76話 バリア魔法は時代の架け橋!?
ヘレナ国から、エルフ島を渡すように通達が来た。
あまりにも突飛な話で驚いている。
イデアとの闘いのことが伝わっていて、エルフの島が俺のものになっていることも大陸では知られていた。
そしてミライエ独立の件も、獣人の国イリアスとウライ国は承認してくれている。
そんな中、ヘレナ国だけが断固として反対しており、脅迫めいた文書も届いていた。
それに続き、今回のこの要求である。
大陸の西にあるヘレナ国が、東に拠点を持てるのは大きなメリットだ。
しかし、こんなあほらしい要求に応じるわけもなく、適当に破って暖炉に放り入れた。
良く燃える、燃える。
燃え盛る炎が室内を温めてくれる。
「ふざけた連中ですね。何か制裁でも加えましょうか」
制裁!?
大国ヘレナに制裁を!?
アザゼルの発言には流石に驚いた。
ヘレナ国は自らの立場を理解していないようだが、ミライエってそこまでの強国だったの!?
国のトップである俺が一番驚いている。
「まあ、平和的にいこう。このくらいの無礼、以前の襲撃に比べたらましだ」
そう、ヘレナ国とは襲撃や暗殺、誘拐もされかけた間柄だ。
今更関係性が悪くなることもない。だって、信頼は底辺だから。
終わっているものをこれ以上どうしたって、既に終わっている。
それに、ヘレナ国が急にまたこんな態度をとってきた理由も分かっている。
一つは異世界勇者の存在だろうな。
やはり恐ろしい力の持ち主みたいで、潜り込ませているアザゼルの手駒から定期的に報告が入っている。
聖剣の魔法を使う異世界勇者の力は、300年前と同じらしく、その力を安定して使いこなせているようになってきているとのことだ。
異世界勇者の名前を出すと、フェイとアザゼルでさえ顔色が悪くなる。
「あれは、嫌じゃ!お主のバリア魔法でなんとかせい」
とフェイに丸投げされる始末だ。
「あの力は、シールド様にしかどうしようもないかと」
アザゼルもお手上げ案件である。
イデアには勝ったが、異世界勇者の力は未だにどのくらいか推し量れない。
もしかしたら、史上初めてバリア魔法が壊される日が来るのかもしれない。
それに、異世界勇者の力はそれだけではない。
毎度違う魔法を使いこなすことでも知られているので、逐一その情報も得ないと言えない。
脅威になりえる存在なので、常に新鮮な情報が必要だ。
そういった後押しもあり、ヘレナ国は強気になっている。
それと、交易所を通して、世界中にヘレナ米が流れたのだ。
ヘレナ国とは商売をしていないが、ウライ国の茶葉よりもはるかに高値が付いていることでその名を一気に広めている。当然知られていることだろう。
ウライ国のお茶は美味いんだ。
それよりも高い価値のあるエルフ米は一体どれほどのものなんだ!?という評判でさらにエルフ米の需要が高まっている。
今は量こそ少ないが、いずれはもう少し増えるはずだ。
米を食べる北のイリアスでの需要が特に高まっているらしい。これは生産するだけ売れる。そう思わせるほどの高値で売れている。
エルフはイデアからの支配を脱し、これまでの強制労働から解き放たれている。
好きに時間を使う昔の生活に戻るように伝えているが、人間世界との距離がぐっと縮まった今、エルフもこちらに強い興味を持ち始めている。
エルフ米を高値で買い取ってくれるとわかった今、彼らも少しずつ生産量を増やし、たまったお金でミライエを訪れていた。
そういうわけで近頃、ミライエでは魔族だけでなくエルフの姿も頻繁に見えている。
それに加えて、サマルトリアの街には獣人も頻繁に訪れるので、本当に国際色豊かな領地になってしまった。
土地こそ小さいが、小国とは言えない国になりつつある。そう言っていいだろう。
この地にやってくるエルフも、そして魔族も、ミライエの人間もみんな口を揃えてウライ国のお茶がうまいと口を揃えて言う。
