70話 バリア魔法による大きめの計画
特別な才能を持ち、人間の世界に興味を持った美しいエルフが俺の前に通される。
「エルフのハリエットです」
戦士のエヴァンも推す逸材。エヴァンとリリアーネはエルフの島が安定したら、その座から降りて統治者を他に明け渡す気でいると聞いている。
俺もずっとファンサに任せるつもりはなく、いずれはエルフの島はエルフの統治者を置きたいと考えている。それが一番エルフの生活を守ることになりそうだからだ。
その人材が彼女、ハリエットか。
人間の世界を広く学ばせて、統治者としての器量を大きくさせたいらしい。
とてもいいことではないだろうか。
しっかりと育ってくれれば、俺としても助かる。
「まだまだ若輩者ですが、よっよろしくお願いします!」
周りの期待とは裏腹に、ハリエットは少し危うげな雰囲気だ。
大丈夫か?
見た目も15歳くらいの少女だ。
まだ少し幼さの残る容姿で、白銀の髪の毛はポニーテールにして括っており、爽やかな印象を与えてくれる。エルフ特有の白くてきめ細かい肌が健康そうな印象を底上げしてくれる。
いくら期待のエルフと言っても、若すぎないか?
聞けば、魔法の才能も飛びぬけているにも関わらず若すぎる故に、先のイデアとの戦争にも駆り出されなかったとのこと。
「まだ30年しか生きておらず、知らないことばかりですが、しっかり学ばせて下さい!」
ぶっ!
飲みかけていた紅茶を吹き出した。
こ、これだから長命種族は……。
全然俺より長く生きてるじゃないか。それで知らないことばかりなら、俺は無知の中の無知。エルフから見たら、俺なんて幼子程度の知識しかないのもかもしれない。
「人間の世界は思っているよりも欲に塗れているぞ。大丈夫か?」
ハリエットに確認した。
欲におぼれたエルフはダークエルフになってしまう。
ハリエットが第二のイデアになってくれては困るのだ。
「はい。私、純粋に知識とご飯にしか興味がないので!」
知識を得て何かをしたいわけではなく、単純に知識が目的なのか。俺にはわからない感覚だが、いかにもエルフらしい。
その高尚な知識とご飯が並ぶのか……。ミライエには美味しいものがたくさんあるから、そこは安心して欲しい。彼女の希望は通るだろう。
コックのローソンがまた忙しくなりそうだ。
ハリエットには仕事を与えて、ミライエにて人間の世界を学んで貰おうと思う。
エルフの島の視察は一旦終えて、俺はベルーガとハリエットを伴って領地に戻った。
船で戻る途中、特殊な海流に乗らないとエルフの島まで辿り付けないことを面倒に思い、橋でも作ろうかと考えた。
サマルトリアの交易路から真っすぐ伸びたエルフの島へと続く長い橋である。
もちろん、今は資金的にそんなに余裕がないので、やるとしたら俺のバリア魔法で作る。
うーん、あとで距離を測って、無理がなさそうならやってみるとしよう。
俺と一部の者だけが使える特殊な橋を用意しようじゃないか。完成図を想像してワクワクする。
ミライエに戻ってから、さっそくエルフ米の栽培に取り掛かる。
ハリエットの教えてくれた土地条件に合う場所を見繕う。
「ファーマスで良さそうだな」
ルミエスから見て南勢方角に進んでいくと、ファーマスという土地がある。
ミライエ最大の穀倉地帯である。
栽培条件を満たしているので、この地に決定する。
ここはミライエの食料生産を支えている大事な土地だ。
古い農家が多くあり、あまり手を加えていない土地でもある。
しかし、日に日に人が増えるミライエの現状を鑑みるに、食料調達の方法を増やしておかねば。
現状はだんだんと足りなくなってきた食料を、ミナントとウライ国側から輸入している。
ウライ国は小麦が安く、ミナントは海産物が安く手に入るし、二国からの輸入品はミライエのものと比べて質も高い。
ミナントには先日よりショッギョという切り札が出てきて、あのダンジョンからは他にも多くの海産物が採れ始めた。それが領内に浸透するまでもう少しかかりそうだが、大きな食料源となっている。
しかし、小麦はウライ国に頼りっぱなしだ。
なにせ、ファーマスで採れる小麦の量はあまり多くなく、しかもウライ国側の方が安くて美味い。
市場にならぶと価格と品質両方で勝てていないのが現状である。
そのため、ファーマスでの小麦の買い取り価格は徐々に落ち始め、ちょうど新しい穀物がないか求め始めていたところだ。
「エルフ米はこの地にあいますね。むしろ、好ましい環境です」
既に決めてはいたが、現地に来て最終的に可能か判断していく。
ハリエットの評価は上々だった。
このファーマスの土地は、平地が広がる土地で、一見住みやすい土地に見えるが、開発など行われず穀倉地帯になっている。
というのも、ここは高温多湿で知られる土地である。
真夏のジメジメした暑さは非常に息苦しく、汗が常に体にまとわりつく感じがする。体がべとべとして過ごし辛い上、衣服もかびやすい。
更に、昼夜の寒暖差が激しく、家畜も育て辛いと来ている。
この地は基本的に、人が住むには適していいない条件が揃いに揃ってしまい、それで豊かな平地なのに人が住む土地ではなく穀倉地帯になっている。
交易路から外れているのもあるが、今となってはそれでよかったと思う。
だって、エルフ米をたくさん育てられそうだから!
