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83話 バリア魔法はダークサイド

エルフ米がいよいよ収穫できた。


フェイが監修するエルフ酒の制作も開始され、そちらも順調だそうだ。

ミライエで作られたエルフ米を焚き上げて、食べてみる。


「……うまい!」

もっちりとしたエルフ島で採れる米よりも、こちらのほうが一粒一粒が分離しており、個人的には好みだ。

エルフ島の米は少し粘り気が強く、甘みも強い。単品で食べても美味しいくらいにインパクトが強い。

料理の味を引き立たせるという意味では、ミライエの米のほうが上を行くのではないだろうか。


さっそく交易所に流しておいた。

なにせ純粋なエルフ米と違って、こちらは安定した量を供給できる。

これは大きな強みである。


交易所では大きな話題性をもって迎え入れられた。

ショッギョに継ぐ我が国が供給する目玉商品だ。


ブルックスより、初日から売れ行きが順調なのも聞いている。

良い感じだ。これに続いて緑茶も控えている。


我が国はますます発展するばかりだな!

最高じゃないか。


それを象徴するかの如く、サマルトリアの街も大きく発展して行っている。

城がとうとう完成したのだ。


広い土地を活用した立派な城は、ダンジョンから獲れた青緑に輝く鉱石を大量に使った幻想的な城だ。

早速前の狭い城を捨てて、こちらに移り住んだ。


ぼろぼろで狭かった前の城と違い、こちらは広くて頑丈だ。

魔族たちにはここを好きなだけ活用して欲しい。


俺の重鎮となっている魔族は全員こちらに連れてきている。

みんな興奮して楽しそうだ。


「おい、コンブ。少し遊ぶぞ」

「はい、フェイ様」

遊ぶなら外で頼む!

広い土地があるし、エルフの島も広大な土地が余っている。

何も城の中で遊ばなくても。


しかし、嬉しいのはわかる。

俺も新しいこの城に興奮しているんだから。


あまりうるさいことは言わないでおこう。

ドラゴンも意外と無邪気なところがあるんだなと感心しているくらいだ。


「魔力弾。さてこれで遊ぶとしよう。落としたら負けじゃぞ」

「はい、フェイ様」

ちょっと!?なにそれ。

えぐい量の魔力が籠っていませんか?


「落とすでないぞ。それっ」

ちょっと!?外でやって!


「ふふん、手加減無用です!」

フェイのスパイクを軽々受け止めるコンブちゃん。

恐ろしい魔力弾とフェイの投げる威力に、こちらはどぎまぎしてしまう。あ、あまりうるさく言うのは良くない。良くないのはわかっている。

しかし、これは言った方がいいのでは?


「いきますよー!」

ただでさえ危ない魔力弾だったのにも関わらず、コンブちゃんがその魔力弾を凍らせ始めた。

何をやってんだ!?


それを全力で投げて、フェイがキャッチする。

「少し滑るがこれしきじゃあ落とさぬな」

凍らせたはずの魔力弾を今度はフェイが燃やして、全力でコンブちゃんに投げつける。

飛んでいくときの暴風で城の中はもうめちゃくちゃだ。


コンブちゃんがなんとかそれをキャッチしたが、熱さで手を離した。

魔力弾が床に落ちる。


「バリア――魔力吸収」

大量の魔力が籠った弾をバリア魔法で防ぎ、暴発しないように魔力を吸収しておいた。

「おえっ」

ドラゴンの魔力なんて吸収するもんじゃないな。

多少の魔力なら美味しくぺろりといただけれるが、ドラゴンのそれはあまりに濃度が濃く、量も膨大だ。

胃もたれするような感覚に襲われる。


それにしても、バリア魔法で防いでなかったらいきなり城が崩壊してもおかしくない代物だった。

イデアの使用した太陽の魔法に匹敵するものだ。そんなものを遊びで使うんじゃありません!


