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22話 バリア魔法で人心掌握

魔族とドラゴンのフェイを従えて進む俺は、まさに人類へと災いを届けようとしている使者に思えてきてしまう。


いかん、いかん。気持ちが暗くなってきてしまう。

100年後の人類には先に謝罪しておくが、自分の人生を謳歌させて貰うとする。


アザゼルの提案で、俺は自治領の治水工事を決断した。

もともとは他国のヘレナ国から専門の職人を呼び寄せて堤防の工事を行っていた。


海には強いミナントだが、ヘレナ国のように大きな川の少ないミナントでは、堤防造りは常に他国にまかせっきりだ。

領内に職人がいないことは筒抜けらしい。

そうやって足元を見られてきたので、結構な金額を吹っ掛けられてきた歴史がある。


それで先代領主も治水工事は後回しにしていたわけか。

大金が吹き飛ぶくらいなら、見て見ぬふり。それだと領地が余計に発展しないことになり、入ってくる税収も減りそうだが……。


まあ、そのおかげで仕事が舞い降りた。

治水工事をして領地の発展を高めると同時に、領民の心をつかむ作戦である。


3年に一度行う必要があるが、大した手間ではないだろう。

その間に堤防造りの職人を育て上げることも可能だ。時間を稼げるってのは何よりもいい。


付き従うは、フェイと、白い髪の魔族ベルーガ、それに10名ほどの魔族だ。

アザゼル率いるもう半分の魔族たちは、先代領主に仕え、ヴァンガッホが自分のものにしていた私兵のもとに向かっている。


屋敷近くにある私兵たちの宿舎。そこには500名ほどの私兵いるのだが、これからはミライエ自治領の正規軍となる人たちである。

アザゼルは「選別を行ってまいります」とだけ言い残して行ってしまった……。


不気味なその言葉に俺はごくりとツバを飲み込むが、しっかりとした軍を育成してくれるのなら文句はない。

きっと恐ろしいほどかっちりしたものが仕上がる気がする。あの堅苦しいアザゼルのことだ。恐ろしい選別の後、凄まじい訓練が待っているに違いない。


そっちは完全に任せてあるので、俺は俺の仕事に集中する。


ヴィラロドラの街に辿り着いた俺たち一行は、何事かと騒ぎだす街の人に、管理者が誰か尋ねてみた。

この領地は領主を統治者とし、更に区分分けして、街ごとに管理者が決められていた。


この街では冒険者ギルドと商業ギルドの管轄を担っている男が管理者を任されている。

規模の大きい街は広範囲に影響力を持っており、その管理者となると重要な身分だ。


ただ事ではないとわかるや否や、俺たちは急ぎ街の管理者ガリウスのもとに通された。


質素な屋敷で相まみえた。威厳のある人物かと思いきや、頭つるつるの老人だった。

けれど、目の輝きは失われていないどころか、老人とは思えない強い光を放っているように見える。


「自治領主さまのことは聞いております。あなたがシールド・レイアレス様ですね?」

「ああ、そうだ。あいさつと仕事をしたくてやってきた」

「後ろの者共は、そのためでしょうか?」


仰々しく連れてきた魔族の一行が、ガリウスを警戒させたらしい。

フェイとベルーガだけ残して、他は外に出した。


「すまない。高圧的な態度をとるつもりはなかった。まずはお互いの信頼を得るために、俺の力を示したい」


自分が治水工事の為にやってきたこと、そして訳の分からない税金を一部撤廃することを約束しにきた。

税金のことはまだアザゼルと話し合っているところだが、ヴァンガッホのやつめ。随分と私腹を肥やしていたらしい。

訳の分からん税金が多すぎて、整理するのですら大変だった。


税収を担当する役人どもも懐に結構な額を収めていそうな足跡もあるので、これからの処理が大変そうだ。


「治水工事を!?先代領主様とヴァンガッホ様がずっと放置していた件をですか?」

「ああ、魔法の力になるが、3年は持つ。その間に立派な堤防を完成させればいいだろう。自治領となった今、俺たちにすがるものなどない。これから領内の改革を進め、力強く独り立ちする」