「ふむふむ、シールド様。私にこの地を任せてください。責任をもってエルフ米をお届けします」
ハリエットが自信に満ちた顔で名乗りを上げてくれた。
彼女に任せて大丈夫か考えたが、エルフのエヴァンとリリアーネだけでなく、実はファンサも彼女を認めていた。
短い間でファンサに認められたなら、信じてみてもいいかもしれない。
いきなり都会を知るよりかは、こんな穀倉地帯で学ぶ方がエルフ的にも良いだろう。30年生きているのにまだ幼さの残る彼女には、しばらくここでのんびりエルフ米を育てて貰おうか。麦わら帽子の似合いそうな美少女だ。それだけで田舎に置いておく価値がある!
さて、そうと決まれば首を挿げ替えるか。
このファーマスの土地管理を任せている男は、以前ベルーガチェックにてどちらでも可の評価を受けた男だ。
既得権益にうるさく、謎の垣根を作るそのやり方は効率が悪くて俺は反対だった。
しかし、長年この土地に根付くそのやり方を尊重して、これまでは泳がせてきた。
ミライエは大きく変わっているので、古いやり方を変えるときが来た。
現管理者にクビ宣言をしに行く。
「いままでお疲れ。褒美として土地を与えるからお前も農業に手を出したらどうだ?」
ちょうどエルフ米を育てる農家が欲しかったのだが、クビを宣告しに行ったら態度が変わってしまった。
俺を罵倒し始め、暴力に訴える脅しまでする。まったく、先の戦争に勝ったばかりだというのに、暴力に出る選択は驚きである。
「これは駄目ですね」
ベルーガセンサーにも引っかかってしまった。センサーなしでもわかるレベルだった。
今まではグレーだったというのに。
首宣言をしておいた。
首にした後、いろいろと調べてみると出てくる、出てくる。既得権益からかなりの不正な金を得ていたらしい。
うーん、ベルーガのセンサーは俺に悪意があるかどうか判断できるだけなので、不正をしているかどうかはわからない。
こんな簡単に出てくるなら、ミライエにはまだまだこういう部分があるんだろうなぁ。
良い領地にしたいのだが、難しいな。こういうところは特に。
無能はやはり積極的にクビか首にしていくか!
久々に死の領主の血が騒ぎ出しそうだ。
首を挿げ替えたので、ファーマスに新しいルールを作り上げていく。
今までのやり方ではあまりに効率が悪い。
土地を全て買い上げて、農業をやめるものはこの地から去るように伝えた。
かなりの高値で買い取ったので、他の土地に移っても豊かな生活ができる額だ。
しかし、驚いたことにほとんどがこの地に残った。俺の統治下は居心地がいいんだと。
ミライエの土地を離れる必要はないし、ここは人が住むにはきつい土地だ。他にいくらでもいい土地があることも伝えたが、去ったのは農業を引退して息子夫婦と共に住みたいと言っていた老夫婦だけだった。
まとまった金が手に入って、逆に感謝されてしまった。
やり方を変えるし、土地も取り上げた形になったが、恨みを買うどころかむしろ好評でとても助かる。
これもやはり聖なるバリアのおかげだな。あの安心感があるから、死の領主をしても俺の名声が落ちない。やはりバリア魔法最強か?
ちなみに、資金はコーンウェル商会の悪徳姉妹からのお金である。サマルトリアの一等地を買いたたかれたが、買い叩かれても破格のお金が舞い込んでいる。
買い上げた土地は、全てミライエのものとなったので、改革がやりやすくなった。
今まで個人でやっていたものが、全てミライエの管理下で動くことになったので、土地の利用も最大効率化できそうだ。
農家はミライエで雇う形態にし、それぞれ区画を任せる。
給料を払うが、多く働き多く収穫できたものにはボーナスを用意するつもりだ。
怠け者は容赦なく首にすることも伝えておく。ニッコリと伝えたので、みんな素直に頷いていた。死の領主の力ではないと思う!
1週間ほどこの地で過ごし、改革を行っていく最中に、この地の水がかなり綺麗だということが分かった。
森で磨かれた豊かな地下水は綺麗なだけでなく、ミネラルを豊富に含む水だった。
やはりエルフ米には最適な土地だな。
しかし、水質は一律ではなく、ところどころ汚れている水もあった。
均一な農作物を作り上げる必要があるので、水の汚れているとこはバリア魔法を張っておいた。
バリア魔法を通過する水はろ過されて、不純物が取り除かれる。
バリア魔法にろ過された不純物は次第に溜まっていくので、取り除く人員も確保しておく。
水問題はこれで解決だ。むしろ、水はファーマスの武器になるほど綺麗である。
「さて、エルグランドとミラーを呼び寄せるぞ」
土地を大きく変えるなら、あの二人に限る。




