表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けろけろ使い魔は、王子さまに溺愛されています  作者: 望森ゆき
第2章:ひみつと想いあい
11/33

第11話:私のひみつ

 私の意識が浮上しはじめる。

 私は自分の家の匂いがしないことに気付く。

 私は、花壇のところに座っていたから、……。


 私は伸びをした。腰がギューッと伸びた。

 どうやら横になっているらしい。


「うーん……」


 目をこすりながら、私は起き上がった。否、起き上がろうとして失敗した。

 無様にお布団の海を泳いだだけであった。

 すると、近くに誰かいたようで、ガタガタと椅子を鳴らす音がした。


「大丈夫か?」


 心配そうな声が耳に触れる。目の下にクマができたエイダンが、そこにはいた。大事にしていたものが、壊れていきそうな時の顔しないで。縁起でもない。

 私のよろめくからだを、エイダンは支えてくれた。


「あれ? 私、ダンスを見てもらってて……。ここは?」

「こ、ここは僕の部屋だ」


 私の聞き間違いだろうか。ボクノヘヤ。ぼくのへや。僕の部屋。

 意味が分かると同時に、私の目は見開かれたであろう。

 思わず、お腹から声が出た。


「はぁあ? 見損ないました!」

「ま、待ってくれ。誤解しないで――」

「何がですか! 私はここに来る記憶がないんです。それは、つまり……。つまり! 犯罪者のやることです!」

「違うんだ……! きみは具合が悪かったみたいで、寝ちゃったんだ。本当だ」


 しょんぼりと、涙をうっすらと瞳にためるエイダン王子殿下。

 それでもハッキリとした声で私の主張を否定する。


「本当に、違うんだ」

「信じて良いんですか?」


 私が疑いの眼差しで念を押すと、エイダンは何度も首を縦に振った。それから、私の髪をゆっくり撫でた。しみじみと言葉を落とした。


「もう、戻ってきてくれないかと思った」

「たかが眠っただけで?」

「そうだな。たかが五日ほど眠っただけだな……」

「はい?」

「そう。きみの言うとおり、僕の心配のしすぎかもしれない。五日間くらい寝るなんて誰だってある……よ、な」


 急に真面目な顔をしてエイダンが何を言い出すかと思ったら。

 まったくもって笑い事ではない。


「し、仕事は?」

「そんなものは、休みだ」


 フッと顔を暗くさせてエイダンは笑った。私は必死である。

 エイダンは知らないかもしれないが、英雄に割り振られているお仕事は、案外多いのだ。


「私の机は、嵐に見舞われてませんか? 生きていますか、私の机」

「さあ……?」

「さあ? って。私にとっては死活問題ですよ」

「五日間、眠っていたことよりも?」

「い、五日間くらいは、誰にだってありますから!」


 私は先ほどエイダンの言葉を拾って、反撃に出た。

 エイダンは少し頭をおさえたあと、キリッとした顔で何を言うかと思えば。


「きみは、しばらくここにいなさい」

「もう元気です!」


 即答する私に、エイダンも脊椎反射の勢いである。


「ダメだ。きみの姿が安定するまでは、ここから出さない」

「お仕事……!」

「きみを不安にさせるような仕事は、僕が片付けておく」


 エイダンは言い切ると、私の頭をなでた。

 まるで触ったら壊れると思っているような、そんな優しいなで方だった。


「ところで。お腹はすいていないかい?」


 私が返事をするより先に、素直なお腹がぐぅうという大きな音でもって答えていた。


 もういや……。穴掘って、永遠に眠りたい。

 私の顔は赤くなっていることだろう。


 エイダンは、目を丸くしてからクツクツと笑った。


「わかった。食事を用意させよう」

「ところで、ここは王宮のどこですか?」


 私が抱いてもおかしくない疑問には、エイダンは微笑んで答えてくれなかった。

 代わりに、私を腕の中へと囲った。


「恥ずかしいから、離してください」

「きみがいるという実感がほしいのだ。しばらくは我慢してくれ」


 私が抗議をしても、何処吹く風なエイダンである。

 私が抗議し続けるのも疲れてきた頃、部屋にコンコンという音が響いた。


「どうぞ」


 エイダンが許可を出すと、どこかで扉が開き、閉じる音がした。

 カラカラカラという音とともに、食事の乗ったワゴンがひとりでにやってきた。

 私がぽかーんと口を開けてしまっていると、エイダンはニヤリと笑った。


「きみに外に出られるきっかけを与えるわけ無いだろう」

「そ、そんな殺生な。いやいや、それより……」

「さあ、料理人が腕を振るった食事だ。舌がとろけると思うよ」


 ワゴンが数度飛び跳ねると、食器たちが踊るように机の上に並んだ。さらには、机がにょっきにょっきとベッド際まで歩いてきた。高さ調整もバッチリである。

 どう転んでも、魔法の無駄遣いである。

 とはいえ、ワゴンと食器の動きは、それはそれは見事なものであった。

 緊張していた気持ちが抜けていくのを感じた。

 エイダンが腕の中から解放してくれた。


「では、いただきます」

「どうぞ」


 エイダンは隣でとても嬉しそうにしている。

 けれども。困ったことが発覚してしまった。


「エイダン……」

「どうした?」

「ものすごく言いにくいのだけど」

「なんだ、遠慮せず言ってくれ」

「野菜がないです……。食べるものがありません」


 エイダンは数回、瞬きをした。そして、料理の乗ったお皿を見渡す。


「肉や魚があるじゃないか」

「その、諸般の事情で、お肉もお魚も食べられないんです。ごめんなさい」


 私が小さくなってそう言うと、エイダンはふむとあごをなでた。


「だから、か……。なるほど。わかった。次から野菜の料理にしよう」

「ありがとうございます」


 私はホッと息を吐いた。

 エイダンは変わらず、優しく頭をなでてくれたのだった。


 しばらくして、私はまた眠りに落ちていた。

 今度は暖かくて素敵な夢が見られそうである。

ブックマーク追加で今後も応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