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68話 エルフの島の恵みをバリア魔法で守らねば

イデアが敗れたという情報が知れ渡ると、戦場は形勢が傾くというレベルではなくなっていた。

ほとんどのエルフが戦いを放棄し、全面戦争降伏したのだ。


もともとイデアによる支配の上で戦わされていたのであって、エルフ自体好戦的な気質ではない。

むしろ平和的で温厚なのがエルフの特徴らしい。300年前の神々の戦争時代も、人間に同情した心優しきエルフが助けてくれたに過ぎない。争いは基本行わないのがエルフである。


そういったこともあり、3万の軍勢は戦いをやめた。バリア魔法が無ければ、この魔法のエリート集団に大陸が蹂躙されていた未来もあったかもしれないな。

とりあえず、うまく行って良かった。

すべての条件を飲むということで、こちらとしては大変助かる降伏の仕方をしてくれた。

武器も放棄し、戦後の後始末もとんとん拍子に進んでいく。


自軍の被害はほとんどなく、エルフ側にも大きな損傷はない。

戦争の遺恨は、ほとんど残りそうになかった。


海上の犠牲はそこそこあるものの、ほとんど全てがエルフが側のダメージだ。

空はダークエルフ側の被害が大きく、うちは魔族が数名寝込む程度の被害だ。

やはりイデアとの決着がそうそうに着いたのがよかった。戦いを急いだのは吉と出たな。


「二人ともよくやってくれた」

アザゼルとベルーガに大きな仕事を任せたが、二人とも赤いドラゴンを葬ってくれた。

二人の表情は、戦いの前よりも少し晴れやかに見える。

何かあったのだろうか?

大きな重しを取り去った、そんな表情に見えた。


「自らの因縁とお別れしたまでです。感謝しております、強者と戦わせていただいたこと」

そんなことを感謝されても……。


ドラゴンを押さえつけてくれたから、戦争が早く終わったのだ。

感謝されるべきはそちらだ。


アザゼルを始めとした魔族を労っていく。

正規軍もよくやってくれた。報奨金を出すのはもちろんとして、今度の査定を楽しみに待っていて欲しい。今度こそ給料を上げます!

オリバーとカプレーゼをはじめ、本当によくやってくれたと思う。自信がより一層着いたのも、またいい結果だったな。


軍と言えば、ギガもエルフ最高の戦士と互角以上にやりあってくれた。

決着がつかなかったらしく、妙な友情を芽生えさせている。後日決着をつけるとのこと。

戦闘狂はこれだから困るぜ。


そのギガと謎の友情を結んだのが、エルフ最高の戦士エヴァンだ。それと先日保護したエルフのリリアーネ。この二人がエルフ側の代表となって、戦後処理を行うこととなった。


「まずは、戦争を早々に終わらせてくれ、エルフ側に危害も加えなかったことを感謝したい」

ミライエの領主邸で行われた話し合いの場で、エヴァンは深々と頭を下げてお礼を述べた。

リリアーネも続く。


堅苦しいのは苦手だが、まあ気持ちは受け取っておこう。


「我々は全面降伏した身。すべての条件を飲む気でいます。しかし、慈悲深い統治者で知られるシールド・レイアレス様の慈悲が、我々にも少しばかり向くことを願っております」

慈悲深い?この俺が?


さては、エヴァン。情報収集を怠ったな?

俺は死の領主で通っているはずだ。慈悲深い統治者だなんて、それはベルーガに任せて流させたデマの方だぞ。

くっくく、まんまと引っかかったな!


「戦争の原因となったイデアは死んだし、ダークエルフも数を大きく減らした。準備にいろいろと戦費はかかったものの、人も街にも被害はほぼない。俺としては、賠償などは求めないつもりだ」

「……ありがとうございます」

「しかし」

この単語で場に沈黙が流れる。

当然、この場にいるだれもがただで済むとは思っていなかった。

緊張した空気感が俺にも伝わる。


「エルフの島は、今後俺の領地とする。ルールを決めるし、統治者もこちら側から送り込む」

エヴァンとリリアーネは黙り込んだ。

ここまでの話は予想できたのだろう。問題は内容である。


統治内容がひどければ、イデアの支配と変わらなくなってしまう。

けれど、安心してくれ。

俺にも外聞があるからな。それにエルフをひどく扱う意味もない。

特別何かが欲しい訳でもないしな。


「統治のルールは追々詰めていくとして、とりあえずはミライエと同じ法を適用する。まあ最初は馴染めないかもしれないが、それは調整していくから安心してくれ」

お互いを見つめあい、エヴァンとリリアーネはホッとしていた。

実際そんなにひどいことはしないつもりだし、むしろエルフ側にも平穏に暮らして欲しいと思っている。

もちろん、不正者の首は飛ぶけどね!


