65話 速報!バリア魔法無傷!
正直言って、非常に驚いている。
イデアから放たれたあの凄まじい魔法が俺のただのバリア魔法とぶつかり、無事で済むはずがないと思っていた。
それなのに結果は……無傷だった。そう、無傷なのだ!
俺のバリア魔法、かすり傷すら入らず威風堂々としていた。
もしかして、先ほどの魔法はただのこけおどし?
太陽かと錯覚する程やばそうだったが、見た目ほどやばい魔法じゃないのかも知れない。
そうなのだろう。
いや、そうに違いない。
海に穴が開いてるし、水を一瞬で蒸発させてたけど、たぶん見かけ倒しなのだろう。
そんなわけあるか!と自分でつっこんでしまった。
あれだけ凄そうな存在感を醸し出しておいて、しかも一代でセルフの島を征服し、ディストピアを築き上げた存在だぞ。
まさか、バリア魔法に傷一つ付けられないなんてことはないよね? ……ないよね?
先ほどの太陽かと見間違う魔法は、完全にやばい雰囲気だった。もしやバリア魔法が壊れるのでは? と俺に思わせるほどの魔法。
だから、ずっと身構えていたのだ。
バリア魔法が壊れた後、またすぐに新しいバリア魔法を張れるように。ずっと経過を見ていられるように、目にバリア魔法を使い強い光から守っていた。
以前ゲーマグと戦った後に考案した、目くらまし系の対策用に編み出したバリア魔法だ。
何度か訓練はしているものの、実戦は初めてだし、これだけ強い光も初めてだったがうまくいった。眩しく感じることもなく見続けることができた。
魔法がぶつかり合う間、注意してずっと見守っていた。
海の上の正規軍はバリア魔法が要となるので、バリア魔法は絶対に突破されてはならない。
バリア魔法は破られた途端に価値がなくなってしまう。
なんなら自信がなくて、壊れてもいないのに、すでに張る一歩手前だったくらいだ。
それなのに、なんだこの結果は。
「……え? イデア弱くね?」
「いいえ、シールド様のバリア魔法が凄まじいだけです」
そうなのか?
アザゼル、それが答えなのか?
俺は少し、わからなくなってきてるんだ。
そりゃ自分の魔法には自信があるけど、今ので無傷?
このバリア魔法は聖なるバリアとは違う。
完全に全てをシャットアウトするバリア魔法で魔法反射や物理反射もつけていない。つくりが簡単なぶん、防御力がシンプルに最強だ。
しかし、それでも無傷ってあり得るのか?
相手は、あのイデアだぞ?
あまりにも差がでかすぎて、むしろこちらが困惑してくる。
イデアさん、それ本気じゃないよね? 切に願う。敵がもっと強くあってくれと願ったのは初めてかもしれない。
何のための準備だったんだとか思いながらあたりを見回すと、皆この結果を当然のように受け止めていた。
まさか、バリア魔法が壊れるかもしれないとわずかでも思っていたのは、俺だけ?
これにも驚きだ。
俺以外は、誰一人としてバリア魔法が壊れるとは思っていなかったと?
