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61話 バリア魔法の値段

コーンウェル名乗る商会が領主の俺に直々に苦情を寄せてきた。

今のままでは海の道が死んでいるのでどうにかして欲しいとの要望だ。


コーンウェルの名は以前から知っている。

ヘレナ国でも名を轟かせていた大商人である。

この地に拠点を作ってくれたのはありがたいが、如何せん問題が多いらしく手を焼くことが多いとのこと。影響力も大きいから、扱い辛い。


実際、海はそろそろなんとかしようと思っていたので、タイミングとしてはちょうどいいか。

直々に文句を言いたいらしく、商会に招かれている。

大陸に名を知らしめるコーンウェル商会である。


わざわざ出向いてやる義理はないが、珍しいものが食べられそうなので行くことにした。


サマルトリアの地にはベルーガを伴って向かっている。

アザゼルは忙しく、コンブちゃんとフェイも誘ってみたが興味ないらしい。

二人がいれば海の魔物駆除も楽そうだったが、嫌なら仕方ない。俺とベルーガだけでも十分すぎるだろう。


コーンウェル商会は、サマルトリアの地、海に面した港を付近に土地を購入していた。

そこに行くと、すでに大きな建物がいくつか並んでいて、この地を通る人たちも徐々にここを訪れ始めていた。すでに活気があるのは凄いの一言に尽きる。


「宿屋もやっているのか」

「いずれは貿易拠点にする予定らしいですが、これだけ広大な土地ですからね。いろいろとやれそうです」

そう、コーンウェル商会はやはり大商会なだけあって、あの先行的に土地を売り出した際にも多くの土地を購入してお金を落としていってくれている。


土地を買いにきたときは、代理の者だったが、今日は当主が来ているらしい。ヘレナ国にいた頃からコーンウェル商会の名前は知っていたので、そのトップと会えるのは好奇心がくすぐられる。


「おそいっ!」

コーンウェル商会の仮拠点となっている建物に入ると、少しイライラした身長の低い女性に怒鳴られた。

肩くらいの長さに切りそろえた深い緑色の髪の毛。毛先にパーマをかけ、黒いワンピースにハイヒールを履いた美人さんだった。

少し幼く見えるのは、身長が低いからだろうか?


「今私のこと子供だと思った?」

「い、いや……」

思ったけど!ごめんなさい。


続いて、奥からまっすぐな髪をしたショートカットの美人さんが出てくる。こちらは身長が高くてすらりとした美人さんだ。ワンピースとハイヒールは先ほどの女性と同じ。

二人とも真珠のネックレスを身に着けていた。


「コーンウェル商会の当主に招かれてきた、領主のシールド・レイアレスだ」

「分かっている。だからこうして出迎えている」

「はい?」

「失礼な。こちらはそちらの顔を知っているのに、私のことは知らないの?」

まさか……。

この女性がそうなのか?


数万人を雇っているというコーンウェル商会のトップがこんなちびっ子?


「今身長のこと考えたかしら?」

鋭い!

「ま、まさかぁ。人を見た目で判断する奴は終わってるよな?ベルーガ」

「流石です、シールド様」

「口だけじゃなければいいけどね」

ジトっとした目で俺のことを睨むこの女性は、完全に俺のことを信じていない雰囲気だ。


「私がコーンウェル商会のトップ、ゼロ。父から受け継いだ商会を世界一の規模にした天才よ」

「自分で言っちゃうのか」

「悪い!?」

「い、いえ」

覇気の強い人だ。ちょっと苦手。

「後ろに控えるのが妹のイチ。私がいないときはイチの意見を優先して頂戴」

「よろしくお願いいたします。姉の足元にも及びませんが、姉がいないときには私をお使いください」

後ろの長身美女は非常に礼儀正しい人だった。

色気のある人で、とてもおしとやかに話す。

どっちが姉かわからなくなるような見た目だ。


二人は一蓮托生らしい。

お互いへの強い信頼感は、血のつながった者同士でした得られない強いつながりに思えた。


「あんた、仕事が遅いのよ!港をとっとと作りなさいよ!私を優先せずに内陸の開発ばっかしてんじゃないわよ!」

なにこの女王様……。

性格がまじで無理。絶対に一緒に暮らせないタイプ。

「姉が失礼な物言いで申し訳ございません」

妹のイチさんが代わりに謝罪するのか。こっちは一緒に暮らせるタイプです。


「開発が遅れてるのは、どうせ資金に困ってんでしょ。ろくに税金もとらないからそうなるのよ。まあこちらとしてはやりやすくて助かってるけど」

「苦情なのか、褒めてるのかはっきりしてくれ」

「もちろん苦情よ!」

気の強い人は苦手だが、ここまで強いと個性に見えてきてなんだか不思議とムカつかない。

それがなんかまた悔しい。言いたい放題を俺は許さんが、今のところ反論の余地がないので黙ってしまう。


「ちゃんとやっている。こ、この後魔物を駆除する予定だ」

「あんたの有能な部下を使ってとっととやりなさいよ!あんたは無能なんだから、そういうのは向いてる連中を使えばいいのよ!」

言いたい放題!俺のこと無能って!


「おっおい、ベルーガ、なんか言ってやれ」

「シールド様はこの領地に聖なるバリアを張っただけでも偉大な功績を残しているのです。決して無能ではないかと」

「そんなことわかってるわ!だから、こうしてコーンウェル商会の拠点をここに移そうと考えてるんでしょうが!」


……もう疲れるから相手にしたくない。

けなしているのか、褒めているのか、どっちを言いたいのかわからない女性だ。


「そもそも私は部下に腹がたってるのよ!なんでこの海側を買ったのかしら。どう計画を読んでも、南が安パイだし、更にリスク覚悟で予想するなら交易所付近の土地を抑えられたでしょうに」

そういえばコーンウェル商会は代理の者が土地の先行購入の時にきていたな。

ゼロなら、ここじゃない場所を買ったと?

