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39話 バリア魔法の進化

吉報が舞い込んだ。


オリバーとカプレーゼが大捕り物だ。

動員していた軍で、先日の生意気なダークエルフを捕らえたとのことだ。


俺の首をかっ切る仕草をして挑発してきた、矢の魔法を放つダークエルフだ。

手を出すまでもなく部下に捕まるなんて……最高だ。ざまぁ!


「よくやった。その無礼なダークエルフを俺の前に連れてこい」

錠をはめられて俺の前に投げ出されたダークエルフは、間違いなく先日のやつだった。

屈んだ状態で俺のことを見上げてくる。敵意満々だな。

両手の枷を踏みつけてやり、ニチャアと笑い言ってやる。我ながら悪人だ。


「よう、俺の首はまだ繋がっているぞ」

「くっ」

かっかかか。高笑いが止まらない。部下が有能だと上は楽で良い。

ふんぞり返っているだけで、欲しいものが目の前に差し出される。


「ほう、やはりダークエルフは凄まじい魔力量じゃの」

フェイが珍しく飯以外に興味を持ち、ダークエルフを覗き込む。

頬っぺたをツンツンして、なにか見たことのない食べ物を触って確かめている感じだ。

「え……」

自分で考えておいて驚いたのだが、まさかこいつ本当に食べるつもりじゃないよな?


まあ、別にいいけど、せめて情報を絞り出してからにしてくれ。あと、俺がいないところで頼む。将来食べられる予定なので、どんな感じで食べられるかは知りたくない。怖いから!


「ほっぺが柔らかいぞ。人間の赤子のようじゃ。ほれ、お主も触ってみんか」

感想がそれか。

「触らねーよ」

なんで好き好んで男の頬っぺたを触らなきゃならないんだ。

目の前のダークエルフは美形の男だが、男の頬っぺたを触ってキャッキャウフフするなんてお断りだ! 断固拒否する!


「こやつら、肉が食えんと聞いたが、本当かどうか試してみんか?」

「変なスイッチが入ってるぞ。良いから酒でも飲んでこい。こいつとは大事な話があるんだ」

「なんじゃ。我も大事な話をしておるぞ!」

……なら仕方ない。

俺は急いでコックのローソンにステーキを焼かせて、ダークエルフに食べさせた。

この屋敷ではフェイの言うことは絶対である。


「普通に食べるじゃないか。なんじゃ、興味が失せたわ」

ステーキを美味しそうに食べるダークエルフを見て、フェイがようやく興味を無くしてくれた。

本当にその一点だけが気になってたのか……。

あいつ気まぐれ具合は理解できない。けれど、このくらい気まぐれな方が、慌ただしい日々に、日常感が追加されて助かる。

エルフとのいざこざも、あいつを見てるとなんとかなるって気分になってくるから不思議だ。


「俺の領地は捕虜に優しいだろう? 素直に情報を吐き出してくれれば、お代わりも出そう」

「誰が貴様らなぞに」

鎖の錠で手足を縛られているというのに、強情なことだ。


ステーキを取り上げて、残りは俺が食べておいた。

「あーん。うんまっ」

「なっ!?」


情報を引き出すにはアザゼルに任せるのが一番だが、生憎とまだ戻っていない。

たまには俺なりのやり方でやらせて貰うか。


俺にも多少の心得はある。その技でわからせてやろうかと思ったとき、騒がしいのが戻ってきた。

ご機嫌そうなカプレーゼといつも通り陰鬱なオリバーだった。

今回の殊勲を立てた二人だ。


「シールド様! 褒めて、褒めて! うちの手柄だよ。オリバーのやつ全然だめでさぁ、うちが一人で仕留めたんだから」

「本当か?」

「ええ、すみません。はずれを引いてしまいまして……」

オリバーも認めた。はずれか。オリバーは憑依相手を選べないからな。たまにポンコツを引くらしい。ポンコツを引いたときのオリバーはさぞ弱いんだとか。


以前オリバーとの戦闘で負けていたカプレーゼは、やはり腐ってもアザゼルの認める魔族の剣豪だった。一見すると軽薄なそこら辺にいる少女に見えなくもないが、憑依したオリバーだからこそ対処できた。普通の人からしたら、正真正銘の化け物である。