そんなに信じて貰えていただなんて、みんなまさか俺のバリア魔法が大好きなのか? ひっ、非常に光栄です。俺はバリア魔法を称えられると、いつも通り滅茶苦茶嬉しいんだ。
見れば、海の上でも士気がさらに高まっていた。
もとより負けるつもりなどないといった雰囲気だったが、大将同士の魔法がぶつかり、こちらが勝ったことで下は楽勝モードに入っている。
「これは楽勝ですね」
ベルーガが嬉しそうに言った。上も楽勝モードでした。
「まあ、この結果は見えていましたが」
ベルーガは最初から俺のバリア魔法を信じてくれていたみたいで、ずっと自信満々な表情だった。
味方がこれほどまでに頼もしいのだ。俺ももっと堂々としなければ、それこそ不動のバリア魔法のように。
「勢いに乗じる。このままイデアに勝負をかけよう。行くぞ!」
空からバリア魔法を通り抜け、精鋭部隊を連れてイデアに向かっていく。
下の戦いも優勢だが、エルフ側にもあまり被害を出したくない。
なにせ、戦いの後、エルフの島は俺のものになるんだ。その予定。
イデアを倒せば全て済むはず。
下が圧勝する前に、上で決着をつけねば。
タイミングよく、イデアが派手な魔法をバリア魔法にぶつけ続ける。
どれも見たことのない魔法で、一点集中に貫く金属の塊はまたも俺を少しだけ不安にさせた。
一度ぶつかった金属が勢いを弱めるどころか、なぜか衝突先がより鋭く変形し、更に威力を高めていた。
しかし、残念。やはりバリア魔法は壊れないのである。
続いてバリア魔法に粘着して燃え続ける炎魔法も飛んできた。
「ああ、あれは大丈夫だ」
ちょっと違うんだよなー。あれはバリア魔法に勝てる気がしない。それはわかった。
バリア魔法の頑丈さが俺の心を勇気づけてくれる。
やはり海上の囮と、イデアの魔法がいい陽動になったのだろう。空からの奇襲は完全に成功した。
イデアの頭上まですんなりと来られた。
雲間からこのまま畳みかけるとしよう。
そうしようと思った時だった。
雲のさらに上から赤いドラゴンが現れる。吠えたその声量は辺りに明確な振動を感じさせる程のものだった。
「ウェルシュ……」
アザゼルはその存在を知っていたみたいで、額に冷や汗を浮かべている。
「強いのか?」
「フェイ様やコンブ様程ではありませんが……ドラゴンですので」
「なら俺がやる」
イデアが目前だが、こんなの放っておけないよな。
「いいえ、ここは私とアザゼル様にお任せください。久々に本気を出します。シールド様はイデアのもとへ」
「それもそうですね。これしき勝てなければ、シールド様にお仕えする身として恥ずかしい」
ベルーガに続いて、アザゼルまでやる気だ。
相手はドラゴンだ。
フェイの規格外の力を知っているからこそ、余計に心配になる。
しかし、二人はもうやる気満々の表情だ。
……任せるとしよう。
アザゼルもベルーガもただものではない。俺が心配してやるのが失礼なほどに凄い魔法の使い手だ。
「先に行く!」
「「はっ」」
アザゼルとベルーガを置いて、他の魔族とともに前進する。
いよいよイデアに迫る。
「シールド様、雑魚はお任せを」
ギガが横に並ぶ。
イデアの周りにいるダークエルフは、ギガを始めとしたうちの精鋭が排除してくれるとのこと。
それなら、俺の仕事はシンプルだ。
グリフィンに乗って、裸の男に近づいていく。
直視したくなかったけど、その股間が直に見える距離まで来た。
「シールド・レイアレス……!」
「うえっ。イデア」
大将同士が向き合った。
さて、倒すのは当然として、俺は聞いておかなきゃならないことがある。
「お前、なんで服を着ていないんだ?」
「ふははは、バカには見えぬ服を着ているのだ」
「は? 魔法を勉強しすぎて頭やられたのかよ」
これだから天才たちは苦手なんだ。
学ぶならシンプルに一つにしときなさいって!
俺のようにバリア魔法だけ学んでいれば、頭もすっきりで毎日が楽だぞ。
頼むから、下着を着てくれ。最大の願いはそれかもしれない。
――。
イデアは人生でもっとも焦燥感を覚えていた。
自分の魔法が、全く通用しない。
開戦前に抱いていたよりも、シールド・レイアレスのバリア魔法は凄いものだと評価を改めていたはずだった。
だからこそ、一撃目から自身のもっとも得意とし、最強である太陽の魔法を全力でぶつけた。
一撃でバリア魔法を壊し、絶望させる演出の為にも、手を抜く必要性はなかったからだ。
しかし、ふたを開けてみれば、バリア魔法は無傷。そう、無傷である。
太陽の魔法はかき消された。初めから何もなかったかのように、バリア魔法は海を分かち、そこに堂々と存在し続ける。
「……なぜ?」
理解が追い付かない。
たかだが、初級魔法であるはずのバリア魔法がなぜ壊れない。
こんなに広範囲に張っておいて、この強度?
