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148話 バリア魔法の伝記は事実よりファンタジー

「また道場破り!? 何人目だよ。ったく。追い返せ」


マナリンクスとの大きな戦い以降、大きな事件は起きておらず、俺は好きなように国を発展させているのだが、こんな感じで変なのが湧いて出て来るようになった。

大きな戦いに勝ち続け、異大陸ベンカーでも勝ったことで、俺個人の人気が非常に高まってしまっている。

そんな流れもあり、世間では俺の伝記が出版されていた。


どこの誰が書いたのか知らないが、結構な出来らしく、とんでもないヒット作になっているらしい。

俺の名前を使うことを許可した覚えはないが、禁止した覚えもないので、今更差し止めることもできず、日に日に数が売れて世間に広まっている。


基本ミライエでは進行も自由だし、俺への批判も禁じていない。

伝記で変なことを書かれていようとも文句は言わないが……。

「おいおい」


この伝記を書いた著者はどうやら俺の熱烈なファンらしい。

ファンというか、信者。

それもかなり妄想マシマシの美化された俺がいた。


伝記では、俺の身長は2メートルあり、あらゆる剣術と魔法を使い子なるバリア魔法使いという設定になっている。

あらゆる剣術と魔法が使えるなら、バリア魔法なんて使っていないのだが?

普通に剣術と魔法を使ってのし上がる道を考えていたと思う。

そっちの方がモテそうだし、普通に成功する可能性が高そうに見えるからだ。


俺はな、冗談でバリア魔法使いをやっているんじゃないんだ。

バリア魔法しか使えないんだ!

それと、身長2メートルのやつかっこいいか?


ここら辺だけ文句をつけたい。

ストーリー自体はとても楽しかった。


俺がバリア魔法でイデアや異世界勇者と戦ったシーンは白熱していて最高だった。

実際はバリア魔法の圧勝だったからな。あんなに脚色してくれると、読み応えがあって大変良い。


物語はそのまま終わってくれれば良かったのだが、この伝記内で俺は道場を作ったのだ。

その道場は表の世界では知られておらず、裏の実力者たちが集って日々誰が最強化を競い合っている。


俺のバリア魔法に迫るほどの実力者たちが集まり、最新刊の敵は9頭身とスタイルのバグった伝記内の俺に蹴り飛ばされていた。

いや、バリア魔法使えよ……。とか思ったが、この巻が一番売れていて、評判も良いと来ている。

わからないものだ。


そういう流れで、俺のところに道場破りのあほ共が来るようになった。

まじで迷惑!

あほすぎる!

道場なんてやっていない。


「どうも、シールド様にお会いできるまでは帰らないとのことでして……」

「シールド様の耳に余計な情報を入れるな。黙って追い返せばいい」

執務室に共にいたアザゼルが冷たく斬り捨てる。

いや、これは冷たいようだが、普通にアザゼルが正しい。

こんなこと俺の耳に入れるな。暇じゃねーぞ。


「わかりました。では、迅速に且つ簡潔に殺しておきます」

「ん!?」

極端だね!

なんか、対応が極端だね!


「待て待て。ちょっとだけ待て。仕事を少し片したら俺が行くから」

「いいのですか? シールド様程の方がわざわざ出向いて」

仕方ないだろ。

相手は引かないというし、うちの部下は極端だし。


面倒だが、国をよくするにはこういう仕事もやっておかなくちゃダメだろう

急いで書類仕事を片付けて、例の変人のもとに向かった。


城の門の前で、仁王立ちした変人が待っていた。

槍を構えて静かに立っていた。


……変人だ。

間違いなく変人だ。


「お前か、道場破りってのは。悪いが道場を開いてないし、お前が勝っても下ろす看板なんてないぞ」

「それは勝ってから確かめるとしよう」

全然話を聞いてないな。

この類のやつはもう10人を超すが、一人として俺の話を聞いたやつはいないので予想済みの結果だ。


「俺が勝ったら黙って帰れよ」

「そうはならない。我が槍が貫けなかったものは……ない! 参る!」


華麗にクルクルと槍を扱い、一気に間合いを詰めてくる。

槍の間合いは長い。

まだ大丈夫だと思っていると、いつの間にか喉元に刃が突き付けられていてもおかしくない。


それも、相手がまるで自身の体の一部のように槍を操る達人なら尚更。


「バリア魔法――物理反射」

基本のバリア魔法で完璧なタイミングで防ぎ、反射で槍を折る。

更に突いてきた勢いを本人に撥ね返し、ダメージを入れる。


相手が思わぬダメージにひるんだ一瞬、今度はこちらが更に距離を詰める。

間合いに入って、顎目掛けてハイキック一発をお見舞いする。


脳が揺れた相手は足元がおぼつかなくなり、ふらふらと倒れた。

槍を手に取り、矛先を相手の顔の前に突き付けた。


「俺の勝ちだ。満足かい?」

「……無念」

変人の道場破りは座り込んだまま胸元に手を突っ込む。

今更反撃するつもりもないから、もしかしたら自害用の武器でも取り出すのか? と少し警戒した。

城の前でグロイこととかしないで!


