134話 バリア魔法はいつでも使える
「お前の作り上げたその魔石から手を離すなよ」
今尚俺の魔力を吸い続けている魔石のことを指した。
何せ相手は戦闘のずぶの素人。
俺を襲撃してきたテロリストではあるが、中身は所詮ただの学生。
ナイフの構えも腰が据わっておらず、恐怖で手も震えっぱなしだ。
素人がそうとうメンタル追い詰められて、こんな凶行に及んだのだろう。
「講義を開始する前に、動機を聞いておこうか」
俺に非があるのなら、今後のためにも改めて置きたい。
警備の者が既にこの場にたどり着いて、現場は大騒ぎだが、全員その場で待機するように指示を出している。
この場は俺が収める。
「……あんたが、俺の夢を奪ったからだ。異大陸ベンカーに行きたかった。ゲートを潜ってみたかった。ずっと、ずっと、あんたに憧れていたのに。あんたの為に勉強してたのに……あんたは僕を顧みなかった!」
ん? だとしたらとんだ逆恨みでは?
深い愛情は時に醜い恨みへと変貌する。
なんとなく、この青年もそんな気がしていたから警備に強引に捕えさせずにこうして対話している。
「機会は与えたつもりだ。あのコンテストを勝ちあがれなかったお前自身の能力不足なのでは?」
学生には10枠与えておいた。
もっと数を与えても、たくさん人を通しても、ゲートのエネルギーはびくりともしないのだが、こういうのは希少性だから。ほら、珍しいよって顔してればみんな食いつくから!
第二回も金持ち商会の連中からぼった来るつもりだから! ね!
「あんたの条件のせいで、そもそも参加できなかったんだ! な、なんだよ、7人グループって! 誰も組むやついねーよ!」
「ボッチじゃねーか!」
「そんなこと言うな!」
ナイフを握る手に力がより一層籠った。
図星じゃねーか。
おいおいおい。
……これは俺が悪い。
ボッチに配慮していなかった。
学生たちの表の部分しかみていなかったな。講堂に集まった連中は誰もかれもコミュ力ありそうなやつだったから、思い付きであんな課題を与えてしまった。
天才ってのは孤高なやつが多いからな。
こいつも凄い発明しているし、そのタイプなんだろう。
「それはすまん」
素直に謝罪しておく。
「名前を聞いておこう」
「……」
黙るか。
「大丈夫だ。名乗らなくても、名乗っても一緒だ。どうせ、お前はただでは帰れない。薄々分かっているはずだ」
俺には当然勝てないし、護衛も集まってきている。
もう無事に帰ることは叶わない。
「……ホッヂ」
「ボッチじゃねーか!!」
「そんなこと言うな!」
おいおいおい。
……これは俺が悪い。
ボッチに配慮しわすれたバージョンツー。
相手が気にしていることをストレートに言っちゃうとこあるんだよな、俺。
直さないといけないと思っている。
「つまりお前はグループに入れず、そもそも課題に挑戦できなかったわけだ。しかし、俺は特別に他に3枠も用意していたはずだ」
学業でのトップと、教授の推薦、学生の推薦。
うーん、後者二つは無理げーか。ボッチにはきつすぎる。
「学業は……あいつらは駄目だ。やってることが凡庸すぎて、授業なんて意味ない。僕の才能が活きない。あとのは……」
後のは……聞かないで置く。うん、俺が悪かった。
「あんたの為に働きたかったけど、今の成績じゃ公職は厳しい。もう終わりだ。今日、全部終わらせてやる!」
そうだった。
そういう話だったね。
なんかボッチに同情してしまって、そういう肝心な話を忘れかけていた。
「さて、動機もわかったし、お前の正体も分かったところで、計画の穴について解説してやろう。しっかりとメモを取るように」
ここからが実習編。
「入口のセンサーを誤魔化して入ったのは良い。次に俺に奇襲を加えて魔力を吸っているのも良い。けれど、騒ぎが起きればすぐに警備が集まって来てお前の計画は失敗していた。俺に届くことはなく、何も成し遂げず全てを失うだけだ」
「そんなことはない! あんたと話してたせいだ! 時間稼ぎが無ければ」
それでも俺の勝ちには変わりないが、ボコボコにするため論破続行。
「そうだとしよう。お前に覚悟がもっとあって、警備が間に合う前に俺に襲い掛かったとしよう。しかし、お前のその様子じゃナイフも碌に握れていないらしい。これでも俺は結構な修羅場をくぐっている。毎日部屋に籠って勉強している学生に後れを取ることはない」
少し待ってみたが、反論はないらしい。
論破は完了しているが、ボコボコにするのが目的なので続ける。