「フェイ、コンブ、今夜はエルフ米で御馳走を用意しておくから、外にでも出かけてくれないか?サマルトリアの街にまた新しい飲食店ができたらしい」

「ほう、どこじゃ?」

よし、釣れた。

これで城が潰されずに済む。


この二人にはまだまだこんな城でも足りなかったか。

そのうち、俺のバリア魔法で二人が存分にはしゃげる家を作ってやろう。バリア魔法はこわれないんだ。最強だから。


本当にその方がいい気がしてきたので、二人の住居の土地も確保しておこう。

交易路や港へのアクセスが悪い土地ならまだまだ余っている。


「さあ、行ってくると良い。今月の金はまだあるか?」

「ふん、金など問題ではない。足りなければ踏み倒すまでよ」

……俺の評判にも関わってくるからやめて欲しいんだが!

ちゃんと聞いてみると、毎月渡している金は使い切れないくらい残っているらしい。

二人に不満が出ては、領内に支障が出るからな。働かないのに二人には大量にお金を渡している。

俺が無償で金を渡しているのはこの二人と、昔世話になった施設くらいだ。

全く、生まれながらにして高貴な二人にはほとほと手を焼かされる。


ようやく二人を追い払えるかと思っていると、アザゼルが少し険しい表情をして俺たちの前にやってきて、仰々しく跪く。


「シールド様、フェイ様、コンブ様、ご報告があります」

普段は俺にしか報告しないアザゼルが、わざわざフェイとコンブも呼び止めた。

それだけの事態ということだろう。

心して聞いた。


「ヘレナ国が我が国ミライエへと宣戦布告してきました。念のため、ベルーガをミナントとヘレナの国境付近に向かわせております」

時間の問題だった事態が、とうとう来てしまった。

ベルーガを向かわせたのは正解だ。たいていの問題なら彼女がなんとかしてくれるだろうし、引き際が分からないやつでもない。


街をのんびり建設し、エルフ島からの恵みを授かり、交易所から得た利益を国民に分配する。そんな穏やかな日々を送っていたかったが、世界はどうにも争いばかりを求めてくる。

うーん、戦いなんてあまり好きではないが、侵略してくるなら迎え打つ。


俺が作り上げたものを壊すというなら、仲間に手を出すというのなら、その全ての害を相手に撥ね返すまでだ。

俺の守れる範囲にいる者に、絶対に手は出させない。


「異世界勇者が最前線にくるものと思われます。世界を破滅に導くシールド・レイアレスから世界を守ることを大儀名分に掲げております」

げっ。反論できないけど!

魔族やドラゴンを率いてるなんて、客観的に見ると絶対に悪側だけど!


しかも、たぶん俺が死んだあとはフェイの世界になるので、実質的に世界の破滅だけど!

ヘレナ国側が正義です、この戦い!


異世界勇者は真の勇者でした!


正義はあちらにある。しかし、それでも俺は負ける訳にはいかないんだ。

魔族もエルフも人間も、そしてドラゴンも関係ない。俺が生きている間、この国は誰も拒まないし、全員が幸せに生きられる国にするんだ。


青臭い考えだが、理想は高すぎるくらいがちょうどいい。

きっとフェイもコンブも同じように思ってくれているはずだ。異世界勇者は怖いが、一緒に戦おう。


「げっ、我は嫌じゃ。異世界勇者だけは嫌じゃ」

「私もパスです。肌に傷をつけられたらもう生きていけない」

全然同じように思ってなかった!

薄情なやつらめ!


