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19話 バリア魔法は呪いも撥ね返す

恐ろしい雰囲気とは裏腹に、魔族アザゼルはゆっくりと翼を羽ばたかせて湖から出てきた。


静かに着地して、魔力で体に纏わりついた水を弾き飛ばす。

水滴が360度綺麗に散らばった。

こちらを一瞥して、美しい所作で片膝をつく。


「300年ぶりにございます、フェイ様」

「おう、相変わらず格式ばった男じゃのぉ」

「人間に後れを取ってしまい、封印されてしまいました。処罰は如何様にも。ただし、出来れば人間どもを葬った後にこの命を散らしたく思います」

「良い、別に罰などない。そもそも我々は協力関係にあって、上下関係はないと思っておる」

「フェイ様の寛大な心に感謝いたします」


話が一段落したみたいだ。

そして、再び強烈な殺気がこちらに向けられる。


「なぜ人間がフェイ様の隣に?消し去ってもよろしいですかな。目障りですので」

「なっ!?」

危ない雰囲気があったけど、礼儀正しい態度に本当はそうではないのかと油断してしまった。

やっぱり危ないやつだったか。

見るからに怖い感じがする。一番怒らせてはいけないタイプだと思われる。


理詰めでボコボコにしてくる感じがする。宮廷魔術師時代もそのタイプの人間に金の使い過ぎで良く詰め寄られていたな。反論のしようがないので、一方的にフルボッコだ。


「人間との戦争はとうの昔に終わっておる。我らの負けじゃ」

「ならば再戦すれば良いだけのこと。フェイ様と私がいれば何も問題ないかと。手始めにこの人間の首を持って、宣戦布告と行きましょう」

どうしても俺のことをぶっ殺しておきたいらしい。

やめて、俺のことは一旦忘れないか?


「そうはいかん。前回敗戦して大陸の覇権を奪えなかったように、人間どもはなかなかに手ごわい相手じゃ。あれでドラゴンも、魔族も数を大きく減らした。人間を侮れば手痛い目に遭うことを学ばせて貰った」

「フェイ様ともあろうものがなんと弱腰な。我らを分断し、挙句封印した異世界の勇者さえ現れなかったら、間違いなく我々の勝利でした」

「またその勇者を召喚されたら、我らは同じように負けるじゃろう?」

「その心配は必要ないかと」

「ほう……」


アザゼルが片手をかざす。手のひらを向けた先にある大木が、次の瞬間には腐敗して、ぐちゃぐちゃになった状態でその場に崩れさった。


「300年の間に考え、構築した魔法です。今初めて使用しました。勇者にもこの魔法の対策はないと思われます」

「凄い魔法じゃ。いや、ほとんど呪いの類に近い。人間に解析して対応できるものではないな」

「勇者は私が殺します。フェイ様は他の人間のせん滅を」

目の前でとんでもなく恐ろしいものを見せられ、世界を破滅させるような話を聞かされ続ける。

これなんていうプレイですか?怖すぎるんだが!


「やはり許可はできん。この時代、勇者より質の悪いのがいる」

「……フェイ様と私の腐敗の魔法をもってしても対処できないと?」

「全く無理じゃろうな。試しにやってみたらどうじゃ?面白いものを見られるぞ」


そういい終わったフェイが、俺の背中を押してアザゼルの前に進ませた。


「ほれ、こやつじゃ。こやつを殺せたら再び人間どもとの戦争を考えなくもない」

「これが?」

もはや、これである。この人、こいつ、下郎とかでも良かった。これ、だった。


「殺せばよいのですね?」

「ああ、殺せばよい」


次の瞬間、アザゼルが俺に手をかざした。

『腐敗の魔法』


なんかね。この展開が読めてたから、俺は既にバリア魔法を張ってある。

『バリア―魔法反射』


人間にはわからない魔法。難しい理論。呪いに近い。

そんなのは関係ない。俺のバリアを突き破れないし、悪いが跳ね返させて貰う。


「――っ!?」

腐敗が始まったのはアザゼルの体だった。


腕から腐り始め、ドロドロになって崩れ落ちる。

なんてグロテスクな魔法だ。俺が食らったらどうしてくれる。


スパッと自分の腕を肩から切り落としたアザゼルは、腐敗する腕から飛び退いた。おそらく触れるだけで腐敗が進むのだろう。距離をとったのはそういうことだ。


驚愕の表情で俺のことを見つめる。


「どうじゃ?勇者よりも厄介じゃろう」

「ただのバリア魔法に見えましたが、これは一体?」

「見ての通りただのバリア魔法じゃ。しかし、恐ろしく固く、破れる気がしない。その上、どんな魔法も跳ね返してきおる」

「……フェイ様の力で強引に突破すればよろしいかと」

「物理も通さぬ。むしろそのままの威力で跳ね返され、歯を折られた」


アザゼルが静かにこちらを見つめ続ける。

分析しているのだろう。ゆっくりとした時間が流れた。


『腐敗の魔法』

『バリア―魔法反射』


またもや使用された腐敗の魔法を跳ね返しておいた。今度は黒い翼が腐敗をはじめ、アザゼルは自分で翼を千切って落とした。


なぜ、もう一回試したんだ?君の体はそんなに安いのかい?


