら」


 リリーは気味の悪いものを見てしまったと、ぼやいた。

 私は、彼らが魔女の使い魔であることに気付いた。気付いてしまった。


 ジョニーは割と早くに起き上がれるようになった。

 しかし、エイダンが起きられるようになる頃には、あたりは暗くなりはじめていた。


「今日は近くの街に戻って、宿を取ろう。夜の暗い場所で、また攻撃をされても厄介だしな」


 そう結論をエイダンが出したことで、私たちは街に戻ったのだった。

 宿では、男女に分かれて部屋を取った。

 広域治癒の魔法を使ったリリーは、とても疲れていたようで、すぐに寝息を立てて寝てしまった。


 深夜。今日は月に一度の星あかりがない日だった。

 光のない暗い中、私は宿を抜け出した。


 戦った場所まで来ると、使い魔たちの声がまだ残っていた。


「魔女の命令に従って、邪魔をしたのに」

「ずっと人間でいられるという話だったのに」

「あんなに強いだなんて聞いてない」


 耳を澄ますと、そんな声が強く強く残っていた。

 どの声も恨み、怒りに満ちていた。

 私は自分のことでもないのに、胸が痛かった。


 しばらく歩くと、結界術が見えてきた。

 私は、息を吸って静かに詩を紡ぐ。


 誰もが傷つかないように。

 平和を維持できるように。


 前とは違って、祈りを込めた詩だった。

 うたいおわり、私はその場に座り込んだ。

 さすがに、昨日まで寝たきりだった上に、久しぶりの緊張ある場に出くわしたこと、魔女のこと。たくさんのことが重なり、足に力が入らなくなっていた。

 でも、なんだかとてもやりきり、満足していた。


 しばらくして。

 足に力が入り、歩けるようになった。

 ゆっくりと歩いて、宿へと戻った。

 借りた部屋の前に、エイダンがいた。

お待たせしてしまいました。

少し体調崩してました……。

ごはんと睡眠と運動を大切に!

健康でいましょう。


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