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8話 バリア魔法はほどほどに。後先を考えよう

俺とフェイが飯を食べていると、扉からチラチラと覗いてくるアメリアの姿が見えた。

恥ずかしそうに、まるで乙女のような表情でこちらを見つめている。


なんだ、あの表情は。

今まで見たことのないアメリアの可愛らしい顔に、少し戸惑ってしまった。


「あっ、あの。本当にシールド様なのですか?」

「は?だから、最初からそう言っている」

「きゃああああああああ」


叫んでどこかへ行ってしまった。

なんだ、あいつ。情緒どうしたんだよ!


しばらくすると、また戻ってきたこちらをチラチラと覗いてくる。

「シールド様、どうして最初から名乗ってくれなかったんですか?私としたことが、今まで淑女らしくない言動をとってしまいました。あれは、本当の私ではないのです!」

どう考えても、あれが素で、今が不自然だ。


「シールド様が家庭教師をしてくれているのに、私ったらなんて無礼を!前々からシールド様のことをお慕いしていましたの!わっわたしの憧れの人で……。ヘレナ国10人の宮廷魔法師の中でも1番尊敬していまして……。その……。本当に尊敬していたのに、私ったら、なんてことおおおおおおおお」

また走り出してしまった。

落ちついて飯を食えないんだが……。


しばらくするとまた戻ってきたアメリアが、俺とフェイの横に座り、一緒に食事を摂ることになった。

まだ俺のことを見据えることが出来ないみたいで、恥ずかしそうにもじもじしている。

憧れられていたのは嬉しいが、今更遅い。もう彼女の素の顔を知っているので、今更可愛らしい少女として扱えない。か弱いふりをしても無駄だ。ゴリラよりも強いことは知っている。


「あっ、あの、フェイ様とシールド様はどのような関係で?」

「ああ、こいつはドラゴンなんだ。襲われたところを撃退したら、なんか着いてきた」

「へっ、へぇー、ドラゴンなんですね。ドラゴン!?」

そうだけど。フェイの背中の翼とか、今までなんだと思われていたのだろうか。

それに食事量も明らかにおかしい。

どう考えても少女が食べられる量を逸脱している。


「我は最強のドラゴン、バハムートじゃ。よろしく」

「あっ、はい。……シールド様が言うなら本当なんでしょうけど」

すんなりと受け入れるなんてこと、普通は無理だよな。だれがこんな少女をドラゴンだと思うのか。


「そういえば、ずっと失念していたことを思い出した」

「なんだ?」

フェイのやつはここ数日ずっと何かを思い出そうと悶々としていた。

こいつほどの存在が小さなことを気にするはずもないので、俺も地味に気になっていたのだ。


「ドラゴンの森の、次の主を決めておらんかった。まずい、ドラゴンが街に溢れ出るかもしれん」

「おいおい、それってかなりまずいんじゃ……」

ドラゴンの森は食べ物がおいしいのと、主であったフェイが人間の厄介さを知っていたから、これまでは人に危害を加えてこなかった。


隣接していたヘレナ国側の街アルザスも、俺たちがいるエーゲインも無事に発展できたのは、皮肉にもドラゴンのフェイの統治力あってのものだ。


「しゃーない。お前を連れ出したのは俺だし、後始末くらいつけておくか」

「そうじゃの。誰が主か決めてから旅に出るべきじゃった。我もいく」

「いけません!」

強烈な声色で、静止に入ったアメリアが俺たちの前に立ちふさがる。


「ドラゴンに手を出してはいけません!」

「「なんで?」」

フェイと声が綺麗にかぶってしまった。


「なんでって、ドラゴンは規格外の存在です。知能も恐ろしく高く、仲間意識も強いと聞きます。下手に手を出したら、街を襲われる程度で済まないかもしれません。下手をしたら、300百年前に起きた、世界を巻き込んだ戦い、神々の戦争が再び起こるかもしれません!」

「「大丈夫でしょ」」

またも声がそろった。


「なんで二人ともすんごい暢気なの!?」

「行くぞ!今日の特訓はドラゴン相手だ!」

「無茶言わないでください!」


抵抗を繰り返すアメリアだったけど、俺とフェイが無視して進んでいくから、彼女も仕方なくついてきた。

言いつけを守る彼女はドラゴンの森には滅多に近づかないらしい。いつも自信に溢れているアメリアでも、少し不安そうな顔をしていた。

けれど、行く!


エーゲインの街から近いドラゴンの森の前までまっすぐ歩いてきて、俺たちは立ち止まった。

俺たちが到着したタイミングで、奇跡的と言ってもいい遭遇をした。

黒いドラゴンが森から顔を覗かせて、ちょうど森から出てこようとしていたのだ。


「黒竜ニーズヘッグ!!」

アメリアはこのドラゴンを知っているみたいだ。

俺は全然知らない。バリア魔法しか勉強してこなかったので、世界全般についてかなり無知である。

お恥ずかしいことです。


「ほう、主はそなたが引き継いだか。人には迷惑をかけるなと言いつけに来た。戦争はつかれるからのぉ」

フェイが黒いドラゴンに向き合って、忠告する。しかし、相手は聞く耳持たないのが目に見えてわかる。

その視線にはフェイへ向け、殺気に漲っていた。


「……止まる気はないか。森を去った元主の言うことは聞けぬと……面倒じゃのう」


フェイの体が炎に包まれる。

こっちもやる気だ。

何となくだが、凄まじい殺気を感じたので、俺はアメリアを抱えて少し下がることにした。


直後、フェイが可愛らしい少女の姿から黄金のドラゴンへと姿を戻した。

睨みあう二頭のドラゴン。


どちらが仕掛けたかはっきりとしなかったけど、二頭が空に飛び立ち、上空で凄まじい戦いを始めた。

上空から天変地異を疑う音が鳴り響き、真空波が地面にまで届く。

途中、隕石のようにマグマが降り注いできたので、バリアで防いでおいた。

世紀末かな?


