92話 速報!バリア魔法、またしても無傷!
聖剣の魔法とバリア魔法がぶつかり合った。
そのあとに残ったのは……。
無傷のバリア魔法!!
ええええええええええええ。
まじ!?
自分でも信じられない光景だった。
俺氏のバリア魔法、ガッチガチのピッカピカ。え、何かありました?みたいな顔して堂々と聳え立つ。
バリア魔法、なんか輝いてね?もしかして、不安だったのは俺だけで、バリアちゃんお前最初から勝つと知ってたのか……。
勝手にバリアちゃんを擬人化するくらい、今のバリアちゃんは頼もしくてカッコよくて、塔という。
バリア魔法、またしても無傷でした。
なんなんだ、この硬さは。異常だ、異常。
相手は異世界勇者で、聖剣魔法の使い手だぞ!?
「なに……これ……」
異世界勇者ひじりも完全に困惑していた。
聖剣魔法が全く通用していない。
かつて神々の戦争を勝利に導いた異世界勇者よりも強いと言われる今の代の異世界勇者。
その全力ともいえる力が、バリア魔法の前に完全に屈したという事実。
いや、もしやセカイの毒が効きすぎている?
その可能性が高い。そうに違いない。
デバフ能力のある毒なのだろう。流石は最強ドラゴンフェイと肩を並べるセカイである。
大きな土産を俺に届けてくれたみたいだ。
この戦いが終わったらなにか美味しいものを御馳走してやらなくちゃ。
「まだまだダメージが残っているみたいだな、異世界勇者ひじり。悪いが正々堂々と戦うつもりはない。弱っているうちに、叩かせて貰うぞ!」
「別に弱ってなんか……!」
強がるのはやはりヘレナ国を背負っているからか?
それとも異世界勇者の責務からなのだろうか。
どちらでもいい。
汚くてもいい。相手の痛んでいるところを叩いて勝てるなら、俺はそうする。
この戦いに負けられないのはこちらとて同じ。
みんなでミライエに帰るために、俺は勝つ!!
バリア魔法が破れないとわかったので、巨大バリアの前に出た。
直接対決といこう。
「来い、異世界勇者」
「……勝つ!うおおおおおお」
雄叫びを上げながら、剣を構えて接近してくるひじり。
聖剣から黄金色の魔力の残滓を垂れ流しながら、気迫のこもった一撃で斬りかかる。
凄まじい動きだが、動きだけならフェイと同じレベル。対応できる。
「バリア魔法――魔法反射」
一見ただの剣だが、あれは聖剣魔法であって、武器ではない。
物理反射ではなく、魔法反射が正しいはず。
バリアと聖剣魔法が再度ぶつかり合う。
凄まじい魔力爆発が起こり、辺りに衝撃波を起こし、それと同時にすさまじい発光をも起こす。
バリア魔法はやはり無事だが、魔法が撥ね返らない。
なぜ!?
ひじり本人にダメージが入っていなかった。
聖剣魔法、やはり普通の魔法とは何かが違う。
再び迫るひじりの攻撃をバリア魔法、物理反射で撥ね返してみる。
いちいち魔力爆発が起こるが、バリア魔法はそれでも破れない。しかし、今回も反射も起きない。
物理反射でもダメ。なんなんだ、あの聖剣というやつは。
「なんなのよ!?なんでただのバリア魔法が壊れないのよ!!」
「そりゃ、バリア魔法が壊れたらバリア魔法の存在意義がなくなるだろ」
「説明になってない!ただの初級魔法がなんで私の聖剣魔法とまともにやりあえてんのよ!」
こちらとしては、なぜ魔法反射が働かないのか気になっている。物理反射でもダメとなると、あれはなんなんだ。
疑問が多いのはお互い様だろう。
「考えるのは一旦やめる。聖剣魔法が負けるはずない、壊れるまで、ひたすら斬るだけ!うおおおおおおおおおおお」
「ならばこちらは守るだけ」
再び聖剣魔法とバリア魔法が相まみえる。
魔力爆発が起こる度に辺りに衝撃波とまばゆい光が起きて、ここら一体は軽く災害状態だ。
我が陣営は聳えるバリア魔法のおかげで光しか通していないが、俺たちが戦うだけでヘレナ国側の天幕が吹き飛ぶ始末である。人も先ほどから衝撃波で吹き飛ぶのが視界の端に見えている。
辺りへの被害など関係なく、ひじりの怒涛の攻撃は続く。
幾度となく聖剣とバリア魔法がぶつかり合う。
武器破壊も、魔力反射も試した。
そのどれもが聖剣とひじりにダメージを与えない。
やはり異世界勇者は一筋縄ではいかない。
一瞬でも油断すれば、バリア魔法を突破される。体にバリア魔法を纏っているので、まだ何とかなるが、出来れば発動したバリア魔法で対処したい。
余裕を残しておく、そして秘密の一手を持っておくのがバリア魔法使いの流儀だ。
「硬い!しつこい!」
「まだまだこれから!」
バリア魔法はコスパが良い。
俺にダメージを入れない限り、3日3晩寝ずに戦える自信がある。
三日経っても魔力は枯れないだろう。
眠気とか、空腹とか、そしてトイレ問題で戦いを中止しそうだ。
