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80話 エルフ島のものは濃厚。守りたい、バリア魔法で

ヌーメノンは軍に入ることになった。


実力至上主義の軍の世界では、ギガに続いて大歓迎されて入っている。

イデアを育て上げた爺さんだ。若者が多く集まるミライエの育成を担当してくれるのは非常にありがたい。


数年後にはものすごい才能を持った若手が出てくるかもな。

アカネや、ルミエス、それにダイゴもたまに見てもらうことにした。あの天才キッズたちもいつまでも自由にはさせられない。ちょうどいい指導者が見つかったことだし、ヌーメノンに道を示して貰うと良い。


「さて、やるとしよう」

キッズたちをヌーメノンに押し付けることに成功したので、俺はお茶畑を作っている。

エルフが好んで飲む緑茶をつくるための茶畑だ。


エルグランドとミラーのコンビを呼び寄せて、今日も二人には精力的に働いて貰っている。

エルフ米もそろそろ収穫の時期でとても楽しみだ。

それに続いてお茶畑も順調である。


エルフ島の南の島は、昔からの呼び方で『恵みの土地』という名で呼ばれていたりもしている。

その名の通りで、エルフ米のときとは桁違いにうまく行く。

土地を耕すのも、エルグランドが何度も口にするくらいやりやすいらしく、植えた種は凄まじいスピードで育っていく。


恵みの土地が茶畑いっぱいの景色になるまでそう時間はかからなかった。

その間、サマルトリアから恵みの土地へと続く透明なバリア魔法の橋を架けておいた。

茶葉の搬送用の橋だ。恵みの土地は観光する場所もないので、自由な移動は制限している。


植物学者や、芸術家、その他にも明確な目的があるものだけこの地への立ち入りを許可している。


広大な茶畑はできあがりつつあるが、それでもこの島の10分の1も活用できていない。これだけ豊かな土地があるならもっといろいろ育ててみたい。

エルフ米はエルフたちが安定して供給してくれるようになったので、ここで育てる必要はない。

何か欲しいもの……。

茶葉が安定し収穫できるようになったら、次は何をしようか。

そのヒントを、フェイが齎してくれた。


透明な酒をもって、上機嫌にこの島にやってきたフェイは、コンブちゃんと共にほっぺを赤く染めて既に出来上がっていた。

一体何日飲み続けていたのだろうか……。


「うぃー、バリア馬鹿」

「どうした黄金馬鹿」

「お主もこの酒を飲んでみぬか」


フェイが持ってきてくれたのは、以前話していた透明なお酒だった。

エルフが好んで飲むお酒だ。


見た目は水のように透き通っている。それどころか、輝いてすら見える。

これがエルフ米から作られたお酒か。フェイが相当気に入っているみたいだし、美味いんだろうな。


一口飲んでみた。

アルコール度数の高いお酒で、ガツンとくる衝撃がある。

そのあとに、口に徐々に広がる深い甘みと旨みを感じる。これはエルフ米に感じた甘みと旨みと似たものがある。原材料を聞かなくても分かるくらい、似た味わいがある。エルフ米のうまさを上手にお酒に閉じ込めていた。


透明な飲み物とは思えない程インパクトのある酒だな。エールよりも飲みごたえがありそうだ。


「うまいな。つまみに何か味の濃いものが欲しくなる」

「ほれ、これをやろう」

フェイに渡されたものはチーズだった。

なんだ、チーズか。

ちょっと違うんだよな。この酒とあうつまみは他にありそうだ。そりゃチーズもうまいけど……。


「取り敢えず、食うてみよ」

それもそうだな。

世界中の食べ物は我のものであるぞ、そう言いだしそうなフェイが酒のつまみをくれたのだ。食べてみようと思う。


「!?」

三角ピースに切り分けられたチーズに一口噛り付いてみると、俺の両目が大きく開かれた。

身体がびっくりして鳥肌まで立ってしまう。


なんだ、なんなんだこれは!?


「あっははは、コンブ。見たか、バリア馬鹿のあの表情を!」

「ひゃっひゃひゃ、最高です。フェイ様、してやりましたね」

爆笑するドラゴンのコンビ。

二人が爆笑するほど、俺の表情は驚きに包まれていた。


このチーズ……めちゃくちゃ臭い!