あり得ない。あり得ないことが、目の前で起きていた。
「相性か? きっとそうに違いない」
太陽の魔法と相性が悪かった、それ以外に考えられない。
後ろに控えるダークエルフたちの目にも疑念が生じ始める。
力で支配している関係だ。
シールド・レイアレスの魔法がイデアの魔法より強いと認知されてしまったら、イデアの支配はその瞬間終わってしまう。
負けるわけにはいかないのだ。勝利こそが、イデアに求められる絶対条件。
バリア魔法を何としてでも、壊さなければ、今の立場はもう失ったも等しい。
焦燥感に包まれるイデアの後ろで、もう一人絶望している男がいた。
ゲーマグはこの場でイデアに次いで、戸惑っている人物だった。
ダークエルフのイデアに勝てるわけがないと踏んで、ミライエを裏切ってエルフたちの陣営に駆け込んだというのに、バリア魔法は傷一つついていない。
本当に傷一つなく、バリア魔法は太陽に照らされて美しくそびえ立っている。
自らの判断が間違いだった可能性が高くなってきて、ゲーマグはそっと目を閉じた。少しでも、この後の運命が良くなることを願って。ほろりと涙が流れたのは、ゲーマグ本人しか知らない悲しき事実。
そんな悲哀に満ちたゲーマグの心情など知るはずもなく、イデアは対策を練る。
無限炎の魔法と、最高純度の鉱石弾をバリア魔法に続けざまにぶつける。
おそらく広範囲魔法よりも、一点集中が良いと判断しての魔法だった。
既にイデアの表情に余裕などない。
もっとも自信のある魔法が完敗したのだ。祈るような思いで魔法を放ったのは初めてだった。
イデアは人生で初めて祈ったかもしれない。今までの人生、魔法で、力で、自身の才能で解決できないことはなかった。
しかし、それが敵わない相手が出てきた。
工夫を凝らした一点集中の魔法もバリア魔法を壊しそうな様子は見られない。初の挫折。
突如、幼少期の記憶が頭をよぎった。
イデアは良く叱られていた。長老に森への感謝が足りていないと事あるごとに。その度に反発したものだった。
魔法の強さこそ正義、森への祈りなど無意味。そう信じて止まなかった。実際、ここまではそれでうまく行っていた。
「頼む……」
気づけば、幼いころに言われたように森へ祈りをささげていた。今ばかりは……。一度でいいから……。頼む!
その願いが通じたのか、空から赤いドラゴンの吠えた声が聞こえた。
頭上に敵がいる。海にばかり注意を払っていたので、完全に無警戒だった。
アザゼルとベルーガがドラゴンに向かっていくのが見えた。
多くの魔族が空から飛びかかってくる。
ダークエルフの部下たちがそれに応戦していく中、一人の人間が接近してきた。
グリフィンに乗った男は、人相書きで見た顔だった。
祈ってみるものだな。
バリア魔法を突破できない窮地に、大将首が自ら懐に飛び込んできた。
「シールド・レイアレス……!」
「うえっ。イデア」
こいつを倒せば、バリア魔法も壊れる。
幸運が舞い降りた。
シールド・レイアレスがそのバリア魔法を作り上げている本人。ならばバリア魔法よりも手強いということを忘れているおかしな思考だったが、イデアは気づいていない。
森への祈りが通じたと信じて疑わず、目の前にやってきたシールド・レイアレスにも勝てる気でいた。
イデアはもう一つ忘れている。ダークエルフはエルフの森の加護を失うことを。
それをすぐに思い出すことになろうとは、今はまだ知らない。




