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137話 バリア魔法とドラゴンの歴史

「なんじゃ改まって」


わざわざフェイの部屋まで例のあれを持っていき、ラッピングした箱を両手で抱えている。

部屋の外には護衛も待機させているので、フェイからしたら何を物々しい雰囲気を発しているんだという感じだろうな。


そりゃそうだ。

俺の両手の中には200億が詰まっている。200億だぞ200億。どこか没落間近の貴族なら、家名を買収できそうな金額だ。


待機させている部下たちも例の物を扱っていることを知っているので、外で殺気立って警備している。

軽々しくフェイの部屋に近づこう者がいるなら、問答無用で拘束されることだろう。


「お前に渡したいものがあって」

「酒か?」

違うけど。


「もっと良いものだ」

「なら酒じゃなきゃおかしいじゃろ」

どんだけ酒をてっぺんに置いてんだ。

この世にはそんなものよりも素敵なものがたくさん、たくさんある。

特にバリア魔法は最高だ。使ってるだけでハイになれる。


「ほら、この箱に入っている。お前が前に欲しいって言ってたから買ったんだ」

「ん? なんじゃろう」

全然心当たりがない表情やめて。

少しくらいアレキサンダーの目かもしれないって思ってくれなきゃ、俺はなんのために200億も出したんだ。


ラッピングをベリベリと無造作に剝ぎ取り、綺麗な箱がはだけたエッチな状態になってしまった。フェイの雑な性格が垣間見えながら、箱が開け放たれる。


一瞬、部屋の色を変えてしまう輝きが中から漏れ出て来た。

赤い瞳が、フェイの黄金の瞳と目があう。


「……ほう、懐かしい」

俺の買い物は無駄ではなかった。

フェイが10秒ほど時を止めたかのように動かず、じっとその美しい瞳と邂逅している。

ゆったりとした10秒。この時間だけで、200億の価値があるかもしれない。


「ちゃんと手に入れてくれたのか。……バリア馬鹿にしては、気が利くではないか」

「素直に礼を言ってくれても良いんだぞ」

「たわけ。遠回しにでも我に礼を言わせたんじゃ。それで満足せよ」

それもそうだ。

世界を統べる黄金のドラゴンにツンデレ形式で礼を言わせたのなら、それは実質勝ちである。


「アレキサンダーのことを知っておるか?」

「事前に少し歴史書をかじった程度で、ほとんど知らない」

「ふん、気分も良いことじゃし、少し語ってやる」

「それは、それは」


アレキサンダーの瞳でお手玉し始めたフェイにハラハラドキドキした感情を覚えながら、話を聞いていく。

ていうか、やめてくんない? 話に集中したいから!



二人の出会いは2000年も前に遡る。

2000年である。ツーサウザンドだ。100年生きるおっさんが、20人分。

おっさん20人分か。そう考えると大したことないな。


純粋なドラゴンの血を持つ生物は、生殖で増える訳ではない。

ある日突然、この世界に目覚めるらしい。

といっても、そこらへんに適当に生まれる訳ではなく、ドラゴンの大陸ではドラゴンの森と、北のイリアスにあるドラゴンの祠でしか生まれることが確認されていない。


フェイはドラゴンの森で目を覚ました。

幼い黄金のドラゴンが初めて目にした生物の瞳は、真っ赤でキラキラと輝いており、さぞ美しかったのを覚えているらしい。


「アレキサンダーはお前より先に生まれたドラゴンだったのか」

「そうじゃ。それもずっとずっと前に。あやつは自分がいつ生まれたかすら、それも忘れる程に長生きしておったわ」


あらためてドラゴンの生態に驚かされる。

規格外だ。

一体、おっさん何人分生きたのだろうか?


はじめて会ったドラゴンが気のいいやつだったら、懐くのは当然かもしれない。

生まれてから300年は付きっきりで過ごしたらしい。

幼いフェイはさぞや素直な子だったのだろう。


ちょっと待て! 今のフェイがあるということは、この癖強ドラゴンの源流にいるのはアレキサンダーなのか?

いや、コンブちゃんもセカイも癖強なので、アレキサンダーのせいって訳ではないか。


「よく遊んでもらったものじゃ。我もコンブもセカイも、青龍のやつも、皆かわいがって貰った」

……やっぱりアレキサンダーが原因かも!


アレキサンダーのもとでドラゴンがなんたるか、どういう存在かを学んだフェイは、ゆっくりと大人のドラゴンへと成長していく。

当時はドラゴンの時代であり、彼らは神として崇められ、恐れられた。

ドラゴン側から人への干渉も少なく、逆もしかり。平和な時代だったらしい。


「その頃からかのぉ。アレキサンダーの美しい体が朽ち始めたのは」

「ドラゴンって寿命で死ぬんだな」

「当然じゃ。不滅のものなど存在せぬ」

それもそうか。当然の話だ。


しかし、ドラゴンってのは、あまりにも規模の大きい存在で、たまに感覚がマヒしてしまいそうになる。

やはりおっさん何人分かで数えないと、無限のように思えてしまう。

おっさんはこんなところでも活用できる。なんて有用な存在なんだ。


「それでもアレキサンダーはずっと美しかった。時代が段々と悪くなっても、あやつだけはずっと見た目も中身も美しかった。我にドラゴンの王として君臨するように言ってきたのもあやつじゃ」

「それまでは、そうじゃなかったのか」

「あやつにはこの先の未来が見えておったのじゃろうな。ドラゴンにも王がいないと、危険な時代になると。人の時代が来ることを見越しておったのじゃろう」


人の時代。

フェイがそう表現するほど、今は人が力を持っている。

魔法が発達し、文明が育ち、単純に数が増えている。

ドラゴンには暮らしづらい時代なのかもしれない。


「そういう訳で、少しばかり良い気分じゃ。懐かしい友の目を取り戻してくれたこと、褒めて遣わす。喜べ、バリア馬鹿」

「ははぁー」

馬鹿って言われて感謝している俺はそういう性癖の持ち主なのだろうか?


