132話 バリア魔法で育つ若い芽
となりの領地のパクり聖なるバリアが崩壊して以降、人の流入が更に増えて来た気がする。
地価が爆上がりで、ゲート地方は今かつてない程の繁栄を極めていることだろう。
ゲートの存在が知られ、ミライエに来たいという声もある。
今のところ大陸間移動用の装置は国が管理しており、民間には使わせていないが、ミライエ側にもゲート地方を見てみたいという声が多くある。
大陸間の物流は俺が一手に担い、その利益を独占している。
それぞれの大陸で需要が違うからね。結構儲かるんだ、これが。
でも民間が使ってみたいという意見も分かる。
俺が同じ立場なら、行ったこともない大陸を見せろ! と怒鳴り声を上げていたはずだ。
となると、また美味しい商売が思い浮かぶ。
声の大きい連中を集めて、プレゼンしてやることにした。
いろいろ遠回しに伝えてやったが、要は金を出せば異大陸に連れて行ってあげるよという説明だ。
ミライエはなんたって税金が安いからね。お前ら、貯えてんだろ? 知ってんだぞ。
法外な費用を請求したが、なんと募集した100名の枠が一日立たずに埋まった。
どれもこれも有名な商家の関係者ばかりだった。
ひじりに「まるで宇宙に行きたがる金持ちのようね」とよくわからん皮肉を言われてしまった。
なんかムカついたので、金持ちだけ優遇するのはやめた。
一般市民からも30名分の枠を用意する。こちらは無償なので言い訳のために、労役の義務ありの実質観光ツアーを用意してあげた。
更に学生から10名。留学という言い訳で異大陸観光に連れて行くことにした。
こちらは選抜しやすい。希望を出した優秀な学生を10名ピックアップするだけだ。
そうそう。
我がミライエでは、若き人材がどんどんと育ってきている。
他国からの留学生も多く、そのほとんどが国に帰らずミライエで働くことを選ぶため、自然と有能な連中が集まるんだ。
あまりにも志望者が多いから、ミライエにある国立の学校は今や大陸一番の名門へとなりつつある。
そりゃ将来が安定となれば、皆そこに行きたくなるよな。
古い歴史を持った学校よりも、新しい風の吹きこむ学校が勝ってしまったか。学問よりも違うことが大事にされていそうで嘆かわしいが、まあええか!
優秀な人材が集まってくる俺が考えることじゃない。
優秀な人材を我が国の学校に取られている側が考えることだ。
軍も若いのが育ってきて実戦で使えるようになってきているらしいからな、いいことだ。
あんまり軍事費に金を割きすぎないようにしたいが、膨れ上がる国の規模に合わせてある程度軍事力も増やしていかないと。
舐めた連中が出てきても困る。
力を付けすぎて商会はすぐに調子づいて、やりすぎた連中は取りつぶしにしているのだが、定期的に不届き者が出てくるんだ。世の理みたいだから、もう半ばあきらめている。
そういった連中を制御するためにも、軍の脅威は常に見せておくべきだろう。
この前、ギガが喜んでいたな。
人間のガキで俺とサシでやれるやつが出て来た。ここは最高だ。とかなんかブツブツ礼を述べて出て行った。
あの脳みそまで筋肉で出来ていそうな戦闘狂のギガが、わざわざ礼だけを述べに俺のところにまで来るとは。どれだけ嬉しかったんだろうか。
今度その期待の若手に会いに行ってみようと思う。ギガと渡り合えるほどの人材だ。将来の幹部候補だし、会って損はないだろう。
しかし今日は、学生の方に会いに行く。
ドキドキ抽選回もあるが、何より優秀な学生たちとやらを見ておきたい。
俺は全て独学で、学校と呼べるものに行った覚えはない。なかなかにヘビーな幼少期だったからな。それでもバリア魔法に出会えて光栄だったよ。
おかげで今がある。
それでも、学校という志を同じにした者が集まる機関には興味がある。
行ける身分なら行ってみたいと思ったこともあるくらいだ。
以前からあり、最近名前をシールド魔法大学校に改名された場所へと赴いた俺は、わらわらと集まる学生の間を縫って講堂まで進んでいく。
キャーキャー騒がれるのは非常に気分が良く、今朝方失った自尊心を回復させてくれる。
護衛を俺の周りにつけているのが、余計に俺をスターのごとく引き立ててくれる。てか、俺はスターだ。国王という名のスター! きもちえー!
城にずっと引きこもっていると、借金の取り立てにくるコーンウェルの姉妹とドラゴンたちが失礼なんだ。
やっと借金を返し終わってコーンウェル商会とはしばらく会わなくて済みそうだし、フェイもゲート地方を見てくるらしいから数週間は戻らないだろう。
癒しだ。癒しの期間が来る。
「おはよう、諸君」
「「「キャー!!」」」
これこれ!!
