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12話 いよいよバリアが崩壊。そして始まる新時代

上着は既にメレルに渡していたので、急いでシャツを脱いで、裸のガブリエルに手渡した。

「それを着てくれ」

「脱がしておいて、1人で着ろと、そう言うんですの?」

「すまない。悪かった。でも、いいから着てくれ!」

謝っておいたが、謝るべきではない気もしてきた。


空間魔法で俺を攫おうとしたから、こちらは反射したまでだ。

結果的に服だけが異空間へと消えることになったが、俺の責任ではない気がする。


いいものを見られたのはラッキーだったが、いやラッキーです。本当に。幸運に感謝します、神様。

そして、裸にシャツ一枚のガブリエルは、なぜかより一層エロくなってしまった。

何も履いていない下半身がもろに見えるし、すらりと伸びた長い脚がより一層際立つ。

意図したいたわけではないので、とても申し訳なく思う。


「これは責任を取って貰わないといけませんね。うふふ」

お、お前もか!ガブリエル!

なんてやつだ。


急に攫いに来たかと思えば、今度はメレルと同じようなことを言い始めた。

国を追われた俺が、異国の地でこうまでモテ始めるとは。いや、これはハニートラップに近いものだ!


「海の民よ、悪いがそやつは私の夫と決めておる」

メレルが名乗りを上げた。

ややこしくなるからもうやめて欲しいのだが、それを俺が言い出すのはなんだか違う気がした。

二人の服をはぎ取った負い目から、俺はただ黙っておいた。


「あなたのような凶暴そうな女はタイプじゃなさそうですけど?私の方が夜のお相手も……」

「ふんっ、排除してやってもいいが、私も夜の自信はあるぞ。どっちが好みだ?シールド殿」

「どっちですか?」

メレルとガブリエルがこちらを見据える。


「うっ」

二人とも魅力的だし、本当にとてもきれいな女性だと思っている。

外見だけのイメージで差をつけられる気がしないが、どちらかというと二人ともアウトだ。


「お前たち、さっきまで俺のこと強引に連れ去ろうとしていたよな?悪いが今はそんな目で見れない」

「やはり連れ帰って、時間をかけて口説くほかあるまい」

「私もそうさせて貰いますわ」

「先生は私のものだけど!」

アメリアまで割って入って、三者の間でいよいよ収集がつかなくなってきた。


三つの国を代表するような美人三人から迫られて幸せなはずなのに、どうしたものかと困りっぱなしだ。

俺は一体どうしたらいいんだ。バリア魔法ばかり学んできたせいで、青春を放棄してきたつけがようやく回ってきた。


「お主ら、こやつはいずれ我が食べるのは変わりないが、どこに連れていくかは話し合いで決めぬか?辺境伯が近いうちに国の要人を連れてくるらしい。お主らもそこで国の代表として話し合うが良い」