「是非もない」


俺とガリウスは手を取り合って、握手を交わした。

この街を掌握する男と友好を結べたのは幸先が良い。ちゃんと報いてくれるかどうかはこれからの働きを見てだが、取りあえずは良い感じだ。


さっそく治水工事に入ることを伝え、川に詳しいものの手配を頼んだ。

俺たちはガリウスの屋敷で食事を頂く。


「で、どうだった?」

ベルーガのやつに聞いてみた。

こいつが付いてきたこと、そして終始ガリウスを値踏みしていたことの意味を俺が気づかないはずもない。


悪意に敏感な魔族が、ガリウスをどう評価するのか気になった。


「あれは使える男でしょう。シールド様があれをどうこうしようとしない限り、私からは特に」

「そうか」

俺が気に入らないと言えば、消し去るような言い方だな。


それにしても、フェイにしろ、連れてきた魔族にしろ、やたらと食べる。

優秀なやつらだが、本当に食費だけが気がかりだ。


「「「おかわり!」」」

少しだけ恥ずかしくなって、俺は少なめに食べておいた。


治水工事は一度やっているので、こなれたものだ。

土嚢袋を見ると少し体が反応してしまうことがあったが、バリア魔法を堤防代わりに丁寧に張っていった。


一日もすれば、川の要注意部分に全てバリアを張り終えた。

これで今年の雨季は大丈夫だろう。


実は治水工事のことは既にヘリオリの街でやっていたこともあり、ここの人たちもバリア魔法での治水工事を知っていたみたいだ。


意外と知名度があったみたい。

けれど、あれが自治領主の俺の仕事だと知れ渡ったのは今の出来事。評判がいいタイミングで上がってラッキーだった。


バリアは、見た目は薄い半透明の壁なので、その信頼性を怪しむ者もいた。

俺の許可を取って、タックルする者、丸太でぶつかっていく者、剣で斬りつける者までいたが、残念。その程度では破れない。


青春を消費して磨き上げた俺のバリアは、人の力や、川の水程度じゃあ壊れないね。

大海の大波が一年ぶつかり続けてようやく勝負になるかもしれない、そんな自慢のバリアである。


一仕事を終えた後は、ガリウスと街の人たちに歓迎された。

領内最大の街を味方に出来たのはでかい。


この地は領主の館がある街を除いては、一番発展した街だし、大きな仕事をした気分だ。

一夜を明かした後は、ガリウスからもう数日滞在して欲しいとの声を貰ったが、早めに領内全ての街を周りたい意向を伝えると、しつこくは呼び止められなかった。


「うまくいくことを願っております、シールド自治領主様」

「おう、そっちも街を頼んだぞ」


始めて俺のことを自治領主様と呼んでくれたガリウスに背中を向けて、俺たちは歩き出した。

次の街でもうまくいくと良いなー。そんな淡い願望を抱いて……。



「これは駄目です。命じてください。直ぐにでも処します」

あらら。

数日前のガリウスとの一件で楽観視していた。

俺たちは次の街で、ものの見事に舐められていた。


出てくる食事は粗末。一つの話を進めるごとに待たされる時間は半日にも及んだ。

ガリウスのときが上手く行き過ぎたかー。


私兵を碌に連れてこず、汚職を許さない俺のやり方はヴァンガッホほどのうまみもない。実力の無さそうな新自治領主。真面目に統治する気のない人間にとっては、俺みたいな領主は嫌なんだろうな。


「うーん、あまり恐怖で支配はしたくないけどな」

理想は街の管理者との信頼関係だ。

しかし、目の前のブクブク太った男は俺の言うことなど耳を貸す気はなさそうだ。


「見せしめじゃ。とことんやる方が良いぞ」

フェイの言葉もあって、俺はベルーガに命じた。

「それもそうだな。見せしめにするかぁ。やっちゃって」

太った街の管理者は首が飛んだ。


ベルーガの水魔法、水の刃によって一瞬で首と体が離れる。

歯向かう護衛も一掃しておいた。


貯えていた私財は街の人に還元する。

屋敷は焼き払い、家族は追放。とことんやる魔族には恐れ入ったが、効果は覿面。


新しく任命した街の管理者は、「はい、はい」と言うだけの機械と化してしまった。

本当にやりすぎだったかも……。


治水工事も行い、俺たちは街の人の信頼と恐怖を得た。

領地を良くしたいだけなのに、魔族を引き連れ、人を切り裂いてまわるとは……。

ますます人類への反逆を行っている気がして、俺はちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。



――。


「今度こそ通して頂戴。シールドが屋敷に到着した情報はヘリオリの街で得ているんだから!」

以前門兵に追い払われたオリヴィエが、またこの地に現れた。

「すみません。領主様は領内の改革のために現場仕事に向かわれました。お帰りをお待ちください」

「なっ!?なんでこんなにもタイミングが悪いのよ!」

「申し訳ありません。しかし、本当に領主様の知り合いならば、お近くでお待ちになっては?街には宿もありますので、後を追うよりかは待たれた方がよろしいかと」

「そうするわよ!」

オリヴィエのフラストレーションをぶつけられた門兵だったが、それほど気にはしていなかった。

給料が倍増したことと、新しい領主が新しい風を吹かせてくれそうな予感がして、彼の気分は高揚しっぱなしだったからだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王ルート進んでて草 おかしい…英雄だったはずなのに…
[一言] シールドは、魔王になるのかww
[気になる点] バリアの張り直し時期はいつなんだろう
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