「本当はアメリアに戦って欲しかったけど、今日のところはフェイに任せておこう」

「無理ですよ!あんな異次元な戦い!人間の領域じゃありません!」

「宮廷魔法師になるには、あれくらいやって貰わないと」

「ほ、ほんきで言ってますか?」

「うん」

俺は至って真面目だ。


フェイとやりあえるくらいじゃないと、ヘレナ国の10人の宮廷魔法師に割って入れないんじゃないか?みんなが実際どれくらい強いかは知らないけど、簡単な道ではないと思う。


それにしても、上空の戦いが凄まじくなってきた。

街にも被害が出そうなので、急いで街を覆うバリアを張っていく。

国を覆うレベルのサイズは大変だが、街一つなら簡単だ。


直ぐに完成するだろう。

俺のバリア構築が始まる。


「シールド様!?これはもしや、ヘレナ国を覆う聖なるバリアと同じものですか?」

「ああ、そうだが?」

「これが、あの奇跡の……」


奇跡?

ただ国を覆っただけのバリアだけど。

多分、ヘレナ国は今やこれ以上の代物を準備しているはず。

俺を追放したのは、それ以上のものを作れないと説明がつかないからだ。


上の戦闘がピークに達したころ、俺のバリアが街を覆い尽くした。

やはりすぐに終わった。このバリアも有効期限があるが、3年は大丈夫。この戦いの最中はもちろん、今後もしっかり機能してくれることだろう。


空から降り注ぐ異次元魔法が街のバリアとぶつかる。

やはり世紀末だ。


最強レベルのドラゴンの戦いは、災害とか、そんなものを軽く超えている気がする。

「アメリア、あれとどう戦うか、あとで考えをまとめてるように」

しっかりと課題も与えておく。

俺は家庭教師だからな。給料を貰っている以上、しっかりと働かなければ。


「そんなの無理です!あまりに異次元……。シールド様ならどう戦うんですか?」

「俺ならフェイのやつに勝ったけど」

「勝った?勝ったって、一体どうやって」

「バリアだけど」

俺が使えるのはこの魔法だけど。

相手がどうこようが、俺がやれることはこれだけである。

バリアでしか対処できないが、バリアで対処できないものはない!たぶん。


「異次元すぎます!せめて思考の追いつく話にしてください」

バリアを張って返り討ち。超簡単だろう?


上の戦いは更に激しさを増していき、とうとうフェイの全力のブレスが黒いドラゴンを捉えた。

森の中へと叩き込んで、戦いの決着がついたようだ。


空から降りてきたフェイが、可愛らしい少女の姿に戻って、静かに着地した。

「全く、面倒じゃ」

頬に少し切り傷がある。苦労した感じは出さないが、それなりに強敵だったらしい。


「あいつ、死んだんじゃないか?」

「あのくらいじゃ死なん。これに懲りて、我の言いつけは守るじゃろう」

「そうか。じゃあドラゴンは大丈夫そうだ。楽な仕事だったな。帰って飯でも食おうぜ」

「そうじゃな」

アメリアには結果として気に入られたし、辺境伯の家をクビになることはもうなさそうだけど、やはり食えるうちに食っとかないと。特にフェイのやつは良く食べるからな。

食費が浮くに越したことはない。


「昼下がりのコーヒーブレイクみたいに、穏やかな感じで行かないで!今何をしたか分かってるの!?伝説のドラゴンを倒し、ていうかあなたも伝説のドラゴン!そして、なに簡単に街に聖なるバリアを張ってるの?ええ!?私がおかしいの!?今の一連の出来事って、当たり前にやるようなことなの!?」

「落ち着けよ。昨日から情緒大丈夫か?」

「そりゃ伝説のシールド様がこの場にいて、伝説のドラゴンもいて、なんか町がすんごい強化されたら!!ああ、もう私がおかしいんですか?」

「「たぶんな」」

「そんなわけないでしょう!」


全く、雇い主でなければ少し態度を注意していたところだ。

これも給料のため。癇癪娘にも目をつむろう。

そろそろ給料も出るはずだし、街に夜遊びにも出かけたい。

楽しみが増えて、俺は満足である。


「お主、政治はもう嫌とか言っておったろう。街にこんなでかいバリアを張ったら、また政治に巻き込まれんか?」

「……まじ?」

「知らんが、人というのはそういうもんじゃろ。でかい力を見つけたら、それを利用せずにはいられない。こんな強力なバリア、放ってはおかれんぞ」

「……げっ」

また厄介なことになりそうで、俺は少しテンションが下がったのだった。


30年戦争を神々の戦争に変更 1月31日

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