59話 バリア魔法は臨時施設にも
初めてルミエス経由で、サマルトリアの地を通り、大きめの商売を成功させた行商人の一行がいたと報告を受けた。
迂回する期間と、護衛をつける費用節約して、賭けに出たらしい。
ボマーの遺産で通れなかった土地は、すでに通れると通達していたが利用者がいなかった。
そりゃ怖いだろうし、何より周りに何も施設がない。
途中宿に泊まりたくとも、街で補充したくても、あの地にはまだ人が住んでいないからな。
ほとんど賭けに近い商売だっただろうけど、迂回するルートより短く、魔物も山賊もいないこのルートは簡単に進むことができた道だっただろう。
ミライエの新興の商会は、ウライ国側の商会との大きめの取引を成功させ、かなりの儲けを得ることに成功した。
それが評判となり、最近はちらほらと行商人が通っているという話を聞くようになった。
うーん、このいい流れを止めたくない。
折角最近は名声も高まっているし、俺直々に街づくりに着手しよう。
首を刎ねる度上がる名声。謎だが、まあそれは良い。利用できるものは利用しようというわけだ。
サマルトリアの土地まで飛んでいき、ベルーガとともに集落を回る。
交易路の整地の人材確保だ。
この土地を最も理解している彼らに任せるのがいいだろう。何より人手が足りていない。
他からいくらでも人を引っ張ってこられるわけではないので、今ここにいる人たちを利用するのが一番いいだろう。
何より長年ここに暮らしている彼らが一番この土地に詳しいだろうから問題にも対処しやすい。それもあっての人選だ。
前から目をつけていたので、条件面もすでに決めている。
道を整備してくれる代わりに、彼らにはサマルトリアの土地を渡す予定だ。
といっても、彼らがもともと住んでいる土地をそのまま正式に権利を認めるだけだ。
ここはもともと放置されていた土地で、勝手に住まれている状態だ。
先代領主もヴァンガッホもここに価値がなかったから放置していただけのこと。
領主の権利で追い出してもいいのだが、そんな薄情なことはしたくない。
このサマルトリアの土地の価値を説明し、彼らの手でより素晴らしい土地に仕上げていくことで自分たちの所有する土地の価値が上がることを説明する。
何より、彼らには正式に土地の権利を認めるし、ミライエの民としても認めることを告げた。
最近やたらと名声の高まっている俺は、サマルトリアの集落の長を集めての演説でかなりの好感触を得られた。
税の安さが決めてだったらしい。うーむ、多く取り立ててなくてよかった。
そのために、いろいろお金も不足して、軍も拡大できない状態だが、まあちょっと足りていないくらいが一番工夫しがいがあるというものだ。今くらいがちょうどいい。
なんとか人は確保できそうだ。
力作業は集落の若い男に任せ、集落にはほかにも役割を与えた。
行商人たちへの補給である。
畑には実り豊かな作物が多くあったが、彼らには今後の展望を説明し、宿屋を開くようにアドバイスする。
こんな価値のある土地で畑仕事をするよりも、宿屋をやった方が有益だろう。
まあ、これは各々の判断次第だろうし、うまくいかなくてもこの土地を売ればいくらでも金になる。今よりいい生活ができるのは目に見えているので、あまり深くは口出ししない。
全体的にすんなりと決まったこの計画は、さっそく着手していくことができた。
サマルトリアとボマーの遺産の地を合体させ、その中心点に巨大な交易所を作る予定だ。
そこには世界中の商品が集まり、商人たちが自由自在に商売を行えるような施設にしたい。
交易所を中心に、東西南北へと延びるまっすぐな街道を整備し、これをメインの交易路とする。
城の位置はまだ決まっていないが、まずは欲しいものを作成してからあとでいいだろう。バリア魔法もあるし、防衛のことを後回しで考えられるのはありがたい。しばらくはあのぼろい屋敷に住み続けるとしよう。
俺も現場に来て作業に加わってよかったと思ったのは、数週間変化を直接目で見られたことだろう。
現場の作業員は日に日に増え、交易所と街道が綺麗に出来上がっていく。
その進み具合と比例するように、行商人の数も増えてきた。民間人も次第にこの道を利用しだす。
非常にいいことだが、やはり補給地点がないことは苦労していた。
交易所の進み具合を観察して、皆の前で偉そうにしてばかりいる俺は、実質役立たずとなっていた。俺何もしてなくね!?
