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128話 バリア魔法は正義の味方

「ここはドコ……。わたしはダレ……」

花瓶が頭に直撃した王太子は、魂が抜けたような表情になってしまった。

これ……どうしよう。国際問題だぞ。


「おまえ、おうじ。おれと、ともだち」

「シールド様、原始人じゃないので、普通に会話はできるはずです」

それもそうだった。

なんか記憶がぶっ飛んで、邪念も飛んだらしい王太子はスッキリしたピュアな表情でソファに座っている。

つい言語の通じない相手と相対している感覚になってしまった。


「お前、過去に、悪いこと、した。その証拠、俺が、握り、潰す。仲間、だから」

ダメだ。ナチュラルに原始人扱いしてしまう。

自然とジェスチャーも大きくなってくる。異文化コミュニケーション、始まる。


「ナマカ……?」

「そう、俺とお前はずっ友」

「ううっ。心の中に暖かいものを感じる。こんなの初めてだ」

……なんか知らんけど、王太子が泣き出した。

王族に生まれた彼は彼で、俺たち庶民出身とは違う苦労があるのかもな。

それこそ毎日のように権力争いに巻き込まれ、命を狙われていたのかもしれない。


心を許せるような友などおらず、今日まで過ごしてきたのか。

だとしたらごめんな。俺もお前を利用する悪い大人の一人なんだ。すまん! なんなら一番たちが悪いかも!


「俺、この街、占領した。これは、お前の、ためだ」

「わたしのため?」

「そう。お前の、居場所、作るため」

「居場所。ここにいて、いいの……?」

「ああ、お前、専用の家、建ててやる」


オーバーなジェスチャーが効いたのだろう。俺とチンパン……。ピュア原始人と化した王太子は涙ながらに俺に感謝をする。

うん、結果感謝されてるし、いいよね!

俺も悪い大人だけど、騙されてる本人が自覚ないのでオールオッケーでしょ、これ!

すっかりと懐いてしまった王太子は、実は午後には記憶を戻した。

もっと利用したかったのだが、あれはあれで流石にまずい状況だったか。頭空っぽになった王太子の説明をどうしようか悩んでいたところだった。


惜しい魚だったが、王太子は一旦追い返してやった。

一度身辺整理して自分の意思でいろいろと考えたいらしい。

ふう、これで戻ってきたりしたら、最強の人質手に入れちゃったもう同然よね!


俺と街に手を出してみろ、王太子どうなっても知らないよ?


くくっ、大泣きして出て行った不幸少女オレンだったが、とんでもないお土産をくれたものだ。

結果的に、王太子という最高の切り札を手に入れる可能性が出て来た。

あの曇らせ少女は今後も活用できそうでなによりである。


面倒な用事は一旦これで片付いた。

俺はようやくミライエ、それもサマルトリアの交易所に戻れるぞー!!


と、考えていた時期がありました。甘い、甘すぎた!

なんと、あの原始人くらいピュアな存在となった王太子が次の日に戻ってきた。


間違いではない。一晩寝て、次の日にやってきたのだ。

この凄まじいスピードは飛龍と呼ばれる家畜か去れた小型の飛行モンスターの移動によるものだった。ロードホースに続く素晴らしい乗り物だ。もちろん、ミライエに持ち帰って増やします。


初恋の相手に会いに来たのかと見間違うほど目をキラキラさせて、王太子が俺に駆け寄ってきた。


「バリア」

直前で抱き着いて来ようとしてきたので、絶対に破れないバリア魔法で壁を作っておく。

「どうして……友達じゃ」

「友達にも距離感は大事だ」


ちょうどいいタイミングでミュートもやってきた。

急いで俺のところまで駆け付けた王大使ラブ・ハルアの担当が、ミュートに決まったらしい。子守をすまないな。


「それ以上シールド様に近づかないように。私ですら、最近はあの白女のせいでなかなか近づけないんですから」

「そんな……。愛が、愛が欲しい」

ラブという愛情たっぷりの名前を貰っておきながら、王太子はどこまでも愛に飢えている。メンヘラとも言う。


「うぃー!!」

面倒な事態は重なる。

王太子がやってきているタイミングで、俺の扉を蹴って開けた、暴挙を働く者がいた。

もちろんそんなことをするのは、フェイくらいだ。


酒瓶を手にして、上機嫌だ。

「シールド、一緒に飲むぞ。街でいい酒を手に入れた」

「ん? こちらの土地の酒か」

「お主の名前を出したらただで酒が手に入る。いい土地じゃ」

何してんだ!

