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131話 バリア魔法の勢いは留まることを知らず

ゲートに作り上げた聖なるバリアの効能は、何も俺の領土を守るだけのものではなかった。

この外敵を阻むバリア魔法は、人々への安全安心を保証するものであり、その影響力は絶大だ。


一度ミライエで経験した出来事だというのに、二度目もやはり目まぐるしい変化に頭が追い付いていかなくなる感じがした。

時代の激しい変化を直に感じる。

統治者の俺でさえこうなのだ。

領民たちは更にすさまじいスピード感で生きていることだろう。


なるべく彼らに寄り添った統治をしてやるつもりで、ミライエから物資や文化を輸入してきた。

それらがまた文化の進化を加速させることとなる。


そして、ハルア国がある大陸ベンカーは俺たちが住んでいる土地程平穏無事に暮らせる土地ではなかったらしい。

思想弾圧、人権侵害、イケイケ悪徳領主ばかりなこの土地では、ゲート地方での生活に憧れて多くの民が流れ込んでいる。


他国からの苦情と領内のパンクが起きそうで人の流入を一時的に制限しているが、いずれはもっと人を受け入れたいと思っている。

来たがっているんだ。誰でも入れてやるさ。

この土地には安全と飯がある。それだけは絶対に保証する。


そして、何よりうちの領地では基本的に自由だ。何が自由って?

なんでも自由なんだよね。


真面目に勤労に励み、税金を納めている領民には大抵のことは許している。

思想も、勉学も、芸術も、魔法の研究も全て許可している。


特にこういった部分には飢えている民が多かったらしい。

学者や芸術家が高い土地を買い取ってまでゲート地方に移り住んできた。

この地に人や書物が集まり、文化の進化が加速していく要因となる。


『オーリジティ』


最近、人々が口にする言葉だ。

なんでも新しい今の時代の訪れに名前を付けたらしく、リバティとかオリジナルとか、マジック、マイノリティ、そういった単語をミックスした言葉らしい。

確かにゲート地方に相応しい時代の名前かもな。


先ほども言ったように、この土地は自由だ。

そんな名前をつけても、俺は何も言わない。めんどからね! 


なんでもしてくれ。

危ない思想も、危ない研究も、なんでもオッケーです。

不思議とこんなことを許可していると、あんまりそういう輩が現れてこない。いい時代だからね。わざわざそんなことをするより、夜の街に出て可愛い子と踊ったほうが幸せだということに気づいているのだろう。

遊べ、遊べ。民共遊べ! と願う俺の一方で、なぜか学問がやたらと進歩するこの時代。日々新しい技術が生まれて非常に楽しい。勉強するなと言えば、勉強する人のひねくれ具合。


そうそう。最近俺の耳にも届く事件があった。

夜な夜な集会を開いては、集まっていた若者の団体があったらしい。


魔族の部下が嗅ぎ付けたが、不思議と悪意はなかったとのこと。

人の感情に敏感なのが魔族だ。ベルーガほど正確に計れる個体は珍しいが、みな似た特性を所持している。


そんな怪しげな集会で話し合われていたのが、俺の首を挿げ替えることだったらしい。

自分たちが決めた指導者を祀り上げ、その人に政治を任せるんだと。

トップに立つ人は、多数の意思に基づいて決められるべきだという考えらしい。


悪意がなかったということは、真面目に話し合ってたんだろう。

しかし、俺の首を挿げ替える話だ。

部下も報告せずにはいられなかったらしい。

最悪、厳罰も考えているとの意見も貰った。


けれど、俺の反応は……。

「ふーん」

だった。


いいんじゃないん? 別に。

好きにしていいよ。

時代は『オーリジティ』だ。そんなのがいるくらいがちょうどいいよ。


というわけで、特に処分なし!

捕らえた全員そのまま返してやった。俺に連絡が来るまで半日拘留されていたらしいからな、そのお詫びに瓶詰の醤油を持たせてやったくらいだ。高いんだぞ? それ。

交易所で買うとブツブツブツ……。


そんな感じで、いろいろ小さなことあるが、取るに足らないことばかりだ。

時代が勝手に猛スピードで駆けて行くから、それにしがみつくので精一杯なのである。

お前らに構ってる場合じゃねえ! 俺が一番今の時代を楽しむんだよ! どけえええ!


そんなイケイケな折、流石に反応せざるを得ない事態が起きた。

「シールド様、こちらを」

差し出されたのは立派な絵画だった。

ゲート地方の山から描かれた、それは立派な立派な絵だった。まさにオーリジティの時代が生んだ天才画家だな。今度会って話を聞いてみようと思う。どうせ理解できないことを言われるだろうから、すぐに追い返すけど。興味があるうちに会っておくのが大事。

こんな人材を輩出できただけで、俺は自分のやってきたことに誇りを持てる。


まあ、今回大事なのはそこじゃない。


ゲート地方の隣の地方に、同じ規模のバリア魔法が展開されてるんだよね!

あれ? 俺寝ぼけて作った? とか思ったが、真相はそうではない。


「は? 聖なるバリアのパクり?」

そんなことあるのか? と耳を疑ったが、視察することで絵に描かれていたことが本当だと判明した。

ぎりぎり領地をカバーしきれていないサイズのバリアで、作りも荒い。


え? これをバリア魔法だと名乗っているの?

