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127話 バリア魔法の領域に踏み込むもの

王太子を迎えるのに適当な格好もいけない。

しっかり正装して、どんないじめ方をしてやろうと考えていたのだが異変が起きた。


「ベルーガ?」

その言葉で伝わる。

ベルーガも怪訝な顔をして部屋を出て行った。


既に街の外まで来ていたはずの王太子がいつまで経ってもやってこない。

実は、街にも聖なるバリアを張っている。


いずれ、政治関係の話し合いの決着をつけたらゲート地方全域に聖なるバリアを展開するつもりだが、今は街だけだ。

あまりよその大陸でいきなり強気に喧嘩を売るものではない。私は結構控えめないい女な部分を持っているのよ。


しばらくするとベルーガが青ざめた顔で戻ってきた。

彼女がここまで慌てるのも珍しい。

「シールド様……!」

「ん? どうした」

「やっ殺ってしまったかもしれません」

殺ってしまった!?

まじで!?


まさかベルーガの悪意センサーに引っかかってしまい、手違いで部下の誰かがやってしまったのか?

そうだとしたら、とんでもないことだ。

ガンザズの領地を侵略した後、弱みの材料を使い、王太子をおびき寄せてまんまと血祭りに上げる。

これってさあ……客観的に見て極悪非道の所業ってコト!?

終わったかもしれない。大陸側とは全面戦争だ、これ。


コンコンと窓がノックされた音がした。

背後にミュートがいた。その手で引きずっている黒いのはまさか……。


窓を開けてやると、アサシンの恰好をしたミュートがマスクを外す。

「これ、王太子です。死んで……る?」

これって言うな。一応王太子だから!


黒焦げになったそれは、持ち物を漁ってみると確かに王太子だとわかるものがチラホラと出てくる。

まじのマジもんでした。


それにしても、なんで黒焦げになってんだ。

焼きとうもろこしに失敗でもしたか? 言ってくれればミュートに焼かせたものを。バカ者め。


原因を探っても仕方ない、ここからどう挽回すべきか。

幸い、これはこちらに落ち度のない事件だ。

焼きとうもろこしに失敗した王太子側に責任があるのは間違いない。問題は、それをいかに自覚させるかだ。


そう考えていると、事態は更に悪くなってしまった。

執務室がノックされたので、入るように伝えた。

部下に襟足を掴まれて連行されてきた少女は、美しい少女だった。


それも見たことのある、紫色の瞳を持っている。

気づくのが遅れた。

そう。すっかりと健康的に戻り、少女らしい健康的な姿に戻った彼女は、オレンだった。


俺たちがガンザズ伯爵との全面戦争に出た理由となる少女だ。

ひどい仕打ちを受け、フェイの回復魔法で奇跡的に回復した経緯を持つ。

見た目の傷こそ良くなっているが、心の傷を心配していたところだ。


「あわわわっ。ごっごめんなさい。下ろしてください。苦しいです」

ほう。見た目は健全な少女に見える。あれだけの仕打ちを受けていながら、まさか回復しきったのか?

これもドラゴンの血の為せる技だろうか、それともフェイの回復魔法には更なる深みがあったとか。


「バリア魔法の傍で怪しい動きをしていたので、連れて参りました。初めてシールド様のバリア魔法が反応しているのをみて、連れてきました」

「おっ?」

ちょっとこれには驚いた。

外の黒焦げは一旦放置して、こちらの話に集中する。


あの、俺でもどうにもできそうにないほど硬いバリア魔法だが、それに影響を及ぼしただと?

フェイやひじりでさえ、バリア魔法を前に何もできなかったんだぞ。


「何が起きた。正確に教えてくれ」

「いえ、私は特に何が起きているのわからず。この娘に聞いたほうがいいかと」

困った部下を問い詰めるのもかわいそうだったので、彼は返してやった。


下ろされたオレンが部下に舌を出してべーと声を出していたずらしている。

襟足を掴まれて連行されたのに不満だったらしい。

それにしても、いかにも少女らしい行動で安心した。やはりしっかりと回復している。


「さて、話を聞かせて貰おうか」

「……シールド・レイアレス様、ですか?」

「そうだ」

肯定してやるとオレンの目がキラキラと輝きだした。

まるで劇場のスター俳優を眺める一ファンのごとく、こちらを見ている。

俺、そんなにイケメンになった?


「シールド様、私フェイ様から聞きました。あのガンザズから私を助けてくれたんですよね!」

フェイから?

少し気になる情報源だった。


確かに助けたが、俺だけの手柄ではない。

フェイが手柄を俺に譲っただと?