ボマーの遺産がなくなったおかげだが、ここまで人気だと早めに対策を打たなければならない。
エルフの島で茶葉を育てたらうまいのだろうか……。
少し気になった。
絶対にうまいはずだ。
今度使われていない土地を開拓して、少し借りられないか相談してみようと思う。
エルフの作り上げた土壌は素晴らしいが、人の手が入るとダメになる可能性があるからな。慎重にいかないと。
なんとかウライ国の茶葉に対抗する手段を考えなければ。
その最有力候補となるのが、ミライエ産のエルフ米だ。
試作品ができたので、夕食に食べてみたのだが、純粋なるエルフ米とは違う触感で、こちらの方が、粒がしっかりしている。
甘味はあちらの方が強いが、これは本当に違う品種と言っていい。
普通にうまいし、差別化して売り出せえそうだ。
交易所に並ぶのは少し先になりそうだが、純粋なエルフ米と違い大量に生産できる。我が領地の名産品になれる逸品だ。少しずつミライエの魅力が増えているようでうれしい。
サマルトリアの街が順調に発展していく中、とうとう城の建設にも取り掛かった。
場所はサマルトリアの東の端っこに決まった。
城から釣り糸を垂らして、海で釣りをするという俺の夢が……!!
そういう訳ではない。
交易路のすぐ北の土地、もともとボマーの遺産があったウライ国側の土地だ。
俺がエルフの島まで橋をつなごうとしているポイントにある。
立地が非常によく、いろいろ話し合った結果ここしかないと決まった。
もしかしたら、俺が釣りをしたいという意見を汲んでくれたのかもしれない。
みんな、優しすぎないか?
港付近に多くの土地を買った嫌味な姉妹が経営するコーンウェル商会の本拠地と近くなってしまい非常に嫌だが、そこは仕方ない。
いよいよ建設が始まったので、俺もあれを実行していく。
「橋、架けるか」
これだけエルフが人間の世界に興味を持っていたなんて知らなかった。
ならば、その懸け橋となろうじゃないか。
実際に橋を架けるとなると一体どれだけの期間と人が必要になるだろうか。
いずれは数百年間使える橋を建設したいものだが、まずは手軽なのがある。
「バリア――一枚板」
馬車が2台は余裕で通れるくらいの足場をバリア魔法で作り上げる。
それをサマルトリアの陸地から置いていき、次々に同じサイズのバリア魔法を作る。
始めは人が通れる幅でいいと思っていたが、どうせ労力は同じなので幅は広くとっておいた。
バリア魔法どうしをくっつけて、後はこれをエルフの島まで延々と続けるだけだ。
何10日にも及ぶ仕事だと思われたが、フェニックスの翼で飛びながら作り上げたら一週間とかからず出来上がってしまった。
バリア魔法って消費魔力が少ないんだ、本当に!
なんどか試走して貰い、穴がないことも確認した。
一度にこれだけ長いバリア魔法を作ると魔力が枯渇してしまいそうだが、くっつける要領でコツコツ作り上げたから疲労自体はあまりない。
城の建設が全く進んでいないというのに、橋だけ完成してしまった。
あまりにも簡単な仕事だったので、人が海に落ちないように両サイドにフェンス代わりになるバリア魔法も付け加えておいた。
半透明で海の見える橋が、こうしてできた。
3年後には壊れるので気を付けて使用して欲しい。
3年は絶対に壊れないと保証するので、その点は安心して頂きたい。
半透明な橋は、使う人にとって不安になるかと思ったが、そんなことはなかった。
「めっちゃ通っとる!?」
通行を許可した当日から大量に通行人が利用する。
特殊な海流に乗らないとエルフの島には行けないの、で馬車が余裕で通れるバリアの橋はかなり需要があったみたいだ。
エルフの島の生態を変えたくないので、しばらくミライエ側からの通行を制限しなくては。
エルフの島の出入りと、土地を借りられないかの相談をしないといけないな。
仕事はまだまだありそうだと実感しつつ、橋の完成を皆と祝った。