ちょっと待て。

バリア魔法への冒涜だ! とか熱い気持ちが滾ってきたほどだ。


「シールド様、どうなさいます?」

「どうもこうも」

よその領地の出来事だ。

バリア魔法は俺の特許魔法ってわけでもない。


俺の特許でも、バリア魔法は自由に使わせるけどな。世界一美しい魔法だから。その数が増えるのは、世界にとって恩恵がある。徳の高いことだ。


しかし、あれは……。

「まあすぐに結果がわかる。帰るぞ、アザゼル」

「はっ」

まだ何か言いたいことがあるらしいアザゼルだったが、一ヶ月待ってくれ。俺の言いたいことがわかるだろう。


そして一ヶ月が経った。

この期間、領内は非常に動揺していた。

地価が動き、物価も日ごとに激しく上下する。困ったものだが、すぐに収まると知っていたので何も手を打たない。


地価が安くなった時に買い占めておいてやっても良かったが、今回だけはサービスだ。許してやった。


予定通りの報告がアザゼルから報告される。


「となりの領地のバリア魔法ですが、壊れた模様です。そもそもいろいろ移動に支障があったみたいですし、完全なまがい物でしたね」

「あんなつくりでは無理もない」

バリア魔法を名乗らないで欲しいレベルの粗雑なものだった。

今のルミエスでもあれよりましなものを作れるのではないか? いや、ルミエスに失礼だな。

毎日修行させているからな。バリア魔法に真剣になっているルミエスなら、間違いなくあれの数段上を行くバリア魔法を作れる。ルミエスが作り出すバリア魔法レベルでようやくバリア魔法を名乗ることを許すレベルだ。


そんなことを考えていると、ちょうどタイミングよくゲートをくぐってやってきた大物が俺の目の前に現れた。

今や大陸を席巻する宗教の教祖様となられたエリンだ。

『バリア教』を一人で立ち上げ、瞬く間にドラゴン大陸でもっとも勢力のある宗教となった。なんかバリア教でも派閥ができ始め、宗派が出来ているらしい。

内部分裂しだす頃か……。


バリアを神とみる派閥と、俺を神と崇める派閥があるらしい。ワイ、一部で神になっていました!

預言いる? 預言与えるけど! 無償でいいよ!


エリンはその宗派からしたら、さながら預言者ってわけか。

ところで何を言えばいい?

軽率な発言には気をつけねば。


「飯食ってく?」

あっ! 大事な預言が、飯食ってく? になってしまった。

大事なことだけど!


「いえ、事足りております。今日は用事がありましてお会いしに来ました」

そうだろうな。エリン程忙しい人が何もなしに俺に会いにくるはずもない。なんなら俺より忙しいかもしれない。


それにしても立派になったものだ。

彼女は純粋にバリア魔法の可能性を信じてバリア教を立ち上げた人だ。

権威とお金はついてきた結果であって、求めたものではない。


その証拠に、エリンは初めてあった人同じような質素な格好をしており、装飾品を一切つけていない。身を少し痩せており、清貧を思わせるところがある。俺が自然と飯誘いの預言を与えた理由がこれかもしれない。


「シールド様の許可を取っておきたいことがあるのです。バリア教で今後正式なバリア魔法の認定をしようと思いまして。そういう声が非常に多いのです」

発端は先日の聖なるバリアのパクりかららしい。

以前からそういうアイデアはあったからすぐに話がまとまったとのことだ。バリア教が認めたバリア魔法のみが公認バリア魔法となり、それ以外は野良のバリア魔法だ。


……おもろいので許可を出しておいた。

めっちゃおもろいです、それ。


野良バリア魔法(笑)

とりあえず、ルミエスのバリア魔法は不合格にさせて置こう。野良だよ野良。あいつの修行の励みになりそうなのと、なんかおもしろいから。


「こんな煩わしい要件に付き合わせてしまって申し訳ありません。シールド様」

「いいんだよ。俺の国ではなんでもありだからな」

「ありがたき幸せ。でも、私はバリア教を立ち上げた頃が一番、私自身も信者も最もバリア教の教えに素直だった気も……あの頃は理想とした教えの姿がありました」

急に寂しそうな顔を見せたエリン。

組織が巨大化したことで、歪みも生まれたのだろう。

そして、それを吐露する相手もいない。俺にくらいなのだろうな、吐き出せる相手が。


「エリン、お前やっぱりショッギョ丼食べていけ。俺の愚痴も聞かせてやるよ。国王だぞ。お前が感じている、痒いとこに手が届かない感覚? 俺もたくさんあるからよぉ」

「……ふっ。そうですね。神から誘われているのですから、そう致しましょう」

そうだった。ワイは国王にあらず、神でした。


「それにしても、バリア魔法が消えたのが、例の魔法を消す事件と関係なさそうで良かったです」

食事中、エリンから気になる話を聞いた。

今このベンカー大陸でもバリア教は急速に広まっており、その布教活動の最中にエリンの耳に入ってきた情報らしい。


「なんだか怖い話だな」

「ええ、突如魔法が使えなくなることがあるみたいです。魔法が打ち破られ、魔力を一切感じないのだとか」

魔法全盛期のこの時代にそんなことが……。

ホラーだな。

まっ、俺には関係ないし、別にええか! がはははっ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字かも ✕エリンは初めてあった人同じような 〇エリンと初めてあった日と同じような?
[良い点] ルネっサーンス!(カチーン
[良い点] パチもんの聖なるバリア。多分に試験運用なんだろうけど、ここから徐々に精度上げて立派なものを作っていくんだろうなぁ… シールド頼みじゃなくて自分達で再現しようという姿勢はむしろ好評価だわ。 …
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