並みの使い手なら、あのスピードから来る一撃に耐えられらない。

ダークエルフでさえこういう結果を迎えているのだから、カプレーゼの腕前の凄さがうかがい知れる。


「よくやった。お前たち魔族は本当に優秀だな」

「やった! シールド様に褒めて貰えた。後でアザゼル様に言わなくちゃ」

褒めてやるとカプレーゼはとても喜んでいた。

そういえば、こいつには仕事を任せっきりであんまり労ってやったことがなかったな。きゃっきゃっと喜ぶ姿を見るとに、相当嬉しいみたいだ。今度もう少し労ってやるか。


毎度感心させられる魔族の中で、唯一敗北スタートを切ったカプレーゼは、俺の中で無意識に評価が低かった気がする。それで少し素っ気ない扱いになっていたかもしれない。


「そうだ。戦闘の話を聞かせてくれ」

いい機会だ、じっくりと話を聞いてみたかった。

今後の戦いのためにも良い教訓を得られそうだ。


「えーとね、うちのスピードについてこられてなかったよ。矢の魔法は当たったら即死だったけど、当たらなきゃいいよね。建物を何個か犠牲にしちゃったけど、スピードで翻弄して距離を詰めたら楽勝だったよ」

楽勝か。流石だな。言うほど簡単なことじゃないが、簡単なことのように言ってのける。


「えっへー、ねえ凄い? カプレーゼ凄い? オリバーなんかより凄いでしょ?」

「そうだな。はずれを引くオリバーより安定感があって使いやすい」

「そっそんなー!」

隣でガクリとうなだれるオリバーもわかりやすい男だ。

飛び跳ねて喜ぶカプレーゼと絶望感に浸るオリバー。陰と陽のバランスが取れたいいコンビな気がしてきた。二人を騎士に任命して軍を預けたのは正解だったな。


「冗談だ、オリバー。お前も良くやってくれている」

「し、シールドさまぁ!」

鼻水を垂らしながらハグしようと迫ってきたので、頭を押しのけて拒否しておいた。


肝心の話がまだ終わっていない。

カプレーゼの報告では、説明のできない事象があった。


「こいつは建物越しに正確にエルフを狙撃してきたんだが、建物に隠れながらやり過ごせるものなのか?」

「ああ、それは最初に感じました。潜伏してもなんかバレてるなーって」

「ほう」

それを感じ取れるだけでも、カプレーゼも驚異の感覚を持っていると言える。


「匂い、音、魔力、どれに反応してるんだろうといろいろ試した結果、魔力に反応していることが判明したので、魔力を抑えたらバレませんでしたっ。エルフって魔力に敏感みたい!」

なるほどな。


俺たち人間も何となくだが、他人の魔力を感じ取ることが出来る。

特に強大な力を持った相手が、目の前で膨大な魔力を溢れさせているとビシビシと伝わる。フェイが怒っているときわかりやすいのは、魔力が膨張しているからだ。


その感度がエルフは強いのだろう。離れていても感じ取れるとは流石だ。

種族ごとに特技みたいなのがあって大変面白い。


「それで、魔力をどうやって抑えるんだ?」

今後の対策にもなりそうなので、カプレーゼに聞いておいた。

「どうって、こうですけど?」

すーと魔力を収める実演をしてくれたらしいけど、俺はそんなに魔力に敏感ではないし、全然説明になってない!

こうですけど? で出来るなら初めから聞いてないけど!


