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140話 side オリバーの熱

シールド様にお願いしてゲート地方の守護の責任者にしてもらった。


オリバーの名前は、以前なら軍の最高責任者として知られていた。

しかし、今は違う。数年の間、パッとしない働きのせいか、それとも増えて来た騎士たちのせいか、影が薄くなっている。

現在、軍には5名の筆頭格がいて、自分はそのうちの一人でしかない。

自分と、カプレーゼ、ギガに、ミラー、新任のアトモスだ。


「オリバー、お前を軍の指導者にする」

とシールド様に命じられたのが2年ほど前になる。

あの時はどでかいプレッシャーとともに、とんでもない喜びに包まれていた。


ああ、この方の為に仕事ができるのかと思うと、毎日が晴れやかな気持ちだった。胃は少し痛かったけど……。

あれから、シールド様はどんどんと大物になっていった。

あの方のバリア魔法を始めてみた時、言い表しようのない感動を覚えたが、実際に凄い物だった。

あの方が成すこと全部うまく行ってしまい、我々の想像を超えたものを毎回作り上げてくださる。

歴史に名を刻む伝説的存在、そんな偉人と接しているのだ。


一目で我々とは住んでいる次元が違うとわかるというのに、シールド様に歯向かおうとする愚か者たちも中にはいる。

シールド様に逆らう者は皆屈し、排除されるか吸収されるかだ。

シールド様に立てつこうとは、浅はかな連中だといつも思ってきた。何を見ているのかと。


しかし、今回の事件は少し特殊だった。

相手はギフト持ち。しかも魔法を消し去る能力だという。


ギフト持ち同士にしかわからない感覚ってものがある。

ギフトは神に愛された力だと言われることがあるが、まさにその通りなのだ。


この力は魔法とは全く違う。

なぜ憑依ができるのかわからないが、自分の周りには常に英霊たちが漂って、求めに応じて体に憑依してくれる。

これを始めて他人に語ったとき、馬鹿にされ、恐怖され、仲間外れにされたりした。

ギフトと判明して以来、周りの態度も変わったが、それほど普通の人間とは性質の違う力なのだ。


恐ろしい死霊を操る魔法使いも、自分のギフトをみると、え? なんかきもって目で見てくる。

そっちのほうがきもい! なんか腹が立つ。


とにかく、言いたいのはギフトの力は異質であり、侮ってはいけないということだ。


魔法を消し去るギフトなら、それをやり遂げてしまう。

もしかしたら、シールド様に届き得る力なのかもしれない。


万が一にもそんなことがあってはならない。偉大なるシールド様に手出しはさせない。

自分にできることならなんでもやるつもりだ。

そして、思いついた。


自分はこの件で周りを見返してやろうと。


最近パッとしないのだ。

オリバー? ああ、騎士の一人にそんな人いたね。あの影の薄い人でしょ?

くらいの評判に落ち着いている。


名前があがるのは、いつもギガだ。

あいつはなぜか庶民に人気がある。生まれ持った華があるんだろうな。


それと新米のアトモスも人気がある。

伝説の傭兵団の頭で、なんとシールド様が直々にスカウトした人物らしい。

いきなりの騎士待遇で、今はヘレナ国から勝ち取った土地を治めている。


軍の人間なのに、博識なので統治を任されているらしい。その統治ぶりは、シールド様とアザゼル様が全幅の信頼を寄せる程だ。

しかも、イケメンである!


性格も男前で、頼りがいがある。

口癖が「俺に任せろ」らしい。

どこまでも格好つけやがって。


こっちはな。顔は重病人みたいだと言われるし、この前お見合いした人には20日くらい寝てなさそうとかも言われた。

毎日快眠だ。

顔色悪いのは昔からであって、不調は関係ない。


ギフト持ちなのに、いまいち花開かない自分の人生に舞い込んできたチャンス。

これはピンチではなくチャンスだ。


ギフト持ちに対抗するにはギフト持ち。

これは当たり前のような考えだが、意外と周りは気づかない。


このことをシールド様とアザゼル様にプレゼンしたところ、すんなりと承諾して貰えた。

マナリンクスとやらの野望を打ち砕くときが来た。

ここででかい功績を残して、シールド様に今一度認めてもらう!

