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42話 バリア魔法と新しい土地

「アザゼル」

「なんでしょう、シールド様」

「ここ、狭くね?」

「……狭いです」


以前から感じていたが、この屋敷は少し手狭だ。

ただ暮らすぶんには全然事足りるのだが、何せ暮らしている連中が規格外だ。


フェイが起きぬけに扉を壊す音を聞くのはもう勘弁して頂きたい。

「どっせーい!」

と掛け声が共に聞こえてくるので、故意にやっている可能性もある。頑丈な扉が早急に必要だ。


ダイゴがいないので、穴の開いた屋敷は木の板で簡易修復している状態だし、ところどころガタが来ているのも放置している。そろそろ限界を感じる。

そもそも、ここは先代領主の館であり、俺が建てさせたものじゃない。


新しい家が必要だ。この建物のセンスも好きではない。

ちょうど人も増えつつある。


せっかくだし、城だけでなく、新しい街ごと作ってやろう。


「街を作るぞ。ミライエは今や独立した領地。首都が必要だ」

「開拓が進んでいる地域になさいますか?」

地図を広げて、アザゼルがミライエの西北部を指した。


そこらへんはすでに実際に見てある。フェイとの旅路でたまたま見かけたが、悪くない土地だ。これから開発を進めるにはいい場所である。


しかし、首都には少し物足りない規模でもあった。


「ここだ」

俺はミライエの東北部を指し示す。


海に面した土地で、北に位置するウライ国と接する土地でもある。

ここには、広大な平地が広がっているはず。海にも面しており、川も流れている。

人が住むには最適な条件に思える。


これから大きな街を作りには最適の広さだ。

でかい城を建設してやろう。

頑丈で簡単に壊れないものがいい。


「改めてみると、不思議ですね。こんな平地がなぜ放置されていたのでしょう?」

ミライエの領主邸がある街から山脈を一つ越えた、北東方面にある土地。

確かに、今まで放置されていたのが不思議な土地だった。アザゼルが首を傾げるのも無理はない。俺も少し考える。


「もしかして、この平地ウライ国まで続いてないか?」

ミナントだけの地図から、大陸全体の地図へと変更した。


先ほどより詳細な情報は少ないが、この地図によると確かにこの地には山脈がない。確実とはいかないが、平地がウライ国まで続いていた。


つまり、国境が平地となっているのか。

他国と陸つながり、それも歩いて簡単に渡れるんじゃ、そこに大きな街を作りづらいのはわかる。しかし、それは今までの常識である。

今は新時代。昔の不可能は、今の不可能にあらず。俺がいる限り、平地が続いても問題はない!


一度、下見をしておくか。


「アザゼル、この地に一度行ってみたい。馬を出せ」

「馬よりももっと速いものがございます」

「ん?」

「すぐにご用意いたします。外でお待ちを」


外套を着て、屋敷の庭で待っておいた。

アザゼルめ、面白い魔法を見せてくれるに違いない。


バリア魔法しか使えない俺にとって、こういう未知の魔法を味わえる瞬間ってのは、かなりわくわくしてしまう。

あの格好良さ満天の蝙蝠に包まれて移動できたりするんだろうか。一度やってみたかったんだ。蝙蝠包まれ移動魔法。


くぅー、しびれるぅ。


俺の期待とは裏腹に、先にやってきたのはアザゼルではなかった。

ベルーガがやってきて、甲高い音のする指笛を鳴らす。


空から何かが近づいてくる。凄まじい風切り音がして、空から巨大な生物が3体舞い降りる。

「おわっ!」

つむじ風が巻きおこった。

砂とか草が目に入りそうだったので、腕でカードして目を細めておいた。


「これは……」

「私の使役するグリフィンです」

獅子の体に、鷲の頭、白く美しい巨大な翼を起用に動かしながら、グリフィンがベルーガに甘える。

顎を撫でてやれば、気持ちよさそうに声を漏らしていた。

手慣れたものだ。爺が見かけたらびっくりして死んでしまってもおかしくない程の迫力。彼女は恐れるどころか、子猫のようにあしらっていた。


「シールド様、この子に乗って視察に参ってください。最速の子です。乗り心地も補償いたします。アザゼル様はすぐに到着するかと」

蝙蝠の魔法はなくなったけれど、代わりに最高の乗り物を用意してくれたものだ。


とおっ!

グリフィンに飛び乗り、背中にしがみついた。モフモフしていてあったかい。どっしりとした力強さは、こちらに安心感を与えてくれた。


「どわっ」

何かが気に入らなかったのだろう。

グリフィンが暴れて、俺を振り落とす。しがみついていられず、振り落とされた。

地面をゴロゴロと転がって、倒れるが、体の周りにバリアがあるのでダメージはない。


「すっすみません! シールド様!!」

慌ててベルーガが駆け寄ってきた。

焦燥感に満ちたその顔は、この展開をまったく予期していなかったためだろう。


「あわっわわわ、普段こんなことする子じゃないんです。あの子はグリフィンの中でも最も優秀なはずが……」

謝らなくて大丈夫だ。原因はわかっている。

「いや、俺のバリア魔法が原因だろう。これのおかげで身を守れるのだが、野生動物とか魔物に嫌われちゃうんだよな。なんか、嫌なんだろうな」

「我慢させます。もう一度チャンスをお与えください」

いや、それではグリフィンがかわいそうだ。

俺も気持ちよく飛ぶこいつらに乗りたいし、体のバリアを解除することにした。


俺の体を守るバリアを解除したのはいつ以来か。

なんだかいつも当たっている風が、少し違うものに感じる。


……ていうか、なんか恥ずかしい。

服を着ているのに、なんだか裸でいるみたいな感覚だ。


ちょっ、変なところ見えてない?

