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95話 2重のバリア魔法は強すぎる

表向きには異世界勇者は死んだということにしておいた。

その方がまだ決着のついていない戦争もうまく行くし、今後ひじりが動きやすくもなる。

ただの人間としてミライエで受け入れ、元の世界に戻る方法を探って貰うつもりだ。彼女にはその方がいい。


異世界勇者死亡の発表は、ヘレナ国側に大きな影響を与えた。

士気が下がり、逃げ出す兵も後を絶たない。軍の瓦解が始まったと言って良いだろう。


もう少しだけ押してやれば完全に崩れてしまいそうだ。

「前線を押し上げる」


もちろん軍を直接押し上げるわけじゃない。


我が国自慢の1000名の精鋭たちも、相手が10万の大軍では厳しすぎる。

いくら戦意を失っているとはいえ、流石にきついだろう。


前線を押し上げるというのは、バリア魔法でやるものだ。


夜中のうちに城を出て、国境付近沿いに張ったバリア魔法から進むこと1キロ。

敵の本陣に迫り、そこにまた広大なバリア魔法を張った。

国境の川沿いに張ったバリアは残している。


敵がいくらかバリア魔法に挟まれているが、まあそれは良い。

朝、日が昇れば敵はさぞや驚くだろうな。


そして迎えた次の日、まさに開いた口が塞がらないヘレナ軍の顔をみることに成功した。

あっはははは、なんだあの顔。最高だ。

2週間は笑いに事欠かない。他人の驚いた顔ってなんであんなに面白いのか。


最初のバリア魔法と、新しく作ったバリア魔法に挟まれたヘレナ軍はどうするのかと観察していたら、どうやら全面降伏をし始めたようだ。もう少し踊ってくれても良かったものを。

捕虜にし、軍を2個目のバリア魔法まで進める。


最強戦術、第二段階の始まりだ。

敵がより近くなり、こちらの一方的な遠距離攻撃が続く。


これがダメ押しとなった。

押し上げたバリア魔法の壁はヘレナ軍の心を折るには十分だった。

そもそもヘレナがこの戦いに打って出たのは、異世界勇者がいたからであって、その異世界勇者が死に(俺が流した偽情報)、絶対に壊れないバリア魔法が一晩で新しく誕生した。

これは絶望するには十分すぎる。


勝ち目がないと悟っても無理はない。

悪いな、また勝っちゃいました。てへっ。


「シールド様、ヘレナ国側から停戦要請が来ております」

「停戦?降伏の間違いだろ?」

まあ向こうにもプライドはあるのだろう。

降伏という単語を使いたくないのも分かる。そこは許してやるか。


しかし、交渉内容は譲歩するつもりはない。

なにせこちらは戦いたくもなかったのにこんな地まで引きずり出され、異世界勇者と命を懸けて戦ったんだ。

代償は大きいと思え。


それに軍費がすんごいことになってんだぞ!

あの悪徳姉妹からすんごい借金してんだぞ!

ぷんぷん。俺はオコなのである。


停戦協定の席に来たのは、総大将のカラサリスだった。

ヘレナ軍の総大将が来るのは当然だが、逃げ出さなかったのは褒めてやろう。


国境付近に臨時で立てた天幕でカラサリスと相まみえる。

およそ2年ぶり程か。

俺を追放したあの日以来の再開だった。


「よう、カラサリス」

「……シールド・レイアレス」

苦々しい表情で俺のことを睨みつけても事態は良くならないぞ。

先行き不透明な人生なるだろうが、今くらい楽しんでいけ。

と高みからの見物。かっかかかか、最高だ。


俺を追放したやつが今地獄みたいな人生を歩んでいることが最高でたまらない。

今にも爆笑しそうなほど俺は気分が良い。


「茶でも飲むか?うまいのがあるぞ」

「ふざけるのは辞めにしてくれ」

「随分とやつれたな」

「心配しているふりをしているのもやめろ」


バレたか。カラサリスとはもともと仲が良いわけではない。ゲーマグほど関係が濃くもなかったので、露骨に対立しあうこともなかったが、関係性は良好ではなかった。

俺が国王に何か進言するたびに反対されていたくらいだった。……普通に仲悪いな。なんかいろいろないがしろにされていた過去を思い出してきた。まあ、それも過去のことだ。


心配している訳ではないが、カラサリスは実際かなりやつれていた。

心身ともに疲弊しているように思う。


「じゃあ本題に入ろうか。このくだらない戦争を終わらせよう」

「……そのつもりだ」

「土地を寄こせ、カラサリス」

本題ってのはこうやって入るんだ。

欲しいものをすぐに伝える。にっこりと。


「あまり無理を言うな。もっと違うものを――」

「土地を寄こせ、カラサリス」

悪いが主導権はこちらにある。もう一度にっこりと伝えておいた。

俺がにっこりしているときってのは、そういうことだよ?国内の人なら知ってるんだけどなぁ。


停戦協定だが、これは実質的にはこちらの完勝で、ヘレナ国の完敗だ。

悪いが、これでも譲歩しているつもりだ。


「交渉決裂なら、我が軍の攻撃は続く」

そんなつもりはないが、もちろん交渉の席では存分に我が軍の脅威を使わせて貰う。

「バハムートもアザゼルも、エルフと魔族の大軍がまだ控えている。ヘレナ国への侵略も考えている」

「くそっ。……欲しい土地はどこだ?」

来ました!

