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119話 バリア魔法は

聖なるバリアを張った集落で平穏に一週間も過ごしてしまった。

「……おかしい」


平穏なことは良い。

一か月後にミライエへと繋がるゲートが開けば竜人族たちを無事に送り届けられる。

あちらで彼らの技術を存分に発揮して欲しいので、安全に越したことはないのだが、それにしてもおかしい。


「釣れない」


そう、ガンザズ伯爵が俺の極上の餌に一向に食いつて来ないのだ。

こんなに目立つバリア魔法を張ってるのに!

既に情報は耳に入っているはずだ。なんなら俺たちがカジノを荒らしたことさえ知っているかもしれない。

それなのに、全く動きがない。


あまりにも大きな違和感だ。

あれだけの力を誇るガンザズ伯爵が乗ってこないわけがない。

何かがある。既に何かが進んでいると考えた方がいいに違いないが、俺には情報を手に入れる手段がない。

ミュートが動いてくれればいいのだが、あいにくと……。


「シールド様、いい匂いがします。男らしい匂いです。最高です」

「……ん」

今日もフェイのために料理をしている俺に、後ろからがっしりと抱き着いている。

顔をすりすりと背中に擦りつけてくる。

悪い気はしないので好きにさせているが、終始こんな調子なので偵察に行けなんてなかなか言い出しづらい。


少し味見をして、炒め物の味を確かめた。うん、うまい。

俺が意外と料理のできる男と知られて以降、ずっとフェイにこき使われている。


飯は美味しいし、平和だし、まあ襲撃がないならないでいいか。

そう思い始めていた頃だった。

俺はガンザズ伯爵の悪意を見誤っていたことに気づくとなる。


青い顔してクイが駆け寄ってきたとき、悪いことが起きたのだと悟った。

話を聞く前から、ガンザズ伯爵のことだろうと思っていたのだが、悪い予感は当たってしまう。


「妹が……妹が!」

慌てすぎて言葉が出てこない様子だった。

息も乱れている。

「クイ、落ち着くんだ。リルに何かあったのか?」

「い、いえ。でもリルもショックで倒れ込んでしまって」

リルではない?