ねえ、大丈夫だよね!? 本当に見えてないよね!?

だいぶソワソワする。


「シールド様が最後のバリアを……。私は他の仕事を任されておりましたが、こうなればご一緒します。何かありましたら、私奴が必ず肉壁となってお守りいたします」

大げさで、生真面目なやつだ。ま、そこが好きなんだけどな。


「気にするな。それに自分のことを肉壁だなんて言うな。むしろ、お前たちはいつだって俺が守ってやる」

バリア魔法の届く範囲は、すべて守る。

心配されるほど、俺のバリア魔法は脆くないぞ。


それに、言い出せる雰囲気じゃないから言わないが、本当の切り札はまだあるんだよな。体を守るバリアが最終ではない。ごめんね、用心深い性格なんだ。


アザゼルと二人きりの視察から、三人での視察になった。

ベルーガがいることで空気が和むので、来てくれたことに感謝する。


アザゼルもベルーガも無口なタイプで、好んで雑談をするタイプでもない。

どちらかと一緒にいるときは基本シーンとした空気が流れる。アザゼルはそれに加えて完全無欠な魔族なので、見ていてもあまり面白みがない。その反面、仕事では有能なベルーガだが、結構おっちょこちょいなところがあって観察していて楽しい。


今も空飛ぶ鳥にエサをあげようとして、別の鳥にエサ袋ごと奪われていた。

悲しんでいる顔がなんとも面白くて、退屈しない。


グリフィンの飛行速度は本当に速くて、それに加えて風から身を守るベールを纏う彼らの乗り心地は非常に良い。

こんなにすばやく移動できて、疲労感のない乗り物は初めてだった。高級だ。VIPなお気持ち。


目的地に到着する。予定よりかなり早い。

地面に降り立って、感謝の気持ちを込めて、グリフィンを撫でておいた。

「お前は優秀だなー。ベルーガが信頼するだけはある」

一回の飛行ですっかり心を許してくれたグリフィンが、俺の胴体に頭を擦りつけてくる。

「ぐるるぅ」


めっちゃかわいい!!

これは癒し!

ずっと撫でていたいが、今は仕事をせねば。


高地に着地した俺たちは、開発の行き届いていないこの平地を見回した。

ルミエスここを遮る山脈の麓に小さな村が点在する、平和な土地だった。


そして、肝心の国境付近だが、やはりウライ国とつながっている。

地平線が見えるほど広い平地だ。


ウライ国のどこまでつながっているのだろうか。大陸の地図で想像するに、かなり広いとみていい。


「ここに決まりだな」

「ええ、やはり恐ろしい力だ」

「素晴らしいです、シールド様!」

俺たち三人の目にはあれが映っている。


国境となる平地には、綺麗に聖なるバリアが張られている。

外敵を拒むように堂々と存在する聖なるバリアが日差しを浴びて、曲線的な輪郭をはっきりとさせていた。


平地が続いていても問題はない。これがある限り。


この地を首都にする!

もう少し東に行けば、海もある。川もきれいな水が流れていた。


完璧だな。領地を覆うように作った聖なるバリアは、ずれなく国境の上に佇んいる。自分の領地だから丁寧にバリアを張った甲斐があったというものだ。


山より高く、海よりも深い、それが俺の聖なるバリア。

今はウライ国と友好的な関係だが、今後何かあったとしても聖なるバリアがある限り、この地に敵が踏み入るのは不可能。


ここに俺の新しい城と街を作る! 決定だ。


金と人材は集いつつある、さっそく明日から着手するとして、最後に資源とかいろいろ見て回りたい。

ここは想像していたよりも恵まれた土地みたいだ。


アザゼルが歴史書を紐解いて、ウライ国とミナント建国時に大戦があった土地だと判明もしている。それ以来人がほとんど手を付けていない土地らしい。


その期間、実に100年余り。

ここは宝箱だ。貰った土地の価値をさらに見出して、俺は気分よくグリフィンに跨った。


「さあ、全部見て回るぞ。せっかく来たんだ。見落としのないように!」

「はっ」

「シールド様、楽しそうですね」

「そうか? そう見えるなら、そうかもな」


平地は地盤もしっかりしており、ダンジョンが数か所ある。

冒険者を動員するか、俺自身が攻略してダンジョンを閉じておくかな。


ダンジョンはダンジョンボスと魔物を一掃することで閉じることができる。

街を作るなら、この地にダンジョンは不要だ。


海のほうも見てきた。

「あらっ」

海岸にふさわしい海じゃないか。


海が深く、港にするには最適だ。

またも掘り出し物が! 少し魔物がちらほらと見える……。厄介だが、なんとかなるレベルでもある。


それにこの豊かな海は、魚が数多く泳いでいた。

漁業も盛んになる。そんな未来が見えた。


「決めた、城は海に隣接させるぞ! 俺の執務室から釣りをする!」

「……お控えください」

「……シールド様」


珍しく二人から苦言を呈された。

ごめんなさい。これに関しては反省しておきます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 切り札があるらしいとは言え、アザゼルやベルーガからは最後のバリアを解除したように見えたのにシールドを害そうという気が起きなかったね。 このまま(付き合いやすい)人間と共存する未来が見えてく…
[一言] >街を作るなら、この地にダンジョンは不要だ。 リルガミン「えっ!?」
[気になる点] シールド張ると交易のため商人の出入りはどうなるの
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