今後、用もなくこの大学校に来てしまいそうだよ。
講堂の壇上に立った俺は、ぎっしりと詰め込まれた学生たちの前に立つ。
偉そうに顎を上げ、冷徹な視線で学生たちを一瞥する。
吐息の混ざったイケボ具合に調整し、口を開く。
「今日集まってくれて感謝する。君たちはミライエの資産であり、未来そのものだ」
俺が話すたびに、彼らは大きく頷き、涙を流す者までいる。
学生の中にもバリア教の者がいるからな。熱のこもった学生はその一部なのかもしれない。知らんけど。
「アザゼル、ベルーガ、カプレーゼ、オリバー、他にも名をあげだしたらキリがないが、俺の周りには優秀な部下が多い。君たちにも、彼らに並ぶような才能を感じている」
歓声、いや怒号に似た声が響きわたる。
俺は軍のトップとしてやっていけそうだ。この指揮の高めよう。オリバーにあとで自慢しておこう。
「俺の為に働きたい者は、より一層勉学に励め。俺は常に優秀な者を必要としている。10年後、俺の隣で仕事している君たちを期待している」
ドン!!
講堂の熱が最高に高まったことを確認して、今回の要件を伝える。
異大陸ベンカー行きのチケットを彼らに授けることを。
これにも盛大な歓声で返事を貰った。
10枠と少ないが、そこに座れるかは彼らの実力次第だ。
「この数少ない席に、誰を座らせるか。勉強ができるだけの無能はいらない。俺が欲しているのは実際の現場で活躍できる人材だ。だが、今や大陸一と言われるこの学校でトップの成績を獲得している者を優遇しないわけにはいかない」
何事も一番は凄いことだ。
2番じゃダメなんですか? ダメです!
「残り9席の内、1席は教授の推薦で決める。上司に可愛がられるのも才能の内だからな。そして更に1席、これは学生の投票で決める。同僚に好かれるのも才能の内だからだ」
3席が埋まる。
「残り7席だが、7人で一グループを作り、俺のバリア魔法を突破するための策をそれぞれ考えよ。お前たちの知識と知恵を総動員して、論文にしろ。俺が全て目を通し、面白かったものを採用する。採用されたチームが最後のチケットを手にするというわけだ」
もちろん参加は行きたい者たちに限定するが、この感じだと全員行きたそうだな。
彼らにとって未知の世界だからな。
今はエルフ島なら気楽に行けるようになったが、流石にゲートをくぐった学生は一人もいない。
幹部たちと、ブルックスの手下くらいだな、使っているのは。さぞや魅力的なチケットに見えることだろう。実際、多くを学べると思うぞ。あちらにはこっちにない魔法や魔法道具、生物もいるからな。
「健闘を期待する」
壇上から降りて、シールド魔法大学校を後にした。
帰り道も護衛が人垣をかき分けながら俺の道を作る。手を上げて完成に応えた。
滅茶苦茶気持ちいいな、これ。早くまた来てー!
――。
「ここはどこ?」
オリヴィエは不思議な光景を目にしていた。
全く見たことのない景色、町並み、人の服装。それなのに、見覚えのあるバリア魔法がそれらを守るように展開している。
「シールドの街なの?」
しかし、ドラゴン大陸とはそもそも文化が違いすぎる。
迷いに迷って大陸中を見て来たオリヴィエだ。間違えるはずもない。
ここはどこなのか、全くわからなくなってきた。
人類で初めてドラゴンの森に生存圏を得た彼女であるが、流石に嫌気がさして移動した。そもそもシールドと会うのが本来の目的なのである。上手に暮らすことが目的ではない。
「すみません。ここはどこですか?」
道行く人を捕まえて尋ねてみた。
「え? ゲート地方だよ。何をおかしなことを……まさかガンザズ時代から様変わりしたから驚いているのかい?」
なんのことか全くわからない。博識で知られるオリヴィエが聞いたこともない土地名だった。
ドラゴンの森から出て、適当に移動魔法を使ったらここにいたのだ。
どこか見当もついていない。
「国は?」
「ハルア国よ」
「……どこの大陸なの?」
「ベンカー大陸だけど。あんた頭は大丈夫かい?」
大丈夫と言いたいが、そうは言えないかもしれない。
全く知らない土地名に、知らない文化。
しかも、まがい物のバリア魔法まで遠くの地方に見える始末。
「異世界に紛れ込んじゃったかも……」
ぐすん。一人涙するオリヴィエだった。