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81話 バリア魔法で飯テロ

飛ぶ鳥を落とす勢いの領主なんて言われたこともあったけど、本当に鳥を落とす日が来ようとは。


バリア魔法使いが鳥を仕留められないって?

そんなことはない。


空飛ぶ鳥は自由を闊歩し、そのスピードを制御することなんて考えたこともないだろう。

己の翼さえあればどこへだっていけるような顔してやがる。

地上の民は狭く見晴らしの悪い土地をめぐって争っているというのに、鳥たちはなんと優雅なことか。


その優雅さが俺の魔法と相性が非常に良い。


「バリア」


空中にいきなりバリア魔法を出現させる。

そんなところに壁があるとは思ってもいないだろう。

突如現れた半透明の壁を躱す手立てはない。


無事に、最大加速でバリア魔法にぶつかった鳥が空から地上へと落ちてくる。

今はまだ気絶しているだけだが、地上に落ちたらこちらのものだ。

ようこそ地上の楽園へ。


「その命を頂きます」

1羽で4人くらいのお腹を満たしてくれそうな肉付きの良い鳥だ。

じゅるり。

この土地のものは美味いんだ。オレ、シッテル、コノトリウマイ。

おっと、野生が垣間見えてしまった。


さてさて、この量だとあと数羽仕留めれば全員分に行き渡るだろう。

同じ要領で、空にバリア魔法を出現させて鳥を落としていく。


予定通りの量を仕留め、空を見上げた。

今後俺の茶葉に手を出したら、わかってるよね。ニッコリ。

微笑んでおいたので鳥たちも理解してくれたことだろう。


「鳥、獲ったどおおお!」

高らかに獲物を掲げて、俺はみんなのところに戻った。


大きめの焚火を作り、それを囲うように座った。

フェイとコンブちゃんが隣に座りあい、エルグランドとミラーも仲良さげに隣に座っている。

他にもこの場で働いてくれている面々が既にフライング気味に酒を口にしていた。

まあ今日は祭りみたいなもんだ。

うるさく言うこともない。好きにしてくれるのが一番だ。


こんな祭りになるならアザゼルやベルーガとかも呼んでおくんだったな。

普段働かないフェイとコンブちゃんはいつだってこういう祭りや、豪華な食事の席にいる気がする……。


「はようせい。我は酒の肴を欲しておる」

「鳥を上手に焼けそうだからギリギリ生かしている人間。フェイ様がお腹を空かせておる!」

今日もギリギリを生きております。

相変わらず人類はギリギリで生かされているらしい。

生かしていただきありがとうございます!


こんな席でくらい働いてくれてもいいのだが、既に二人はエルフの透明なお酒で出来上がっている。

下手に焦げさせでもしたら、食材になってくれた畑荒らしの鳥にも悪いし、この場にいるみんなにも悪い。

ここは俺がやってやろうじゃないか。


「シールド様、そんな仕事は我々が」

「いいから、いいから」

部下の気遣いに感謝して、仕事はやはり俺がやることにする。


袖をまくって、鳥の下処理をしていく。

なかなかにグロいが、子供のころからこういうのはやり慣れている。

魔族の仲間や、軍で親しくしている連中にも俺の過去はあんまり話したことがないけど、こういうのはよくやっていた。


野生の動物は美味いんだ、これが。

だから美味しいものを求めていたときによく仕留めて食べていりした。


久々にやるが、体が覚えているので鳥を上手にさばけた。

各部位に切り分けて、汚れた手を洗って肉をみんなに届ける。


綺麗にさばけたという理由だけでほめられたが、まだまだ褒めるには早いぞ。

30人ほどいる開発組全員分にしっかりと行き届くだけの肉の量がある。


他にも山菜の漬物やら、酒に合いそうなつまみが用意されている。

ああ、ここにショッギョがあればなー。完璧だった。そう思うが、その楽しみはミライエに戻ってからにしよう。今日は鳥肉を盛大に楽しもう。


焚火の勢いは十分だ。炭もまだ量も勢いもある。

肉を串に刺して、焚火の周りに一本ずつたてかけていく。

片面だけ焚火で焼かれるので、徐々に火加減を調節するために回さねば。


焼いていく途中で、使われている炭の香りが凄くいいことに気づいた。

この恵みの土地に生えている木から作られた炭だ。やはりエルフの島、最強か?