しかし、そんなことにはなりそうもない。
「はあはあはあ……」
ひじりの攻撃の感覚が遅くなる。
そして明らかに息が乱れ始めた。セカイとの戦いで受けた毒のダメージを隠す素振りもしなくなった。
「呼吸を読まれたらおしまいだぞ。カラサリスのやつはそんなことも教えてくれなかったのか?」
呼吸で大体の行動タイミングが読めてしまう。
俺のバリア魔法が突破されないとわかった以上、聖剣に完璧にバリア魔法を合わせていくだけで良い。
呼吸を読まれた今、ひじり、お前に勝ち目はない。
「うっさい!私は異世界勇者、世界を混沌に陥れる者、シールド・レイアレスを討つためにこの世界にやってきた。負ける訳にはいかない!」
それでも吠える。まだ気力はある。
再び気合のこもった一撃がくる。
今までで一番の斬撃だった。
しかし、魔力爆発が凄まじいだけで、バリア魔法は突破されない。
もちろん俺にもダメージはない。
「いい加減にしろ!」
こっちのセリフだ。
さんざん息が上がっているのに、いつまであんなふざけた威力の攻撃を繰り返してくるんだ。
おそらくフェイでさえ、あんなに強力な攻撃を続けたらスタミナ切れで倒れてしまうのではないのか。恐ろしい魔力量だ。
フェイの攻撃でも、イデアの魔法でさえも撥ね返せた。
しかし、聖剣魔法というのは一向に撥ね返せそうにない。
困ったものだ。
「……これで仕留める。聖剣魔法――黄金世界」
大それた名前の魔法だ。
一体何が来るのか恐れたが、俺がやることは変わらないのでシンプルに考える。
そしてやることが決まった。
相手がこれで決めるというのなら、こちらも全力を出すまで。
反射が決まらないのなら、俺がやることはただ一つ。
「必殺。ただのバリア魔法!!」
いつでも来い。俺を囲う球体状のバリア魔法。
何も効果を付与していないただのバリア魔法。
これがいっちばん硬いんだ!
実際に測定したことはないし、どのバリア魔法も突破されたことがないので感覚の話になるのだが、ただのバリア魔法で反射も何もつけておらず、一番作りやすいシンプルなバリア魔法が一番硬い。
魔力消費も少なく、作るのも簡単。コスパ最高の、最古にして最強のバリア魔法。
その名も、ただのバリア魔法。
世界を黄金色に染め上げてしまうのではというくらい、聖剣が輝きだす。
錯覚でなければ、桁外れの信じられない魔力量が集まっている。
なんなんだ、あれは……。
世界を混沌に陥れる俺をと罰するために、世界をぶっ壊しそうな威力の魔法を使おうとしているぞ!
それってどうなんだ?
俺が躱したら、大地が割れちゃいそうだけど!
まあいいか。躱す理由もない。
さあ来い、迎え撃ってやる。
おそらくこれである程度、この戦争の結果が見えるはず。この戦いの先行きがこの一撃に勝っている――。
「でやああああああああ」
振り下ろされる聖剣。
聖剣魔法――黄金世界とただのバリア魔法がぶつかり合った。
今日最大の魔力爆発が巻き起こる。
辺り一帯の森林をめちゃくちゃにし、斬撃の衝撃波が大地を抉る。
空高く漂う雲が乱れ、見たことのない雲模様になる。
それでも、エネルギーが終息したそこには……やはり無傷のバリア魔法があった。
そして次の瞬間、聖剣が砕けた。
俺の前でぽきりと真っ二つに折れて、破片が辺りに散ったかと思うと、黄金の粒子となって完全に姿を消す。
「なっ!?」
「まじか……」
ただのバリア魔法で聖剣を砕いてしまった……。どうしよう、弁償とか無理ですよ!
「無念……」
かすれた声でそう言い残したひじりから、すっと覇気が失われた。
それもそのはず。限界だったのだろう。
意識を失って、倒れるひじり。
ここは地面ではない。俺たちはずっと宙に浮かんで空中戦を繰り広げていた。
倒れるということは、無防備な少女が高い空から地面に落ちるということだ。
気づけば、俺は近寄って異世界勇者、鞍馬ひじりを抱きしめていた。
「おっとっと」
軟弱ボーイの俺は女性一人を抱きしめるのにもバランスを崩すほどだ。
なんとも情けないが、それでも勝った。
俺は異世界勇者に勝ち、またもやミライエを守ることに成功した。
いや、まだ敵には10万の軍勢がいるから、安心していい訳じゃない。
それでも大きな戦いで先手を取った。
「うーん、これどうしよう」
これ、とは異世界勇者のことである。
俺に抱かれてすやすやと気持ちよさそうに眠っている。相当疲れたのだろう。セカイの毒も絶対にまだダメージが残っている。
このまま息の根を止めた方がいいのだろうが、俺はただのバリア魔法使い。倒すには首を絞めるとかしかない。
ぐろい!!
煮るにせよ、焼くにせよ、みんなと話し合ってからでもいい。
このまま返すとまた回復されて、厄介な存在になる。
一旦連れて帰ることにした。