貰う前には気づけなかったが、食べてみると口いっぱいに臭みが広がった。

刺激的な味は、痛覚を刺激していると勘違いさせるほどの鋭い臭みだ。


けれど、これが不思議とうまい。

なんかわからないけど、臭みの奥底に、これまでに感じたことのないうまさを感じる。

透明な酒ともあう。


「うますぎんだろ。チーズってこんなにうまかったか?」

「エルフ島からとれるミルクは格別みたいじゃ。この地はすごいのぉ。我も気に入った。間違っても、エルフの生活を壊すなよ?」

エルフの作りあげたものを評価しているのは、何もフェイだけではない。

この土地の神秘さは俺も実感しており、大事にしていくつもりだ。

それにこんなチーズを作りだすんだ。壊すわけもない。

「もちろん!」


実は二人では運びきれなかったくらい、エルフの集落にはうまいものが多かったらしい。

美味しいものでも不味い不味いと言いつつ誰よりも食べるフェイが、これだけ褒めるだなんて珍しい。

手放しで褒めるのを見るのは、ショッギョの時以来か。

「他にも発酵乳とかあっての、あれは美味かった。のう?コンブ」

「はい、あれも美しく良いものでした。なぜ腐らせたものが却って新鮮なものより輝くのか……この世界はおもしろい」

なんだ、発酵乳か。珍しくもない。

大陸でも広く飲まれている飲み物だ。俺もたまに飲んでいる。


「発酵乳なんて珍しくもない。もっと透明な酒とかこのチーズみたいなものの話をしてくれ」

「バカを言え。お主が飲んでる発酵乳と一緒にするでない。ここの発酵乳を基準にするなら、お主が飲んでいるものなんてただの水じゃ!」

水!?

俺が飲んでたあの濃厚な飲み物が、水!?

おいおい、エルフの島のものはどれほど凄いんだよ。逆にそれ、飲んで平気なのか?


「いつか飲んでみたいな」

「うまいものは他にもたくさんあるぞ」

にやりと笑うフェイは、一体どれほどのものを見て来たのだろうか。

エルフの島にはまだ見ぬお宝(美食)がある!!


「フェイ……」

「なんじゃ」

「酒はまだあるか?」

「そう言うと思っておったわい。エルフどもの抱えている問題をとことん解決してやったからの。お礼に大量に酒瓶を貰っておる」

「ナイス!」


俺は茶畑の開発をいったん中止させた。

酒は大量にある。

チーズもフェイが大量に持ってきてくれている。


作業員用にミライエの食べ物はたくさんこの地に運び入れている。

しかし、透明な酒とチーズはエルフの島のものだ。折角なら、つまみも全てエルフ島のもので揃えたい。


「シールド様、エルフの島で貰ったものですが、これなんかはどうでしょうか?」

この開発地に入る前に、エルグランドとミラーには休暇もかねてエルフの島の観光に行って貰っている。

二人は根っからの働き者で、エルフの島でもいろいろ頼まれごとを引き受けて仕事をしていたらしい。

そのお礼にいろいろとお土産を持たされている。


その中に、腐った豆がある。

大豆を発酵させて食材で、非常に体にいいらしく、味わいもまろやか。

エルグランドとミラーは大好物らしく、今はパンと共に食べているが、そのうちエルフ米と一緒に食べてみたいと言っていた。


しかし……見た目があれだ。

ねばねばしていて、色も茶色で……。

しかもかき混ぜて食べるらしい。なんか粘液っぽいものが!どっひゃー!!


「却下!」

「却下!!」

「美しくない」

俺とフェイとコンブちゃんの猛反発を食らって、腐らせた豆は今日の酒の席には並ばないこととなった。

二人はガックリしていたので、二人が食べるぶんは許可する。


「フェイ、この土地で作られたものがこんなにうまいんだ。空を飛ぶ野生の鳥の肉は、一体どれほどの旨みがあるんだろうな」

「ほう、お主もいいところに目をつける。火は我が起こしておく、人数分の鳥を用意せよ」

「はい、幹事どの!」


空を飛ぶのは、悪そうな目つきをした鳥たち。

ずっと俺の茶葉をついばもうと鋭い視線を飛ばしてきていた奴らだ。


俺は死の領主。

一度恐怖を与えて統治する者。


俺の茶畑に手を出したらどういうことになるか、数羽仕留めて恐怖を教えてやることしよう。

酒の席のおつまみが決定する。


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