73話 異世界勇者の脅威と、期待されるバリア魔法
騎士団長カラサリスが特殊なギフトを所持していることは、宮廷魔法師時代から知っていた。
しかし、バリア魔法以外に興味のなかった俺はその詳細を知らない。
ギフトは魔法とはまた違うものだ。
ミライエ正規軍に所属するオリバーも得意な能力を持ち、過去の偉人を己の体に憑依させる力を持っている。
それってさあ、幽霊がこの世界にいるってコト!?
そういうのは怖いので、あまり考えないようにしている。
幽霊ってバリア魔法もすり抜けそうだから、本当に怖い。もうマヂ無理。。。バリア張ろ。。。
魔法であんなことはできない。
しかし、幽霊の存在すら証明できないのに、オリバーは確かにその力を使えている。
先人たちが説明のつかなかった特異な能力をギフトと呼んでいるわけだ。
そして、300年前にも存在が確認されているギフト持ちが今の時代にもいる。異世界勇者を召喚する能力、それが騎士団長カラサリスである。
異世界勇者と、それを召喚するギフト持ちは切っても切れない関係性だ。
ヘレナ国にて、アザゼルの駒となっている騎士から知らせが入っている。
大罪を犯したはずのカラサリスが、その能力を必要とされて復権してしまったのだ。
私欲の為にバリア魔法使いである俺を追放した男が、返り咲こうとするヘレナの意思によって牢獄から出された。
「異世界勇者を召喚して、大国ヘレナを維持したいのでしょう」
大国ヘレナの姿は見かけだけ。中身が徐々に形骸化していることを、上層部と聡い人間は気づきつつある。
聖なるバリアがあった3年で貯めこんだものも多くあるが、それも次第に消えていくことだろう。
その恐怖に耐えきれなかったヘレナ王が禁断の一手に出る。
あるものを使うのは当然かもしれないが、まさかこの平和な時代に異世界勇者を召喚するとは……。
300年前、最強ドラゴンのフェイと魔族の連合軍を打ち破ったのが異世界勇者。異世界勇者がいなければ世界が滅んでいたかもしれない。そういう時代に召喚するのは頷けるが、まさか自国の利益のために呼び寄せるとは。
そこまでやるのか……とか思ったが、当事者は気が気でないのだろうな。
我が領地は発展しており毎日が充実しているが、廃れる姿を想像したら確かに慌てふためきそうだ。禁断の力が傍にあれば、使ってしまうのも無理はないのかもしれない。
「異世界勇者の力をチラつかせて、外交で優位に立ちたいと?」
「そうでしょうな。ほほっ、実際怖くて譲歩してしまいそうです」
恐ろしい話だ。
領地を接しているからこそ、ミナントとしては余計に心配になるのだろう。
イデアに勝ったばかりだというのに、次は異世界勇者か。相手の力が未知数な以上、俺としても自信を失ってしまいそうだ。
圧倒的な力を完封したばかりバリア魔法だが、相手はフェイとアザゼルを退けた異世界勇者だ。
流石に恐ろしくなってくる。
「300年前より以前にも、異世界勇者の存在は確認されております。異世界勇者の力は毎度変わります。先代異世界勇者の力は封印魔法でした」
封印魔法……。
なるほど。それは知らなかった。
てっきり規格外の力の持ち主で、オリヴィエの如くあらゆる魔法を使いこなすものと思い込んでいた。そういう訳ではないらしい。
異世界勇者は万能ではない。しかし、力は間違いなく強大だ。
封印魔法に特化していたから、アザゼルたちは封印されていた。
戦争は異世界勇者の力によって勝ったが、戦争のダメージで異世界勇者も死んだと聞いている。
たしかアザゼルが片腕を切り落として、それが致命傷となったとか。戦後、異世界勇者は故郷に戻れずに死んだと歴史書に記されている。
悲しい最後だ。
俺たちには馴染みの深いこの世界も、異世界勇者にとっては故郷から遥か離れた知らない土地なのだ。戦争には勝ったが、きっと幸せな最後ではなかったのではないか、そんな気がした。
「今度は、どんな魔法を使う異世界勇者が来るんだろうな」
「それも気になりますが、何より恐れないといけないことがあります。歴代異世界勇者は、決まってとある魔法を使いこなすのです」
「それは、なんだ?」
そこは勉強不足だ。
というか、軽く戦いの資料にしか目を通していないので、詳細はほとんど知らない。
気になるのは、アザゼルとかフェイの部分のみだったからな。
この二人つえー!!うおおおお!!みたいな感じで歴史書に目を通していた。歴史を読み解くというよりは、伝記を楽しんでいるような感じだった。
「異世界勇者はそれぞれ別の力を持つのですが、同時に必ず一つだけ同じ魔法を使います。それが『聖剣の魔法』。斬りたいと思ったものを、必ず斬る魔法で作られた剣です」
「なにそれ」
おいおい、俺のバリア魔法とぶつかり合ったらどうなってしまうんだ!?
