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77話 バリア魔法は芸術的

橋を俺も利用してみたく、馬車に乗り込んだ。

サマルトリアからエルフの島へと延びる長いバリア魔法の橋である。


景色は海が見えるだけだが、これが幻想的で美しい。

船だと特殊な海流に乗って三日かかる距離だが、馬車なら1日で着く。


たまには一人旅でもしたいなー、そんなことを想っているときに限ってこいつらが付いてくれる。


「なんじゃ、安い酒しか持ってきてないのか」

「景色は美しい、人間は醜い」

美しい少女の姿をした二人が馬車に同席している。


フェイとコンブちゃんの二人だ。

相変わらず愚痴ばかりだ。

厄介なのを伴ってしまった。


しかし、この二人が行くと言えば止める手立てなどない。

魔族もエルフも、獣人も人間も多く行き交うミライエだが、この二人ほどに異質な存在はまだいない。

いて貰っても困るけど!


「ふふっ、楽しみじゃのぉエルフ島」

「そうですね、フェイ様」

フェイは基本的に遠出が好きだ。

新しい土地や新しい体験を好む。コンブちゃんは引きこもりがちだが、フェイに誘われたときには絶対に外に出てくる。フェイの強さを恐れているというより、その黄金の体の美しさに魅入られている一人である。


美しいものが大好きなコンブちゃんは、その美しさの頂点にフェイを置いているらしい。

俺も美しいと思っているが、それは俺やコンブちゃんだけの完成ではとどまらない。


実は、バリア教に続いて有力になっている宗教がある。黄金教というらしい。これはフェイを神にした教えである。

気分が良いという理由で、フェイは時々集会に顔を出している。


「我が神である。称えよ」

と偉そうにしているだけだが、信者は非常にありがたがっているらしい。

実際にウライでは神と呼ばれていたりするし、間違いではないのかもしれない。

……フェイにやましい気持ちがないので助かっているが、凄い勢いで拡大しているのが気になる。


この二人が出てくるということは、間違いなく面倒なことが起きる。

エルフ島の美しさを見てみたーい、なんてかわいい理由なわけがない。絶対になにかあるはずだ。


「そろそろ理由を教えてくれ。何をしに行くんだ?」

「ほう、ただの観光ではないと気づいていたか」

そりゃな、フェイほどの存在がそんな簡単な理由で動かないよな。

少し緊張して、返答を待った。


「ふふっ、酒じゃ!」

……あ、そう。

警戒して損した。


何か大きなことを企てているかと思ったが、酒かーい!


「知っておるか?イリアスの地で飲まれている透明な酒を」

「透明な酒?」

ミライエで飲まれている、というより大陸で主流となっている酒は、エールと呼ばれており、麦芽から作られるお酒だ。

俺はあまり飲まないが、酒好きは口を揃えてうまいと言う。

他に有名なのは果実酒があり、こちらはブドウから作られており、酸味と渋みが強いお酒だ。


透明なお酒は聞いたことがなかった。


「お主が精力的に米を育てておるじゃろう。あれから作るんじゃ」

エルフ米から?それは知らなかった。


「昔にな、北の氷竜と酒を飲んだ際にご馳走して貰ったんじゃ。透明な酒をな。あれは美味かったのを、ふと思い出した」

「まさか、お前。エルフの島に、本当に酒を飲みに行くだけなのか?」

「もちろんじゃ!!」

……フェイがただ理由もなく遠出するはずもなかった。酒と飯以外の理由であるはずもなかった!


「ったく、ほどほどにしろよ。エルフの島は人の世界みたいに酒屋があるわけじゃないんだ」

営利目的でやっている店が少なく、そのほとんどが、自分たちが消費するために作られている。


「心配するでない。集落でちーとばかし分けて貰うだけじゃ。お礼もする」

「美しいバリアを作るからギリギリ生かしている人間、フェイ様のやることに口出しするでない」

コンブちゃんに怒られてしまった。

シールドと呼んでくれれば簡単なのに、『美しいバリアを作るからギリギリ生かしている人間』という呼び方をされる。そっちのほうが大変じゃないですか?


「まあおちつけ、コンブ。こやつは酒の味がわからぬ小童。生の楽しみを知らぬ故、許してやれ。せいぜい、我ら二人で楽しもうではないか」

「そうですね。透明なお酒……美しいものは好きです」

エールは濁っていて嫌いと言わんばかりだ。

実際、コンブちゃんは食事のときは水を飲むか、フェイに誘われた時には果実酒を飲む。

透明なお酒は、それぞれ別目的っぽいが、二人にとって大きな目的らしい。


少し、気になった。

酒を飲まない俺だが、その需要の大きさは知っている。

馴染みのない酒は大きな賭けになるが、エルフ米のうまさが浸透すれば、そこから作られるお酒は人々の興味を引くのではないか。

透明で、見た目もいいとなると、インパクトもある。


「フェイ、少しのんびりと酒を楽しんでくるといい。できれば、作り方も調べられるか?」

「ほう?お主が珍しく、正しいことを口にしたな。そう、酒の席はじっくりたっぷりとじゃ」

フェイはこれで意外と物覚えが良く、任せたことはきっちりこなしてくれる。

滅多に引き受けてくれないけど……。


「作り方か。隠れて作って、夜な夜な一人で飲む気じゃな?」

全然違うけど!

