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45話 バリア魔法と英雄の遺産

「んー?」

わからない。何が問題なのか俺にはわからない。

空からサマルトリアの地を眺めてみるが、俺には普通の土地に見えてしまう。


「ベルーガ、なにかわかるか?」

ここは優秀な部下に頼るべきか?

「いいえ、しかし何か異常な魔力量を感じますね」

なんだろうか?

俺には何も感じられない。


こういうところなんだよな。自分の魔法のセンスのなさを感じるのって。

才能ある魔法使いってのは、独特の感覚を持ち合わせるらしい。


俺が感じ取れなくて、ベルーガに感じ取れる何があるのだろう。


目の前に広がる平地と、地平線を見渡すが、景色がいいこと以外に感想がない。

あっ、太陽が沈みかけているな。感想が二つあった。


国境付近まで歩み寄る。

聖なるバリアが俺の前に展開されている。


手を差しのべると、バリアを貫通できた。


聖なるバリアは人の通行は自由自在だ。

ただし、武器、魔の効果を持つ道具、兵器はこのバリアを通れない。他にも魔物や危険度の高い生物も阻む。

悪意のあるものでも丸腰なら通れる仕様なので、完璧に領地を守れるわけではない弱点はある。


関所では、商人たちの物流を妨げないようにところどころバリアのない箇所を作っている。それはヘレナ国でもこのミライエでもやっていることだ。


もっと完璧に防ぐものを作れるが、バリアに隙がないと人と物の流れが止まってしまう。

完全に空気を遮断したら人が死ぬのと同じように、バリアですべてを遮断してしまったら領地は死んでしまう。


外敵には強いが、通ること自体はとても簡単。それが聖なるバリアだ。


バリアを久々に通り抜ける。

バリアの制作者である俺はすべての条件を無視して通ることができる。といっても、その特別がなくとも、今はなにも制限にひっかかるものなどないのだが。


「ふむ」

やはり何もない。

国境を越えたが、異変なし。ブルグミュラー家の夫婦のあの笑いは、単なる俺の思い過ごしか?


しかし、気掛かりはあった。


「なぜ誰もいない」

今更だが、国境付近に誰もいないことが気になった。

そういえば、ミライエ側にも国境を守る兵がいない。最初からいなかったから、俺の代になってもてを加えていないが、思えば不自然だ。


こんな平地の国境だというのに、両国ともに警備兵なし?

やはり異常だ。


勝手に侵入して悪いが、俺はヘレナ国側の土地を歩いた。

何かがあるとしても、観察しているだけじゃわからん。


恐れず歩いてみよう。


『カチッ』

「あ」

なんか、踏んだ。


足元に強烈な熱を感じる。

次の瞬間、地面が爆ぜた。

「どわっ!?」

暴風と立ち昇る土煙と共に、爆発が俺の体を宙に吹き飛ばす。


「シールド様!!」

爆音の中ベルーガの声が聞こえてきた。

「近づくな! 俺は無事だ!」


なんとか聞こえるように声を張り上げた。

自分でも信じられないほどの大声が出た。おかげでベルーガは聖なるバリアを潜らず、その場に立ち止まった。


吹き飛ばされた宙で態勢を整えて、重力に素直に従い大地に着地した。

実戦経験が多くてよかった。バリア魔法の修行段階で多くの魔法を食らってきたからこそ、こういうアクシデントに容易に対処できる。

ま、落ちても体のバリアがあるから大丈夫なんだけどね。


グリフィンに乗るときに毎度解除しているが、用心深い俺は降りるとすぐにバリアを張りなおす。今回も体のバリアに守られた。自分のまめな性格に感謝だな。

それにしても。

「これは……」


地面に何かが埋まっている。

ベルーガが感じていたという異常な魔力量の正体というのはこれだったか。

なぞの爆破魔法が地中に埋まっている。それも、凄まじい威力のものが。


「まさか」

これがこの平地に無数に埋まっている?

……考えたくないが、あり得ない話じゃない。むしろ、今の状況を考慮するに、その結論が自然な気がしてきた。


そりゃ警備兵も必要ないし、ここを通ろうとする人間もいなわけだ。


「な、なんじゃそりゃああああああああ」

俺の声がこの広大な平地に鳴り響いた。


納得いかない俺は、頭では間違いなくそうだと思いながらも、あたり一帯を駆け回った。

「あびゃー!!」「どびゃー!!」「あれー!!」「うそーん!!」「いやーん!!」


吹き飛ばされること10回程。流石の俺もあきらめた。


吹き飛ばされ、倒れ、土まみれになった俺は、生まれたての小鹿のような足取りでミライエの領地になんとか戻る。

「……帰るぞ、ベルーガ」

今あったことは見なかったことにしてほしい。

満足しました。反省もしました。醜態をこれ以上なく晒しました!