なにを作ららせてもうまいじゃないか。

それに焼いているこの鳥も、肉汁と脂が零れ落ちる良いお肉だ。作物も生き物も旨い。じゅるり……。既にその美味しそうな匂いで涎が垂れてくる。

この香りを閉じ込めたいな。あれでいこう。


バリア魔法で焚火を囲っておいた。

煙の逃げ道を作るために、バリアの上方向に穴を開けておく。


これで香りのいい煙を肉に十分に行き渡らせることが出来そうだ。

燻製要素も加えつつ、焼きも手を抜かない。

じっくりと弱火で焼いていくのが大事で、丁寧に、丁寧に焼いてく。


「はよせい!」

「いい匂いが充満しています。フェイ様をこれ以上我慢させないように!」

ドラゴンのお二人がうるさいが、丁寧に、丁寧に。

この地道な作業が、後で爆発的なうまさを引き出すんだ。


感謝することになるんだから。

「待ってろって。先に他のつまみを摘まんでいてくれ」

「ばかたれ。こんな旨そうな匂いを漂わせておいて、他を食べよと申すのか?そんなことできるはずもなかろう!」

「それはすまん」


悪かったよ。

確かに漂う肉の美味しそうな匂いを無視して、山菜の漬物なんて食べられないよな。

前菜につまんでおくのはいいと思うが、メインがこうも旨そうだと腹を空かせておきたい気持ちもわかる。


みんなを更に待たせてしまったが、肉を丁寧に焼き終える。

まずはご立腹のフェイからだ。


「ほらよ。最初の肉はお前のもんだ」

「良い心がけじゃ」

わずかに表面に焦げ目を残しつつ、中までしっかりと火を通してある。

焼いている最中に塩を振っておいたが、お好みでタレを上塗りしてもよし。ミナントから輸入してきたコショウを振ってもよし。これだけ質のいい肉だ。如何様にしてもうまくなるだろう。


「順番を間違えなかったからギリギリ生かしている人間、私のも早う!」

コンブちゃんのは2番目だ。

「コショウとかいらないか?」

フェイはそういう気にしなさそうだったから聞かなかったものの、コンブちゃんには聞いておいた。グチグチタイプっぽいので先に言っておかねば。


「いらない。塩だけのほうが美しい」

美しより美味さを重視して欲しいけど、客の要望には応えねば。

串を手に取り、コンブちゃんに渡す。


「はいよ。熱いから気を付けるように」

「きゃー!」

美しいものや芸術が大好きなコンブちゃんも、こんな旨そうな焼き上がりの肉には本能レベルから興奮しちゃうようだな。はっ、おあがりよ!


フェイとコンブちゃんが豪快に肉に噛り付く。

気づけば全員の視線を集めており、食べる二人の反応を待っていた。


これでもかと長く感じる咀嚼時間。

まだ飲み込まないの?え?まだ噛むの?

なんだ、二人のその苦しそうな表情は。まさか、それほど美味しくないのか?



「……コンブ」

「はい、フェイ様」

「これんまあああああああああ!」

「はい、うますぎますうううううう!」


暗い表情から一転して、二人の顔が晴れ渡った。

食べながら笑いだすほどうまいらしい。気づけば周りから拍手が送られる始末。

なんだこれ……。


おいおい肉を美味しそうに食べるだけで拍手を貰えるなんていいご身分だな。

生まれながらにして天は人の上にドラゴンを作ったようだ。


さてさて、みんなを待たせるわけにはいかないな。


実は次第に焼き方のコツをつかんで、後の肉のほうがうまく焼けていることは秘密だ。

それぞれの要望を聞いていき、まだ焼いている途中に味付けをしていく。


「ほい、出来上がったのから食べていけ」

俺を待つという律儀なやつまでいたが、そんな必要はない。焼き上がりが一番うまいんだからすぐに食べるように。

ミラーとエルグランドにも行き渡る。

透明なお酒との相性も非常によいらしく、エルグランドはあまりの美味しさに爆笑していた。美味しいものを食べると自然と笑っちゃうよね。


そして、いよいよ全員に肉が行き渡った。

最後に残った鶏もも肉の部位は俺のものである。


くっくく、ヒャッハー!!

この時を待っていたんだ。


肉を焚火から離して、串を素手で掴んだ。

途中に塩を振っており、塩も焼かれて少し焦げている。


肉のうまみと、煙の良い香り、それを塩が引き立たせた極上の逸品。


まだ熱々の肉に噛り付く。

「はふっはふっあつっ!!」

大きく噛り付いた肉は、当然めちゃくちゃ熱い。

しかし、熱さなんて無視できるくらい、遥かにうまい。


頭の中でまたやばそうな快楽物質が出ているのを感じる。パン!パン!パン!これが脳内麻薬……。

腸が躍動している。かつて食べたことのない新鮮でこってりとしたこの肉に、俺の体が叫び踊り狂っていた。


「うんまあああああ。なんだこれ、うんまあああああ」

エルフの島、食材の宝庫すぎんだろ!


「ギリギリ生かしている人間、美味い肉を焼いたご褒美に私がお酌してやろう。酒も飲むが良い」

コンブちゃんが熱燗にしてくれた酒を手渡してくれる。

ちょびちょびと飲み干した。


くー、体の中に熱く自然の恵みを感じるものが流れ込んでくる。

こちらも最高にうまいな。肉との相性も抜群だ。


「さっいこうだな……」

ばたりと仰向けに倒れこんで、美しい空を見上げた。


急遽始まった祭りだったが、エルフの恵みのおかげで生涯忘れられないような思い出にすることができた。


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[良い点] 塩原理主義者!?
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