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56話 バリア魔法で海底探索

ショッギョが食べられる魚ということが分かっただけでも大きい上、これが非常に美味しいことまで分かった。

それにダンジョンの特性上、これはとあるルールを守れば安定した供給量を得られる。


ダンジョンのボスを攻略せず、ダンジョン内の魔物を根絶やしにしないことだ。

この二つをやってしまった場合、恵みに満ちたこの海底ダンジョンが閉じられてしまう。

もう一生ショッギョが食べられなくなってしまう悪夢が待ち受ける。


お金や漁獲量の問題だけではない、ショッギョを食べられなくなることが許せない!

あんな旨いものを知ってしまったら、もう昔には戻れない。

それはフェイとて同じだ。

この恵みを失ったら、世界の破滅が待っているかもしれない。


最初にやることは、ここのダンジョンのボスを見つけることだ。

幸い、魔物の数は少ない。


とういうより、好戦的な魔物がいまのところ見当たらない。

少ない陸地には一切出てこないし、水の中も平和だ。


やはりショッギョとか、海底に見える魚介類が魔物判定になっているのだろう。なんという当たりダンジョンなのか。

魔石や鉱石を採れるような場所ではないが、今回は魚が目的なので全く問題ない。


海を泳いでいくことしばらく、全くダンジョンボスが見つからない。

ていうか、広すぎだろ!


水平線の先が見えない。

一体どれほどの規模なんだ。


魔物を倒すのが目的の冒険者からした、ここはハズレのダンジョンだと思う。

ダンジョンは異質な空間なので、地上の空間とはリンクしない。

広大に広がるこの海底ダンジョンの最果ては、もしかしたらミライエ領地よりも広い場合すら余裕であり得る。


だめだ。俺が極上に美味しそうなぜい肉でもぶら下げていない限り、ダンジョンボスが食いつきそうにもない。今ばかりはまんまる太ったブルックスが恨めしい。

陸に上がり、満腹でうたた寝しているフェイの元へと向かった。


頬をぺちぺち、ぺちぺち、ぺちぺちっ。

「やめんか」

これ、癖になりそうだ。


「フェイ、この中でもう一回飛んでくれ」

「ああん?こんな天井の低い場所嫌じゃ」


そう、水面と洞窟の天井間は狭くて、黄金竜バハムートが飛ぶにはあまりに狭い。

天井から垂れる鍾乳洞とかボロボロに壊しそうだ。

しかし、今回お願いするのはもっと無理難題だ。


「すまん。海の中を頼みたいんだ」

海かどうかは知らないけれど、海水だし、広さ的にも海でいいだろう。

とても俺の水泳技術で探すのは無理だ。


「嫌じゃ」

「ショッギョの安定供給のためだ。力を貸してくれ」

「ショッギョのため?うーん」

おっ、絶対に無理でもなさそうだな。いい反応だ。

何度か押してみるか。


「コックのローソンの腕でちゃんとした料理になってみろ。どれだけ旨いか。それにこれは酒にもあうと思うぞ。すべては今日一日の働き次第だ。お前はこの先も長く生きるんだ。食事のラインナップが増えるのは悪くないだろう?」

「……一理ある」

「長い人生の暇つぶしだよ。こういうのが後々良い思い出になるんだから。なんなら人類の歴史に残る偉業かもな」

「別に人間ごときの歴史に残ろうがどうだっていいわい。けどまあ、今後も食べられるというのはいい。よし、行くとしよう」

来たああ!

釣れました。


今日一番の大物釣れました!