交渉がうまく行きそうです。


そうだな。どこが欲しいかってなると、難しい。

しばらく考えていると、カラサリスから提案があった。


「アルザス地方。俺の権限で渡せるのはそのくらいだ」

ヘレナ国の東の土地だ。

ドラゴンの森と接しており、ドラゴンの脅威もあり最も発展していない土地だ。ヘレナ一の田舎と言ってもいい。

俺が追放されたときに飛ばされた土地でもある。


少し考える。

アルザス地方は広いが、交易路が死んでいる。

ヘレナ国は西の海岸沿いに発展しており、南のミナントとの国境、北のイリアスとの国境付近も発展している。


東のアルザス地方に価値などなさそうだが、悪くない気がしてきた。

広い土地が欲しかったんだ。それも大陸のど真ん中に近い土地。

これは面白いことになるかもしれない。


「それで手を打ってやってもいいが、お前の処罰はまた別だ」

「煮るなり焼くなりするが良い」

覚悟は決まっている訳か。

少し脅してやっただけで、実はそんなことをするつもりはない。


これで俺とカラサリスの因縁にも決着がついた。

これ以上手を加えるつもりはない。


「大人しくヘレナに戻れ。それがお前にとって一番きついだろうからな」

「陰湿な奴だ」

「お前には言われなくない」

にっこりと笑ってやった。スッキリした。ずっと抱えていた感情が解消されるような感じだった。


これにて和平交渉が終了。

賠償としてアルザス地方を譲るという正式な書類を貰い、ヘレナ国との戦いに勝利した。

悪徳姉妹からの大量の借金もあるし、これからやることも多くある。

しかし、勝利したことは俺にとって大きな成果だ。


「ふう」

カラサリスが去った後の天幕で、俺は一人静かに座った。

バリア魔法のおかげで何とかなったが、また大きな危機を乗りきって少し気が抜けた。

どっと疲れが押し寄せる。


背後から誰かが近づいてきて、俺の肩にブランケットをかけてくれた。

「ありがとう」

「てっきりお眠りになったのかと」

「いや、少しのんびりしてただけだ。ベルーガ、ミライエに帰ろう」


やることはまだまだあるが、取り敢えずは俺の居場所であるミライエに帰ることにする。今はあの地でゆっくりと休みたいと思った。

「はい、お供します!」



――。


「ミライエが戦争に勝ってしまったらしい。これから大陸はどうなってしまうのだろうか」

獣人の国にて、ようやく人がいる街に辿り着いたオリヴィエは、まさかの話を聞く。

シールド・レイアレスの負けなど疑っていなかったが、もう戦いが終わっていた。


またも大事な場面に居合わせることができなかった。ショックだった。

それでも、久々に食べるちゃんとした手料理に感動が押し寄せる。

「うんまぁ」

塩気の効いた熱々のスープが体を温めてくれる。

しばらく酒屋でのんびりと時間を過ごしていると、商人たちの噂話が聞こえる。


シールド・レイアレスがアルザス地方を勝ち取ったらしい。

ミライエを発展させたシールドだが、ドラゴンの森が近くにあるあの土地も発展させることができるのか。評価しづらい。これからどうなるのかという話をしていた。


「ねえ、アルザス地方を見てみたら?ドラゴンの森が怖いなら、護衛しましょう」

商人たちが躊躇しているのはドラゴンの森が近いからだろう。

今のうちに道を開拓しておくのは悪いことではないと説得する。


説得する理由は、もちろんオリヴィエのためにもなるからだ。

渡りに船だった。ミライエに戻るよりもアルザスの方が近い。何より商人たちに付いていけばいい。これなら迷う心配はない!!これが最大の理由だ。


交渉がうまく行った。勝ちだ。アルザスに到着したら動かなければいい。そこでようやく久々にシールドに出会える。


出会えるはずだった。

「ここどこ?」

よりにもよって商人たちはドラゴンの森内に迷い込む。

「なんで?」

ドラゴンの鳴き声で荷物を放り出して逃げ出す商人たち。気づけば、オリヴィエはドラゴンの森で一人きり。

「……泣いちゃった」

オリヴィエの一人旅はまだまだ続きそう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頑張って、オリヴィエちゃん。
[一言] オリヴィエさんが正ヒロインと思えてきた
[一言] オリヴィエさんから小須田部長みが…なんだかんだ言って、次回までにはドラゴンの森の頂点に君臨してるんだ!
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