「それ以上はやめておけ」

「こんな傷、1週間もすれば完治いたします」

腕と翼が1週間で生えてくるらしい。上級魔族っていう生き物はどういう生態なのだろう?俺のバリア魔法よりよっぽど凄いものに感じるけど。


「しかし、フェイ様の言う通りですね。人間はどれもこんな魔法を使うようになったのでしょうか?」

どれ、この魔族は我々人間をもののように呼ぶんだね。

「我の知る限りこれだけじゃ」

これ!


「これだけですか。フェイ様の意図が読めました。戦いは100年後という訳ですね?」

「理解度が高い。やるならその時じゃな」

「承知」

二人の会話は俺にも理解が出来た。


100年後、俺が衰弱もしくは死んでいるときにフェイに食べられ、バリア魔法を得た最強のドラゴンと魔族による人間への侵攻だ。


前から思っていたが、人類を守るはずの俺のバリア魔法が、このままだと人類を滅ぼしそうだなんだけど!

バリア魔法を使うフェイと、腐敗の魔法を使うアザゼルのコンビ。100年後の人類、すまない。世に憂いを残してしまいそうです!


「アザゼル、100年間遊びと修業を兼ねて、お主も共に来い。ミライエで我らは暮らすことになっている。そこに来るがいい」

「わかりました。では、私は少しやることがあるので一旦失礼致します」

最後にぎょろりと睨まれた。


「うっ」

思わずたじろぐ。静かに怒りを秘めるタイプか。

やはり苦手なタイプだ。


蝙蝠の大群がどこからともなく現れて、アザゼルを覆い尽くした。

大群が去って行くと、そこにいたはずのアザゼルが消える。

どういう魔法か、俺には知りようもない。想像すらつかない。

あんなかっこいい魔法の一つや二つ、使ってみたいものだ。


謎の方向を見つめるフェイだが、すでに俺にはなにも見えない。

そっちに飛んでいったのだろうか?それとも違うことを考えているのだろうか。

便利な魔法が多い中、バリア魔法ばかり訓練するから俺みたいな不器用なやつが出来上がってしまった。


「あやつは頭の切れるやつだぞ。使ってやれば、きっと役に立つ」

「使うって、ミライエで?」

内政、もしくは外政?あの実力なら戦闘員としても使えるな。フェイがいれば言うことは聞いてくれそうだし。


「そうじゃ。味方は恐怖で縛り、敵をも恐怖で震え上がらせる。味方を欺いて内通者を吊し上げ、敵を欺いて術中に嵌める。あやつが殺した総数はおそらく我よりも多い」

……使いたくないな。

そんなやつ、信頼して眠れないんだけど。


しかも総数って言い方がなんか不気味だ。

敵とかじゃないからね。総数だからね。それはきっと裏切り行為をしたドラゴンや魔族もその数に含まれているっていうことだから。


フェイの言葉の真意を読み取ってしまったことで、余計に不安が募った。

けれど、目の前の問題は対処できた。今は腹が減っているから、これ以上考える気力は沸いてこない。


仕事の完了を村長に告げに戻る。

もう呪いは起きないから大丈夫、とだけ伝えておいた。


当然信用して貰えなかったので、1週間の滞在を余儀なくされた。

次第に起き上がってくる村人たち。アザゼルの強力な魔力が薄まれば、回復するのも当然だ。


本当のことを言っていたのが証明されたはずなのに、三日前に来た癒しの魔法を使える神父さんのおかげじゃないかと疑われてしまった。


全く、なんていうタイミングで到着してんだ。

最後まで疑り深い村長だったが、神父さんが誠実な人で、自分は何もしていないと証言してくれたことでようやく報酬を頂けた。


けち臭い村長には、最後の日の飯で、たらふく食べることで仕返ししておいた。

「ほら、フェイ。もっと詰めろ!」

「無茶言うな。我にも限界はある!」


旅の路銀と、食いだめが出来たのはいいが、また世界を破滅に導いた気がした寄り道だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] フェイの存在意義は、あくまでシールドを行動させるためのキーでしかないから、見てる読者からしたら邪魔な存在でしかないんだよねぇ。 かといって、纏わりつかれたら最後、シールドにはフェイも魔…
[一言] こいつを追放した国も大概アホだが、シールド自身も結構ろくでもないな。フェイの大食だけでなく本人も金使いが荒い。自治領をもらっても、まともに運営できる未来が見えないし、連れているのは皆人間社会…
[気になる点] 見方→味方 [一言] フェイ…一緒にいるだけで食費もかかるし騒動にも巻き込まれる しかも虎視眈々と死ぬ時を狙っているし、普段は何もしないくせに余計な真似だけは好んでやる うーむ、紛うこ…
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