ウライ国とミナントとはまたいろいろ話し合いが必要そうだ。二国から何も報酬はいらないと言われているが、そういうわけにもいかないだろう。いずれ何か送ろうと思う。

ガブリエルはまた後日大事な話を持ってくると言い、ミナントへと戻っている。


久々にあのエロエロお姉さんに抱き着かれて美味しい思いをさせて貰ったりした上に、更に大事な話だと?

とても気になったが、忙しいのが感謝だけ伝えておいた。


領地は幸いとても豊かだし、ウライ国にもミナントにも大きなお礼を送り届けられそうだ。


二国に被害が出なかったのもよかった。

エルフとの遺恨が残っていないのも、統治しやすい理由になってくれる。


いずれはエルフの島にも聖なるバリアを張れたらいいのだが、それで他国の不興を買ってはまずいので、ゆっくりと話し合いの席を設けようと思う。

なにせ、俺のバリア魔法は結構規模が大きめの話になるんだ、これが。


ヘレナ国から出て、時間も経っている。かつての、そこそこいい魔法だよね、から世界に影響を与えるほどの魔法だという認識に、徐々にスイッチの切り替えが出来てきている。学のない俺でもこのくらいは理解してきている。


何より、イデアに勝ったことが大きい。

あんな魔法を無傷で防いだのだ。流石に自分のバリア魔法が誇らしいし、世界最強では?という自覚まで持ち始めている。


バリア魔法、やはり最強か?


最強の力をもってしても、周りとは上手にやっていきたいのでゆっくりと歩んでいこう。


「寛大なお心遣いに感謝いたします。そういえば、いろいろと貢物を持ってきていますので、どうぞ」

エヴァンの指示で会議の場に運び入れられたのは、エルフの島で生産された名品たちだった。


珍しいものは俺じゃなく、御用商人のブルックスに見せてやりたいものが多かった。

俺は、うわぁきれー、くらいの感想しか出てこないが、ブルックスは喜ぶだろうな。いや、あいつは金の計算しかしないかもしれない。どっちもどっちか。


「エルフの絹か……綺麗だ」

なめらかで仄かに光沢を放つこの生地は、女性が目を飛び出して欲しがりそうな代物だ。

実際、この会議の席にいるベルーガがわずかに興味を持っているのがわかる。

分かりやすい反応が見えたので、それとなくベルーガの方に渡しておいた。

頬を染めて嬉しそうにしている。それはベルーガにあげるとしよう。俺はもっと動きやすくて頑丈な生地が好きだ。ああいうのは女性が丁寧に扱ってくれそうだし、ベルーガ程美しい女性だからこそより映えることだろう。


相応しい人に、相応しい物を。


「こちらは、エルフの島で採れる特殊な鉄鉱石で作られた剣です。名匠が仕上げた逸品で、間違いのない仕上がりかと」

こちらも仄かに光沢を放つ件だった。聖なる力でも宿っていそうな美しさだ。


「シールド様、これは私が貰ってもよろしいですか?」

「ん?もちろんだが」

アザゼルが物を欲しがるなんて珍しい。

俺は剣なんて使えないし、アザゼルとベルーガには戦いの功績と普段の働きに報いて何をやろうと思い悩んでいたところだ。


二人がそれぞれ欲しいものがあって、良かったと思っているくらい。

しかし、実に興味深い。理由を聞いてみたいと思った。


「……古い相棒に別れを告げたばかりでして。これからは、この剣を相棒に、新しい時代を生きようかと」

なんか遠回しな言葉でよく理解できなかった。アザゼルの過去と関係のありそうな話だ。まあ、いいか。アザゼルの嬉しそうな顔を久々に見られて、俺も気持ちがハッピーだ。


「これで最後になります。エルフ米にございます」

最後に送られたのは、木箱にたっぷりと入った白い粒だった。

米というのは聞いたことがある。大陸の主食は小麦なのだが、北のイリアスでは米を食べる地方もあるとか情報で知っている程度。エルフも米を食べるのは知らなかった。


つい最近までエルフの生態について、ほとんど知らなったくらいだしな。

もちろん、俺自身も食べたことがない。


「米の中でも、エルフの島の豊かな土壌で育った特殊な米です。エルフの職人が熟練の技術をもってして、安心安全に美味しく実らせた極上の代物です。どうぞお納めください」

こういう物を貰えると、エルフを酷く扱うのも難しくなるよな。捧げものって大事なんだねって貰う身になって初めて実感している。


「ローソンに作らせて、さっそく夕食のときに食べよう」

「毒見は私が」

「いいや。大丈夫だ」

エルフを信用しているとかじゃない。バリア魔法のおかげで毒とか効かないんだ、この体は。

ベルーガのありがたい申し出を断る。俺が食べることで、エヴァンたちを信頼していますよというポーズにもなる。毒が本当に入っていた時は、その時に首を刎ねればいいだけのこと。