「アザゼル、報告ご苦労。相手が向かってくるならやってやる。異世界勇者は俺が止める。まあ、気楽に行こうじゃないか」

「流石です。シールド様。シールド様がいる限り、勝ちは確定しているはずなのに。過去の苦い記憶のせいで少しばかり弱気になっておりました」

うん、わかる。

俺も毎回不安だ。


バリア魔法には絶対に自信があるけど、イデアのときも周りが凄く持ち上げるから不安だった。

勝つとやはりバリア魔法最強ってなるけど、未知の力って怖いんだ。

今回に至っては、アザゼルやベルーガに代表される魔族全員が封印され、あのフェイでさえも敗走した相手である。

流石に不安だが、それでもにっこりと笑っておいた。


たぶん、俺が笑っておいた方が、みんな安心するだろうから。


「よし、こちらも準備に入るとしよう」

宿敵ヘレナ国との因縁を、そろそろ断ち切ろうじゃないか。



――。


「うんまー!!」

止まることなく降り続ける雪をかぶりながら、オリヴィエは新鮮な鹿の肉を食べていた。

イリアスの土地で獲れた新鮮なシカ肉は、天然の木から作られた炭によってあぶられ香ばしい匂いを発していた。

塩をかけて、肉にかぶりつく。

「んんんん!!」

脚をパタパタ動かして、言葉にならない喜びを表現する。


遭難してもう数か月になる。

日に日にうまくなるサバイバル技術。

熊の毛皮に身を包み、革で作られたバッグの中には手作りの調理道具が一式揃っている。

肉にふりかけた塩も自分で手に入れた岩塩だ。


「なんじゃ、精霊の土地に人が?」

食に夢中で近づいてくる人影に気づかなかった。

いや、そうではないと気づいたのは、その人物の立ち振る舞いを見てからわかった。


年老いた獣人の女性だが、ただ者ではない。ここに来るまでほとんど足音を立てず、気配も消していた。雪の積もった地面を無音で歩くなど、ほとんど異常だった。


「肉を一切れ貰っても?ここにくるまでの道中、ろくなものを食べていない」

「どうぞ」

目的はわからないが、肉は余っている。嫌な感じのしない、獣人の女性に鹿肉を分けた。


「うまいな。血抜きがうまいし、恐怖を与えずに仕留めたのだろう。この肉を食べるだけで、そなたの実力が窺い知れる」

それがわかるのは、彼女も強者だからだ。


「何者なの?」

「それはこちらも聞きたいのだが……こんなところで出会ったし、隠すこともないか。イリアスの女王と言えば、少し驚くかな?」

「女王ライラ」

オリヴィエが即答した。


「ご名答。そちらは?ただ者じゃないだろう?」

「オリヴィエ・アルカナ」

「ほう、ヘレナ国宮廷魔法師か」

お互いに知っていた。会うのは初めてだが、お互いの立場もあって、他国の要人は知っていた。


「面白い出会いだ。少しばかり老人の相談に乗ってはくれまいか?」

彼女が女王ライラだという疑いはない。それどころか、どこかそんな気さえしていた。

面白い出会いというのは、両者ともに感じていた。


「いいですよ。私でよければ」

「ふむ」

肉を頬張りながら、ライラが話始める。


「ヘレナ国と、振興のミライエがぶつかる。でかい戦争になるだろうな」

「!?」

驚きの情報だった。

ミライエ、つまりシールドの危機を知らないどころか、未だ遭難している自分が恥ずかしくなる。


「異世界勇者がいるヘレナか、バリア魔法のミライエか。どちらに付くかで部下たちが揉めておる。国一番の戦士はミライエ以外あり得ないというし、文官たちは口を揃えて異世界勇者が負ける訳がないという。困ったものだ」

異世界勇者がとうとう召喚されてしまった。

その脅威はオリヴィエも知るところ。

彼女の力をもってしても止められない相手だろう。カラサリスがとうとう禁断の力に手を出したのだ。立場が故に、オリヴィエは他の誰よりも異世界勇者の力に詳しい。


それでも、返事は決まっている。

悩んでいる女王に向かって、オリヴィエは笑顔で伝えた。


「間違いなく、シールド・レイアレスが勝ちます。国一番の戦士は優秀ですね」

「ほう、おもしろい」

少しばかり考えて、残りの肉を口に入れて女王が立ち上がった。


「ありがとう、旅の者。精霊様にお祈りした後、城に戻る」

女王は目を瞑り、今一度考えた。そして決心する。

「イリアスはミライエに付く。ふはははは、この戦いに勝ったらメレルに女王の座でも譲ろう。私もずいぶんと耄碌してきたかもしれん」

「そうですか?あなたもまだまだやれるように思いますよ」

高笑いして、女王は雪の中を歩み始めた。


再度オリヴィエに感謝を伝えて、雪の中へと消えていく。

珍しい出会いにオリヴィエも興奮したが、直後に後悔する。


「道!?道、聞いておけばよかった!!」

オリヴィエはまだ当分さまようだろう。戦争には間に合わないかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[一言] オリヴィエ、最終的には異世界で迷子やろな・・・。
[一言] 道を聞いても1人だとどうせ迷うやろがい! いっそ保護してもらえばいいのにな……
[一言] オリヴィエさん、最終回まで行っても会えない可能性もでてきたw
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