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69話 バリア魔法で買収

エルフの島の視察中に、ベルーガが少女のように楽しそうに走り出した。

何事かと思えば、前を指差しながら振り向いて、満面の笑みで言う。


「シールド様!フェニックスです!フェニックスですよ!」

少女が綺麗な小鳥を見つけた時のようにテンションを上げて、ベルーガがその生物の後を追う。


まあ、生態系も一応調査の対象項目なのでいいか。

今はエルフ米の視察途中だったけど……。


空では、優雅に赤い鳥が羽ばたいていた。

小さな見た目だが、その鳥が飛んだあとには美しい赤くキラキラとした粒子が残っている。

「綺麗な鳥だな」


俺はそのくらいにしか思っていないが、ベルーガのテンションの上がり具合を見えるに、それだけではないのかもしれない。

後を追った。

楽しそうなベルーガを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。


大木の上に止まり、木の実をついばむフェニックスがいた。

藪に身をひそめるベルーガに習って、同じ動きをする。


「フェニックスは気高き生物です。綺麗な環境を好み、穏やかに暮らします。エルフの島にいるとは知りませんでした」

魔獣使いのベルーガだ。みんなが知りえないような生態をよく知っている。


「力で従えてもいいですが、長く信頼関係を築くなら他の方法がいいです。フェニックスは使役する者に翼を与えます。飛べないシールド様に最適の神獣ですね!」

……暗に、お前は飛行魔法も使えないポンコツって言われてない?

いや、言われてないか。


そこら辺コンプレックスがあるので、敏感になってしまう。

俺はバリア魔法しか使えない無能領主らしいから。どこかの大手商会の姉妹に無能呼ばわりされたのを今も少しだけ引きずっていたりする。


「何か美しいものを持っていませんか?宝石なんかを好むのですが……エルフの島は美しいですから、もしかしたら手懐けるのは難しいかもしれません……」

この美しい島で心満たされちゃっているフェニックスは、簡単な貢物では心がなびかないらしい。

それってさあ、フェニックスちゃんは高嶺の花ってコト!?

俺に口説き落とせるだろうか。


美しいもの……。

アクセサリー類は身に着けていないし、来ている服も安物だ。武器も持っていない。

俺の持っているものは……何もってねー。

水筒と軽食だけぶら下げて視察に来ている。


自分の装備の少なさに驚きつつ、魔法を使って小さなキューブを作り上げた。

唯一使えるバリア魔法で作られたキューブ。


あのダークエルフの天才イデアでさえ、傷一つつけられなかった俺のバリア魔法で作られた代物だ。

3年間絶対に壊れることのないキューブと断言しておこう。


「こんなものしかない」

ベルーガに見せてみた。

「いいかもしれません!少し試してみましょう」


ベルーガの教えを一通り聞いて、その通りにしてみた。

フェニックスは大木の上にいるので、近づくために幹をよじ登る。目を合わせてはいけないらしい。図が高いと処されるのだろうか。姫様は大変気難しい。


ったく、木を登るのは意外と体力を使う。飛行魔法が使える天才たちはいいなぁ!


警戒されないように枝まで近づき、俺はフェニックスにバリア魔法で作り上げたキューブを手渡した。

はじめ、置かれたキューブに見向きをしなかったフェニックスだったが、次第にその美しい立方体に興味を持ち始め、くちばしで突き、足でもいじってみた。


そして、目がハートマークに染まる!

俺はその瞬間を見逃さなかった。

こいつ、バリア魔法の美しさに気づいちまったか。一度気づいたら最後、一生バリア魔法の虜になること間違いないなし。バリア魔法っていいんだよなー。ペラペラペラ――。


そういえば、美しいものが大好きなコンブちゃんも認めたバリア魔法だ。フェニックスが気に入るのも納得いく。


「さあ、一緒に来るか?」

共にくれば、バリア魔法で作られた物質なんて毎日のように作ってやれるぞ。


フェニックスが食べていた木の実の最後の一口を食べて、差し出した俺の腕に飛び乗ってきた。

肩に乗っかり、頬をスリスリしてくる。

バリア魔法で買収完了。現金なやつめ。でもかわいい。


ベルーガが魔獣をかわいがる理由が少しわかる。これは愛くるしいな。

用事も済んで、木の幹から飛び降りようとしたとき、背中に炎の翼が生えた。


「おやっ?」

なんだ、これは。


少し高い木だったが、上手に着地できると思っていた。

それなのに、背中に炎の翼が。

ベルーガが先程、翼を授けると言っていたのがこれか。


試しに飛んでみると、いつもと落下速度が違う。ふわりとベルーガの前まで着地出来た。

すごっ!


翼をもっと上手に扱えれば、空を飛ぶことも夢ではないかも!?