なにか違和感を覚えた。


「私、フェイ様から聞いた話でいっきにシールド様のファンになりました。あの、絶対にお役に立てると思って、あの! 私やってみたんです!」

興奮して言葉がうまく出て来ないのは本当に少女っぽい。

健気だなぁと可愛く思っていたのもここまで。


「あの、私シールド様のバリア魔法を錬成魔法で更に高めてみたんです! あのバリア魔法は絶対に壊れない史上最強のものです。だけど、私の錬成魔法で更に高みへと!」

まさか……。


「お前、具体的に何をやったんだ?」

「シールド様に良からぬ感情を持つ者が聖なるバリアに触れた時、体を焼く正義の雷が落ちてきます! 絶対に、絶対に役に立ちます」

「あちゃー」

顔を押さえた。


俺の聖なるバリアは武器や危険な魔道具、攻撃魔法を弾くだけで攻撃目的ではない。

王太子は俺に良からぬ感情を持っていたのだろう。恐れからくる者か、それとも俺を利用したかったのか。それははっきりしないが、まんまとオレンの作り替えたバリア魔法に引っかかってしまったと。


凄い力だが、とんでもないことをしてくれた。


「……え、シールド様。えーと、私もしかして」

「ああ、お前の魔法でちょっとまずいことになってるな。客がこれだ」

黒焦げになった王大使を指し示す。


「あっ。あわわわわ、私、そんなつもりじゃ……」

顔が青ざめていくオレン。

なんだかトラウマがあるのか、体まで震える。


「ご、ごめんなさい。私、いつもやることなすこと裏目に出ちゃって。今度こそ、絶対に役に立つと思ってたのに……」

青を超えて、顔が白くなっていく。

オレンの顔から血の気が完全に引いた。


「前もとうもろこしを改良したらガンザズに一族諸共目をつけられちゃったし。あわわわ、みんなを守る壁もガンザズに取られて最強の街にしちゃったし……」

絶望の中にどっぷりとつかってしまった。

「なんでいつもこうなっちゃうんだろう。私、あのまま消えちゃった方が……」

なんだこいつ。


こんな不幸な定めを持ったやつ初めてだ。

面白い程の曇らせ人生で笑うしかない。


くくくっ、最高だ。

俺の部下は有能なやつばかりで、こういう有能系ポンコツは初めてだ。

気に入った。


「オレン、お前おもしれーな」

「え?」

今度は時が止まったように、オレンがぼーっとこちらを見つめる。

固まった?

生存を確かめたくなるほどのストップ具合だ。


「あわわわっ」

ぶわっと溢れるように涙が出て来た。

「クイお兄ちゃんとリルお姉ちゃん以外に、そんなこと言われたことない出づずずっ」

きったね。鼻水ダラダラじゃねーか。


「私いつも役に立ちたいのに、でもいつもうまく行かなくて」

「おうおう。わかったわかった」

「うあああああん」

頭をなでてやった。

少女らしく大泣きする彼女には、俺たちには想像もつかないような苦しみがあったんだろうな。責任感もあっただろう。苦しかったんだよな。


「……ん? ここは?」

テーブル下に放置していた黒焦げの男、王太子が目を覚ました。

オレンの強烈な鳴き声に反応したみたいだ。

息があったか!


「私嬉しくて。絶対に今度こそ、シールド様の役に立ちます。私、絶対に生まれ変わります!」

王太子が目覚めたことに気づいていないオレンは、誓いを立てるためか今一度仁王立ちする。

「私、やります!」

そう力強く言い切った瞬間、後ろの本棚から本が一冊落ちた。

ガタガタとバランスを崩した本棚から本が大量に落ちる。

「ありゃ?」

本棚もその衝撃で少し動き、横に倒れる。

棚はテーブルにぶつかり、テーブルの上にあった大きな花瓶が床へと落ちる。


その先に、黒焦げが……!

「あっ!」

バリンッ!! ぶつかった方には申し訳ないが、気持ちのいい音が響いた。

花瓶が割れ、黒焦げの上に花と水がまき散る。

垂れている液体は透明……血じゃなくて良かった。


「ああっ」

オレンが、目の前の惨劇にまた青ざめる。


こ、こいつは!

本物だ!

オレンの持つ運命の暗い輝きは、間違いなく本物だ!


おもしれー。こいつ面白すぎる。

王太子はこれでいよいよ死んだかもしれないが、最高に楽しいおもちゃが見つかったので……ヨシ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪い方へ動くピタゴラスイッチみたいな娘ですね
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