最強の剣と最強の盾がぶつかりあったら、それはどちらが勝ってしまうんだ?
俺が感じた疑問は、皆感じているらしい。
全員が俺に注目しているのは、そういう訳か。
俺にだってわからんぞ、結果なんて。ていうか、普通に負けそう……。
「イデアとの闘いは聞き及んでおります。流石シールド様です。圧倒的な勝ちっぷり、お見事です」
「どうも」
確かにあれは良い勝ちだった。
作戦もうまく行き、戦後処理もうまく行った。
おかげでエルフの島を手に入れ、エルフ米も手に入った。
今後も、エルフの生活を変えてしまわない程度に、あの豊かな島を活用していきたい限りだ。
「ほほっ。我らが貸した軍などいりませんでしたな。けれど、あれでもかなり準備に費用が掛かっていましてなぁ。まあ、お金などまた稼げばいいことです。大事なのは、友情。ミライエが困ったときには、いつだって力を貸しますとも」
ユアマイは終始笑顔で、上機嫌に話し続ける。
そこに繋がるのかぁ。
「ね?シールド様」
ね、ってなんだ。おっさんの、そんな可愛い反応求めていないぞ。
笑顔で見てくるユアマイの求めている答えはわかっている。
異世界勇者の牙が向くとしたら、隣接しているミナントの可能性が高い。
一度力を貸したんだ、もしもの時があればお前も力を貸せということだろう。
「……わかりました。いざというときは、力を貸しましょう」
面倒だが、こう答える他ないだろう。
なにせ今領内で大量にお金を消費していて、ミナントにお礼するお金なんてない。
異世界勇者は恐ろしいが、今金を要求されるのも非常に恐ろしい。
俺がこういう返答をするのも読んでいたんだろうな。きっと財政状況も筒抜けに違いない。そんなに金を持っていないことがばれてしまっている。
「ほほっ、やはりいつの時代も大事なのは友情ですな!」
良く言うよ。根っからの商人であるミナントの人間にもっともふさわしくない言葉だ。
いや、有効な関係は金を生み出すから、まんざらでもないのかもしれない。
「すみませんな、我々はこういう交渉しかできないのです。弱者である我らをお許しください」
そっと謝罪された。
「いや、そういうスタイル嫌いじゃない」
むしろ感心しているくらいだ。
貸した恩はいずれでかく返して貰う。
俺もいずれは使ってみようと思う一手だ。
「とはいえ、ヘレナ国がすぐに動くということはありません。異世界勇者の教育と訓練もありますし、本当にそういう強硬手段に出るとも限りませぬ」
それもそうだ。
そして、この話を受けたのは、実はミライエにもメリットがあるからだ。
騎士団長カラサリスが関わっている案件。
隣接しているミナントが危機を感じるのは当然だが、その牙が向くのはミナントに決定したわけではない。
むしろ、カラサリスは俺のことを恨んでいるだろう。
牙がミライエに向いてもなんら不思議ではない。
その際には、友情理論を俺も使わせて貰おう。
ユアマイに微笑みかけた。俺たちずっともだよね?ニッコリ。
「な、なんだか不気味な笑顔ですな」
「ソンナコトナイヨー」
棒読みなセリフが出てしまった。
話し合いを終え、その後は美味しい食事に手を伸ばす。
お腹は膨れていたが、上機嫌な体はミナントの海の幸を盛大に食らった。
これから迫る危機の話し合いをしつつ、更には独立の話もできた。
大きな収穫を得て、ミナントへの旅路を終える。