「作り方が分かれば、ミライエでも飲めるだろう?何度もエルフ島に足を運ぶのも面倒くさいだろうと思ってな」

「良い心がけじゃ。我が責任をもって作り方を習ってくる。一番おいしいつくり方をな!」

酒となると精力的になるフェイだった。

酒に命を懸けている連中は何人かみたことがあるが、フェイも同類だろう。

しっかりと作り方を学んでくれそうなところは頼りになるが、酒浸りになるフェイの姿が心配である。

とはいえ、内臓からしてつくりが違うのだろう、フェイが酔っ払った姿を見たことはない。


酒の造り方がわかれば、確かに二人の欲求を満たしてあげられそうだ。

しかし、本当の目的は我が領地と、交易上に透明な酒を並べることである。

その需要の大きさは、軽く想像しただけでイメージできる。きっと大きな利益をもたらしてくれるはずだ。


大量に作っているエルフ米の新しい活用法にもなる。フェイ学習に期待しつつ、明るい先行きを心の中で祝った。


「盛り上がっているところ悪いですが、あれ放置していいのですか?」

馬車の窓から外を指さすコンブちゃん。

小さな小窓から外を覗くと、遠くから迫る大波が見える。


空は晴れだし、なぜこんな大波が?


「エルフの島に辿り着き辛いのは、何も海流だけが問題ではなかったみたいね」

この海だけで生じる異常気象と呼ぶべきだろうか。

大波は余裕で橋を飲み込む高さを誇っている。

見た目だけの高さではなく、奥行きもある高波だ。


橋はバリア魔法で作られているので壊れることはないが、今現在通行人が結構いたりする。

エルフも行商人も、旅人も、景色を描いている画家も見えた。


こんなことが起きるなら、設計を変えないといけないな。

フェンスのバリア魔法をもっと高くして波を防ごう。新たな課題ができた。


「少し出てくる」

「早う終わらせよ。酒が待っておる」

「ほいほーい」

二人には関係のない大波でも、人々はそうはいかない。

俺たち脆弱な人間は、しっかりと対処しないと大波に飲まれて簡単に死んでしまうんだ。


「バリア――物理反射」

押し寄せる波をバリア魔法で撥ね返す。

いつしか雪崩を跳ね返したように、大波が強烈なしぶきとなって辺りに散る。

大波も、俺のバリア魔法を一ミリも動かせなかった。


大海原がバリア魔法に屈した。海が静まる。


波が穏やかになったのを見て、馬車に戻ることにした。

馬車に乗り込もうとしたとき、画家の男性に呼び止められた。


「助けていただき感謝します。今の力、もしやシールド様ですか?」

「ん?そうだが」

青年は、大事に抱えた何かを取り出す。

「これを受け取って貰えると、光栄です」

若い画家から貰ったのは、聖なるバリアが覆うミライエの遠景が描かれた絵だった。


この橋から描いたらしい。

半透明な橋も綺麗に描かれている。


絵画に理解のない俺でも、その絵の仕上がりの良さがわかる。

「感謝する。新しくできた城に飾ろう」

絵に興味を持ったのは、俺だけではなかった。

何かを嗅ぎつけたのだろう。

馬車から降りてきたコンブちゃんが絵の世界に入り込んだように、その小さな世界を見つめ続ける。


「美しいバリアを作るからギリギリ生かしている人間、この美しい絵を描くからギリギリ生かしている人間に褒美を与えよ」

ずいぶんと長い名前が二人分。


言われた通り、男性に金を渡した。

実際、この絵は美しい。買い取る価値がある。


「いえ、僕は絵が描ければそれでよいのです。お金など必要ありません」

本当に興味がないのだろう。

服装も、体に付着した絵の具の汚れも気にしていない、絵以外に無頓着な青年だった。


「愚か者。その絵を描き続けるために金がいるのです。美しい絵を描き続けなさい。また新作が出来たら、私に持ってくるのです」

「……ありがとうございます」

俺よりよっぽど芸術に理解があるコンブちゃんに褒められて、青年も嬉しそうだった。


「城に自由に出入りできるようにさせます。次回作、楽しみにしてますよ」

コンブちゃんには土地の芸術家育成を任せてもいいかもしれない。豊かになった我が領地は、そろそろ文化的豊かさを追い求める時期が来ている。


コンブちゃんに、他にも作品がないのか尋ねられた青年は、自信が無かったらと伏せていた作品を見せてくれた。

どれもうまく描けていると思えたが、本人もコンブちゃんも満足いってはいなかった。

芸術の会話に花を咲かせる二人の隅で、俺は一枚の絵を見つけた。


この男性、エルフの島に行っていたらしい。

初日から橋を使った人間のようだ。


そこには、穏やかに暮らすエルフと、広大な茶畑が描かれていた。

「あるじゃないか」

ウライ国の茶葉に対抗できそうなものが。


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