なかなかに駆け引きがうまくなったなぁと自画自賛しながら、話し合いの場を終えた。

エルフの島の統治者は、当分の間ファンサに任せる。その補佐にエルフであるエヴァンとリリアーネをつける予定だ。

徐々にエルフの島に馴染んだ統治をさせていくつもりである。


こうして戦いは終わり、戦後の処理も終わった。

まだ他国とも話し合いをする必要があるし、何よりエルフの島をどう活かすかも考えないといけないが、そのヒントが夕食に隠されていた。


ローソンは流石一流の料理人だけあり、米の調理方法も知っていた。

夕食の席に同席したエヴァンとリリアーネも褒めるほどの綺麗な炊き上がりである。


米が立ち上がるのが、いい炊き方らしい。二人が興奮して褒めるので、おそらく大正解なのだろう。知らんけど。


そんな適当なことを考えていた俺だが、エルフ米を口に運んだ途端、二人の興奮具合を理解することとなる。


「ん!?」

なんだこれは。

あまい!口いっぱいに広がるあまみと豊かな土壌からくるミネラルの旨み。

なんなんだこれは。ショッギョを始めて食べた時と同じ衝撃が脳内で起きている。


パン!パンっ!パンっ!!

米なのに、パン!!


俺の頭の中で何かが弾けた。いけない脳内物質が出ている感じがする。

「うますぎだろ、これぇ……」

おかずが必要ないだと?エルフ米単体で食が進んでいく。止まらない。止まらないよ!

米、うんめー!


「エヴァン、エルフ米は量産できるのか?」

「もちろんでございます。土地を上手に休めれば、半永久的に収穫できるかと」

「ほう……」

決まったな。エルフの島の正しい活かし方を。

エルフはもともと森と大地と共に生きる種族だ。


畑仕事も好きで、食べる分に必要な適度な狩りも好きらしい。

自然と共に生きる素晴らしい生活だ。彼らのそんな適性を活かしながら、大陸にも大きな恵みを届けられそうな計画が思い浮かぶ。街づくりに続いて、面白いことができそうだと感じている。


大きな勝利と大きな報酬を届けてくれたバリア魔法に再度感謝ししながら、俺は美味しい米を平らげた。



――。


「うおおおおおお。やはりお告げの方だったか」

「オリヴィエ様に栄光あれ―!!」

オリヴィエがエルフの島に流れ着いて以降、襲い掛かってくるダークエルフとの戦闘にとことん勝ち続けた。

魔法に長けたダークエルフでも、オリヴィエを前には手も足も出ない。幹部クラスでようやくいい勝負に持ち込めるレベルだ。しかし、その幹部もすでにオリヴィエの前に敗れさり、森の一部に還っていた。


「どうか我らの女王に!」

「救いの女神に!」

まずい。

ミライエの辺境で受けた扱いと似た感じになりつつあることを自覚してきた。


実際、今日も祭壇に座らされ、顔には黒い墨で特殊なメイクをされている。

目の下の黒いメイクが濃い隈みたいで、非常に嫌だ。


目の前には豚の丸焼きが一頭ぶら下がっており、捧げものにされている。

(普通に食べられるわけないし、なんか見た目が無理)


そろそろ潮時だと感じていたオリヴィエは、皆に別れを告げる。

「お告げの人の役目は終わりました。私は天に帰るとしましょう」

「なっ!?」

エルフたちの制止を無視して、幻惑の魔法でエルフたちの目を一時的にくらます。その隙に移動魔法で逃げた。


新しい時代が到来しようというエルフの島から、オリヴィエが脱出する。

船はエルフのものを頂戴した。

「ミライエに!帰らなくちゃ!」

風魔法を起こして、帆に風を当てて進んでいく。


「……シールド、久々に会いたいなぁ」

船は順調に進んでいく。北へと向かって。

方角の感覚がずれているオリヴィエは、またもシールドから遠ざかっていく。当分会えそうにない。

2章完結です!次話から3章です!あの人が戻ってきます!楽しみに!


ここまで読んでくれたこと感謝します。★とブクマを入れてくれると、モチベーション維持につながるのでどうかよろしくお願いします。ではでは、また明日からも頑張って書いていきます!誤字報告とも向き合わねば……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 嗚呼…オリヴィエちゃん…
[良い点] シールドから離れて三千里
[気になる点] 裏切者のゲーマグは何処に? [一言] 更新お疲れ様です! 面白いのであっという間にここまで読み進んでしまいました。 今後の展開が増々楽しみです。
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