倒れるほどの情報とは、一体なにが起きた。


「以前話した、連れ去られた妹の方です。……生きていました」

そんな話をしていたな。連れ去られた天才錬成魔法使いの妹の話を。

生きていてくれたことは喜ばしいことだ。

それさえ分かっていれば、助け出すのも容易い。


「先ほどガンザズ伯爵の者がやって来て、手紙を置いて帰りました」

ここはバリア魔法を展開しているから、やつらは武器を持って入れない。

入るなら裸一貫だ。

それを理解しているのかどうかはしらないが、仕掛けて来たりはせず手紙だけを置いていったらしい。


「恐ろしい内容でした。妹が磔にされ、街の外に晒されていると。正午までに竜人族全員が街まで来ない場合、妹の首を飛ばすとまで書いてあります」

「なんてむごいことを」

料理する手を止めて、ガンザズ伯爵の行動に怒りが湧いてくる。

やり方としては賢いかもしれないが、あまりにも非人道的行為だ。


久々かもしれないな。これだけ胸糞悪い相手は。

しかし、都合は悪くない。


わざわざステージを用意してくれたんだ。

向こうは逃げも隠れもしないだろう。


「俺が行く。任せろ、助け出してやる」

できるだけクイを始め、竜人族たちを安堵させるように優しく笑った。

腹の中をうごめく怒りは、全てガンザズの外道野郎に撥ね返すとしよう。


ロードホースを引かせてきて、飛び乗るように跨った。

「お前たちは来なくてもいい。俺がすぐに済ませてくるからここで待っていろ」

「大丈夫でしょうか?私たちが姿を現さなければ妹が」

「任せろ」

俺はバリア魔法でならなんだってできる男だ。

磔にされた妹を見つければ、あとはバリア魔法でいくらでも守ってやれる。


「……わかりました。シールド様どうかご無事で。そして妹を……!」

涙を流しながら願う姿は、間違いなく無償の愛がある証拠だった。

まったりと過ごしていた時間を悔やむ。

こんなことになっていれば、こちらから仕掛けてやればよかった。


「大丈夫。全てうまく行く」

「ありがとうございます。妹の名はオレン。どうか、どうか……」

オレンか。

ミライエに連れて行ったらこき使ってやるから、無事でいてくれよ。


ロードホースの手綱を握って走らせる。

すぐ後ろを人間とは思えない速度でミュートが付いてくる。

一緒に乗せてやってもよかったが、一人で行くつもりだったので考えていなかった。

もちろんフェイにも知らせていない。


俺一人の方が簡単に片付くだろう。

おごり高ぶって高みで胡坐をかいているガンザズ伯爵を、地上まで引きずり落とす時が来た。


「シールド様、救出は私にお任せください」

「おっ、助かる」

簡単に人の背後をとれるミュートのことだ。

きっとバレずに、上手に開放してくれるに違いない。


なにも心配せずに俺たちは街へと向かった。

道も知っているし、ロードホースのスピードも凄まじい。


何もかも余裕なはずだったのに、俺は辿り着いた先でとんでもないものを目にすることとなった。


待ち受けていたのは数百を超えるガンザズ伯爵の軍隊だった。

その先頭で、担がれた豪華な台座に座る肥え太った男。おそらくガンザズ伯爵だろう。

その隣には長い剣を手にした長髪の美しい男が立つ。……こいつは強いな。


しかし、それらが全て、どうでもよくなるほどの光景が目に入ってくる。


磔にされたオレンの姿だ。


やせ細った体に、痛めつけられた数々の古傷。そしておそらく新しく加えられた傷からは血が流れ出ている。

オレンはまだ人間の歳でいうと10歳そこらの見た目だった。

なぜ……。

一体、なぜこんなことができるのだろうか。


か弱い少女にここまでの仕打ちを。

俺は見誤っていた。こいつらの底のない悪意を。

「……」

言葉が出ないな。

これほど怒りに震えたのはいつ以来だろうか。静かな怒りが、俺の体内を這って急激に成長していくのが分かる。


「ブヒブヒブヒッ、おかしいねー。竜人族を呼んだはずが、なんで知らない男とミュートだけ来てるの?」

「ガンザズ伯爵か?」

「見てわからないとは、ちみの眼は節穴ね~。ケイ、あれとミュートの首を刎ねよ。さらし首にして、今度こそ竜人族を全員集めるねー」

あくまで竜人族のせん滅が目的か。そのために俺とミュートの首で更に脅しをかけるつもりらしい。


面白い、やれるものならやってみろ。

手加減しなくていい戦いは初めてかもしれない。


「ガンザズ伯爵。いや、豚野郎ガンザズ。こんなにも俺を怒らせたのはお前が初めてだ」

「ん?豚?……うるさいねー。ケイ、とっととやっておしまい」

「よく聞け。俺に向かってくる者、全員命の保証はしない」

今日の俺はかなり頭にきている。

そして、ガンザズ。お前は許さない。逃げようとも、謝罪しようとも。お前は超えてはならないラインを超えたのだから。


「……ただならぬ雰囲気だ。お前がガンザズ伯爵の軍隊を葬った男か?」

ケイと呼ばれた男がこちらに一歩一歩近づいてくる。

俺もロードホースから降りて歩み寄る。


「ならどうする?」

「別に。殺すだけだ。私はこの世界最強の剣士。相手が誰であろうと結果は変わらない」

徐々に歩み寄っていくことで、この男の顔にとある特徴を発見してしまう。

クイたちと同じ目だった。

美しい瞳と、その美しい顔はまさに。


「お前まさか……」

「気づいたか。私は竜人族であり、ガンザズ伯爵に使える者」

「なぜ?」

「我らの始祖、青龍に近づくため」

話は結構くだらない内容だった。


青龍の体の一部を食すことで、ドラゴンの血が濃くなるんだと。

ガンザズ伯爵のもとにいれば、各地からそれが集まるから従っているらしい。下らない、あまりにくだらない。

そして、次の言葉はもっと下らないものだった。


「オレンを攫ったのも私だ。取り入るのに手土産が必要だったからな」

「なるほど。お前も糞だったか」

怒りに上限などないことが分かった。

自分がこれだけ怒れる人間だと初めて実感した。


「ミライエ国王シールド・レイアレスの名のもとに命ずる。お前ら全員、死刑だ」

軍隊から盛大な笑い声が響く。

悪いが、俺の心まで届くことはない。


今からそれが実現されることを、お前たちは知らない。

※このあとやりたい展開のために少し鬱展開入れました。ごめんね( ;∀;)

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[一言] ゴミカスクソを打ちのめすんだし、バリア魔法は便利だよなー。 というかさ、大笑いしているけど、忘れてるのかな? 自分の攻撃が、自分に返ってくる事。魔法も物理も反射するのに、どうやって突破す…
[良い点] 撤回はしなくていい 所詮は豚の戯言 俺の心には響かない
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