「ベルーガ!見たか、今の!」

「はい、流石シールド様です!」

パチパチパチと拍手を送ってくれるベルーガの称賛がとてもうれしい。

着地と共に背中の炎の翼も消えたが、フェニックスがいる限り今後も使えそうだった。


「うおおおおおおおおお。俺も空を飛べるぞおおおお」

「流石シールド様!!」

拍手しながら、どこまでも褒めてくれるベルーガだった。きっと将来は素敵なお嫁さんになるに違いない。


エルフの島で思わぬ収穫を得つつ、エルフ米の視察も終えた。

思っていた以上に、エルフの島は豊かな土壌だった。


イデアが手を加えて城を建築した街以外は、畑や森といった自然に囲まれた素晴らしい環境を維持している。


城では現在、ファンサを代表においてエルフの島を統治して貰っている。

大きな問題はなく、エルフ側にも不満はなかった。

むしろ、今のところ戦いに敗れてよかったというのがエルフの大半の意見らしい。


イデアの支配から解放され、エルフはようやく本来の森と共に生きる生活に戻れたのだ。

俺の領地になった今、彼らには昔の自由を取り戻して貰いたい。


エルフは知識も豊富らしいから、いずれは人間との交流を経て我々に知識を授けて欲しいものだ。


それらは時間をかけてやっていくとして、今はエルフ米が先だ。エルフ米はかなり美味しい。

その見た目の美しさも相まって、必ず大きな需要を生むものとなる。あと、俺も安定して食べたい。

現在交易所でもっとも高値のついているウライ国の茶葉を超えるものだとみている。


しかし、大量生産をし始めるとエルフの生活を脅かしそうで怖い。

バランスが大事になってくるが、うーむ、なんとも難しい。


イデアの使っていた城に戻り、ファンサとベルーガに俺の考えを話した。

エルフ米を大陸に流したいが、エルフの生活を変えるようなことはしたくないと思っていることを。


ファンサから助言を貰えた。

「エルフ米は北で食べられている米と品種からして違います」

「そうなのか?」

てっきりエルフの島で育ったからあれだけ栄養価と旨みがあるものと思っていた。品種からして違ったのか。それならいろいろとあの旨さや見た目に納得いく部分がある。


「苗をミライエで育てればよろしいかと。気候的にも問題ないはず」

「それはいいかもしれない」

「ただし、エルフの島で育ったものほどは美味しくならないはずです。すべての面で劣るというわけではなさそうですが、間違いなく劣化商品として扱われるものと思われます」

それは困る。

それではエルフ米を育てる意味がなくなってしまいそうだ。


「エルフの島は流石です。森も土壌も全てエルフが長年育ててきたのでしょう。シールド様があまり手を加えたくないという気持ちを、私も理解できます」

エルフの生活のための政策方針だったが、この島に直に来て、その気持ちはより一層強まっている。

自然と守りたい気持ちになるんだよな。ここの美しさは。

ファンサもベルーガも理解してくれているようで、なんだか嬉しい。


「ミライエとエルフの島で育ったエルフ米を差別化すればよいかと。エルフの島で採れたものはブランド化され、取引価格が高いところで安定することになりそうです」

品質に差が生じるなら、それが現実的な方法になるだろう。


エルフ米の生産は、毎年余りが出るらしい。

エルフは金銭を持たない者も多いので、物々交換が盛んだ。


大陸の珍しい植物を送ってやれば喜ばれるだろう。

取引内容は追々詰めていくとして、今のところこの方針で進めるとしよう。


「ありがとう、ファンサ。それで行く」

流石アザゼルに代わる人材だ。アザゼルはミライエに残しているので、非常に頼りになる。

すぐにアイデアをくれる辺りは、本当にアザゼル見たいだ。


「微力ながら力になれたこと、光栄に思います」

ファンサは冷徹な表情をしたメイド服の魔族だ。

ベルーガも知り合った頃は堅苦しかったが、それとはまた異質。機械のような冷徹さを感じる。

ベルーガに言わせれば、表情を読み取るのは難しいが、ファンサもここの生活を気に入っているらしい。

エルフの島の統治者に選んで貰えたのも嬉しかったと裏で漏らしていたが、任命したときにも表情は一切動いていなかった。

少し苦手な魔族と思っていた時期もあるが、裏情報をベルーガがいつも届けてくれるので素顔を知れて安心だ。


「シールド様の施策はエルフの反感を買わないどころか、また日に日に名声が高まりそうですね」

エルフにはまだ首を刎ねる死の領主だということがばれていないらしい。このまま隠そうと思う。


「予言の人……というのがいるらしく、その人間が領主様と名声を二分しているのが気がかりくらいですね、現状は。ですが、これも時間の問題でしょう」

「まーた変なのがいるな」

ミライエに入った時もそんなのがいた。あれはオリヴィエが犯人だと判明したが、今度は一体どこのどいつだ。

今後エルフに変な影響を与えそうなら首を刎ねるが、今は放置でいいか。


「さて、エルフ米をミライエで育てる計画を立てるとしよう」

「エルフの中にも人間の世界に興味を持っている者がいるようです。連れていかれては?なかなかに見どころのある方達です」

ほう。面白い。

1000年生きるエルフの英知を分けて貰えるならなんとも助かる。いずれ授けてくれれば助かる程度にしか思っていなかったが、さっそくチャンスが来たか。


しかし、エルフは欲にまみれるとダークエルフに堕ちるんだろ?

人間の汚れた世界を見せるのが不安だ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここでも行き違いかぁ…祭り上げられたまま待ってたら自然と再会できたんだろうなぁ
[一言] 犯人はオリヴィエかオリヴィエかオリヴィエだな 俺はこういう事件に詳しいんだ
[一言] あれはオリヴィエが犯人だと判明したが、今度は一体どこのオリヴィエだ。
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