黄金竜の姿に戻ったフェイは、そのまま海中に飛び込む。

あいつは息継ぎも、水の抵抗も関係なさそうだが、俺はそうもいかない。

海中に飛び込んで、バハムートの周りにバリア魔法を球体状に張る。


これがある限り、水の抵抗は大丈夫そうだ。

しかし、酸素量はこの中のものを消費しきったらおしまいだ。


「うおっ、とととと!?」

フェイが海中でもすごいスピードで移動する。

俺を乗せていることをまったく気遣ってくれていない。なんとか早めにダンジョンボスを見つけなければ。


「フェイ、頼りっぱなしで悪いが、当てはあるのか?」

「任せろ。雑魚共の中にも、少しまともなのもいる。それを見つけるだけじゃ」

雑魚には変わりないと。フェイの感覚を頼りに出来るなら、しばらく任せてみるとしよう。

戦闘は俺が担当する。


見つけてくれるだけでいい。


やはりフェイのスピードは凄まじく、水の抵抗をまったく感じさせない。

ショッギョの生態が心配になるスピードだ。


「いたな」

「おっ」

心配していたよりも早く見つかった。フェイの感覚も素晴らしいが、運もあっただろう。その運すらフェイのものである可能性もあるが。


急停止して謎の海流を生み出すフェイの圧倒的スピードは、ダンジョンボスと思われる巨大なイカの魔物をグルングルンと回転させる海流を生み出していた。

圧倒的な生物は、止まるだけで相手をいたぶるらしい。実際、地上でもこいつが飛ぶだけで露店がぶっ壊れる。

存在自体がやはり災害レベルだ。


イカの魔物は体内に巨大な紫色の光を放つ魔石を持っていた。半透明の体からその怪しげな光が漏れ出している。

ほぼ間違いなくダンジョンボスだ。


目的地はずいぶんと深い海の中。

自力じゃ辿り付けなかっただろう。

放っておいても他の冒険者がここまで辿り付けるとは思えないが、念には念をかけておく。


先ほど開発した立方体のバリア魔法を使う。

そう、ショッギョたちを囲って逃がさないのと同じだ。


ダンジョンボスに今後誰も手を出せないように、バリア魔法で囲う。

俺はバリア魔法しか使えないと思っていたが、その思考は俺の可能性を制限していたみたいだ。


バリア魔法で出来る事ならなんだってできる。それが俺の力だ。


「俺流の封印魔法」


ダンジョンボスを閉じ込めた巨大な立方体のバリア。

隙間はなく、水と餌となる魚だけ通れるつくりにしておいた。


人も魔法も、このバリアを通ることは敵わない。

3年に一度バリアを更新する必要があるが、とりあえず3年、このダンジョンボスもダンジョンも消滅することはなくなった。


魔物はエサで生きているわけじゃない。他の生物の魔力を吸って生きるので、この作りでダンジョンボスが自然に死ぬこともなくなる。


完璧な俺なりの封印魔法だ。

殺さず生かさず。ショッギョの恵みだけいただいていきます。


なんの活用方法も見つからないと思われていたアルプーンの街に現れた巨大海底ダンジョンのおかげで、この街と領地に大きな恵みを生み出せそうだ。

まだ手を付けていない恵み系ダンジョンはあるかもしれない。再び調査が必要そう。


「シールド、しっかりとつかまっておれ。強いのが近づいてくるぞ」

少し緊張が走る。

フェイが警告するほどの相手だと? このイカはダンジョンボスではなかったということか。


暗い海中に笛を吹くような美しい音が響いた。

明るい地上で聞いたら素直に美しい音色として聞けた音も、こんな海中では化け物の鳴き声以外に感じられない。少し鳥肌が立った。


フェイがいたから安心していたが、ここが海の深くだと考えると途端に恐怖が襲ってくる。

人は水の中ではあまりに無力だ。


水に流されるように進んでくる美しい銀色の長い竜が見えた。

あっちがダンジョンボスか。強さよりもその美しさよりも、出会った場所のせいで、恐怖がより一層強まる。


「……お主、リヴァイアサンか」

「フェイ様、300年ぶりです」

近づいてきた美しい銀色の竜は、目の前で人の姿に変身した。

こちらも美しい少女の姿だ。銀髪の長い髪の毛が水の中で綺麗に漂っている。生き物のようにゆらゆらと動く髪の毛は、少女の身長の3倍の長さはありそうだった。


それにしても少女の姿に変身するのは流行りなのか? それとも有益なのか。


そう考えると、美しい少女に優しくしない人間も少ないので正しい擬態なのかもしれない。


「シールド、こやつはダンジョンボスではない。我のツレじゃ」

ツレ。ダチ。300年経ってもずっともってこと?


「300年経ってもフェイ様は相変わらず美しいですね。またご一緒させていただいても?」

「構わん。今は人の世界でのんびり暮らしておる」

「あの醜い生物の人間と?」

なんだか良からぬ雰囲気。この後の展開が見えてきたから、俺はそっとバリア魔法の準備をしておく。


「我の上に乗っているバカのおかげで、まあそれなりに楽しめておる」

「バカってお前……」

まあ、いいけど。楽しんでもらえているなら、そちらの方が大事だ。少しうれしくもある。


「……美しくない。フェイ様に相応しくない。人間が嫌で300年この美しいダンジョンに籠っておりました。しかし、フェイ様とは一緒にいたい。うーん」

リヴァイアサンが悩む。

そして、結論が出たらしい。


「私とフェイ様だけの世界を作りましょう。世界を水に飲みこませるのです」

「やめておけ。人間どもの強さはお主も知っておろう」

「300年力をためていたので問題ないかと。さあ、沈むのです、人間」

聞く耳持たずだな。


『海魔法――暗い海の底』「私でも未知の領域、ダンジョン底の水圧をその身に受けるがよい」


『バリア魔法――魔法反射』


悪いが、当然撥ね返す。

いかにも恐ろしい魔法だが、俺のバリア魔法にはかなわなかったみたいだ。


圧倒的な水圧が跳ね返り、美しい少女の目と口、鼻、耳から血があふれ出る。

あれを食らっていたら、俺ではその程度では済まなかっただろうな。一瞬にして体が粉々に粉砕されていただろう。


銀色の髪をした美しい少女の体から力が抜け、ゆらゆらと海を漂い、浮力で浮上していく。

「死んだか?」

「自らの魔法で気絶しただけじゃ。シールド、いいことを教えてやろう」

「ん?」

「ドラゴンを従えるには力を見せるのがいい。目を覚ましたリヴァイアサンはお主の言うことを聞くようになっとるじゃろう」

良いことを聞いた。しかし、ドラゴンを従えるなんて発想はなかった。

こんな規模の違う存在とともに過ごすなんて発想、普通はしないからな。


気を失ったリヴァイアサンを抱き寄せて、俺たちは地上へと向かった。


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[一言] バハムート、リヴァイアサンとくれば残りは……
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