ど真ん中の土地を買えたと。なかなか信じられない話だ。

それは後からいくらでも言えそうだからな。


「じゃあなぜお前が直々に来なかった?」

「そりゃでかいリスクがあるから、優先順位を落としていたからよ。他にも大事な仕事があったの」

「でかいリスクってなんだ」

「まさか知らないわけじゃないでしょうね」

にやりと笑うゼロは、あのことを知っているのだろうか?


「あんた、エルフとの戦争に勝てるの?」

やはり知っていたか。

その情報を知っていたら、この地に本格的に移れないのも頷ける話だ。


しかし、どこから情報を掴んだのだろうか。

全く、俺でさえエルフの幸運が無ければ全く知らない情報だったというのに。


これが大陸最強の商会のトップか。


「勝つしかないだろ。ここは俺の領地だ。せっかくここまで順調に来たのに、エルフに全部持っていかれてたまるか。それと、これだけは約束してやろう」

「なに?」

「勝つ気ではいるけど、約束はできない。しかし、絶対に負けない。バリア魔法があるからな」

俺のバリア魔法がある限り、負けるのも難しんだ。これが。


「……ほう」

値踏みするように俺のことを見るゼロ。

ずいぶんと時間をかけてみてくる。……照れるからやめてくれ。


少ししてゼロが頷いた。


「無能領主シールド・レイアレスの勝ちに賭けるとしよう」

貶さないと褒められない人らしい。まあ、早くも慣れてきたからいいか。


「イチ。資金をこっちに投入するぞ。でかい商売の始まりだ」

「はい、姉さま」

「いいのか?こんなリスクの大きい判断を下して」

俺の言葉では揺らぐような判断ではないらしい。一切表情を崩すことなく、その思考を披露してくれる。


「シールド・レイアレスは無能だけど、このバリアは有能よ。信じる価値のあるものね。このバリア基準でものを考えると、思考がシンプルでいいわね」

「たしかに!それは素晴らしい判断だ」

グッド!

バリア魔法を誉められると俺は無性に嬉しいんだ。自分のことを無能と呼ばれても、バリア魔法を誉められると差し引きでだいぶおつりがくる。不思議なものだ。


「拠点を移してあげる。だから、交易所付近の土地を今の2割引きで売りなさい。大量に買ってあげる」

「は?」

そんなことできるか。ただでさえ、今でも多くの問い合わせがあるんだ。

土地の価格が高すぎて手を引く連中ばかりだが、間違いなくそのうち売れる。

10年もしたら元のとれる土地だからな。


「無理な相談だ」

「じゃあ戦争の噂を流すわ。領内の影響を考えたら安い出費だと思うけれど」

「はあ!?」

こいつっ!


「俺の領地で商売をしようって人間が、領主の俺を脅そうってか?」

「仕方ないじゃない。簡単に人の口に戸は立てられないわ。もちろん、お金で次第だけれど?」

「こんのぉ!」

俺はこのロリ商売人が嫌いだ!とても嫌いだ!


「どう?まとめて買ってあげるからいいじゃない。それにエルフとの戦争にも船を貸してあげる。わかった、補給の手伝いもつけてあげるわ。はい、もう決まりね」

なんか勝手に決まっとる。


「……戦争の話は、開戦時まで伏せる。もしも漏れたらお前の責任だ。この話はなかったことにする」

「ええ、それでいいわ。毎度あり~!」

今日一番の無邪気な笑顔でゼロが笑った。キャッキャッと飛び跳ねる姿がちょっとだけかわいく感じられた。もとが綺麗なので、こういう無邪気なしぐさは素直にかわいい。悔しい。


「姉が失礼な態度をすみません」

妹がこうしてフォローするのもずるいよなー。こんなの怒れないよ。


「よし、無能領主が負けぬように手助けしてやるか。イチ、急ぎ物資をこの地に運べ。多少高くついてもかまわん。どうせ数年で取り戻せる」

高笑いするゼロが憎らしい。

「はい、姉さま。すぐに」


なんだか納得いかない商売をしてしまった俺は、不満たっぷりにコーンウェル商会を後にした。

まあ、でかい戦いの前に大きな味方を得たと考えよう。そうでなければ納得いかない。


「おい、ベルーガ。あれどうなんだ?」

帰り際、口を搔っ切る仕草をしてベルーガに確認した。

「いえ、全く」

「まじ!?」

ベルーガセンサーに引っかかっていない?全く悪意なくあれかよ。

本当に商売にしか興味がないだと!?


情報を漏らすという脅しも、土地の値引き交渉も全ては利益のためか……。

あの姉妹の、商魂逞しさを再度理解させられた気がした。


「うー、面倒そうな連中だ。なるべく関わらないようにしよう」

変なフラグを立ててしまった気がしたが、気にしないでおこう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ない [一言] わからせはやく でないと不快でしかない
[良い点] この回に関してはまったくない [気になる点] いくら大商会のトップだとしても、領主を呼びつけて暴言&脅迫なんてしてたら一発で不敬罪でしょう。 てか、どれか一つでもアウトだと思う。 エルフと…
[気になる点] 領主に対して、商人があそこまでの態度は少しありえない。それ以下の対応で、直近で制裁しているにも関わらず、本人はともかく、一緒に付いてきた魔族も受け入れているのは違和感が凄い。 [一言]…
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