略奪をしないことで、俺たちは街の人の心を掴んでいるというのに。

危ないことをしてくれる!


「あんまり心配そうな顔をするな。街中はお主を歓迎する声が大きい。直接偵察してきた我に感謝せよ」

「まあ、それは確かに助かっている」

生の声が聞こえてくるのは助かっている。

俺は街にあんまり出ていないからな。アクティブなフェイは実際に助かっている。


ばらまいたガンザズの財が相当役に立ったらしい。

それと略奪をせず、うちの軍人たちが、行儀良く過ごしているのも大きい。


街に入った軍人と、俺の統治を手伝ってくれる頭脳派たちが街に溶け込んでくれていた。

ちゃんと商店や酒場にお金を落とし、礼儀正しく過ごしている。

街の人々が安心して生活できている。

ミライエは秩序がいいからな。うちの国民は民度が高いんすわ!


そんな経緯があり、フェイが大手を振って歩いても、しっかりと歓迎されていた。

酒を貰えたというのも本当だろう。


それと、あれも大きかったな。

ミライエでもやったあれが。


そう、このゲート地方には訳のわからない法律が沢山あったのだ。

ここもちゃんと統治すれば通常の税収でやっていけることが判明したので、ゴミみたいな法律や市民が納得いかないだろう税金は撤廃しつつある。

これが好評なので、徐々に審査を進めていき、不要そうなものはいずれ全て取り除く予定だ。

徐々に取り除いているものでさえ、大きな反響を呼んでいる。


ふふっ、人心掴んだり。

後は、この地でバリア教の信者を増やせば当分の目標は達成される。


「それは、コンカラント卿秘蔵の名酒、しかもレア中のレア、18年前のものだ」

一瞬、王太子ラブが何を言い出したのか理解できなかった。

もう一回頭を打ったのかと心配し、疑ったくらいだ。

変な後遺症とか残ってないよね!? その場合はごめん!


「おおっ、たしか酒を貰うときにそう聞いたのぉ」

しかしフェイには通じたらしい。


「それは、チーズと一緒に飲むと美味しい葡萄酒です。北の方の脂肪の多いチーズだとより良い」

「酒に詳しそうじゃのう」

「高い酒は、王族の嗜みでもある」

そうだった。ラブって王族だった。

原始人扱いしていたから忘れてた。


「シールド、この目がキラキラしている生物を借りてもいいか?」

王族だからね! 一応!

「んあ? ああ、もちろん」

むしろ歓迎だ。


「くふふっ、名酒か。この酒は全部我のものじゃ。安い酒を我の傍で飲む権利をやるから、お主は我に最高のつまみを選びぬけ」

「……それって、わたしと一緒に酒を飲んでくるということか?」

「そうじゃ。早うこい。チーズ選びは任せたぞ」

「やはり、やはりこの地には愛がある。酒の席に誘われたのなんて人生で初めてだ!」


……フェイは自分のため、最高のお酒を最高のつまみで頂きたいだけだけど!

でもそこに愛を感じちゃってるならオールオッケーだよね!


フェイのおかげで面倒なのも引き取ってくれた。

そして、何よりハルア国の王太子が俺の手の中に。


かかかかっ。

笑いが止まらない。


現在街と竜人族の集落にだけ展開している聖なるバリアを解除しておいた。

そして、この聖なるバリアをゲート地方全域に展開する。


バリア魔法が展開されている土地、すなわちそれは俺の領土だ。

強引にバリア魔法を展開しても良かったが、何よりこれで大儀名分が出来上がった。


ハルア国王太子様、ラブ・ハルア様がこの地にて休暇を楽しんでおられる。

バリア魔法を展開して守っているだけですから!

ラブ様万歳。外敵からお守りします!

正義はこちらにあるよね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告です 家畜か去れた→家畜化された
[一言] バリア警報に引っ掛かるような心持ちで来たはずなのに、いつの間にかシールドやフェイに取り入る事に成功してるラブ王子とは… 多分に国の安全保障や有利な条件で条約結ぶ感じで外交に来たんだろうし、…
[一言] ナマカ……?生か?
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