襲ってきた二人には耳寄りな情報だったらしく、顔に笑みが見え隠れした。


「よかろう。私はそれでいいが、ハレンチ女はどうだ?」

「我が国も、それで良しとします。そこの獣臭い女に同意です」

二人は相変わらずバチバチとやりあっていた。


俺の腕にしがみついているアメリアは、辺境伯側の人間なので既に了承済みだ。


悪いが、そんな面倒くさい会議からは逃げ出したい。

俺はただ安定した高収入が欲しいだけの男だ。


国の中枢と関わるのは、もういいかなと思っている。

そんなことを伝えようとしたところで、フェイの目が大きく見開かれる。


「森のほうを見よ」

あまり感情をあらわにしないフェイが、目も口も大きく開け放っていた。


「3年もの間、我がドラゴン族の通過も許さなかった障壁が……!!」


フェイから放たれる気配がただらならぬものだったので、全員が言う通りにドラゴンの森方面に視線を向けた。


「バリアが……」

ヘレナ国に張った、国を覆う聖なるバリアが、まさに今、光の粒子となって崩れて始めていた。

上から少しずつ、分解されるようにバリアが消えて、ヘレナ国が曝け出される。


もう、そんな時期だったか。

感覚としてはもう少しくらい持つと思っていたが、俺がバリア内から出たせいだろう。

想定していたよりも早く、バリアの崩壊が始まった。


「くはははっ、ここ数年外交で辛酸をなめさせられたヘレナ国の、その土台となっていたバリアが消えていくでは無いか!」

メレルが吠えた。


一か月も駆けて、苦労して作り上げたバリアが壊れるのは残念だが、思っていたより数倍、周りの反応が濃い。


この世の終わり、いや新しい時代の幕開けを見るかのように、その目を大きく見開いて、皆がバリアの崩壊を見続けた。


……また張ればすぐに再生できるけど。

やはり俺と周りには温度差がある気がして、変なことを言わないように取り敢えず黙っておいた。


「この力、是非ともミナントに持ち帰らねば」

「いいえ、先生は私のものです!ずっとこの街に居続けます!」


バリアの崩壊が完全に済むまで、3人は言い争っていた。

一つの時代が終わったらしい。バリアが壊れただけだけど……。すぐにまた張れるけど……。

まあ、みんなが新時代が来たというなら、そうなのだろう。そういうことにしておこう。知らんけど。



新時代と呼ばれた日から、あっという間に三日が経った。


あのバリアが崩壊して以来、街は非常に慌ただしい。

まるで世界に巨大な異変でも起きたかのように、商人が動き回り、それに合わせてあらゆる人たちが生活リズムを変えながら対応しているように見えた。


会議の日、空間魔法から出てくるガブリエルと、窓際で鷹からのメッセージを受け取ったメレル、そして国の代表として選ばれたクウラ辺境伯と俺とフェイの5人で話し合いが行われることとなった。


会議室に入れないアメリアは恨めしそうに室内を見ていたが、父に窘められて泣く泣くこの場を離れていた。


ウライ国が代表に辺境伯を指名したのは、正解だと思う。知らない人と話すよりかは、俺も辺境伯のほうが気心知れていて気楽だからだ。気に障る相手よりはるかに交渉を進めやすい。


ガブリエルとメレルも同様。二人は国から全権を貰って、この会議に来ているらしい。

逃げる予定だったが、新時代の幕開けだと喜ぶ彼女らを前に、いったんは逃げる選択をなしにしている。


「では、元ヘレナ国宮廷魔法師、シールド・レイアレス殿の今後について話し合う会議を始めたいと思う」

辺境伯の一言で会議は始まった。


ほとんど俺の意志が介在していないこの会議だが、一応どんな条件が貰えるのか気になるので、この場には参加している。

しかし、俺が喜んでこの場所にいないのは、重ねて言っておきたい。


「まずは我がウライ国からの条件を提示いたします。国を覆う聖なるバリアを張ることを条件に、一生涯宮廷魔法師としての地位を確約し、他国の宮廷魔法師の年俸の10倍を毎年払うものとする。そして、伯爵位を与え、領地も与えるものとする」


……すごい!結構いい話でびっくりだ。

なんかもう決めちゃってもいいかもしれない。俺、ウライ国で生きていきます!

全然乗り気じゃなかったけど、全然乗り気になってきました!


しかし、次の瞬間、メレルとガブリエルが笑ったように見えた。

ウライ国の条件よりいいものを提示できるとでも!?


「次、いいかな?」

メレルが手を挙げた。


「イリアスからは、国を覆う聖なるバリアを張ることを条件に、公爵の地位と、それにふさわしい領地を渡す。その規模、国土の10分の1にあたる規模である。もちろん、既に開拓済みの土地で、領民もいる豊かな土地だ」


……国土の10分の1!?イリアスは北に広大な土地を持った国だ。それだけ貰えるなら、もはや小国の国王レベルだが?

俺、イリアスで生きて行きます!手のひらクルクルドリルでごめんなさい!


「では、最後にミナントからの条件を提示させていただきます」

ガブリエルの顔に自信がみなぎっている。

交渉材料は、この二国よりも強力だというのだろうか?


「シールド様に要求する条件は同じく。そして、我が国はシールド様に公爵の地位と、土地、更に海まで提供いたします。自由に貿易を行って下さいませ。あなたの才覚で領地を発展させるのは、いい気分ですよ?」


ミナントは大陸でも有数の豊かな国だ。

港を多く所持しており、他国との貿易も盛ん。漁獲量も多く、食事も美味しいと聞いている。

これまた魅力的な提案だった。


「更に、わが国にシールド・レイアレス様を譲渡して下さる場合、ウライ国とイリアスにはわが国の領地を譲渡致します」

「なっ!?」

「……本気か!?」


二人に書類が手渡される。それは俺がミナントに行った場合に渡される予定の領地が記された書類なのだろう。


「……ミナントに一票」

「シールド殿、ミナント行かれてはいかがか?」

辺境伯とメレルがこちらを見ようとしない。


こいつら!!

どんだけ美味しい条件だったんだよ!!


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― 新着の感想 ―
[一言] ミナントの土地を他国に譲渡しようが、こっちについてもらってミナントにバリア張って貰ったら、戦争起こして譲渡した土地奪い返せば良いとか思ってそうだな。
[良い点] おもしろいです。 [気になる点] まだ途中ですけど、バリア張ったのが3年間だったにしては、まるで10年間張られ続けていたような反応だったのが…… 何か変わるにしても3年だとちょっと年数足り…
[気になる点] 偏に(ひとえに)と、ようやく(漸く)の使い方違くない? [一言] 昨夜見つけてイッキ読み中です。 何でもバリアで解決する強引なところが面白いです。
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