軍にオリバーありとミライエの民に知らしめる!


胸に熱いものを抱えてゲート地方に向かったはずだった。

それなのに。

「……なぜお前がいる」

「えー? うち?」

「お前以外に誰がいる」

「そりゃアザゼル様に行けって言われたから」


くっ。

屈辱だ。

どうして自分に全部任せて下さらないのか。


「そんなにあからさまに落ち込まないでよ。アザゼル様も今回の件は確実に解決して欲しいみたいよ」

「…………」

「ほーら。責任者はあんただし、手柄もあんたにあげるからさぁ。元気出しなよ」

「ぐすん」

「泣かないで」


でもカプレーゼの言う通りだ。

カプレーゼがいれば一層仕事が盤石だ。

自分が憑依でハズレを引いても、彼女がいればなんとかなる。


ミラーは戦闘部門の騎士じゃないので、活躍しても、重宝されてもあまり嫉妬しない。

ギガとアトモスじゃない分、来てくれたのがカプレーゼだったのは幸運だったかもしれない。


「よし、ならやるか。もともと騎士は自分とカプレーゼの二人だったんだ。元祖二人でやってやろうじゃないか」

「うちは別にそんなこだわりないけどなー。シールド様の役に立ってれば別にいいし」

「それはそうだけど……。でもシールド様にお前こそが最強だ。騎士に任命して良かった! って言って欲しくないか?」

「そりゃそうだけど、でも大きな活躍より、たぶんだけどきっちり安定して任務をこなした方がシールド様は喜んでくれるよ」

……ぐうの音も出ない程の正論きた。


カプレーゼは軍人らしい規律とかが苦手で、あまり軍に馴染めていないが、結構内部での評価は良い。

こういう大事な部分を理解しているからなんだろうな。

なんだか自分だけ2年前から成長していないようで、少し寂しい。


「ぐすん」

「だから泣かないで」


お見合いもうまく行かないし、仕事もぱっとしない。

でも、やはりこれは大きな契機だ。


「マナリンクスをこの手で捕らえる。カプレーゼと一緒なら、なんとかなるんじゃないだろうか」

「まあ剣を使えるうちらが任命されている以上、シールド様とアザゼル様もそれを期待しているかもね」

「でもカプレーゼが言うように、ここは大きなミスをしないように情報だけ持ち帰ったほうがいいのか?」

「なーに弱気になってんのよ。情報を持ち帰って、後はシールド様に任せっきり?」

「ううっ……。自分はどうすれば」

「そんなの自分で決めなよ。あんたが責任者なんだから」

ううっ。

ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。

もっと自分を励まして欲しい。

そしたらやる気もできるというのに。


「……決めた」

「で、どうすんの?」

「マナリンクスが軍を率いて進行している。ハルア国に接近次第、ラブ王太子の許可を得てマナリンクスと戦ってみる」

「随分と強気ね。いつも逃げ腰なのに」

「うっ」


確かに怖い。けれど、男にはやらねばならぬときがあるのだ。


「マナリンクスは他国の伯爵だ。私財で軍隊と傭兵を雇い、で各地を荒らしているようだが、所詮は一領主の規模。我々本物の軍人には勝てない」

「まあミライエの軍は客観的に見ても質が高いよね」

「そう。だから、自分がマナリンクスを討ち取る。その間に、ミライエの軍がマナリンクスの軍勢を打ち破る。簡単な仕事のはずだ」

「ふーん。うまく行くといいけど」

……素直に同意してくれればいいのに。


けれど、大丈夫なはずだ。

自分がマナリンクスに負けさえしなければ……。


魔法を打ち消すギフトは自分には関係ない。今度こそ、大きな手柄を得られるはず。


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