なので、できる仕事をすることにした。
補給地点が足りないのは、単純に集落に人が収まりきらないのが大きな問題だった。集落の作物も家畜も行商人たちに高値で買われているらしい。食料を運ぶより、現地調達の方が楽だからな。
サマルトリアには小さな川しか流れておらず、川に沿って集落が作られている。
まだ水道も下水も整備されていないので、皆が川付近ばかりを通る。
集落はすでにパンク状態だ。
なので、川の上流付近で、まだ人の住んでいない平地に移動して、キャンプ場を作ることにした。
作物が育たない土地らしく、人は住んでいないが、平らで魔物もいないいい場所だ。
そこにバリア魔法で立方体の箱を作り上げていく。守るだけがバリア魔法じゃないことを学んでいこう、俺のバリア魔法は幅が広がったなぁと実感している。
作り上げたバリアの箱は、片面だけ開けて、人が入れるように調整する。
人が横になって5人は寝泊まりできるサイズだ。
地面側のバリアは、水が入らないように分厚く作り上げ、地面から少し距離をあけておいた。
「よし」
かなり簡易的なつくりだが、雨風が凌げるだけでもいいだろう。
見たところ、野宿を余儀なくされている行商人も多いので、こんな感じのバリアテントを何十個も作っていく。
不要になったらすぐに消せるのもいい。
しばらくは必要になるだろうから、均等に並べておく。
これらは全て無料で使用してよいと通達を出したら、やはり行商人たちが集まってきた。
大きな商団もここで寝泊まりするようになる。
思ったよりも利用者が多かったので、更にバリアテントを追加で作り上げた。
こんな粗末な街の状態でもうこれだけの人が来るのか……。
この街が完成したら、一体どれだけの人が押し寄せるのだろうか。想像したら、少し怖くなった。ミライエすげー。サマルトリアすげー。自分の土地なのに、他人事のような感想が出てしまった。
これだけ利用者がいるのは、快適とまではいかないが、やはり屋根と壁があるのは大きいみたいだ。それにバリア魔法は常に清潔というのもある。
食料はみな保存食を持参しているみたいで、それで何とかなっているが、もっと何とかしてやりたい。
現在、この道はウライ国とミライエをつなぐ最短ルートというメリットしかない。いや、安全というメリットもあるか。
それだけでも十分だが、なんとかもっと快適にならないだろうか。
そんな心配をしていたが、行商人相手の飯専門の商人たちも現れだしてなんとかうまくいっているみたいだ。保存食だけでは気力も体力も持たないから、かなり需要のある商売らしい。
需要があれば、供給も生まれるんだな。
人はたくましいなと感心しながら、ちょっとだけ補佐してあげる。
食料を備蓄する倉庫用に巨大バリアケースを作ってあげ、仮住まいの間だけならしばらく土地を自由に使ってもいいという許可も出しておいた。これも非常に好評だった。
ふぃー、よかった。
今日もバリア魔法のおかげで、俺はニートにならずに済んだし、領民もまた大きく得をした。
ボマーの遺産の土地はまだバリアを張れていないが、他は全てバリアに守られた我が領地は今日も平和に時が進んでいます。
サマルトリアの土地に次第に、それも確実に人が集まっている。
人の行き来が増え、交易所が完成しだした頃には、人が行き交う姿を見ない日がなくなるほどだった。
円柱型の交易所は巨大な施設に仕上がった。
一階は四方に伸びた街道が直接交易所の中を通るつくりで、レンガ造りの壁はデザインが気に入っている。
まだ稼働はしていないが、いずれここがミライエの中心になるんだろうな。
ここは復帰したブルックスに管理を任せる。
「シールド様、天井はドーム型にします。普通に建設する予定でしたが、皆の要望で、ドームはシールド様に作ってほしいと」
「俺のバリアを天井にってことか?」
「ええ、そうです。お願いできますか?」
そりゃ簡単な仕事だから余裕だが、いいのか?
3年したらまた張りなおす必要が出てくる。
「それがいいのです。シールド様あってこその領地。シールド様あってのサマルトリアの中心地。それを自覚するために、3年に一度バリア魔法を張りなおすイベントが欲しいのですよ。私だけでなく、皆の望みです」
本当に?
おいおい、照れる。
……ヘレナ国ではバリアのありがたみを感じられることなく、俺は追放されてしまった。
それなのに、この土地ではあえてバリアの不便なところを利用し、ありがたみを感じたいだと?
な、泣いちゃいった。俺氏、ほろりと泣いちゃいました!
ブルックスたちからのありがたい提案通り、交易所の天井は俺がドーム型のバリアを張って、正式な完成となった。
東の売り渡した地に商人たちが本格的な宿を作り始めている。自らの交易の拠点もちらほらとできているのが見えた。俺が本格的に動くのに合わせ、力のあるものたちも動いている。
それに続いて、こうしてサマルトリアの中心地に、空の見える交易所が出来上がった。




