147話 バリア魔法の起源
マナリンクスの占領していった土地や街、城はとりあえずちゃっかり我が軍が借り受けておいた。
今後いろいろ交渉などあるだろうが、無理のない範囲で我がものにしようと思っている。
すまない。
一度手に入れたものは手放さない主義なんだ。
俺に負けたマナリンクスはすっかりと覇気が抜け落ちてしまったみたいで、僧侶に転職するらしい。
ゆっくりと世界を回りたいみたいで、許可しておいた。
また軍を作り上げて悪いことを企てるかも、牙を向けてくるかもといろいろ忠告を受けたが、絶対に勝てるので大丈夫だ。
絶対が付く。
バリア魔法ですが、どうやらギフトも効かないことが判明したので、余裕です。
なんなら、鍛えて出直してきて下さいっていう感じです。
ごたごたはまだまだ続きそうだが、とりあえず危機は去ったと言えるだろう。
また俺のミライエとゲート地方の開発に着手できるわけだ。
「ちょっと待て。何事もなかったかのように先には進ませぬぞ」
俺のウキウキ開発ライフが戻ってくるかと思いきや、フェイから止められた。
ダイゴからインフラ設備の話も来ているし、ブルックスから交易所に入った新商品の情報jも来ている。
いちいち足なんて止められない。
新時代が来ているんだ!
「なんだよ。無事に戦いに勝ったからいいじゃねーか」
「そうもいかぬ。お主の魔法が魔法じゃない可能性が出て来た」
哲学かな?
「じゃあなんなんだよ。まさか、俺のバリア魔法を仲間外れにする気か?」
そういうの良くないと思うぞ。
俺のバリア魔法が凄いからって、嫉妬して仲間外れは良くない。
ダメ、絶対。
「うるさいやつじゃの。いいから、とりあえずバリア魔法を張れ」
フェイが何かを試したいみたいで、つべこべ言わずに指示に従うことにした。
室内よりかは外が良いというので、城の中庭に来た。
バリア魔法を一枚展開し、フェイのやりたいようにやらせる。
「コンブ、お前もバリア魔法を作れ」
「はーい」
フェイの指示で、横に並べるようにコンブちゃんもバリア魔法を張る。
俺のと見た目はあまり変わらないように見えるが、少し色が違うかな?
「相変わらず素晴らしい出来じゃ。よくやった、コンブ」
フェイが頭を撫でてやり、コンブちゃんも嬉しそうに撫でられる。
まるで飼い主に懐く子猫のようだ。
コンブちゃんは俺たち人間の区別はついていないというか、たまにゴミのように見下してくるのだが、フェイの前ではいつだって可愛い子猫ちゃんだ。
「そこの、なんかきもいこと考えた?」
「いや、全然?」
長い付き合いだというのに、そこの呼ばわりである。
「そしてこれが我のバリア魔法」
フェイも当たり前のようにバリア魔法を使い、コンブちゃんのバリア魔法の隣に並べた。
少し黄金色に輝くバリア魔法だ。
フェイのバリア魔法はどこか神々しい。
「守りの魔法はコンブの方が得意じゃ。我のは耐久面でコンブのバリア魔法に大きく劣るじゃろう」
「そうなのか? 二人とも凄く見えるけど」
「そうでもない。それを今から証明してやろう」
そう言い終えると、フェイは自分で作ったバリア魔法を殴りつけた。
綺麗な構えから繰り出された正拳突きがバリア魔法を突き抜け、パリンとまるでガラスが割れたような音がした。
「我の攻撃力では普通こうなる。そして次にコンブのじゃ」
少し気合をためて、魔力を盛大に拳に集める。
フェイの魔力操作は美しいレベルで流れる。量も凄まじく、ただの魔力操作だけで何か凄いことをしている雰囲気がある。
「よっと」
またもきれいな構えから正拳突きを繰り出す。
コンブちゃんのバリア魔法も突き破られる。
今度は壁が崩れたような轟音が響き、辺りに揺れまで生じる程の威力だった。
「うおっ」
相変わらずの馬鹿力だ。
いや、単純なパワーだけではない。
先ほども見たように、綺麗な魔力操作と、魔力量もあっての一撃だ。
「おそらく世界最高レベルのバリア魔法でも、我の攻撃の前にはこうなる。てて、コンブ! 固すぎじゃ! ちょっと傷んだわい」
手をひらひらと仰いで、痛みを離散させる。
どうやらフェイでも痛いくらい硬いバリア魔法だったらしい。
コンブちゃん、お前良いバリア魔法を使うじゃないか!