「お前は俺をただのそこらの王だと思ったか? 悪いが、この地位は自力で掴んだものだ。しかし、お前が想定していた軟弱な王だとしよう。魔力を吸って、魔法の使えなくなった俺と二人きりになれた。ナイフを持って、俺に向かってくるがいい」
まだ体が震えている。
考えるのと、やるのとでは大きな違いがあるよな。
「さあ、どうした。お前は結局なにもできないただのボッチなのか?」
「ボッチって言うなああああ!!」
魔石を捨てて、両手でナイフを持ち、俺に突進する。
今日一で覚悟の決まった顔つきじゃないか。
「シールド様!」
どこからか声が聞こえて来た。
警護の誰かの声だろう。
「バリア」
ただのバリア魔法を、俺とホッヂの間に張る。
突如現れたバリア魔法に、視野が狭まっており俺しか見えていなかったホッヂは激しくぶつかった。
強い衝撃でぶつかったから、大きくのけぞり、そのままダイレクトに倒れ込む。受け身も取れていないのでかなりのダメージを負っているだろう。苦悶の声が聞こえてくる。
もう立ち向かってくる気力も、体力もなさそうだ。
「そう、これが最後の見落としだ」
歩み寄って、しゃがんで、傍で教えてやった。
「魔石が、効いていない……?」
それは違う。
「効いていた。素晴らしいアイデアと発明だ。しかし、そうじゃない」
俺は確かに魔力を吸われていた。
今床に転がっている魔石は既に稼働しておらず、魔力を吸っていないが、それまではずっと正常に機能していた。
「あれくらいじゃ、俺の魔力は吸いきれない。実は魔力の貯蓄をするしかけも俺のバリア魔法にはある。更に言うと、俺はほんの少しでも魔力があればいいんだ」
そう、たとえ魔力が底を尽きたとしても、30秒も休めば回復したわずかな魔力でバリア魔法を作れてしまう。
圧倒的コスパ力!
それがバリア魔法なのである。
「計画はずさんだったし、現実も見えていない。しかし、行動力とお前の知識には素晴らしいものがある」
護衛が駆け寄って来て、ホッヂを拘束する。
両腕を確保され、連行されていきそうになっていた。
このままだと、彼に未来はないだろうな。
この国は、平時は寛容な分、愚か者にはとことん厳しい。首がなくなるのもままあることだ。
ホッヂもそのコースだろうな。俺の部下は今回の凶行を許すことはない。もちろん、俺が何かしない限りの話だが。
「ホッヂ、お前の処分をこの場で言い渡す」
すっかりと気力が抜けおち、脱力しきったホッヂは聞いているのかどうかすら分からなかったが、構わずに続ける。
「シールド魔法大学校の退学を命ずる。それと2週間、牢獄に入って貰う。そこでしっかり自分のやったことの愚かさを自覚しろ」
「そ、それだけですか?」
驚いたのは護衛たちの方だった。
「甘すぎます。極刑に値するほどの罪です」
確かに!
でもこいつ使えそうなんだよな。
この凶行も、俺への熱すぎる気持ちが裏返しになったものだしな。
「これは課外授業だ。退学という罰もあるし、頭が冷えたらそれでチャラにしてやる」
「……シールド様がそう言うのなら」
しぶしぶと納得する護衛たちが連行していく。
それでいいだろう。
「シールド様! あの者は本当にそれだけで済むのでしょうか?」
ダイゴが心配そうに尋ねてくる。
部下たちが勝手に制裁を加えないか心配しているのだろう。
大丈夫だ。俺の部下にそんな愚か者はいない。
「安心しろ、ダイゴ」
そしてダイゴの考えていることも分かる。
「2週間後、あいつが自由になったら、お前が面倒を見てやれ」
「……!?」
驚いた表情をしているが、随分と嬉しそうだ。
「良いんですか? シールド様」
「若い芽を摘むのは趣味じゃない。ただし、お前の管轄に入れるんだ。上手に操縦しろよ。何かあったら、ダイゴ。お前の責任問題だ」
「はい! お任せください。あの才能を活かして見せます。新しいエネルギーの活用のためには、ああいう才能が必要不可欠なのです。竜人族の方々もきっと暖かく迎え入れてくれることでしょう」
ふう。
これで一件落着かな。
人が多く集まるミライエやゲート地方。今後もああいった風変りの天才は現れるのだろう。
そういった芽がきっちりと育つようなシステムも作り上げないとな。
床に転がった魔石を拾い上げる。
魔力を吸い取るように改造しているらしい。ダイゴにしかできない芸当だと思っていたが、こんな学生にもできてしまうとはな。
ダイゴに投げて渡しておいた。
「それ、何かに使えそうか?」
「……数を増やして、魔石の純度も上げて。あとはホッヂから詳細を聞いたら、良い感じに改良できるかもしれません」
また新しいものが出来たら報告するように!
そういうのすっきやねん!