格好良くグリフィンに乗った俺は、体のバリアを解除し忘れてグリフィンに振り落とされた。

「あびゃー!!」

「シールド様!!」


格好のつかない一日でした。


グリフィンの高速飛行を終え、屋敷に戻って、風呂を浴びた俺はアザゼルの報告を待った。

難しい書物も読み解くこの男は、やはり期待通り俺の欲している答えを届けてくれた。


「どうやら、シールド様には及びませんが、かつての人間にも天才がいたようですね」

面白そうな話だ。

紅茶を飲んで体を温めつつ、報告を聞いた。


時は100年前まで遡る。

ウライ国とミナント建国時、領土を争っていた二国だったが、戦争は物資と人数で勝るミナント側優勢で決着がつきそうになっていた。


ミナントの勝利、ウライ国の敗北。誰もがそのように予想した戦争の結末だったが、たった一人の魔法使いがすべてを変えてしまった。


戦争終盤にウライ国側に現れたのが、ボマーを自称する天才魔法使い。

爆弾の魔法を自在に操る彼は軍の指揮権を貰い、ミナントの進撃を抑える案を考える中で、奇策を思いつく。


サマルトリアの台地半分に、爆弾魔法を仕込む。

それも地中深くに。

自軍の多くの反対も押し切って、ボマーはこの計画を一人でやってのけた。


ウライ国側も踏み入れることができなくなる代わりに、ミライエの進軍も今の国境を境に止まった。

戦争を止めた天才の一手。


戦争を終わらせた救国の魔法となったが、今じゃ彼の魔法のせいであの地は人の住めない土地のままだ。

土地の条件で交易路も死んでいるので、誰も手を加えようとせず、サマルトリアの平地は長い間放置されていたわけだ。


「あちゃー」

両手で顔を覆った。

我ながら完璧な首都計画だったが、こんな見落としがあったとは。

甘い、なんたる甘さ!


自分のわきの甘さを再確認させられる事件だった。


「ボマーはウライ国では英雄扱いらしいですよ」

「そりゃな、敗戦濃厚の祖国を救ったんだから」

国全体を失うより、国境付近だけを失ったほうが何倍もお得だ。それにしても、とんでもない遺産を残してくれたものだ。


ミナント側の俺らだからこそ知らなかった情報。

いや、ちゃんと調べれば最初から判明していたかもしれない。くー、痛い。このミスは痛すぎる。しかし、終わりではない。そんな気もしていた。

窓の外を眺めて、少し考えた。

どうすべきか。


答えは決まっているな。

あきらめるという手はない。


「アザゼル、ウライ国側に出向くぞ。事前に連絡を頼む」

「シールド様、自らですか?」

「ああ、お前もついてこい」

「はっ」


ブルグミュラー夫妻が俺を笑っていたのは、これを知っていたからだ。

しかし、完全に詰みというわけでもない。


ウライ国側の事情次第では、これはまた大きなビジネスになり得る。

俺とアザゼルが直に出向いて損のない話だ。


準備をしていると、珍しくフェイが姿を現した。

仕事の席にはめったに姿を現さず、酒の席にはいつもいるフェイが、どうしたことだろう?

きっと良からぬことに違いない。


「どうした?」

なんだか、ただならぬ気配。

こんなにまじめな顔をしたフェイは久々に見る。


「軍船を作らせている連中のところに行ってくる」

ここから南東に進んだ港だ。

仕事こそあれ、フェイを楽しませるものはないはずだが……。


「別にいいけど、何かあるのか?」

「なあに、面白いことが起きそうなだけじゃ。お主はお主のやりたいことをやっておけ」

「お、おう」

背中越しに手を振って、フェイが立ち去っていく。

いつものだらしない背中ではなかった。少し、格好いいと思ってしまうようなオーラがあった。

姉御……。


なんだろう、同時に少し怖い雰囲気も感じたが、何をしに行くのか見当もつかない。


「……フェイ様のあんな顔、久しく見ました」

アザゼルが額に汗を浮かべて、こわばった表情をしている。

「おいおい、物騒なことを言うな」

あいつが珍しいことをするかもしれないって、それだけとんでもないことになりそうだ。勘弁願いたい。港、大丈夫だよな? ぶっ壊されないよな?


「ウライ国への渡航、中止にするか?」

フェイに時間を使った方がいいかもしれない。だって、あれは歩く災害なので。

「いえ、フェイ様がああ言っているのです。何も問題はないのでしょう」

気になるが、確かにフェイを心配する必要はない。まあ、俺が心配しているのはうちの港とか、開発中の軍船なんだけどね……。あいつを心配するやつなんて誰もいない。別に悪い意味ではなく、単純に心配いらないから、心配しないだけ。


「終わったら、何があったか聞いておこうか」

「話してくれるといいのですが。あの方は昔から陰で行った功績を他者に誇るような真似をしませんでしたから」

なんだ、あいつ昔は働き者だったのか?

信じられない過去だな。


今も実は裏で俺たちに見えない活躍をしてたり?

……いやいや、あり得ない。あいつはこの屋敷で唯一の無駄飯ぐらいなのだから。

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