くっ、これも天才の類か。

詳しく聞くだけ無駄だな。


「カプレーゼ。ダークエルフはこいつだけとは限らない。今後領内に潜伏したダークエルフが見つかり次第お前に対処してもらう」

「あいあいさー」

お調子者だが、根は真面目だ。

カプレーゼはダークエルフとの戦いにおいて切り札となり得る。

この双剣使いの魔族には盛大に働いてもらうとしよう。


「シールド様、俺にも仕事を、なにか仕事を!」

足元に縋りついてくるオリバーはなんとも見苦しい。

カプレーゼに手柄を独り占めされて心がやられているみたいだ。


「憑依であたりを引くんだな。そしたらお前にもダークエルフを任せよう」

「そんなぁ」

オリバーには冷たいが、大事な戦力を失う訳にはいかない。

それぞれ適正があるんだ。憑依のギフト持ちには、また別の機会を与えるとしよう。


「ところで、お話は終わりかな?」

カプレーゼの実力を知れて喜んでいる俺の隣で、物騒な声色が響いた。

目を離していたダークエルフがどういう訳か鎖の錠を断ち切って、立ち上がっている。


そんな怪力がどこに? 鎖の錠を見ると、斬られたような跡があった。

魔法か? 魔法が使われた形跡はなかったけれど……。


驚かされたのは確か。あれだけボコボコにされておきながら、まだ抗う気力があったとは。

しかし、声をかけた時点でお前は3流だ。

そっと静かにやる。そうでもしなければ、俺に魔法を当てることは敵わない。ま、それをされたところで体のバリアがあるから、なんともないのだが……。


「あれしきで拘束したつもりか。ここまで連れてこられたこと、むしろ好機。死ね、シールド・レイアレス!」

先日見た高威力の矢の魔法が、目の前で展開されていく。

あまりに近い。躱すことは不可能。しかし、躱す必要もない。


「「シールド様!!」」


慌てるオリバーとカプレーゼの声が聞こえた。

凄まじい魔力量の矢が、今にも俺に向かって飛んできそうだった。


前に感じた違和感を、今も感じる。

あのときバリア魔法で跳ね返っせなかった矢の魔法がこうして間近に。

思考が高速に巡っていく。


そして、答えに辿り着く。

なるほど。これほど近くで見なかったら気づけなかったかもしれない。ヒントをくれたこと、感謝する。


矢が放たれて、一瞬で俺に迫った。


「バリア――魔力反射」


矢がバリアとぶつかり合い、屋敷内に衝撃波が生まれる。

壁に賭けた時計が吹き飛び、ガラスも割れる。凄まじい風圧が襲ってくるが、俺のバリアが負けることはない、肝心なのは……。


「なっ――!?」

「正解だったな」


矢が撥ね返され、その強大な魔力の塊である矢がダークエルフへと突き刺さる。


ダークエルフを飲み込み、突き抜ける。屋敷の壁も壊して、魔力の矢は遠くまで飛んでいってしまった。領地に突き刺さり、建物が何個か倒れていた。


「まずい……」

情報を搾り取るはずのダークエルフが、魔力の矢によって跡形もなく消えてしまった!! この世から!!


「シールド様、流石です!」

駆け寄ってくるオリバーとカプレーゼがパチパチと拍手を送ってくれる。心配もしてくれるが、俺はもちろん無傷。


前回、あの矢を撥ね返せなかったのは、あれが魔法ではないからだ。

魔法反射のバリアが効かないのは当然だった。


驚きだが、ダークエルフは魔力そのものを飛ばしてきている。なるほど、時間の暴力による魔力鍛錬と魔力に敏感なエルフだからこそ出来る芸当だ。


使う機会は多くなさそうだが、対ダークエルフ用の手段を、俺も手に入れることが出来た。

情報は失ったが、収穫は十分ということにしておこう。


それにしても……。


「また屋敷が壊れてしまった」

風の良く入る屋敷だ。気持ちのいい風が流れ込んでくる。


「新調する必要があるな」

思えば、これは俺の屋敷ではない。

先代領主のものを引き継いだものだ。


アザゼルに任せている件もあるし、そろそろ俺の屋敷を建てようか。

簡単に壊れない頑丈ででかいのが良い。


幸い金はある。アザゼルが戻ったら相談してみよう。

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