「ここまでが魔法の域じゃ。そして次……ふう。気が重いのぉ」
何度か俺のバリア魔法を触って、感触を確かめるフェイ。
渋い顔をこちらに向けて、何か文句を伝えてくる。
「馬鹿が。このバリア馬鹿が」
「なぜ!?」
急に悪口が飛んで来た!
「嫌じゃが、今一度我の力とこの異質な力をぶつけてみよう」
先ほどの魔力がマックスではなかったみたいだ。
フェイの体から魔力がどっと漏れ出す。
かつてない程の量だ。
魔法の素養のないものだと、この場にいるだけで体調を崩して今井金ない程の濃度。
そして、迫力もすさまじい。
何事かと城から人がわらわらと出てくる事態になった。
フェイとコンブちゃん、そして俺がいることを確認すると皆問題はないと判断するが、何が起きるのかと遠巻きに見守っていた。
「よし、行くぞ」
黄金色の魔力が右腕に集まっていく。
フェイの背中に翼が生え、空高く飛び上がった。
上空から斜めに下降してくる。どうやら助走らしい。
凄まじいスピードで迫り、声を張り上げて渾身の一撃を叩きこむ。
「こんのぉ!! くたばれバリア魔法馬鹿!!!」
すんごい侮辱付きで。
爆風が怒り、中庭の芝がはがれ、土が宙に舞い上がる。
城の窓が割れ、吹き飛ぶ人までいた。
しばらくすると土埃が消え、辺りが良く見えるようになった。
ボロボロになった中庭の中心で、右腕を痛めたフェイがこちらを睨んでいた。
「……くそ腹立つ。この通りじゃ」
フェイが指さした先に、俺のバリア魔法がある。
それも、一切の無傷で。
「我が傷一つ付けられる。これはもはやアレキサンダーが人間どもに教えた魔法とは違うものなのじゃ。ドラゴンの魔法体系では説明がつかん。まったくもって説明がつかん」
これを言いたいがためにここまで頑張ってくれたらしい。
それにしても、フェイの本気はあまり頻繁に見たくないものだ。
土地が荒れる!
まじで迷惑!
「俺の魔法がアレキサンダーが人間に齎した魔法体系とは違う……。だったら俺のバリア魔法はなんなんだ?」
「そこじゃ。肝心なのは」
フェイが珍しく真面目な顔をする。
どこか賢そうな雰囲気を伴って。
馬鹿なくせに。
俺と同じ馬鹿仲間なくせに!
「何か失礼なこと考えたか?」
「いや、全然?」
話を進め給え。
「アレキサンダーの魔法は我も全て見て来た。長年一緒におったからなの。そもそも最初から気づくべきであった」
「何に?」
「アレキサンダーの魔力でもバリア魔法は壊れた。それが人間ごときのバリア魔法が壊れない。これはもはや違う魔法体系なのじゃ。ギフトとも違う、全く新しい魔法」
やはり俺のバリア魔法を仲間外れにしようという話らしい。
そんなこと、認めないぞ。
俺の魔法も仲間に入れろ!
善良で抵抗するで、バリアで。
「つまり、お主のバリア魔法を知るためには、その起源を辿る必要がある」
「起源……。ヘレナ国で手に入れた基礎魔法書から学んだものだ。市販されているから、アレキサンダーの魔法体系と同じだと思うんだが」
「おそらく、何かでずれたんじゃろ。アレキサンダーの魔法ではなくなり、全く新しい魔法になったきっかけが」
俺の幼少期にそんな秘密が……。
なんだか、凄く神秘的な話に思えて来た。
「まっ本当は、別に興味ないけど」
「まっ本当は、俺も全然興味ないけど」
「バリア馬鹿、飯にしよう。いい酒が入っている」
「いいね。コンブちゃんも一緒に飲もう」
魔法体系とかどうでもいいよね! 飯の方が大事だ!
こうして俺のバリア魔法の秘密は闇へと葬られることとなった。