「興味深い歴史の講義中に申し訳ない」

「ん?」

護衛の目をかいくぐってこの部屋に入ってこれるはずなんてないのだが、確かに部外者の声がした。

そちらに目をやると、部外者はフェイの部屋の窓から入ってきた。

これは驚きだ。


城は6階まであり、フェイの「我は一番上が良い」という要望に従って、更に上の屋根裏部屋的な部屋を与えている。いわば6・5階くらいか。

もちろん登れる構造なわけもない。

そんな高さを窓から入ってきただと?

曲芸師か、サルの一族かどちらかだろう。


入ってきた賊はサラサラの髪の毛を風になびかせた美男子だった。

こんな状況で余裕そうな表情を見せている辺り、腕に覚えがあるのだろう。


「賊に入られるとは、ダークエルフとの戦争以来じゃな。おもしろい」

「おもしろいか? それに実は結構入られてるんだ」

フェイが知らないだけで、いろいろとトラブルは起きている。

まあ小さなことなので、知らせるまでもない。


「噂に聞いていた通り。黄金竜バハムート様にあられますね?」

「相違ない」

賊が入って来て、首を垂れ始めた。

予想外な出来事に、護衛を呼ぶのをやめておいた。何をしに来たのか、知っておきたい。


「私はベンカー大陸からやってきた者。勝手にゲートを使ったこと、お詫びいたします。これから新しい時代を作り上げる。あなたにはその象徴になっていただきたい」

ゲートの警備は厳重だが、このくらい動ける男なら紛れ込むのも無理はないか。

今後はダイゴのセンサーを導入しておこう。

こういう凄腕の連中も弾かなければ。


「およそ500年、失われたドラゴンの時代を今こそ復活させるのです。我が主にはその力がある。是非、我々と共に。バハムート様」

ヘッドハンティングしに来たのか。

俺は止めない。


フェイの行きたいところに行ってくれればそれでいい。

食費がかなり浮く。


「愚か者。我はここの生活が気に入っておる。スカウトするならせめてその主とやらを連れてきて、盛大にここで計画を話せ」

「ははっ。それもそうですね。まあいいや。今日は別件で来ましたので」

美男子はそう言い終わると、懐から出した何かを床に叩きつけた。


室内に煙が充満し、少し先も見えなくなるほど視界が遮られる。

自分の手でさえ、近づけなければ見えない濃い煙だ。


「ドラゴンの時代を復活させる。当時の象徴だったアレキサンダーの目を持ち帰らせていただきます。わざわざ落札して下さり、感謝していますよ」

くすくすと笑う美男子は、ただの盗人だったわけだ。


護衛も事態に気づいて室内に駆け込んでくるが、何も見えないのでどうしようもない。


次の瞬間、俺とフェイの間から先ほどの男の声が聞こえて来た。


「シールド・レイアレス。あなたがいて勝てると思っている程うぬぼれてはいない。おまけに、この場にはバハムート様までいる」

「俺のことを知っているのか?」

「もちろん。我が主はあなたに大変興味を持っております」

ほう。余計に気になるな。その新しい時代を作り上げようとしている男のことが。


戦闘を回避して、こっそり盗んでいく作戦は良かったと思う。

けれど、これは下策だ。


視界を奪って困るのは、せいぜい我々人間くらいだ。

獣相手には通用しないし、ましてやドラゴンには。

お前が招こうとしていた存在の大きさを、見誤ってはいないか?


「下郎。我が宝物に触れようとは、命が惜しくないらしい」

フェイの声が聞こえて来た数秒後、男の悲鳴も続いて聞こえて来た。


血が飛び散ったのがわかる。

煙玉の煙は、窓が開いていたこともありすぐに離散した。

本来ならもうアレキサンダーの目を手にして逃げる算段だったのだろうが、男は窓際に戻り血を流していた。


右腕が付け根から消し飛び、焼かれたような臭いもする。

視界が遮られていたので何が起きたかは知らないが、おおよその予想はできる。

嗅覚で動きを捉えられ、アレキサンダーの目に伸びたその腕をフェイが魔法で吹き飛ばしたのだろう。


片腕で済んだあたり、やはり凄腕だな。

普通なら即死している。


「ぐっ……不覚。ふふっ、アレキサンダーの目はあきらめましょう。しかし、我が主の野望は止まらない。またお会いしましょう、バハムート様。そしてシールド・レイアレス」

「興味ないな」

雑魚に構っている暇はないんだ。


姿を現したことで、賊は城の護衛に追われることとなる。

その傷で逃げ切れるかな?


「私が捕らえてきます。シールド様」

影から姿を現したのは、最近仕事で忙しいミュートだった。

騒動を聞きつけてやってきたか。

患部の誰かは来ると思っていたが、ミュートなら適任だろう。

「うむ。まかせた」

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