そう思っていたが、出て来たのは一冊の本だった。

それも、見たことのあるやつ。


「これって……」

「すみません、シールド様。実は大ファンでして……。どうかサインをいただけませんか」

「はあ?」

道場破りに失敗して、何を始めたかと思いきや、俺のサインを懇願してきた。


「ていうか、サインって俺の? 作者のサインを貰った方がいいだろ」

「いえ、普通にシールド様のサインが良いです!」

おっさんにサインを懇願されても。

これが若いギャルなら俺も鼻の下を伸ばし柄、相手の胸元をちらちらと覗き込みながらサインしていたところだ。


「実は……薄々シールド様には勝てないと思っておりました。最強の道をあきらめ、飲食店でもやろうかと。異世界勇者様が広めた蕎麦の美味しさに感動を覚え、今度店を開こうかと。実は妻が妊娠したのもあって、稼がないといけないのです」

な、なんか身の上話が来た。


「槍一本で生きてきましたから、商売なんてできるのか不安ですが、なんとかやってみます。店に、シールド様直筆のサインでもあれば……」

泣き落としで来やがった!

こんな話を聞いてサインの一つくらいケチるのもなって気分になってくる。


黙ってサインを書いてやり、手渡してやった。

「ありがとうございます! これで店は孫の代まで安泰です!」

「そんなものなのか?」

「ええ、きっと大きな効力を発揮してくれます」

「それならよかった。さあ、帰れ。そして二度と来るな。次はただじゃすまないぞ」

「感謝します。お礼と言っては何ですが、少し情報を。この伝記ですが、初版本なのです。買った際に著者の握手会に参加したのですが、その時に少し話す機会があって、どうやらサマルトリアに住んでいるらしいですよ」

「ほう。興味深い」

それほど強い興味を持っていなかった著者について、まさか手がかりを得るとは。


少し情報はあったのだ。発売当初だけ姿を見せていたが、今じゃ全然表舞台に出てこないんだと。

なんでも握手会やら、ファンと交流する舞台に来ないらしく、いつしかそういうことが行われなくなった。

信用を失ったのもあるだろうけど、単純に執筆が忙しい可能性もある。


『O・A』


著者名にはこう記されている。

心当たりは……ない。

俺の知り合いに、文才のある人なんていない。

だとしたら、赤の他人か。


そりゃ俺のこと身長2メートルで、かなりの美青年、あらゆる才能に恵まれた、神の子と書いてるくらいだしな……。

けれど、どうも簡単に他人と決めつけられない点もある。


「こいつ、ところどころエピソードが具体的すぎるんだよな」

そう。まるで俺の過去を見たことがあるのかってくらい、リアルなエピソードがいくつかある。

人物像はまるで違う。具体的に言うと、すんごい美化されている。


けれど、エピソードは違う。

たまにドキッとするくらい生々しい話が出てくる。

俺がヘレナ国で最弱の宮廷魔法師と呼ばれていたことなんかも書かれていた。……結構美化されてはいたけど。

会議のとき、一人窓辺で静かに座っていた。なんて書かれているが、あれは会議でハブられていただけだ。

最弱だと馬鹿にされて、みんなから認められていなかったからな。当時の苦い思い出だ。


「なぜこんなことまで知っている……」

少し気になったので、作者を探してみることにした。

サマルトリアにいることは確定したんだ。見つけるのもそんなに苦労しないかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 方向音痴を極めた人だからねー。シールドが探しに行こうとすると逆方向にシールド探しに行ってそう。迷子の達人オリヴィア(笑)
[一言] 単純に知人の可能性は低いかな? シールドがバリア魔法特化でその事自体に誇りを持ってるの知ってるから、伝記で他の魔法とかも使えるような演出はしないだろうし。 やってもバリア魔法をオーラか何か…
[一言] う~ん、その人、「握手会やら、ファンと交流する舞台に来ない」んじゃなく、 「行こうとしたけど道に迷って来れなかった」じゃないですかね?
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